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21.犯人逮捕

 女の子を殺した母親の家に突入した。


 騎士団長たちの後に続いて僕とステラリアも入った。


 家の中は酷く汚れていて人の住む家には見えない状況だった。


 そこには三人の女たちが浮浪者の様な格好でソファに座っていた。騎士団長の突入にも特に反応することもなく、その瞳からは生気が失われていた。


 僕は三人の顔を見て行くと、右のひとり掛けソファに座っている女性が犯人であることが分かった。

「モロー殿、右の女性があの子の母親で犯人です」


 騎士団長は躊躇ちゅうちょすることなく女に近寄って行く。すると次の瞬間その女は右手に持っていた包丁を騎士団長に向かって投げた。

「シュッ!」


 包丁は真っ直ぐに騎士団長の顔面に向かって飛び、騎士団長はそれに反応できなかった。

僕は背筋にぞわっとするものを感じながら念動力を発動し、その包丁を騎士団長の目前で止めた。


 宙に静止した包丁の刃先は、あと一センチメートルで騎士団長の青く美しい左眼に突き刺さるところだった。


「シュンッ!」

「グサッ!」

 ステラリアはその女の目の前へ瞬間移動し、剣で右腕をソファの肘掛けごと串刺しに突き刺した。

「ギャーッ!」


 女は叫び声を上げるも、剣は前腕ぜんわん尺骨しゃっこつ橈骨とうこつの隙間を貫通しており、剣を抜かない限りは動けない。じわじわと腕から血が流れ出ていた。


 もう一人の騎士リイナも突進し、三人掛けソファに並んで座っていた二人の女の首の前に剣を水平に突き出し、動きを封じた。


 騎士団長は一瞬、何が起こったのか分からなくなっている様だったが、やっと正気を取り戻し、下から上がって来た二人の騎士と一緒に女たちを取り押さえた。


「おい、そこの女。自分の娘の首を絞めて殺し、池のほとりへ捨てただろう」

「ちっ、そんなこと知らないね・・・」


 あぁ、なんだかなぁ・・・仕方がない!僕は女の子の死体を母親の目の前に引き出した。

「シュンッ!」

「ギャーッ!」

 突然、目の前に出現した自分が殺した娘を見て、母親は断末魔の叫び声を上げた。


 暴れる母親を押さえていたステラリアは、そのままでは腕が切り裂かれてしまうので、念動力で動きを封じると、剣を抜いて治癒の力で止血をした。


 僕はその母親と娘の横まで行って、

「お母さん。あなたが娘の首を絞めている時、彼女はね『お母さん!苦しい!止めて!お母さん!どうして?どうしてなの?』そう心の中で叫びながら死んでいったよ」


 母親はちらりと、真っ青に変わった娘の顔を見ると、みるみるうちにその顔を歪めていき、絞り出す様につぶやいた。

「もう生きていたって仕方ないんだ・・・死ぬ方が楽なんだよ」

「やはり、お前が自分で娘を絞め殺したのだな?」

「だって、ダニエルが・・・主人が出て行っちまったんだ。仕方がないだろ?」


「あぁ、旦那に出て行かれて三人とも自暴自棄になっちまったのか・・・」

「よし、三人とも連行するぞ」


「シュンッ!」

 僕は、女の子の死体を念動力で船に戻した。玄関で自分たちの船を引き寄せると、騎士団長に別れを告げた。


「モロー殿、ご苦労さまでした。私たちはここで失礼します」

「え!そんな!月夜見さまは私の命を救ってくださったのです。陛下にご報告してお礼を差し上げなければ!」

「あぁ、それでしたら明後日の夕刻に王城へ伺います。夕食でもご馳走してください」

「はい!ありがとうございます。お待ちしております!」


 僕たちは気分を変えるためにも、そのまま北方面の捜索へ向かった。




 いつもの様に上空から人里に近い湖を探していく。

「月夜見さま。あの母親は何故、娘を殺したのでしょう?」

「旦那が出て行ったと言っていたね。余程、旦那を愛していたか生活で依存していたために旦那が居なくなったことで、生きることに絶望したのでしょうか。もしかしたら娘を殺した後、自殺しようとしていたのかも知れませんね」


