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12.鉱山の夜

 ふたりの着替えが終わったところで、湖月こげつ姉さまが迎えに来た。


「お兄さま!晩餐の準備が整いましたので王城の方へお願いいたします。まぁ!ステラリアさまも絵里香さまも素敵なドレスですね!お美しいわ!」

「ありがとうございます」

「うん。良いね。では行こうか」


 晩餐の席には王と王妃三人とコリウス殿が待っていた。

「おぉ、これは月夜見さま。よくぞお越しくださいました」

「ルドベキア殿、皆さま。先日は急な訪問をしまして申し訳ございませんでした。また、それにも関わらず、提案にご理解をたまわり、ありがとうございました」


「とんでもございません。我が国ではコリウスがそれに早くから気付いており、施策しさくを進めておりましたので、何も問題はございませんでした」

「ありがとうございます」


「今日は湖月さまの診察を頂き、授かった子が男の子と判明したとのこと。コリウスの、そしてルドベキアの血を継ぐ世継ぎが生まれると判った大変にめでたい日となりました。今宵は盛大に祝いたいと存じます」

「ルドベキア殿、コリウス殿。おめでとうございます」

「月夜見さま。ありがとうございます」


 そして盛大な宴が始まった。ワインで乾杯し、豪勢な料理が次々と出された。

「月夜見さま。そのお綺麗な女性たちは?」

「あぁ、これは失礼致しました。ふたりは私の婚約者です。ステラリア ノイマンと絵里香 シュナイダーと申します」


「え?婚約者でございますか?それは初めてお聞きしました」

「えぇ、私はまだ十二歳ですからね。公表していないのです。ですから、できれば口外しないで頂けると助かります」


「それは、勿論、お約束いたします。それにしてもおふたりともお美しい女性ですな!」

「ありがとうございます。私としましても自慢のふたりなのですよ」

 ステラリアと絵里香が真っ赤な顔になった。


「それにしても、この国では見たこともないドレスですわね。宝石も素晴らしいわ」

「ナタリーさま。これは異世界のドレスを参考にして作られたものです」

「まぁ!そうなのですね。とても美しいわ・・・」


 三人の王妃は揃って、うらやましそうな表情でふたりのドレスと宝石を食い入る様な目つきで見ていた。まぁ、王妃の興味は当然、そういうことに向くよね。


「ルドベキア殿。今日、ウィリアムズ公の工場を見学させて頂いたのです。素晴らしい技術ですね」

「はい。我が国の誇る、基幹産業なのでございます。おめにあずかり光栄でございます」


「私も新しい乗り物の注文と、扇風機の提案をさせて頂きました。今後も幾つかの提案をさせて頂きますよ」

「何と!新しい製品の提案を!それはありがとうございます!」

「この国は益々発展していくことでしょう」

「これも全て、月夜見さまのお陰でございます」


「それで、コリウス殿。二人目の妻をお迎えになるご予定は?」

「月夜見さま。私も色々と考えておったのですが、今日、世継ぎが授かったことで決心がつきました。私の妻は湖月さまだけだと」

「そうですか。それもひとつの決断ですね。私はとても良いことだと思います」

「ありがとうございます」

 僕の妻は既に複数となることが確定的なのであまり偉そうなことは言えないな。


「ときに、この国の機械産業の材料となる金属類はこの国で採掘できるのですか?」

「いいえ、お隣の国、フラガリア王国とマグノリア王国で採掘し、製鉄されたものを輸入しているのです」

「おや。そうするとマグノリア、フラガリア、ルドベキア、リナリアの四つの国は並んでお互いの国の産業を支えているのですね」


「左様で御座います。それにこの四か国はそれらの基幹産業に力を入れているため、農作物など食料品の生産がかたよっているのです。ですから周辺国からの輸入も併せ、食料品を融通し合うことでも重要な結び付きとなっております」


