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20.殺人事件

 翌日、三人でルドベキア王国のウィリアムズ公の機械工場へと飛んだ。


「シュンッ!」

「うわぁ!」


「あ!月夜見さまでございますか!」

「突然にすみません。ウィリアムズ公は今、いらっしゃいますか?」

「はい。すぐにお呼び致します。応接室へどうぞ」


 応接室でお茶を飲んで待っているとウィリアムズ公が慌ててやって来た。

「これは月夜見さま。皆さま。ようこそお越しくださいました」

「突然にすみません。先日、お話しした新たに作ってもらいたいというものの見本をお持ちしました」

「見本でございますか?それはどこに?」


「ここでは狭いので工場の広い場所へ参りましょう」

「かしこまりました」

 工場の何も物が置かれていない広い一角に案内されてやって来た。

「光の線はこの近くにありますか?」

「はい。ここに御座います」


 そんなことをしていると従業員があちこちから集まって来た。

「では、今からここへ見本を出現させますよ」

「シュンッ!」

「ごとっ!」

「おぉーっ!」

「何だこれは!」

「きれいな箱ですね!」


「これは何でしょうか?金属製の箱ですか?」

「これは冷蔵庫というものです。この中にくさり易い肉や魚、野菜、飲み物を入れて冷やして保存するものです。もう一台、冷凍庫というものもあります。これです」


「シュンッ!」

「ごとっ!」

「うわぁ!また出て来た!」

「凄い!」


「これは二百ボルトで動くのでこのままこのプラグを光の線に繋いでください」

 すぐに作業員が慣れた手つきで線を繋ぐ。

「ブゥーン」

 するとコンプレッサーが低く唸り、作動を始めた。


「誰か、カップに水を入れて持って来てくださいますか?」

「かしこまりました!すぐにお持ち致します!」

 従業員が奥から水の入ったカップを持って来た。


「これをこの冷凍庫へ入れておきますね。では、次の製品です」

「シュンッ!」

「おぉーっ!」


「これは先日お願いした、扇風機せんぷうきの実物です。これは百ボルトでないと動かないので、このコンバーターで二百ボルトから百ボルトに変換します。このコンバーターも作って欲しいのです」

「ほほう・・・」

 ウィリアムズ公が興味深そうに目を細める。


「扇風機はこの様に回ります」

 スイッチを押すと羽が静かに回転を始めた。

「おぉーっ!」

「これが扇風機か!」


「この様に首の角度が変えられて左右に振ることもできます」

「おぉーっ!涼しい風が来るぞ!」

「何ということでしょう!」


「月夜見さま。この本体の材質は何でしょうか?」

「あぁ、これはプラスティックという油から作られた素材です。でもこの世界にはないのでこれは鉄を薄く延ばして成形してください」

「かしこまりました」

「では、次です」


「シュンッ!」

「これは換気扇というものです。こちらの扇風機は外の空気を部屋の中に入れるものですが、換気扇はお風呂やトイレ、厨房の外側に面した壁に四角く穴を開けて取り付け、その部屋の湿気や匂いを外へ出すものなのです」


「おぉ!なるほど。部屋にこもった湿気や匂いが無くせるのですね!」

「そうです。風呂や厨房から湿気を取り除ければカビが生えるのを防げます。また、トイレや厨房の煙や匂いを外に出すこともできるのです」

「それは素晴らしい!必ず売れますね!」


「これらのものを是非、造って欲しいのです」

「え?造る?既にこうしてできているではございませんか」

「いや、これは私の前世の世界から取り寄せた異世界の品です。これを大量に買い付けることはできません。これを見本としてバラバラにして頂いて構いませんので、こちらの工場で研究して頂き、新たに同じものを造って欲しいのですよ」


「これだけの品を研究材料としてしまってもよろしいのですか?」

「えぇ、構いません。万が一、製品化できなくても結構です」

「いえ、何としても造り上げてご覧に入れます!そうだな?みんな」

「おぉーっ!」

 従業員一同が笑顔で雄叫びを上げた。とは言え女性ばかりだけど。


「ルドベキアの誇りに掛けて!必ず造ります!」

「えぇ、お願いしますね」


「それで先程、水を入れたカップを冷凍庫に入れましたが、あと二時間もすれば、水は氷になっていますよ」

「氷が作れるのですか?」

「えぇ、生の肉や魚を凍らせて、一か月間近く保存することも可能です」


「い、一か月も!それは凄い!」

「それは是非、造りたいものですね!」

「はい。期待していますよ」

「かしこまりました!」


「あぁ、あと船のことなのですが、フラガリアとマグノリアで私が教えた新しい金属。ステンレス鋼というものを作ると思います。そのステンレス鋼を使って船の製造をお願いします」

