28.子供たちの救出
僕たちは誘拐事件の黒幕であるルグラン伯爵を断罪する。
僕はルグラン伯を羽交い絞めにしたまま、グスターヴの屋敷へ飛んだ。
屋敷の上空に出現するとそのまま滞空し、ルグラン伯の上着の襟を掴むと空中にぶら下げた。
後から飛んで来た桜と花音も目の前に出現し浮かんでいる。少し後方に琴葉たちが乗る小型船も現れた。そして花音は屋敷の入り口の方へすっと移動した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
ルグラン伯が情けない叫び声を上げる。
「ルグラン伯。ここがグスターヴの屋敷なのだが、本当に知らないのかな?」
「し、知りませぬ!何かのお間違いかと!」
「ほう。まだ白を切るのか・・・では」
僕は屋敷の中の小屋の前にゆっくりと降り立った。檻の中からは子供たちがそれを見つめており目を見開いていた。桜が剣を出現させ僕の後ろへ降り立った。
「か、神さまだ!神さまが助けに来てくださったぞ!」
「神さまが舞い降りたわ!女神さまもいらっしゃる」
「神さま!お助けください!」
子供たちが一斉に叫び出した。するとその騒ぎに気付いたのか母屋の中からわらわらと手下が出て来た。その数、十数人は居るだろうか。そしてその中にグスターヴも居たらしい。
「これはルグランさま。突然お越しになるとは如何されたのですか?」
グスターヴはラテン系の顔で黒髪に黒い目、太い眉毛が印象的な盗賊の親分の様な雰囲気だ。どうして悪者ってこういう顔立ちになってしまうのだろうか。
「あなたは、グスターヴ ロペス殿かな?」
「如何にも。私がロペスだが?」
「ほう?ルグラン伯。グスターヴなど知らないと言われたのでは?」
「むぐぐっ・・・」
ルグラン伯は苦虫を噛み潰したような顔になった。
僕は檻に閉じ込められた子供たちに声を掛ける。
「君たちは何故、そんな檻に閉じ込められているのかな?」
「私たちは誘拐されてここに連れて来られたのです!」
「他にもいっぱい売られて行きました!」
「ほう。子供たちを誘拐して売り飛ばす・・・か。これは許されない犯罪ですね」
「おい!お前は何だ。突然、私の屋敷に現れて好き放題言いやがって!」
「私か?私のことは知らない方が良いと思うのだがな・・・」
「おい!お前ら、こいつを捕まえろ!これだけきれいな顔してりゃあ、種馬として相当稼げるぞ!」
「おーーっ!」
手下どもは特に私兵とか騎士あがりとかではなく、ただ腕っぷしが強いチンピラだった。
ただ、女性が多いので痛めつけるには心が痛むが。
「桜。来るよ!」
「はい!月夜見さまもお気をつけて」
僕は半分を請け負って五、六人を宙に浮かべると一斉に壁に投げつけて気絶させた。
「ドスンッ!」
「ドカッ!」
「ぐえっ!」
桜も前に出て来る者から順番に屋敷の壁に飛ばして叩き付けていく。あっという間に気絶者の山ができた。
グスターヴとルグラン伯を空中に浮かべると頭を下にして逆さ吊りの状態にした。
「さぁ、そろそろ白状してもらおうか。この子供たちを誘拐し売り捌いていたのだろう?そしてルグラン伯はその上米を撥ねていたのだろうが」
「お、お許しください!全てはこのグスターヴの計画です。私は乗せられてしまっただけなのです」
「え!えーっ?ルグランさま!」
「言い訳は無用だ。領主は一国一城の主。その国で起こったことは全てその主であるルグラン伯の責ですよ」
「さぁ、子供たちを解放しようか」
「グスターヴ。檻の鍵はどこだ?」
「そんなものは知らんな!」
「そうか」
僕はグスターヴを一気に雲の上まで突き飛ばした。
「ギャーーーーっ!」
叫び声が急速に小さくなって行き、聞こえなくなる。
数秒後、猛烈なスピードで自由落下してくるグスターヴを減速し、目の前で止めると、胃の中のものが全て逆流し、吐きながら咽っている。