「そうでしたか。そうやってお互いになくてはならない存在となっておれば、戦争など起こることもないでしょうね」

「はい。戦争など、もう何十年も昔のお話でございます」

「それを聞いて安心しました」


「では、明日からはフラガリア王国を訪問しましょう。是非、製鉄工場を見学してみたいですね」

「それでしたら、フラガリア王に言伝ことづてしておきます」

「えぇ、お願いいたします」


 楽しい晩餐が終わり、三人で神宮へ戻った。今夜は絵里香と眠る日だ。

ステラリアは一度、ネモフィラ王城の部屋に戻ってドレスを片付けると言って瞬間移動した。


 絵里香も城に戻り、衣裳部屋として借りたままにしている客間へ飛び、着替えてから戻って来た。僕はその間にお風呂を済ませて山本へ手紙を書いた。


 手紙には購入したいもののリストを書いた。まずは業務用大型冷蔵庫二台、冷凍庫二台、換気扇一台、扇風機三台、ハンドドライヤー十二台、それにコンバーター十台だ。それらの見積りを一週間後の日時を指定して引き寄せる旨を記した。


 絵里香はお風呂から出ると、机に座って手紙を書き終え、読み返していた僕に後ろから抱きついて来た。コンディショナーの香りが優しく香った。


 そして背後から僕の頬にキスをしてきた。僕は手紙を山本へ送ると絵里香のキスに応じた。




 翌日、湖月姉さまとコリウス殿に別れを告げフラガリア王国へ飛んだ。


 王城の上空に出現するとそのまま城の玄関へと降りた。

「これは月夜見さま。ようこそお越しくださいました」

「先日はありがとうございました」


 ルドベキアと同様につい先日、お爺さんと訪問したばかりだ。ルドベキア王が言伝ことづてしてくれたお陰で、フラガリア王が自ら出迎えてくれた。


 この国のゴーチェ フラガリア王の娘は既に皆、嫁に行っているのでちょっと安心だ。

「ルドベキア殿から聞いております。此度は製鉄工場を見学されたいとか」

「えぇ、ルドベキアの機械産業を支えておられる、採掘と製鉄の現場を一度見てみたいと思ったのです」

「えぇ、是非、ご覧頂ければと思います。サロンの方で少しお休み頂いてからご案内いたします。サロンからはこの国の鉱山の様子が一望できますので」


「そうなのですね。そう言えば、今までは応接室にしか入ったことがありませんでしたね」

 サロンに通され、バルコニーから外を見て驚いた。

「うわぁ!」

「これは、凄い・・・」

「何という景色なのでしょう!」


 城は山から平地へと続く裾野の途中にあり、今までここへ来た時は玄関のある表側に着いていたので、山側を見たことがなかった。でもサロンは裏側にあり、バルコニーからは山とその間の谷が見渡せるのだ。


 その谷は深く、最下層には川が流れている。その遥か高い位置に山から平野へ続く、か細い道路が崖っぷちにへばりつく様にして連なっている。


 山の斜面にはとても数えられない程、無数の坑道が開けられており、あちこちの穴から小型の輸送艇がひっきりなしに行き来している。


「こんな景色は初めて見ました」

「なんだろう、自然の美しさとはまた違ったきれいな風景だね」

「はい。これが夜になりますと坑道に明かりがともって幻想的な美しさとなるのです」

「ほう、それは是非、見てみたいものですね」

「はい。客室は全てこちら側に面しておりますので、今夜、夜景を楽しんで頂けると思います」


「製鉄工場はどちらにあるのですか?」

「はい。その山合から流れる川の下流に平野が広がっており、そこに製鉄の街が形作られておるのでございます。国の半数がその街に暮らして居るのですよ」


「その他の地域の産業は?」

「はい。それは農業と畜産業でございます。どちらかと言いますと畜産に力を入れており、農業も畜産用の牧草や穀類がそのほとんどとなっております」


「何故、畜産に力を入れているのでしょう?」

「はい。鉱山や製鉄工場で働く者たちは肉体労働がほとんどですので、肉を食べないと体力が追い付かないのです」

「あぁ、なるほど。そういうことでしたか」


 それからフラガリア王が自ら坑道を案内してくれることになった。

小型船に乗って、鉱石を運ぶ小型船の列について山肌に沿って奥へと向かい、大き目な坑道へとそのまま入って行った。


 ライトを点けて前方を照らしながら坑道の奥の方へと入って行く。どうやら、この坑道は古いものの様で坑道自体がとても広く深い。そこから枝分かれする様に無数に横へと穴が開けられている。