「ステンレス鋼でございますね。かしこまりました。両国と連絡を取りながら進めさせて頂きます」


「その、冷蔵庫と冷凍庫の外側の金属がそのステンレス鋼です」

「おぉ!これがそうなのですね!」

「できれば両国の技術者にこれを見せてあげてください」

「かしこまりました」


「では、よろしくお願いします。急ぐことはありませんから、じっくりと研究して製品化を成功させてください」

「はい。必ずやご期待にお応えいたします。本日はありがとうございました」


 僕たち三人はルドベキア王国を後にした。




「シュンッ!」

「月夜見さま。ここはどこですか?」

「絵里香。ここはルピナス王国だよ」

 王城の上空から王都の商店街へ向けて降りて行く。


「ルピナス王国は確か農業が盛んな国だったね」

「あ!私、聞いたことがあります。ブドウの生産量が世界一なのだそうです」

「へぇ、絵里香、よく知っているね。ブドウか。この世界ではまだ食べてないかな?」

「ブドウですか?ネモフィラ王国では少ないですよね」


「ワインも有名なのかな?」

「飲みたいですね!」

「今夜、頂きましょう!」


 まずは宿を探すとその宿は大きなレンガ造りの建物で、周囲がルピナスの花壇で囲まれていた。国名の花を前面に押し出している様だ。


「寝室が二部屋ある部屋はありますか?」

「はい。特別室がございます」

「では、三泊でお願いします」

「はい。ありがとうございます。ではお部屋へご案内いたします」


 三階にあるその部屋は建物の裏側にバルコニーがあった。部屋も大きく設備も良い。トイレにはビデもあった。ここならば快適に過ごせそうだ。


「月夜見さま!景色が素晴らしいですよ!」

 バルコニーに出ていた絵里香が興奮している。ステラリアと一緒にバルコニーへ出ると、

「うわぁ!本当にきれいだね!」

「まぁ!素敵な景色ですね!」


 宿の裏側には広大な草原が続いており、其処此処そこここにルピナスの花が咲いていた。奥の林の合間には池が見え、日の光が反射してキラキラと輝いていた。


 遠くの山々には山頂付近にまだ雪が残っており、空の青さとの境界線となっていた。


「あとであの池まで行ってみませんか?」

「うん。良いね。きっと素晴らしい景色だろう」


 落ち着いたところで宿を出た。船に乗って先程見えた池の辺りまで飛び、船を止めて三人で地上へ降りた。池の縁まで行くと池の水面には睡蓮すいれんの花が咲き乱れていた。


 池の水面には睡蓮の緑色の丸っこい葉が無数に浮かび、その隙間から花が顔を出している。

「うわぁ!きれい!何ですか?この花は・・・可愛い!」

「絵里香。睡蓮だよ。これは日本にも咲く花だよ」

「私も初めて見ました。花が水の中から出て来ていているのですね!」

「花の色も黄色や白、ピンクとか様々なのですね!」


「ここでお茶にしようか」

「えぇ、すぐにご用意いたします」

 絵里香は部屋からお茶のセットを引き出すと、絨毯を敷いてお茶を淹れてくれた。

僕らは座って睡蓮の花を写真に撮り、お茶を飲んでくつろいだ。


 そうしてのんびりしていると木の陰から一頭の鹿が顔を出した。こちらを見て首を傾げ、耳を澄ませている。あぁ、話ができるのが分かるのかな?


 僕はステラリアと絵里香にも聞こえる様にして鹿に話し掛けた。

『こんなところでどうしたんだい?』

『にんげん?』

『そうだよ。僕たちは人間だよ』

『にんげん ねてる』

『僕たちは寝ていないよ。起きているでしょう?』


『むこう にんげん ねてる』

『え?誰か寝ている人が居るのかな?』

『こっち』

『え?どこだい?』

 鹿は歩き出した。僕たちもその鹿の後をついていく。


 池の縁を回る様に歩いて行くと草むらの端に靴を履いた人間の足が見えた。

「絵里香。君はお茶の席に戻って僕らを待っていてくれるかな?何かあれば念話で呼ぶのだよ」

「はい」

「ステラリアは周りを警戒してくれるかな?」

「はい!」

 ステラリアは次の瞬間、剣を出現させ周囲の気配に集中し始めた。


 鹿はその人間の横に来ると僕に振り返り、

『にんげん おきない』

『うん。教えてくれてありがとう。もういいよ』


 そして鹿は、その場からゆっくりと歩いて森の中へと消えていった。きっと池に水を飲みに来てこの人間に気付いたのだろう。


 近付いて見てみると若い女性の死体だった。女性と思ったが女の子と言った方が合っているかも知れない。十歳になっているかどうかといったところだ。ステラリアが遅れてやって来た。


「周囲には誰も居ないですね・・・あぁ、女の子ですか?」

「うん。もう亡くなっている様だね」

「首に絞められた様なあざがありますね」

「うん、その様だね」


 医師は必ず遺体解剖を経験するし、首のあざを見れば絞められたことも分かる。でも、それをステラリアに説明する必要はない。ステラリアだって見慣れている訳はないのだから。


