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1.旅立ち

 僕は十二歳になった。身長も百八十センチメートルを超えた。


 ステラリアは絵里香やお母さんからのアドバイスもあり能力の開花が早かった。剣聖の持つ感覚の鋭さや運動能力も相まって、あっという間に瞬間移動や透視もできる様になった。


 冬の間は治癒能力の訓練を中心に行っている。でも神宮で訓練をする訳にはいかない。

顔が知られているからだ。お母さんとステラリアの治癒能力の訓練は自室で僕と絵里香から受けている。


 ただ、僕や絵里香の様に身体の内部の想像ができないので宮司のレベル止まりとなってしまうのは仕方がない。透視も身体の中まではできないのだ。


 でも僕の家族が皆、能力が使えることは非常に良いことだ。船がなくとも各々おのおので瞬間移動ができるからだ。でも舞依が能力を使えるかどうかはまだ分からないけれど。


 最近では、絵里香は客間を使わせてもらうことになった。僕の婚約者だからだ。その話になった時、アニカ姉さまの部屋を使えと言われたのだが、絵里香が恐縮してしまったのと、どうせ来春になれば、旅に出てしまうので客間で良いということになったのだ。


 そして絵里香の出た後にはシエナが入ってニナと二人で使うこととなった。

絵里香が客間を使うことになってから僕は週に一日ずつステラリアと絵里香の部屋に泊ることにした。お母さんと眠るのは週に五日になった。


 絵里香の部屋に泊った最初の夜。その日は、あらかじめ基礎体温表だけでなく、絵里香は自分で事前に排卵日を確認していたので、いわゆる安全日だった。つまり絵里香との初夜がやって来たのだ。


「絵里香。とうとうこの日が来たね」

「何だか凄くどきどきします!」

「一応、聞くけど前世でも未経験だと言っていたよね。セックスってどんなことをするのかは分かっているのかな?」

「それは現代日本に暮らしていたのですから知っています」


「そう、それならば大丈夫だね。お風呂に入ろうか」

「はい」


 ふたりで湯船に浸かり抱きしめ合ってキスをした。絵里香は積極的になって夢中で僕にしがみ付いて来た。少しのぼせ気味になりお風呂を出て絵里香をタオルにくるむと、お姫さま抱っこしてベッドへ運んだ。


「絵里香は綺麗だね。ずっとキスしていたくなるよ・・・」

「綺麗だなんて、月夜見さまの方がお綺麗です。私、何時間でも見ていられます」

「ふふっ、絵里香ってどうしてそんなに可愛いのだろう!」


 初めてなので緊張をほぐしてあげる必要がある。全身の血流を良くするため、マッサージをしていった。


 十分に身体がほぐれたところでふたりはひとつになった。


「やっと月夜見さまのものになれました・・・」

「あぁ、絵里香。なんて可愛いんだ。僕は君が可愛くて仕方がないよ」

 絵里香をきつく抱きしめて言った。


「幸せ・・・なんて幸せなのでしょう・・・こんなことってあるのですね」

 それからもふたりは深く愛し合った。


「あぁ・・・月夜見さま・・・私・・・生きていますか?」

「ふふっ・・・何を言っているの?そんなに良かったのかな?まぁ、昇天するって言葉があるくらいだからね」

「はい。月夜見さまという神さまに天国へ連れていって頂きました・・・」

「絵里香って面白い!」


「さて、今夜は寝かさないからね・・・」

「まだ、この幸せが続くのですか?」

「生涯、続くさ・・・」

「嬉しい!」




 そうして、ステラリアと絵里香との愛を育んでいるうちに春がやって来た。

僕とフォルラン、ロミー姉さまは、学校を卒業した。


 フォルランは更に王政の勉強を続け、剣術も高めていくそうだ。柚月姉さまもネモフィラにある二つの神宮を行き来して、お手伝いをしながらフォルランとの愛を深めていくのだろう。


