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24.琴葉の謎

 小白の後を追いかけて白い大きな鳥が飛んで来た。


 小白が船の前まで来て止まり、お座りをする姿勢になると、その鳥は大きな翼をバサバサと羽ばたかせながら小白の頭に乗った。


「うわぁ!なんて大きな鳥なのでしょう!」

「全身真っ白ですね!これは何という鳥ですか?」

「これはフクロウだね。それにしても大きいね」


 真っ白なそのフクロウは、体長が六十センチメートル位あった。小白の頭にがっしりと掴まり、こちらを見ながら首をかしげている。小白が嫌がらないのが不思議だ。まぁ小白の大きさからすればこれだけのフクロウでも小さく見えてしまうのだが。


 もしかしてこのフクロウは念話がしたいのかな?

「お母さま、ステラリア、絵里香。このフクロウと念話をしてみるから一緒に集中してくれるかな?シンシアも聞き取れるかどうか集中してみて」

「はい」


 僕らは一斉にそのフクロウを見つめて意識を集中した。

『君は僕たちに何か用があるのかな?』

天満月あまみつつきよ』

『天満月?』

『目覚めなさい』


 次の瞬間、フクロウは大きな羽を広げ、一度大きく羽ばたき小白の頭からフワッと浮き上がると、お母さんの頭上へ飛び、そのまま頭に一度、翼で軽く触れ、再び小白の頭へと戻った。


「あ!あぁ・・・」

 お母さんはうめき声を上げながらその場で倒れそうになった。僕は瞬間移動してお母さんを抱きとめた。

「シュンッ!」

「お母さま!大丈夫ですか?」


 お母さんはしばらく目の焦点が合わず、ぼうっとして僕の顔を見ていた。

「あなたは・・・誰?」

「え?僕は月夜見ですよ。あなたの息子の!」

 お母さんは釈然としない顔となり、もう一度僕の顔を見つめ直すと、

「私は子を生んだことはございません。ここはどこですか?美しい花畑ですが・・・」


 ありゃ?これは別人になったってこと?僕が分からないってことは天満月あまみつつきでもないということなのかな?