「そうですね。包丁を持っていましたから。もう少し遅ければ三人とも自殺していたかも知れませんね」

「お爺さまはこの世界では自殺する者などほとんど居ない。と言っていたのだがな」

「全くない訳ではないのです。ネモフィラ王国でも似た様なことはありましたから」


「あ!あそこに湖がありますね」

「あぁ、本当だ。あ!近くに黄色い花が一面に咲いているところもあるね。降りてみよう!」

 湖の湖畔に降りると、その林の向こうに黄色い花が見えていた。


 三人で散歩をしながら歩いて行くと木々を抜け花が咲く野原へと出た。

「うわぁ!一面に黄色い花が咲いていますよ!ここなのでしょうか!」

「絵里香。残念だけど、此処ではない様だ。花の種類が違うと思う。これは確か、フェンネルっていう薬草だよ。料理にも使えるね。実には整腸作用があるんだ。きっとシンシアも育てているのではないかな?」


「月夜見さまの記憶にある花はこれではないのですね」

「そうだね。さて、きれいな景色を見て落ち着いたところで、お腹も空いたし昼食を食べに行こうか」

「はい!行きましょう」


 近くに街を見つけて商店街に入ると、裏へ回って船を消した。商店街を歩いていると一軒だけある食堂を見つけて入った。

「いらっしゃいませ!・・・あ、あ、あの・・・」

「旅の者です。貴族ではありませんからお気になさらず」

「え?そ、そうなのですか・・・」


「このお店のおすすめを三人分お願いします」

「はい。すぐにお持ちします」

 その店は平民が利用するごく普通の食堂だった。でてきた料理はひとつのお皿に豚肉と豆の煮ものと炒めた野菜、そしてご飯が乗っていた。


「あ!これ、何かハーブが効いているね。食欲をそそる良い香りだ」

「そうですね。どこかで食べたことがある香りです」

「ハーブって何ですか?」

「ステラリア、さっき見たフェンネルみたいな薬草のことだよ」


「それは、タイムという薬草が入っているのよ」

「あぁ、タイムか。良い香りで美味しいですね!」

「それは良かったわ!」

 店員の女性も嬉しそうだ。


「もしかしたら、シンシアって日本でハーブ料理を作っていたのではありませんか?」

「あぁ、そうだね。聞いてみようか」


 僕は念話でシンシアに話し掛ける。

『シンシア!聞こえるかい?』

『あ!月夜見さま!聞こえます!』

『ちょっと聞きたいのだけど、日本ではハーブを使った料理を作っていたかな?』


『それはもう、あらゆるハーブ料理を研究していましたから!』

『おぉ!では今でも材料があれば色々作れるかな?』

『はい。できます!』


『そうか。それは楽しみだね。急にごめんね。今、ルピナス王国に居るのだけど、昼食にタイムを使った豚肉の料理を食べて美味しかったものだから、シンシアも作れるのではないかって、皆で話していたんだ』

『はい。できますので楽しみにしていてください』

『うん。ありがとう』


「やっぱりできるって!ハーブ料理も研究していたそうだよ」

「それは楽しみですね!」




 それから二日間掛けてルピナス王国を捜索したが、湖はあってもそれらしい黄色い花の咲く丘はなく舞依は見つからなかった。


 捜索を終えた三泊目の夕刻、モロー騎士団長と約束したため王城へと向かった。


 玄関では騎士団長と数名の騎士が出迎えてくれた。

「月夜見さま。ようこそお越しくださいました。また先日は私の命をお救いくださり、誠にありがとうございました」

「こんばんは。月夜見です」


 晩餐の準備はすでに整っていた様ですぐに食事となった。

「これは、月夜見さま。先日はありがとうございました。またこの度は騎士団長を救ってくださり、殺人犯の逮捕にもご協力頂いたとのこと。どれほどのお礼を差し上げたら良いのやら」