 僕は死体の死後硬直の度合を確認しようと黙って女の子のかたわらに膝を付き、腕を掴んだ。その瞬間、電気の様な衝撃を感じると同時に頭に映像が流れ込んで来た。


 その女の子がどこかの家の中で首を絞められている。苦しそうに顔を歪め、血の気は徐々に引いていく。


 すると今度はその子の目線に切り替わり、首を絞めている人物の顔が真正面に見えた。そして、念話の様に頭の中に女の子の声が響く。

『お母さん!苦しい!止めて!お母さん!どうして?どうしてなの?』


 その母親は娘がぐったりと動かなくなったのを見ても顔色一つ変えず、その表情からは感情が見えなかった。


 やがて母親は、既に息をしていない娘を抱き抱えるとベッドに運んで毛布にくるんだ。そして小型船に乗せてここまで運ぶと娘の死体を船から投げ捨て、去って行った。


 ここから船が飛び去る方向には、遠くかすかに一軒の家が見えた。どうやらそこの住人らしい。


「月夜見さま!」

「あ。あぁ、ステラリア」

「どうされたのですか?ずっと動かないので心配になりました」


「うん。どうやらこれも能力のひとつらしいのだけど、サイコメトリーといって死体や死んだ人が使っていた物などに触れると、その人の考えや記憶。思念しねんが伝わって来るんだ」

「何か分かったのですか?」


「そうだね。この子が母親に首を絞められて殺される映像が見えたよ。そして母親がここへ運んで来て捨てたんだ」

「なんてことを・・・」


「さて、どうすれば良いのかな。犯人は分るのだけどね。ネモフィラ王国だったらこういう事件の時、誰が捜査をして犯人を捕まえるのかな?」

「はい。それは王宮騎士団の仕事です」

「では、ステラリアもこの様な被害者を見たことがあるの?」

「えぇ、少ないですがあります」


「ネモフィラ王国の場合は殺人犯はどの様な罪になるのかな?」

「殺人は終身刑です」

「なるほど。では王城へ行って騎士団に話すのが良いかな?」

「はい。そう思います」




 三人で船に乗りルピナス王城の玄関へと瞬間移動した。

「シュンッ!」

「うわぁ!って・・・あ!月夜見さまでいらっしゃいますか?」

「えぇ、そうです。王宮騎士団に用があるのですが」

「陛下にではなく王宮騎士団でございますか?かしこまりました。すぐにご案内いたします」


 衛兵について行くと王宮騎士団の応接室へ通された。そして女性の騎士団長が走ってやって来た。

「こ、これは月夜見さま。私はルピナス王国王宮騎士団団長ジャクリーン モローでございます。本日は如何されましたでしょうか?」


「急にお邪魔してすみません。実は私たちは人探しの旅をしていましてね。今日からルピナス王国に入っていたのです。この近くで睡蓮が咲く美しい池を見つけて眺めていたら、女の子の死体を見つけてしまったのですよ」

 鹿に教えられたとか余計なことは言わなくても良いよね。


「な、なんと!月夜見さまが死体を発見されたのですか・・・」

「えぇ、ですので、まずは死体を回収し犯人を捕まえて頂きたいのです」

「かしこまりました。すぐに向かいましょう。申し訳ございませんがその場所までご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」


「えぇ、では船を出して頂けますか?」

「はい。すぐに船を玄関へお回しいたします」


 王城の小型船に乗ると僕たち三人が中央の席に座り、前と後ろに二人ずつ騎士が座った。

「では、現場まで行きましょう」

「シュンッ!」

「うわぁ!どうなったのですか?ここは?」


「船ごと事件現場へ瞬間移動したのですよ。ほら、あそこに王城が見えていますよ」

「あ!本当だ!瞬間移動したのですか!」

「えぇ、そして死体はこのすぐ下です。今から皆さんを下ろしますよ」


 そう言って絵里香以外の全員を念動力で浮かせると地面へゆっくりと下ろした。騎士たちは驚き過ぎて声を出すのも忘れていた様だ。


「この子がそうです」

「あぁ、むごいことを・・・」

「因みに、犯人は分かっていますが、すぐ捕らえに行きますか?」

「え?犯人をご存知なのですか?」


「えぇ、私の能力で死体に触れるとその思念が伝わって来るのですよ。この子は自分の母親に首を絞められて殺され、船でここまで運ばれ投げ落とされたのです。家はあそこに小さく見えている家です」

「そ、そうなのですか・・・で、では、死体を回収してすぐに向かいましょう」


 そう言っているそばから女の子を念動力で持ち上げ、船の後部の荷物室へ横たわらせた。そして再び騎士たちを浮かせて船に乗せると犯人の家の玄関へ瞬間移動した。


「シュンッ!」

「さぁ、ここが犯人の家です」


「よし、二人は一階へ回って逃げられない様に押さえるのだ。リイナは私と一緒に玄関から入るぞ!」

「はい!」

「絵里香は玄関に居て中には入らないで」

「はい」


 騎士団長はドーンと扉を蹴破けやぶる様にして家の中に突入した。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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