「あなたは天満月あまみつつきではないのですか?」

 僕の問い掛けを聞くと、お母さんは頭を両手で抱えて苦しみだした。

「う!うぅ・・・」

「お、お母さま!うわぁ!どうしよう。こんなところで!」


「月夜見さま。アルメリアさまを抱えて、一度部屋へ瞬間移動してください。私も行きます」

「あぁ、そうだね。では僕とステラリアで部屋へ戻るね。皆はここで少しだけ待っていて」

「はい」


「ではステラリア。行くよ」

「はい」

「シュンッ!」

「シュンッ!」


 僕はお母さんを抱いたままステラリアと寝室へ飛び、お母さんをベッドに寝かせた。お母さんは既に意識を失っていた。


「月夜見さま。アルメリアさまは私が見ていますので、皆さんのお見送りをお願いいたします」

「うん。では行って来る。ステラリア頼むね。何かあれば念話で呼んでくれるかな?」

「はい」


「シュンッ!」


 僕はネモフィラの丘へと戻った。

「皆、待たせたね。では船に乗ってくれるかな」


 僕は小型船を地上に降ろして皆を乗せると、何故かフクロウも小白の頭に乗ったまま船に乗り込んだ。今は時間が惜しいので、そこはえて無視し、まずレオを学校まで送る。


「シュンッ!」


「では、レオ。勉強は進めて欲しいけれど、やり過ぎないようにね。お小遣いはお菓子とか食べ物を買っても良いのですからね」

「はい!ありがとうございます」

「ではまた、遊びに行こう」

「はい!」


「シュンッ!」


 王城へ戻りうまやの前に出現し、皆を降ろした。フクロウは扉が開くと空へ飛び立った。今はそれを目で追う余裕もない。


「絵里香、シンシア、部屋へ飛ぶよ。ニナたちも後から部屋へ来てくれる?」

「はい。すぐに参ります」

「お兄さま!アルメリアお母さまは大丈夫ですよね?」


柚月ゆつき姉さま。きっと大丈夫ですよ。後でお知らせしますね」

「えぇ、お願いします」


「シュンッ!」


「ステラリア。お母さまは?」

「まだ、目を覚ましません」

「そうか、次に目を覚ました時には記憶の整理ができていると良いのだけどね」

「えぇ、そうですね」


「うわぁ!」

「ど、どうされたのですか?」

「さっきのフクロウが窓の向こうに!」

「まぁ!アルメリアさまを追って来たのでしょうか?先程も天満月と呼んでいましたよね?」

 絵里香が窓に近付いてフクロウを見ている。


「うん。あのフクロウは『目覚めなさい』と言っていたね。そしてお母さまの頭に触れた途端、お母さまの記憶が戻り始めたんだ。間違いなく意図的に現れたのだね」

「それこそ、このフクロウが神の遣いなのではありませんか?」

 シンシアが神妙な面持ちでつぶやく。


「神の遣いか・・・でも、そうなると天照家の他に神が居るということか?」

 僕はひとりつぶやきながら窓を開け、フクロウが入れる様にした。でも窓枠に掴まったまま部屋の中には入って来ない。


『君は神の使徒なの?』

『しと? わからない』

『・・・何だかなぁ』


 ただ、待っていても仕方がないので珈琲を淹れて皆で飲みながら待った。

そして一時間程してお母さんは目を覚ました。


「お母さま!落ち着きましたか?」

「あぁ・・・月夜見。私は眠っていたのですね?」

「そうです、お母さまなのですね?記憶の整理はつきましたか?」


「えぇ、私の前世も日本人でした。前世での名前は秋月琴葉あきつきことは。京都で暮らしていました。神社で巫女をしていたのです。歳は二十二歳で亡くなりました。落馬して頭から落ちたのです」