 かなり奥まで入ったところで作業員の姿が見えた。普通ならばこういうところで働く作業員は男と決まっているものだが、ここでは女性の方が多い。しかも皆、二の腕が筋骨隆々としてたくましい。


 削岩機さくがんきを持ってガンガンと岩を掘削くっさくしている。他の者はスコップで輸送艇に積まれた箱の中に砕かれた鉄鉱石を入れていく。


「女性でこの作業は大変ですね」

「えぇ、でも大昔からこうしていますので彼女たちは慣れたものですよ」

「そうですか・・・」

「それに、ここで働いている者たちは、ほとんどが他国から志願して来ている者ばかりなのです」


「他国から?それはどうしてですか?」

「話に聞いたところでは、食うに食えない者、結婚をあきらめた者、あとは奴隷上がりや犯罪者ですね」

「あぁ、様々な理由があってここに居るのですね」

「はい」


「それで、この国ではどんな鉱物が採れるのですか?」

「はい。鉄が主ではありますが、その他の鉱物や宝石も採れます」

「宝石も採れるのですか。どんな宝石でしょう?」

「多いのはルビー、エメラルドそれにダイヤモンドです」


「では宝石店もあるのですね?」

「はい。王都にございます」

「では、後ほど伺いますね」

「はい。ありがとうございます」


「では、製鉄工場の方へ参りましょう」

 坑道を出て山合の谷を進み、王城を過ぎて平野へと出た。平地が開けたと共に石造りの巨大な製鉄工場が見えて来た。城の様にも見える。


 工場の玄関に到着すると貴族らしい工場長が沢山の従業員とともに出迎えてくれた。

「月夜見さま。ようこそお越しくださいました。私は当工場の責任者、マティス ゲーリン公爵でございます」

「月夜見です。よろしくお願いします」

 一旦、応接室へと通された。


「この製鉄工場では、主に鉄を製造しております」

「あれ?鉄と言えば、ステンレススチールはあるのですか?」

「すてんれす?でございますか?」

「あ!そう言えば、ナイフやフォークは銀製でしたね」

「はい。鉄で作るとすぐに錆びてしまいますので」


「そうですね。鉄にクロムを混ぜると、錆びや腐食に強いステンレス鋼になるのですよ」

「クロムですか?」

「あぁ、説明が難しいな。ちょっと待っていてください」

「シュンッ!」


「うわぁ!消えてしまわれたぞ!」

「ゲーリン公、落ち着いてください。月夜見さまは少し調べものに行かれたのです。すぐに戻りますよ」

「そ、そうなのですか?」


 僕は自室に戻ってパソコンで調べようと思った。確か、パソコンの動画にかなり広範囲なジャンルの動画があり、製鉄に関わるものがあった気がしたのだ。


「シュンッ!」

「まぁ!月夜見!戻ったのですか?」


「お母さま、ちょっと調べものをしに来たのです。パソコンを見たらすぐに戻りますよ」

「まぁ、すぐ戻ってしまうのですね・・・」

 そう言うと机に座った僕を背後から抱きしめている。ニナとシエナは生暖かい目で見守っていた。


 パソコンで工業系のジャンルを探すと製鉄の動画があった。早回しで見て行くとステンレス鋼の説明もあった。どうやらクロムを13%程鉄に混ぜれば良いらしい。


 僕はパソコンの電源を落とすと、

「お母さま。急ぎますので僕は戻りますね」

 そう言って、お母さんを深く抱きしめてから瞬間移動した。


「シュンッ!」

「うわっ!あ!お戻りに!」


「分かりましたよ。ゲーリン公。この国でクロムは採掘されますか?鉄に似た銀ではない、銀色に光る鉱物です」

「あぁ、それならば採れますね。きれいなのですが使い道が分からなかったのです」

「それを鉄に混ぜるのですよ。百グラム作るとすれば、鉄八十七グラムに対してクロムを十三グラム混ぜ溶かして固めるのです」


「そうすると鉄よりも格段に錆びや腐食に強くなるのです。これを食器や、船の船体、風呂やトイレなどの水回りの部品で使えば、丈夫で長持ちしますよ」

「そ、それは本当ですか!では早速工業組合に登録を!月夜見さま。発案料はいか程を?」

