12.明るい家族計画
保健の授業が終わり、次は神宮の仕事量の問題だ。
「では、ここからは神宮での生理の患者の扱いについてお話ししたいと思います」
「伯母さまにお聞きしますが、神宮から遠く離れたところに住む女性も生理の度に神宮へ治療を求めにやって来るのでしょうか?」
「いいえ、遠い町の者は来ません。皆、この町の住人だけです」
「では、神宮のない遠い町の女性は生理の痛みはどうしているのでしょうか?」
「治療せず洗う程度で痛みは我慢しているのだと思います」
「そうですよね。普通はその様に我慢するものなのです。僕の前世の世界でも仕事が優先で痛み止めの薬を飲んで痛みを紛らわしながら仕事をすることが普通でした。それが良いかどうかは別ですが」
「では、生理で治療は不要なのですね」
「治療は不要。と言いたいところですが、それはあくまでも基本的には。というお話しです。全ての女性の生理に治療は不要かと言えばそうではないのです。これも個人差や体質で痛みの度合が違いますし、いつもは軽いのにたまに重くなる。という場合もあるからです。また子宮が重い病気になることもあるので、痛み方によっては治療が必要な場合もあるのです」
「では、全てを治療するのではなく重い症状の時だけ、ということですね」
「はい。その通りです。今後のことですが、全てを治療しようとしていたら宮司の仕事が多くなり過ぎてしまいます。生理だけでなく他の症状についても対応を伺って、治療すべきものと分けることが必要だと思います」
「どれくらい減らすのが良いのでしょうか?」
「できれば一週間七日の内、少なくとも一日は休みとして神宮を閉めて頂くのが良いと思います」
「宮司は神の遣いとしてのお役目です。お休みをするなど許されないことと思いますが?」
「伯母さま。確かに宮司は神の遣いと位置付けられていますが、宮司である前にひとりの人間でもあります。働き過ぎれば疲れて病に倒れることもあるのです」
「そうなれば沢山の人々が治療をしてもらえずに苦しむこととなるのです。宮司ひとりの健康と幸せを守ることは、人々の幸せにも繋がると考えますが、如何でしょうか」
「朧月よ。私も月夜見の言う通りだと思う。私は今まで先代の神から受け継がれることを何も疑問に思わずに継承して来た。そうして自分の娘である宮司の置かれている立場や想いなど考えてもいなかったのだ」
「先日、月夜見にそれを言われてな。確かにそうだと思い、大いに反省しているところだ。朧月よ。今まですまなかった。これからは神宮のあり方。宮司の働き方も考えて行かねばならないと思う」
「お父さま!その様な・・・」
伯母さんは感極まってしまっている。その横でダリアお婆さんも涙を流している。
「伯母さま、そうは言いましても突然明日から、急に一日休みます。生理は診ません。とは言えないと思います。特に生理の場合、身体から血が流れているのですから、女性にとって精神的な不安も大きい筈なのです」
「まずは経血が比較的少ない方から洗うだけで治療せずとも問題はないことを伝え、次回からはどうしても痛みが酷い、経血の量がいつもより多いとか、おりものの色や匂いが異常だ。という場合だけ来る様にと伝えるのが良いかと思います」
「あと、僕が今日説明した生理の仕組みは、これから本にして配布しようと思っています。そうすれば徐々に生理で神宮を訪れる人は少なくなって来る筈です」
「素晴らしいですね。暁月さまが言う通り、月夜見さまは本当に救世主なのですね」
「そんな、ダリアお婆さま。それは大袈裟ですよ」
「月夜見さま、ありがとうございます」
「お兄さま、ありがとうございます」
皆に感謝されてしまったな。救世主なんて言われても困る。僕は医師としての見解を述べているだけなのだから。
「さぁ、随分と時間を頂いてしまいました。一旦、終わりにして夕食後に家族計画のお話をしましょう」
「家族計画?それはなんだね?」
「お爺さま、子作りの方法の話ですよ」
「おぉ、そうか。それでは私たちはこれで失礼するよ。先に朧月を送って来るからね」
「月夜見さま、今日は本当にありがとうございました」
「はい。伯母さま、また他の病気の患者のお話も聞きたいので神宮へ伺いますね」
「えぇ、いつでも構いませんよ」
お爺さんは伯母さんをお姫さま抱っこして神宮へと瞬間移動した。そして消えたと思ったら数秒後に戻って来た。そして今度は、お婆さんをひとりずつお姫さま抱っこして運んで行った。あぁ、あの歳になっても奥さんをお姫さま抱っこして瞬間移動する姿ってなんか良いな。