 ロミー姉さまがマグノリア王国へ嫁ぐことが決まった。同時に那月姉さまもめとるそうだ。僕はロミー姉さま、伯父さんと伯母さんをマグノリア王国へ送った。


 ロミー姉さまも那月姉さまも晴れやかな笑顔になっていた。僕は特に言葉を交わすことなくふたりを笑顔で見送った。


 マグノリア王国を立とうとした瞬間、頭の中にお母さんの声が響いて来た。


『月夜見は何時頃帰るのかしら?』

『え?お母さま?どこに居るのですか?』

『え?あら!月夜見の声がするわ。月夜見!どこにいるの?』

『僕はロミー姉さまを送ってマグノリア王国ですよ。今から帰ります』

『あら、もう帰って来るの?』

『はい。今から帰りますね』

『えぇ、待っているわ』


「シュンッ!」

「お母さま。ただいま!」

「まぁ!月夜見。さっきの念話はどういうことかしら」

「それは僕が聞きたいですよ。何故、ネモフィラとマグノリアとで離れて念話ができたのでしょうね?初めてのことですよ」


「そうね。ふと月夜見のことが頭をよぎって、それで考えていたのです」

「それだけですよね?」

「えぇ、それだけです」

「でも、離れた地に居ても念話ができればこれほど便利なことはありませんね」

「えぇ、月夜見がどこを旅していても連絡が取れるのですからね」


「これって、もしかして今まで試していなかっただけで、実は前からやろうと思えばできたことなのかも知れませんね」

「それならば、ステラリアと絵里香ともできるのでしょうか?」

「やってみましょう。ステラリアに話し掛けてみますね」


 僕はステラリアの姿を頭に思い描きながらステラリアに話し掛けてみる。

『ステラリア!ステラリア!聞こえるかい?』

『え?月夜見さま?どちらにいらっしゃるのですか?』

『あ!やっぱりできたね。僕は自分の部屋だよ。どうやら離れているところでも念話はできるらしいんだ。今までやってみなかっただけで、やればできることだったみたいなんだ』