「ゲホっ!ゲホゲホ・・・」
「さぁ、次は星になるか?それとも鍵のありかを吐くか?」
「あ・・・あぁ・・・ズ、ズボンのポケットに・・・」
桜はグスターヴのポケットを透視すると檻の鍵を手元に念動力で取り出した。
「シュンッ!」
そして、次々に檻の鍵を開けていくと子供たちが出て来て歓声を上げる。
「助かった!」
「神さまに助けられたんだ!」
「神さま!ありがとうございます!」
「あーお腹空いたよー」
ふと塀の入り口を見ると、逃げ出そうとしたグスターヴの妻たちと使用人が花音と琴葉によって宙に浮かべられて捕らえられていた。
「桜、花音、琴葉。皆でこいつらを檻に閉じ込めるよ」
「はい」
気絶した手下を念動力で持ち上げると三つの檻に分けて入れ、家族と使用人は二つの檻に、ルグラン伯とグスターヴを最後のひとつの檻に入れて鍵を閉めた。
「皆、僕はこれから王城へ行って王と王宮騎士団を連れて来るよ。屋敷の中の食べ物を子供たちに食べさせて待っていてくれるかな?」
「はい。すぐに食事を用意します」
そして僕はフロックス王城へと瞬間移動した。
「シュンッ!」
「うわぁ!」
女性の衛兵が驚き、倒れそうになっている。
「天照家の月夜見です。急で申し訳ありませんが、王と王宮騎士団に緊急の用事があるのです」
「は、はい!応接室へお通し致します。こちらへどうぞ!」
お茶を出され、十分程待たされて王と王妃、王宮騎士団の団長と思われる男性が現れた。
「これは月夜見さま。先日はありがとうございました。今日も先日のお話の続きですかな?」
「フロックス殿、急に来てしまい申し訳ございません。また、先日はありがとうございました。今日は別の件で伺いました」
「左様で御座いますか。それでどの様なご用件なのでしょうか」
「ヴィクター ルグラン伯爵をご存知ですよね?」
「えぇ、ルグラン伯が何か?」
「ルグラン伯領に住むグスターヴ ロペスという悪党が居ましてね。子供を誘拐して来ては、自分の屋敷の檻に閉じ込め、闇市で売り捌いていたのです。その元締めがルグラン伯でした」
「な、何と!その様なことを!し、しかし何故、それを月夜見さまが?」
「私は今、人を探していましてね。昨日からこの国へ入っていたのです。今日、たまたま通り掛かった町で、高い塀に囲まれた異様な屋敷を見掛けたので、つい気になって近付いてみたら、沢山の檻に子供たちが家畜の様に閉じ込められていたのですよ」
「そ、そんなことが!ま、誠に申し訳御座いません!」
「王が片田舎の犯罪まで見切れるものではありません。それは良いのです。ただ、この後の処理はきちんと始末を付けて頂ければと」
「か、寛大なお沙汰をありがとうございます!」
「さぁ、では現場へ参りましょうか。保護しなければならない子供と、犯罪人が多数居りますので大き目な船を出してください」
「かしこまりました。おい!騎士団長、五分で用意するのだ!」
「は、はい!すぐに!」
そして、騎士団が全速力で走って集まり、本当に五分で船に乗り込んだ。
「では、現場へ行きますよ」
「え?現場はどちらなのでしょうか?」
「シュンッ!」
「うわぁ!こ、ここは?どこなのですか?」
「フロックス殿。グスターヴの屋敷の上空ですよ。瞬間移動したのですよ」
「しゅ、瞬間移動!」
船を念動力で無理矢理に地上へ降ろすと騎士たちがわらわらと敷地の中へなだれ込んで行った。
屋敷の敷地内では炊き出しが行われており、子供たちはスープやパンを夢中になって食べているところだった。
「月夜見さま。これは一体・・・」
「フロックス殿。既にルグラン伯とグスターヴはあの檻に入れてあります。その手下とグスターヴの家族もね。そしてこの子供たちが皆、誘拐されここへ連れて来られた子たちです」