「ルピナス殿、こちらこそ先日は急に祖父とお邪魔してお願いしましたこと、申し訳ございません。またそれにも関わらず、快くお聞きくださり感謝いたします。お礼などは不要ですから、お気になさらず」


「先日、月夜見さまにご指摘頂いた通り、平民の暮らしには歪みが生じているのでしょう。此度の事件はそれが明るみになったものと思います」

「そうですね。例え増税せず、作物が多く収穫できたとしても、男女の数はすぐには同じにできません。それまではゆがんだ結婚観や家族の形があっても仕方がありません。その中で起こる人間関係や事件にまでは我々は干渉できませんからね」


「はい。これからは平民にも性の知識や道徳観も教育していく必要がございますね」

「えぇ、宜しくお願い致します」

「かしこまりました。誠心誠意努めさせて頂きます」


「では、乾杯いたしましょう。我が国特産のワインです。乾杯には発泡性のワインをご用意いたしました」

「では!」

 グラスを頭の高さまで掲げてから一口飲む。スパークリングワインだ。これは美味しいな。


「これは美味しいですね!」

「お口に合って良かった。ではまとめてお送りしますよ」

「いえ、今は旅の途中ですので終わりましたら購入させて頂きます」

「そうですか?」


「月夜見さま。これってシャンパンというものですか?」

「あぁ、絵里香。この様な発泡性のワインはスパークリングワインって言うんだ。地球にあるシャンパンはフランスのシャンパーニュ地方で決められた製法で作られたものだけがその名で呼ばれているんだよ」


「そうなのですか。お詳しいのですね」

「うん。日本でもスパークリングワインが好きだったんだ」

「では、お屋敷ができたら沢山買って貯蔵されるのですね」

「そうだね。ワインセラーも欲しいね」


「そう言えば、モロー殿。あの母親の取り調べは済んでいるのですよね?動機は何だったのでしょうか」

「はい。やはり旦那に出て行かれたことにより、自暴自棄になって無理心中をはかろうとしたとのことです」

「彼女はどの様な罪に服すのですか」


「終身刑となります。国が管理する農地にて生涯、農作業を行うのです」

「そうですか・・・」

 結局は生涯農夫でいることには変わりがないのだな。むなしいなぁ・・・


「あの・・・月夜見さま。ひとつお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「モロー殿、どうぞ」

「そちらのお方は?あの時の踏み込み、そして剣使いも。ただ者ではないとお見受けしましたが・・・」


「あぁ、彼女は、ネモフィラ王国の王宮騎士団、剣聖ステラリア ノイマンです。そして私の婚約者ですよ」

「け、剣聖!道理で・・・え?でもまだ十代なのではございませんか?その若さで剣聖?」


「あ!あぁ・・・その・・・」

「私は二十八歳です」

「えーっ!」

 そこに居た全ての者たちが驚愕の表情となった。あーやっぱり。誰から見ても十代の若さに見えるんだな。


「に、二十八歳!なのですか!信じられない・・・あ!も、申し訳ございません。失礼なことを!」

「良いのですよ。ステラリアの若さや美しさは私の自慢でもありますからね」


「それと、あの母親の腕に剣を刺したのに私たちが取り押さえた時にはすでに出血が止まり、傷が塞がっていたのですが・・・」

「それも、ステラリアの能力です。私の二人の婚約者は私と同様に神の能力を持つのです」

「そ、そうなのですか・・・」

 もう、開いた口が塞がらなくなってしまっている。それは驚くよねぇ。仕方がない。


 それからは話題を変えてハーブやブドウ、そしてワインの話をして盛り上がった。

是非、王城に泊まってくれと言われたが、宿を取っているからと断り城を後にした。


 お母さんだけでなく、ステラリアも若返っていることは間違いないようだ。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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