『まぁ!それはとても便利ですね。私は今、騎士団の訓練場に居るのです』


『ははっ。ではこれからは急な用事の時は念話で話せるね』

『はい。離れていても月夜見さまと繋がっているなんてとても嬉しいです』

『そうだね。それじゃぁ仕事中だろうからまた後でね』

『はい。月夜見さま』


「お母さま。騎士団の訓練場に居るステラリアと話ができましたよ」

「そうなのですね。これは便利ね」

「絵里香は今日は神宮でしたっけ?」

「えぇ、そうです」

「ではちょっと試してみますね」


『絵里香!絵里香!僕の声が聞こえるかい?』

『月夜見さまですか?あれ?念話でしょうか?』

『うん。そうなんだ。離れたところに居ても念話ができることが分かったんだよ!』

『まぁ!それは便利ですね。電話よりも便利ではありませんか!』


『そうだよね。これは凄いことだよ!』

『はい。わくわくしますね!』

『では、仕事が終わったらまた話そうね』

『はい。月夜見さま!』


「神宮に居る絵里香とも話せましたよ」

「良かったわ。これでこの四人はいつでもどこに居ても会話ができるのね」

「えぇ、そうですね」


 その夜、僕たちは部屋に集まって旅の話を詰めた。

「そろそろ旅の支度をしようと思うんだ」

「はい。何を用意すれば良いでしょうか?」

「そうだね。まずはどんな格好で行くかだね。希望はあるかい?」

「私はやはり動き易い服装が良いですね。騎士服とか・・・」


「いや、騎士服は目立ち過ぎでしょう。帯剣も駄目ですよ。ステラリアは念動力でこの部屋からいつでも剣を手中に出せる訓練をしてきたでしょう?」

「はい。そうでした」


「ネモフィラの人間だと分かる様な衣装も止めましょう」

「では日本の服でしょうか?」

「そうですね。その中から動き易いものを選びましょうか。あとは現地で買っても良いですね」


「荷物は何を持って行けば良いのでしょうか?」

「絵里香、荷物は一切持って行きません。各々鞄ひとつ用意するのです。その中に寝間着と次の日の着替えを入れて、宿に泊まる時は直前に念動力で引き寄せるのです」


「洗濯する着替えを入れたら、またこの部屋へ念動力で戻します。それをニナとシエナに洗濯してもらうのです。あぁ、化粧品やシャンプーは鞄に入れて良いですよ」

「それならば大荷物を持って歩かなくても良いのですね」


「えぇ、それに何か必要になったらお母さまに念話でお願いして鞄の中に入れてもらえば良いのですよ」

「月夜見。たまには帰って来てくれるのですよね?」

「お母さま。寂しくなったら念話で呼んでください。その時は戻って来ますよ」

「まぁ!嬉しい!それならば安心です」

 ステラリアと絵里香が生暖かい笑顔で僕らを見ている。


「月夜見さま、移動はどの様にするのでしょう?」

「ネモフィラの小型船を一艇借りることになっています。どこの国の船なのか分からない様に色を塗り替えてもらう予定です。まず王都の神宮上空へ瞬間移動で飛んで、そこからは船で国内を巡ります」

「分かりました」


「どの国から回るのですか?」

「やはりここから近い北方の国からでしょうか。北国は冬に旅ができませんので南の国へ行きますからね。ある程度順番は考えておきますね」

「はい。分りました」


「お母さま、僕たちが居ない間のお母さまの侍女は、ニナとシエナだけで大丈夫ですか?」

「えぇ、ニナとシエナのどちらかが休みの時は臨時の侍女を頼むことになっているわ」

「では、これで大丈夫でしょう。出発は二週間後にしましょう」


「そう言えば、絵里香。アナベルの検診は続けていたのですよね?」

「はい。でももう安定期に入っていますし、胎児は順調に育っています。それに胎盤や子宮にも問題はありませんので、月影さまにお任せしても大丈夫かと」


「それで、男女の別はどうだったのかな?」

「はい。男の子でした。大変、お喜びになられていました」

「そうか。それなら安心だ。良かったよ。絵里香、ありがとう」

「いいえ、私は検診しているだけです」




 僕は旅に出る前に月宮殿へ行って報告をすることにした。

「シュンッ!」


「あ!お兄さま。今日はどうされたのですか?」

「あぁ、春月しゅんげつ姉さま。皆に報告があるのです。サロンに集まってもらってください」

「はい。すぐに呼びます!」


「おぉ、月夜見。報告とは何かな?」

「学校も卒業しましたし、僕は旅に出ることにしたのです」

「旅にか。前に言っていたな。それでその目的は何かな?」

「僕の嫁を探しに行くのです」

「嫁?ステラリアと絵里香以外にも欲しいのか?」


「随分と前にお話ししたと思うのですが、僕の前世での話です。恋人の舞依が病気で死んで、僕は自殺をしました。どうやら舞依もこの世界に転生しているらしいのです」

「何?それは本当か?」

「えぇ、何度か彼女が転生した姿が頭に浮かんで見えたのです。それに絵里香の予知夢にも出て来ていましたので」

「では、もう会えることは分かっているということなのか。それでどこに居るのだ?」


「それが分からないのです。だから探しに行くのです」

「あぁ、そういうことか」

「ひとりで行くのか?」

「いえ、ステラリアと絵里香も連れて行きます」

「はっきりと彼女の顔が分かるのは絵里香だけなのです」

「そうか。やはり絵里香は重要な存在だったのだな」


「えぇ、それで成人までには見つかると思うのですが、それまでいつ見つかるか分からないのです。それで、春月しゅんげつ姉さまと水月すいげつ姉さまが宮司として派遣される日が決まりましたら、ネモフィラのお母さまへ連絡して欲しいのです」

