29.動物の楽園
翌朝、鍛練と朝食を済ませ、再びフロックス王国の捜索に出掛けた。
今度は南から西方面だ。
「二日間捜索してみて分かったけど、この国は人口が少ない様だ。昨日よりも更に高いところから探した方が早そうだね」
「うわぁ!こんなに高いところから眺めたのは初めてです・・・あ!」
「ん?ニナ?どうしたの?」
「初めてではないですね・・・私、この高いところの景色を見たことがあるのですが・・・」
「あぁ、月の都から見た景色かな?」
「いえ、月の都はもっと低いですよね」
「あぁ、そうか。そうだね。一体、どこで見たの?」
「いえ、でも・・・分からないです。勘違いでしょうか・・・」
「ふむ。何だろうね・・・」
「月夜見さま。あの高い山は国境でしょうか?」
「うん?そうなのかな?それにしても高い山だね。何だか壁の様にずっと続いているね」
「あの高い山々の向こうはどうなっているのでしょう?」
「高度を上げて見てみようか?」
その山脈はずっと向こうまで続いている。まるで人が入って来るのを阻むかの様に。山の高さは三千メートル級なので、それよりも高くまで高度を上げた。
「あ!こ、これは!」
「あれ?何だかこの山って、丸く一周囲む様になっていませんか?」
「これは、クレーターだね。それもかなり大きい。地球でも確かアフリカにこれと同じ様なものがあったと思うよ。直径二十キロメートルくらいありそうだ」
「月夜見さま。くれぇたぁって何ですか?」
「あぁ、ニナ。大昔にここに星が落ちて大爆発を起こした跡にできる丸い凹みのことだよ」
「え?星って落ちて来るのですか?」
「そうだよ。次に落ちて来たら人間も動物も皆、死んでしまうよ」
「えぇっ!怖いです!」
「はははっ!そうそう落ちて来るものではないから心配は要らないよ。ここに落ちたのだって、もう何千年も前の話なんだよ。それくらい珍しいことなんだ」
「では、大丈夫なのですね」
「もし、落ちてきても僕が押し返すよ」
「うわ!月夜見さまならば本当にできてしまいそうです!」
「月夜見さま!あれって象ではありませんか?」
「え?桜、どこだい?象?あ!本当だ!象の群れだ」
「あぁっ!キリンも居ますよ!」
「え?ぞうとかきりんってどれのことですか?」
「そうだった。ニナたちには分からないよね。では近付いて見て行こうか」
船をあまり近付け過ぎない様に注意して、地上十メートルの高さで象に近付く。
「ほら。これが象だよ。身体が大きいでしょう?でも草とか植物しか食べないんだよ」
「これが象ですか。あの長いのは何ですか?」
「あれは鼻だよ。あの長い鼻を手の様に器用に使って食べ物を口に運ぶんだよ」
「うわぁ、あの長いのが鼻なのですか!凄いです!」
「こっちがキリンだよ。背の高い木の葉が食べられる様に首が長くなったんだ」
「本当に長いですね。高い木の葉を食べていますね」
「あ!あれは鹿の群れですか?」
「いや、あれはガゼルだね。鹿に見えるけど牛の仲間なんだ」
「あれが牛!」
「あー!あっちでガゼルが大きい動物に襲われていますよ!」
「おぉ!ライオンじゃないか。あれ?ここってアフリカみたいだな」
「あれって食べられてしまうのですか?」
「ガゼルだけでなくて僕らだって地上に居たら襲われてしまうよ。ライオンは肉食動物だからね」
「月夜見さま。この地には人間は住んでいないのでしょうか?」
「そうだね。あれだけ高い山を越えて来ないとここには来られないからね。それにこのクレーターの西側は確か海の筈だ。フロックス王国の人たちが開拓しようとしない限りは人に知られない土地なのではないかな」
「そうですね。小型船や中型船ではあの山は越えられないですから国境だと思っているでしょうね」
「あ!先の方に大きな湖が!」
「そうだね。行ってみようか」
湖に近付くとピンク色のフラミンゴが大量に居た。その周辺にはカバの姿も見える。
「湖の中に茶色くて大きなブタが居ますね」
「シエナ。あれは豚ではなくてカバという動物だよ。長く水の中に居られるんだ。湖や川の底を歩けるんだよ」
「カバ!水の中を歩くのですか!凄い!大きいですね!」
「カバはね。凄く獰猛な動物なんだ。刺激したら襲われるからね」
「えー優しそうな顔をしているのに・・・怖いのですね」
「そうだね」
「あのピンクの鳥はきれいですね」
「フラミンゴっていうんだよ。湖に生える藻を食べるのだけど、その藻の成分で羽がピンク色になるんだ」
「あーーっ!何ですか!あの馬は!白と黒の縞々です!」
「あれはシマウマだね」
「何であんな縞々なのですか?」
「あの縞々模様はね、人間から見ると白黒の縞々に見えるけど、さっきのライオンの様な肉食動物から見ると草に紛れて見え難くなるそうだよ」
「月夜見さまって、どうしてそんなに動物にお詳しいのですか?」
「前世ではね。医師になる前は獣医といって動物の医師になりたいと思っていたんだ」
「そうなのですね!だから家畜にもお詳しいのですね」
「うん。そうだよ」
「それにしてもこの大草原に沢山の動物たち。背後の山には雲や万年雪が掛かり、その上にはふたつの月が浮かんでいる。何て幻想的で美しい景色なのだろうね」