「あぁ、一割で結構です」

「え?たった一割でよろしいのですか?」


「えぇ、結構です。できるならばステンレス鋼の値段を下げるとか、工場で働く者の賃金を上げて頂ければと思います」

「ははーっ!かしこまりました!」


「あぁ、そうだ。クロムは約千九百度で溶ける様です。鉄より高いのですがこちらの溶鉱炉ではそれだけの温度にできますか?」

「はい。可能です」


「それならば良かった。では、是非ステンレス鋼を作り、食器もこの国の生産品としていってください」

「はい。必ずやお作り致します。ご期待ください!」

「はい。期待しております」


「月夜見さま。新しいご提案を頂き、ありがとうございます。そろそろ王都へ戻りましょう。宝石店へご案内させて頂きます」

「えぇ、ありがとうございます」


 製鉄工場を後にして、王都の宝石店へ連れて行ってもらった。

「これは陛下。ようこそお越しくださいました!」

「うむ。今日の客は私ではないぞ。こちらは神の一族の月夜見さまだ」

「ははーっ!神さまにご来店頂くとは、この上ない幸せに存じます」


「そう、かしこまらなくて良いのです。ただの客ですから。月夜見と申します。この国で採れた宝石を見せて頂けますか?」

「かしこまりました。最上級のものをお持ち致します」


 やはり一番採れるという、ルビー、エメラルド、ダイヤモンドのネックレス、イヤリング、指輪がずらりと並んだ。


「ステラリア、絵里香。この国に来た記念に何か買っていこうか。好きなものを選んで」

「よろしいのですか?」

「うん。記念だし、思い出になるでしょう?」

「では、私はこのダイヤモンドのネックレスを」

「ステラリア。ではそれに合わせたイヤリングと指輪も選んで」


「絵里香はどれにする?」

「では、エメラルドにします」

「うん。セットで選ぶんだよ。では、このダイヤモンドのネックレスも頂こうかな?」

「あぁ、高島さんへの贈りものですね」


「うん。そうだよ。あ!そうだ、カフスやタイピンはあるかな?」

「はい。こちらに御座います」

「では、このダイヤモンドのセットを頂きます」

「かしこまりました」


「やはり産出地だけあって品質が良いですね。全部でお幾らですか?」

「ありがとうございます。全てで白金貨十枚でございます」

 僕はポケットの中で白金貨を十枚引き出すと主人に手渡した。

「白金貨十枚ですか。お安いですね」


「い、いえ、これ程多くの宝石を一度に購入されたお客さまは初めてで御座います!」

「そうですか?」

「はい。ありがとうございます」

「月夜見さま。我が国でこれ程高額のお買い物を頂き、誠にありがとうございます」

「フラガリア殿。大変良い買い物ができましたよ」


 買い物を済ませて王城に戻ると晩餐まで客間でゆっくりして欲しいと言われた。

「月夜見さま。私、宝石はもう十分に頂いているのですが・・・」

「ステラリア。これも思い出だから気にしないで。絵里香もね」

「はい。ありがとうございます」

「さぁ、今夜も晩餐だからドレスに着替えて!さっき買った宝石を身に付けてね」

「はい」


 晩餐はフラガリア王と王妃、ゲーリン公爵夫妻も出席し、歓迎される中、穏やかに歓談が進み、お酒も楽しんだ。


 晩餐の後、三人でバルコニーへ出て山を見ると、無数の坑道に明かりが灯り、空の星と対照的にランプの様な暖かな光が山一面に散りばめられて、とても幻想的な景色となっていた。


 バルコニーに椅子を並べて三人で座り景色を眺めた。ステラリアと絵里香は両側から僕の肩に頬を乗せ、僕の手を両手で包む様に握っていた。

「素敵な夜ですね・・・」

「えぇ、お酒も入っているから幻想的な景色がより素敵に見えます」


 僕たちは夜遅くまで三人で寄り添って、その景色を眺めていた。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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