皆で食堂に集まり、夕食となった。
「お兄さま、お兄さまは何故それ程までに私たちのことを考えてくださるのですか?」
「望月姉さま。それ程までにとは?」
「月影姉さまから聞いております。月影姉さまが旅立つ際に姉さまのためにお話しされたこととか」
「あ、あぁ。そうですね。僕は前世の仕事が医師でした。宮司となる姉さま達と同じ境遇だったのです。来る日も来る日も沢山の人々のために治療をしていました」
「それなのに自分の愛するたったひとりの女性は救えなかったのです。もう少し心や身体に余裕があったなら、違った結果になっていたのかも知れないと後悔するのですよ」
「医師や宮司は人の病気を癒せます。でも万能ではないのです。私たちもひとりの人間なのですよ。お姉さま達に僕の様な思いをして欲しくないのです」
あ。またやっちまった。食事中に話す様なことではないよな。
「すみません。食事中に話すことではありませんでした・・・」
「お兄さま!お兄さまは私が癒して差し上げます!」
「結月姉さま。ありがとうございます」
「お兄さま。私がお兄さまの子を生んで差し上げますから!」
「これ!結月!何を言っているのですか!」
「お姉さま。兄弟で結婚はできませんよ」
「そうなのですか?お母さま」
「い、いえ、兄弟でも結婚はできますが・・・」
「そうですよね!お母さま!」
「え?この世界では兄弟で結婚できるのですか?」
「えぇ、できますが・・・」
「いや。それは駄目ですよ」
「えぇー何故、駄目なのですか?お兄さま」
「血縁者同士での結婚では、できた子の血が濃くなり過ぎるのです。子供には奇形など障害が出ることもあるのですよ。それは親にとっても子にとっても不幸なことです。その様な無責任なことは法として認めない様にすべきです」
「そうなのですか・・・」
「男性が少ないために、それを選ばざるを得ない境遇の人も居たのです。特に王家などでは・・・」
「マリー母さま。そうなのですか。それは悲しいことですね。それも変えて行かねばなりませんね」
「月夜見。ネモフィラ王国へ行ったら、その様な法律や風習についても月夜見の目で見て、おかしいところがあれば教えてくれますか?私から父上や母上にお話ししますので」
「えぇ、お母さま。勿論です」
なんだか話が大きくなっているな。でも近親者婚はあってはならないと思う。
夕食後にお茶を飲みながら家族計画について話をすることとなった。
「お母さま方、家族計画のお話ですが、お姉さま達に聞かせたくない場合は部屋へ戻ってもらってください」
「そうですね」
結局、約半数の九歳以上のお姉さまが残って話を聞くこととなった。九歳でもちょっと早いと思うのだが、この世界では十五歳で成人だから、まぁ、良いかな。
「僕の指示通りに性交をして頂いて妊娠できるかを試す。ということですが、まずはルチア母さまの排卵の周期と排卵日が分かる様にせねばなりません。ルチア母さまには先程、基礎体温表をお渡ししてありますので、それを二、三か月続けて記録すれば、概ね排卵日は特定できるでしょう」
「はい。こちらの表ですね」
「最近で一番近い日にちで生理があった日を正確に覚えていますか?」
「は、はい。実は先週がそうでした。七日から十二日くらいまででした」
「わかりました。では早速、基礎体温表に記録しておきましょう」
僕が表に記録する。これならばあと二回生理が来たあとに試せるだろう。
「これで来月と再来月の生理の日付が分かり次第、三回の生理の周期がでます。そして基礎体温表から僕が排卵日を特定し、三晩続けて性交をして頂く日を指示します」
「は、はい。分かりました」
「ところでお父さま、ルチア母さま。男の子と女の子はどちらが良いでしょうか?」
「え?選べるのですか?」
「いや。選べますと申し上げたいところではあるのですが、前世の薬や設備がありませんので、確実に産み分けることはできません」
「ただ、確率を上げることは可能ですので、参考として希望をお聞きするのです。ただし、それをするにはかなり恥ずかしい、突っ込んだ質問に答えて頂かないといけないのですが・・・」
この世界に男の子の精子と女の子の精子を分ける遠心分離機なんてある訳ないし、産み分け用のゼリーもないからな。
「お母さま!私、絶対、弟が欲しいです!お願いします!」
「紗月!そんなこと言われても!」
「私としても折角なら、男の子が良いけれどな」
「玄兎さまもですか。それでしたら私は構いませんが・・・」