「神社で巫女を・・・それに落馬?馬に乗っていたのですか?」

「えぇ、神社の神事で。あ!ソニアは私が乗っていた馬の生まれ変わりです」

「どうりでお母さまに懐いている訳だ。ソニアの日本での名前は?」

「月光号です」

「月光・・・それはまた良い名前ですね。神社の馬らしい名前だな」


「それと、もうひとつの前世も思い出しました」

天満月あまみつつきさまのですか?」

「えぇ、月夜見。あなたの遠い前世であなたと私は夫婦として過ごしていたのですよ」

「それはどのくらい前のことなのですか?」

「私にも年代のことはよく分かりません。千年以上前のことだと思います」


「では、今でも僕を夫だと?」

「その認識もあります。琴葉から見れば他人ですが、三人合わせると・・・」

「合わせると?」

「やはり結婚したいです!」

「やっぱりそうなりますか・・・」


「でも、安心してください。今のふたりの身体ならば、結婚して子を儲けても問題はありませんから」

「え?何故、問題ないと分るのですか?」

「神のお告げです」


「あぁ、そう言えば、そのフクロウがお母さまのことを天満月と呼んでいましたが?今もこうして離れずにそこに居ますしね」

「私が天満月だと知っているのですね?」

「やはり、天満月は神だったのでしょうか?そしてあのフクロウは・・・」


「月夜見。私のことは琴葉と呼んでください。もうお母さまとは呼ばないでください」

「琴葉?何故、琴葉なのですか?」

「私が月夜見の婚約者になるからです」

「うわっ!言い切りましたね・・・なんだかもう僕の意思は関係ないみたいですね」


 その時、フクロウが突然、一度大きく羽ばたき、そして話し始めた。

『月夜見と琴葉は結婚して子を儲ける。それは決まっていること』

『え?フクロウが人間みたいに普通に話した!結婚が決まっているって?どういうこと?』

『それが運命』


『運命ってどういうこと?』

『・・・』

『なんだ。だんまりか!色々と訳が分からないな・・・』


「お願いです。月夜見。ステラリア、絵里香、シンシア、ニナ、シエナ、シルヴィー。私のことは琴葉と呼んでください」

「分かりました。琴葉さま」

「ステラリア。さまは要らないわ。琴葉で良いの」

「え?でも・・・」


「ステラリア、絵里香、シンシアとは同じ月夜見の妻になるのですから」

「分かりました。琴葉。では私のことは桜と呼んでください」

「琴葉!私は花音と呼んでください」

「よろしくお願いします。琴葉。私は幸子とお呼びください」


「私たち侍女は琴葉さまと呼ばせてください」

「分かったわ。ニナ、シエナ、シルヴィーはそれで良いわ」

「はい!」


「ちょっと勝手に話が進んでいるよね?お母さま、日本にご両親は居ましたか?」

「ですから琴葉と呼んでください!」

「え?・・・琴葉・・・」


「私は孤児だったのです。神社に併設されていた孤児院で育ち、巫女となったので両親のことは知りません」

「では、友人とか神主さんとか、手紙を出したい人は居ますか?」

「いいえ、それはありません。私は月夜見とソニアが居れば、それだけで幸せです」

「そうですか・・・」


「私はお母さまにこのことを話しておきます。お母さまはこの姿になったこともまだ知らないのですよ」

「え?ウィステリアお婆さまのところへ?離宮へ行かれるのですか?」

「えぇ、そうです」


「何故そんなに急ぐのですか?まだ記憶が戻ったばかりなのに」

「お告げなのです。別れを告げて来いと・・・」

「別れ?どういうことですか?琴葉はどこかへ行ってしまわれるのですか?」

「兎に角、私はお母さまのところへ行かねばなりません・・・」

「琴葉・・・」


 何だろう?訳が分からない。何かに取りかれているみたいだ。でも仕方がない。付いて行った方が良さそうだな。

「分かりました。では、僕も一緒に行きますよ」

「そうなの?分かったわ。では行きましょう」


 前ネモフィラ王と二人の前王妃は、ネモフィラ王城の離宮へ移っている。

お母さんには僕とステラリアが付いて行った。離宮の門に居た衛兵が僕の顔を見てすぐに気付き門を開けてくれた。しかしお母さんの顔を見て不思議そうな顔をしていた。


「お爺さま、ウィステリアお婆さま。お母さまがお二人にお話があるとのことでお連れしました」

「アルメリアが?うん?アルメリア?」

「え?あなた。アルメリアなの?」

「はい。アルメリアです」


「ど、どうしたのだ?若返っているのか?」

「一体どうしたというのですか?お嫁に行った頃の姿に戻っているではありませんか!」

 お爺さんもお婆さんも大変に驚いて落ち着きを無くしている。


「お爺さま、お婆さま。お母さまは僕と同じ、異世界から転生した人間だったのです。そのために私と同じ様に神の能力を授かり、その力の影響で身体が十代後半の若さに戻ってしまったのです」

