#09 追い込まれる兄
ディノが出て行ってから一週間。
デュランの元には散々な出来事ばかりが続いた。
「クソッ! なんでこうなるんだよ!」
王都から届いた手紙を読みながら、怒鳴るデュラン。
手紙には、デュランに父親殺害の容疑がかかっていると書かれていた。
その罪を弟に着せようとしているとも。
国は自分たちの不利益になる可能性は許せない。
今回の事態を、デュランによる国家への叛逆行為だと国は捉えていた。
「国の連中は、弱小スキルを持ったディノに父は殺せないと思ってやがる! 俺がディノを殺して口封じし、それを逃亡中だと嘯いてるともな! これは俺がボロス家を乗っ取るための陰謀だと言われている! こいつらの目は節穴か! 実際にディノが父親を殺して逃げてるんだっての!」
そんな言葉をぶちまけるが、デュランの心情は落ち着かない。
ディノを連れ戻して弁明をはかりたいが、未だにディノの足取りは掴めない。
その間にも、王都からこう言った手紙は送られ続けている。
「役立たずか貴様らは!」
デュランは部下に当たった。
「どれもこれも、貴様らの能力が低いのが原因だ! とっとと国を黙らせる口実を考えろ! ディノを連れ戻せ! 貴様らが何もできないから、俺が頭を悩ませなくっちゃいけないんだろうが!」
部下を蹴り飛ばすデュラン。
部下たちはヘコヘコと頭を下げながら、どうにか乗り切ろうとする。
部下たちの不満はピークに達していた。
「随分と荒れているな、デュラン君」
そんな騒がしい場所に一人の人物が現れた。
ぜレンス卿である。
「……ゼレンス卿、なぜここへ?」
「いや何。君がそのつもりなら、私が忠告せねばと思ってきたのだよ」
と言ってゼレンス卿はデュランの前に立つ。
「君が国家への叛逆を考えているのなら、私は君を止めなくてはいけなくなる。戦争だよ。ゼレンスとボロスの」
「お、お待ちを! ゼレンス卿! 勘違いされているようですが、私は叛逆など企ててはいません!」
弁明するデュラン。
だがゼレンス卿にはそれを信じられない理由があった。
ライラの進言。
先日の事件は全てデュランが企てたことだと言った。
父の殺害もデュランの仕業だと教えた。
ボロス家の当主になるために。
全ては、ゼレンス家を崩壊させ、兵力を取り込み、国家への反逆に利用するためだったと。
「頭が悪い男だとは思っていたが、まさかここまでとは。本当に成功すると思っているのかね? 国家へ叛逆しても、返り討ちに会うのが関の山だぞ?」
卿は言う。
デュランの意見は聞き入れない。
「私には、その前に止めなければならない責任がある。ボロス家と最も縁近い貴族家として。君がこれ以上怪しい行動を見せれば、私は躊躇なくボロス家を滅ぼすよ」
それだけ言って、卿は去っていった。
デュランは何も言えなかった。
弁明のしようがないと悟った。
そこでデュランは次の手に出ることを選んだ。
名誉を挽回するためには、自分の身代わりになる存在が必要だ。
「今すぐディノを連れ戻せェェェ!」
そして叫んだ。
部下たちを無理矢理にでも従わせようとする。
「手始めにゼレンスのジジィをぶっ殺す! その罪も、親父殺しもディノに負わせ処刑する! そして俺の名誉を回復するんだ! 早くしろ!」
激昂するデュラン。
しかし、この時の選択が結果的にボロス家を滅ぼす最大の要因になる。
そのことを、この時のデュランはまだ知らない。