「それで、その突っ込んだ質問とやらはどんなことかな?」
「分かりました。ルチア母さまは、お父さまとの性交の際に絶頂感を感じたことはありますか?」
「ま、まぁ!そ、そんなこと・・・」
「月夜見!その様なことを聞く必要があるのか?」
「はい。大事なことですので、伺っております」
ここは恥ずかしがってはいけないところだ。
「そ、そうなのか・・・だそうだ。ルチア。どうなのだ?」
「は、はい。その絶頂とはどの様なことかがよく解らないのですが・・・」
「あぁ、なるほど。そうですね。個人の感覚の差もあるので、皆が同じではないのですが、医学的に説明しますと、呼吸が荒くなり、性器周辺の収縮や腰回りでの痙攣。それに脳で強い快感を得たりもしますね・・・で、その様な体験はございますか?」
「え、えぇ、それでしたら・・・あります」
ルチア母さまはもう耳まで真っ赤だ。なんか可愛いな。
「そうですか。それは良かった」
「よ、良かった。のですか?」
「えぇ、それがなければお父さまが下手くそ。ということですから。お父さま良かったですね」
「そ、そうだな。それは良かった・・・」
ふふっ。お父さんも魂が抜かれている様だ。まだ十五歳のお母さんの純潔を奪った罰を与えている気分だ。少しだけスッキリした。
「男の子を作るためにはそれがとても大切なのですよ。本当はもっと詳しく説明できるのですが、科学的な話となるので、理解頂くのに数日は授業を受けて頂かなくてはならなくなってしまいます。ですので、申し訳ありませんが黙って僕の指示に従ってください」
「うむ。分かった」
「では次に、子を授かるための技術的な説明に入ります」
「排卵日の予測がでましたら性交の日を決めます。お父さまにはその直前二日間は性交しないで精子を多く溜めて頂きます。次に性交の際は、射精する前に必ずルチア母さまを絶頂まで導いてください。あ。射精は分かりますか?」
「精子を出す。ということかな?」
「はい。そうです。ルチア母さまが絶頂に達するまで射精しないで頑張ってください」
「が、頑張る。のだな?」
「えぇ、頑張ってください。ここが肝なのです。そして射精する際は、一番深いところで出してください。浅い場所で出してはいけません」
「深いところ。だな」
「はい。最後に射精後にすぐに抜かないでください。萎えるまでそのままです」
「すぐに抜かないのだな。分かった」
「ルチア母さまはその後、足を閉じて動かずに朝まで眠ってください。あぁ、トイレで起きることは構いませんよ。でもできれば数時間は動かないで頂きたいです」
「でも自分の部屋に戻らねばならないのですが?」
「あぁ、そういう習慣なのですね。今後はその度に、お父さまがお母さま方の部屋へ出向いてください。そうすればお母さま方は朝までそのままお休みになれますから」
「うむ。分かった。そうしよう」
「ここまでが技術的なお話です」
「まだあるのか?」
「えぇ、いくら先程お話しした通りに性交して頂いたとしても、これからお話しすることができていなければ、そもそも妊娠しません」
「そんなに大事なことがあるのか」
「はい。それは普段からお父さまがお母さま方を労り、愛することです。例えば、毎日一日中忙しく働いていたら肉体的に疲労が溜まってしまいます。そうなると女性は生理そのものが来なくなってしまい、妊娠どころではありません」
「また、仕事が忙しくなく、この月宮殿の様に恵まれた生活環境だったとしても、子がなかなかできない場合に「まだ子ができないのか」とか「お前は女子しか生めないのだな」など心無い言葉をぶつければ、女性は精神的に傷つき、それだけで妊娠し難くなるのです。妊娠するためには技術的なことよりも心の安定の方が大切なのですよ」
「そんなに大変なことだったのか・・・」
お父さまは神妙な顔をして考え込んでしまっている。
「はい。子供はそんなに簡単に授かるものではないのです。重要なことはお父さまがお母さま達をどれだけ愛し、大切に扱うか。ここに掛かっているとお考えください」
「月夜見さま。素晴らしいですわ!私、感動致しました!」
「私もです。ありがとうございます!」
「月夜見さまは真の救世主です」
お母さま達がひとりずつ、感動と感謝を伝えてくれた。まずは計画通りに妊娠して頂かないとね。正直言って産み分けの方はこれだけでは男の子を生み分けられる可能性はかなり低いのだけどね。でもやらないよりは良いからね。
さぁ、本格的な家族計画のスタートだ。
お読みいただきまして、ありがとうございました!