「それだけではありません。私には遠い過去に月夜見と夫婦であった時代もあったのです」


「月夜見と夫婦?まさかあなた。また月夜見と夫婦になるつもりなのですか?」

「えぇ、そうです」

「そんな!息子の嫁になるなんてことあり得ないわ!」

「そうだ。アルメリア。お前は何を言っているのだ・・・」


「ご理解頂けるとは思っておりません。これは運命であり、神のお告げなのです。今日、私はお父さまとお母さまにお別れを告げに参りました」

「お別れ?どういうことなの?どこへ行くと言うの?」

「アルメリアはこの世から居なくなるのです」

「居なくなる?死ぬとでも言うのか?」


「死ではありません。私は生まれ変わるのです」

「どういうことなのですか?」

「言葉の通り、生まれ変わるのです。ですから私はアルメリアではなくなりますので、此処には居られなくなります」


「ですからお別れを告げに来たのです。お父さま、お母さま、今までありがとうございました。どうかお元気で」

 お母さんは、二人に深々と頭を下げた。それは日本の挨拶だよなぁ・・・


「そんな!アルメリア!月夜見!アルメリアはどうしてしまったの?」

「お婆さま。突然のことで僕にも分からないのです。申し訳ありません」

「でも、月夜見はこれからもアルメリアと一緒に居てくれるのだろう?」


「えぇ、そのつもりです。何か分かれば僕から連絡いたします」

「そう。それならば安心だわ。月夜見。アルメリアをお願いね」

「分かりました」


「お父さま、お母さま。それではさようなら」

「アルメリア!そんな・・・」

 お婆さんは涙を流し、両手で顔を覆っている。お母さんも悲痛な表情をしている。


 それでも告げた言葉を撤回はせず、きびすを返すと王城へ向けて歩き出した。


 その一歩一歩は力強かった。僕は掛ける言葉が見つからず、ただお母さんの後を付いて歩いた。ステラリアも声を発することすらできずに後を付いて来るだけだった。


 王城へ戻るとシンシアを放置していることに気付き送って行くこととなった。

「シンシア。ごめんね。今日は色々あってちょっと落ち着かないから、また今度ゆっくり来てもらおうかな」

「はい。いつでも構いません。先程、フクロウの言葉が聞けましたので、私はイベリスで訓練しておきますね」


「うん、気を遣わせてしまってすまないね」

「いいえ、月夜見さまも私にその様なお気遣いをされません様に」

「では、今日は僕が送って行くよ」

「ありがとうございます」


 僕はシンシアを抱きしめてイベリス王城のシンシアの部屋へと瞬間移動した。

「月夜見さま。今日はありがとうございました。素敵な時間を過ごすことができました」

「うん。こちらこそ。ありがとう」

 僕たちは軽くキスをして別れた。


 さて、お母さんのところへ戻るか。少し気が重いけど。

「シュンッ!」


 部屋へ戻るとステラリアと絵里香それに侍女三人が残っていた。

「月夜見。お願いがあるのです」

「お母さま。何でしょうか?」

「琴葉と呼んでください」

「あ。琴葉・・・」


「私は一か月後にはここを出ます。それからはあなたの旅に連れて行ってください」

「え?そんなに早くここを出るのですか?」

「えぇ、そうです」


「ニナたちはどうするのですか?」

「連れて行きます」

「ここの荷物はどうするのですか?」

「それは月宮殿の私たちの部屋へ一時的に移動しましょう」

「月宮殿に出入りするのは構わないのですか?」

「荷物を置くだけです」


「ニナたちは僕たちと一緒に旅をすることはどう思う?」

「勿論、どこにでも付いて行きます!」

「私もです!」

「はい!私もです!」


「そうか・・・あ!小白をどうしよう。念話で話せる人が居ないところへ置いておけないな」

「連れて行きましょう!」

「いやいや、あんな大きな狼を連れていたら宿に泊めてもらえないでしょう?」

「その時は月宮殿に戻って泊まれば良いのでは?」

「うーん。まぁ、それなら良いかなぁ・・・ほとんどのお姉さま達が出ているから部屋は空いているからね」


「あと、ソニアとアルだなぁ・・・あ!エミリーもだった」

「それはエミリーが、今のまま面倒をみてくれるでしょう」

「そうか・・・琴葉。本気なのですね?」

「えぇ、冗談でこんなことは言いません」

「分かりました」


 僕は釈然としないまま、かたくななお母さんに逆らう気も起きず、その場は流されておいた。




 その後、ステラリア。いや、桜が日本の家族と友達に向けて書いた手紙の返事を引き寄せ、二人で桜の部屋で手紙を読んでいた。


 僕は山本からの手紙を読んだ。手紙には桜の家族は道場を継続して運営していたのですぐに見つかったこと、道場のホームページを通じて連絡を取り手紙と写真を送ったところ、桜が剣聖になっていたことからすぐに信用してくれて話し易かったことが書かれていた。


 そして桜が事故から救った友達には桜のお母さんが手紙を届けてくれたそうで、その友達は桜からの手紙の内容を見て、間違いなく桜だと確信したそうだ。


 今回、その友達も桜へ手紙を書いてくれた様でそれを今、桜が読んでいるのだ。


 桜は手紙を読みながら涙をこぼしている。僕は桜の隣に座って抱きしめながらハンカチで涙をぬぐった。


 手紙には写真も入っていて三十七歳になった彼女と夫の間には、小学生に見える二人の子が立っていた。そしてその女性はピンク色の筆箱を手に持っていた。


「友達は桜に感謝していたのではないかい?」

「はい。いっぱいの感謝をもらいました。綾を助けて本当に良かったです。この写真で彼女が持っている筆箱は私が使っていたものなのです。形見としてもらって今も持ち続けていたのだそうです」

「そう。それは良かったね・・・」

「はい。この筆箱は私の名前と同じ桜色でお気に入りだったので・・・嬉しいです」


 次に両親からの手紙の封を開いた。中には写真もあった。写真には両親の写真と、弟とその家族の写真が入っていた。


「あぁ・・・やはりお父さんもお母さんもこんなに年を取ってしまって・・・」

「それは仕方がないね。二十八年経っているのだからね」

「はい。でも弟が立派になって驚きました。奥さんに息子まで居るのですから」

 それから手紙を読んでまた泣き出してしまった。


「花音の時も聞いたのだけど、桜は日本に帰れるとしたら帰りたいかい?」

「いいえ。私は月夜見さまを愛しています。絶対に離れたくありません。桜としてもその気持ちは同じです」

「そう。ありがとう。桜」


 僕たちは強く抱き合うと深く長いキスをした。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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