「ルグラン伯、一体何をしでかしてくれたのだ!」
「陛下・・・わ、私は、こやつにそそのかされただけなのです」
「な、何を!ルグランさまが私に命じたのではありませんか!今更そんな!」
「見苦しいぞ!ルグラン伯!この後、厳正な処分を下す故、待っておるが良い!」
「くっ・・・」
ルグラン伯は下を向いたまま唇を噛みしめた。
「フロックス殿。問題はこの子たちをどうするかですね」
「帰る家が分かる者は送り帰しましょう。分らない者については国中にお触れを出しましょう」
「もし、帰るところがない子、それと帰りたくない子が居た場合は神宮で保護してください。最終的には私が引き取ります」
「月夜見さまが自らで御座いますか?」
「えぇ、喜んで引き受けますよ。それと、この屋敷の塀と檻は全て取り壊して撤去してください。またこんなことに使われては大変ですからね」
「かしこまりました」
「それでは私はまた、旅を続けますので後のことはお願いいたします」
「かしこまりました。お任せください。それはそうと月夜見さま。人をお探しだとのお話でしたね。この国の者ならば探させますが?」
「いえ、それを自分で探すのが楽しいのですよ」
「よろしいのですか?」
「えぇ、ありがとうございます」
僕は小型船を地上へ降ろすと皆を乗せて飛び立った。
「無事に終わりましたね」
「問題は皆、家に帰れるかどうかですね」
「自分の家が分からない子も居るだろうし、親が迎えに来ない子も居るかも知れないね」
「そうなった子はどうなるのですか?」
「神宮で保護してもらってその後は僕が引き取るよ」
「あぁ、それなら安心ですね」
「流石、月夜見さまです!」
「さぁ、捜索を続けようか」
「先程見つけた湖はもう良いのですか?」
「あぁ、あそこはルグラン伯の領地だからね。舞依の家は無いよ」
「そうですね。では他を探しましょう!」
今日一日、東から南方面を探してみたが、めぼしい場所は見つからなかった。
今日も夕食は昨夜と同じ酒場へ行った。
「今日は色々あって皆、疲れたでしょう?お疲れさまでした!」
「お疲れさまでーす!」
「かんぱーい!」
「あぁ!美味しい!」
「美味しいですね。疲れた時の一杯って!」
「ニナも分かって来た様だね」
「はい。大人になったのでしょうか?」
「ニナは十分に大人だよ。今日も子供たちにあんなに優しくできていたじゃないか」
「ニナも子供が欲しくなったのではありませんか?」
「まぁ!琴葉さま!そんな!」
「顔が真っ赤よ!」
何だか昨日よりは皆、明るくなったな。とりあえず一日一日を重ねていくしかないからな。
その夜、桜とベッドを共にした。
「桜。今日は大変だったね」
「私は大丈夫です」
「頼もしいな。それに今日の桜は凛々しくて格好良かったよ」
「そうですか?」
「そうだよ!ねぇ、最近していなかったね。良いかい?」
「そんなこと、聞かないでください・・・いつでもお待ちしているのですから・・・」
「桜・・・愛しているよ。さくら・・・」
「月夜見さま・・・桜がお気に入りなのですか?」
「うん。桜って名前が君にはしっくり来るよ。嫌かい?」
「いいえ。桜は九歳までしか生きられず、人生を全うできませんでした。でもこの世界のステラリアは桜のまま、その延長線上で育っているのです。だから桜として愛して頂けるならその方が嬉しいのです」
「うん。桜として愛しているよ・・・さくら」
「あ!そんな・・・」
「あぁ、桜は美しい。それにいつでも僕を受け入れてくれる。君と居ると幸せだよ」
「月夜見さま・・・私もです。愛しています・・・月夜見さまに見つめられるだけで・・・」
「ふふっ。桜は可愛いな・・・ありがとう」
桜と夜更けまで愛し合った・・・
お読みいただきまして、ありがとうございました!