「えぇ、本当に美しいですね」
僕らは、しばらくその景色を無言で眺め続けた。脳裏に焼き付けて保存しておこうとする様に。
「あ!そうだ。花音。デジカメを引き出すからこの景色と動物の写真を撮っておいてくれるかな?写真を撮りながら戻ろうか」
「はい!」
「今日は良いものが見られたね」
「はい!私、一生忘れません!」
ニナは少女の様に瞳をキラキラと輝かせていた。ニナって本当に可愛い。
それから見て来た動物を逆に辿りながら写真を撮ってゆっくりと戻って行った。
皆、窓に噛り付いて夢中で動物を眺めていた。
山を越えてフロックス王国に戻り、壁の様にそそり立つ山脈の麓に沿って進むと、幾つか湖はあったのだが近くに人里はなかった。どうやら、この国にも舞依は居ない様だ。
捜索を終えて、宿に戻り夕刻の鍛練をしてから夕食に出掛けた。酒場の店員も三晩連続ともなると笑顔で迎えてくれた。
「ようこそ、いらっしゃいませ!こちらへどうぞ!」
「ありがとう!」
僕らはビールだが琴葉とシエナ、シルヴィーはワインにした。
「乾杯!」
「ガシャン!」
「あー美味しい!」
「美味しいです!」
「それにしても今日は楽しかったですね!」
「はい!沢山の動物が見られて楽しかったです」
「そうだね。動物園に行って来た様なものだね」
「動物園って何ですか?」
「今日、見て来た動物たちを人間が捕まえて来て、動物園というところで飼って人間たちに見せるんだよ」
「捕まえて来るのですか・・・それは少し可哀そうですね」
「そうだね。人間としても子供のうちは動物が見られて楽しいのだけどね。動物にとってみれば捕まえられた上に狭い檻に閉じ込められて見世物にされるのだからね・・・」
「でも今日は小白みたいな狼や熊とかイノシシは居ませんでしたね」
「あぁ、それらは山に居る動物だね。今日行ったところはサバンナと言ってね、暖かい気候の草原で、雨季と乾季がある土地なんだ。今日見たのはそういうところに住む動物たちなんだよ」
「動物はどこでも暮らせる訳ではないのですね」
「シルヴィー、そうだよ。その動物に合った土地でないと生きて行けないんだ。あのサバンナはずっと動物たちの楽園だと良いのだけどね」
「でも人間が増えていったらあそこにも人が入るかも知れませんね」
「花音、それはあり得るね。だけどそれはまだまだ先のことだと思うよ」
「そうであって欲しいですね」
「ニナ!ちょっと飲み過ぎでは?」
「えーらいじょうぶらよ~」
「あれ?ニナ。今日は興奮し過ぎたのかな?」
「そうなのです。今日は凄く楽しかったみたいで、興奮してしまったのか気が付いたら、私のワインまで飲んでしまったみたいなのです」
琴葉がニナを気遣っている。記憶が無くなっても無意識のうちに気に掛けているのかな。
「えへへぇ・・・」
あぁ、可愛い酔っ払いができ上がってしまっているな。
「それじゃ、そろそろ宿へ帰ろうか」
「はい」
「ニナ。大丈夫?」
「らいじょうぶぅ~」
「歩かせるのはちょっと危ないみたいだね」
そう言って僕はニナをひょいとお姫さま抱っこした。
「あー!ニナ!良いなぁ・・・私も酔っぱらえば良かった」
シエナが不満そうな顔をしている。
「つくよみさまぁ~」
ニナが首に腕を回して頬をすり寄せて来る。酔うと大胆だな。桜、花音と琴葉は婚約者の余裕という奴か顔色を変えない。変に焼きもちを焼かれなくて良かった。
そして、ニナの部屋に入ってベッドに寝かせた瞬間、ニナに唇を奪われた。首にがっちりと腕が回されており簡単には離せない。ニナが解いてくれるまでキスに応じた。
なんだかんだ言ってもニナはやっぱり可愛いのだ。付き合いも長いし情もある。
「つくよみさまぁ、愛してます~」
「ニナ。ありがとう」
「その内、抱いてくらさいね~」
「え?う、うん・・・そうだね・・・」
やっとニナから解放されて花音の部屋へと入った。
「花音。お待たせ」
「月夜見さま。ニナに迫られたのでは?」
「え?う、うん・・・」
「ふふっ。ニナって可愛いですよね」
「そうだね」
「月夜見さま。一緒にお風呂に入りましょう」
「うん。入ろうか」
ふたりで湯船に浸かりながら話しをする。僕は花音の胸やお尻を撫でながら。
「花音は自分の身体の変化に何か気付いているかな?」
「そうですね。少し身体が締まった気がします。あとは・・・」
「あとは?」
「月夜見さまとセックスするとすぐに、そして何回もいってしまう様になりました」
「ふふっ。そんなに気持ち良いのかい?」
「えぇ、もう幸せが溢れて来るみたいに・・・それが止まらなくなるのです」
「それって、普通ではないのかな?もしかして能力的なことが関係しているのだろうか?」
「桜もそんな感じですか?」
「うん。そうだね。確かに何度も何度もって感じだね」
「能力が関係しているかも知れませんが、私は愛のせいだと思いたいです・・・」
「あぁ・・・花音。君は本当に可愛いことを言うね・・・愛しているよ」
「私もです。月夜見さま。愛しています・・・」
それからふたりはベッドに移り、花音は何度も何度も幸せに包まれた。
お読みいただきまして、ありがとうございました!