「ネモフィラからは月夜見に連絡できるのか?」

「はい。僕、ステラリア、絵里香とお母さまは外国に居ても念話で話せるのです」


「え?四人ともか?外国に居ても念話ができる?どうしてなのだ?」

「念話は元々、離れていても会話ができる能力だったのです。そして、今では四人ともその能力があるのですよ」

「ん?月夜見と絵里香は分るが・・・ステラリアとアルメリアは何故、念話ができるのだ?」

「お母さまは転生者だったことが分かったのです。そしてステラリアは僕と性交したら能力を授かった様なのです」


「そんなことがあるのか!聞いたことがないぞ?それとも月夜見にその様な特別な力があるということか!」

「僕にも何が真実なのか全く分からないのですよ。でも今、現実にその様になっているのです」


「アルメリアの前世は何者だったのだ?」

「どうも私の前の世界の古い神さまだった様です。そこでは僕の何代も前の時代の妻だったのです」

「月夜見とアルメリアは夫婦だったのか・・・それで、アルメリアは月夜見を選ぶと・・・」

「とても不思議なお話なのですが・・・」


「え?それでは月夜見さまと性交すれば能力を授かれるのですか?」

「オリヴィア母さま。それも本当なのかどうか分からないのです。元々、ステラリアが持っていた能力を僕が発現させただけなのかも知れません。絵里香も僕とキスをしてから変わったと言っていますので」

「では、誰でも能力を授かる訳ではないのですね。残念です・・・」


「では、月夜見の家族は皆、大変な力を持った能力者ばかりということか」

「まぁ、偶然なのか運命なのかは分かりませんが、そうなっていますね」

「では、マイという女性も能力者である可能性が高いのだな?」

「そうかも知れませんね」

「月夜見には本当に驚かされるな・・・」

「お騒がせするばかりで申し訳ございません」


「なに、良いのだ。天照家の人間なのだからな・・・そんな者が出ても何もおかしくはないのだ」

「そうですわね。月夜見さまはお生まれになったことすら奇跡なのですから。全てが特別なのですわ」

「そう言って頂けますと気が休まります」


「では、そういうことで二週間後には旅立ちます」

「うん。気を付けて行って来るのだよ。早くマイを見つけられると良いな」

「えぇ、ありがとうございます。では行って来ます!」


「シュンッ!」




 出発の前の晩。お母さんとベッドで話していた。

「月夜見。今夜で最後なのですね・・・」

「お母さま。別にこれが最後のお別れではないのですよ。瞬間移動すればいつでも戻って来られるし、お母さまだって僕のところへ飛んで来られるのですからね」

「それはそうですけれど、こうして毎晩月夜見を抱いて眠れないと思うと・・・」


「だって結婚したら、どの道毎晩僕とは眠れませんよ!」

「えぇ、だからこれが最後だと言っているのです」

「分かりました。では今夜は存分に抱いて眠ってくださいな」

「え?しても良いのですか?」


「それは駄目です」

「いじわる・・・」

「キスだけなら良いですけど・・・」


「本当ですか!嬉しい!」

 お母さんは満足そうな顔をして僕に抱きついて来た。




 そして旅立ちの朝となった。衣装は結局、新しくあつらえたものだ。僕の衣装は騎士服とスーツの中間の様な服だ。動き易く、でも騎士服とは見えず、そして貴族以上の身分に見えるものとして、プルナス服飾工房のビアンカと相談しながら作ったのだ。


 色は白を基調に、ネモフィラブルーのえりや袖口、裾、前の合わせ部分の縁取りとなっている。ステラリアも同じイメージの上着にタイト気味でスリットの入った膝上丈のスカート。白いタイツに白とブルーのハイヒールのブーツだ。


 絵里香はステラリアと同じデザインで配色が逆転している。ネモフィラブルーがベースで縁取りが白になっている。タイツとブーツは一緒だ。


 同じ衣装で生地を薄いものと厚いもので七着ずつ作った。女性用には同じデザインでポンチョも作った。そして冬用としてフード付きのマントも用意した。


「お母さま、ニナ、シエナ、フォルラン、柚月姉さま、月影姉さま。行って参ります」

「月夜見。気を付けて行くのですよ」

「はい。心配になったら念話で話し掛けてください」

「えぇ、分かったわ」


 三人で小型船に乗り込んだ。

「では、行って来ます!」

「シュンッ!」


 こうして七年のネモフィラ王国での生活を終え、嫁探しの旅は始まったのだった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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