#07 ぜレンス家強襲作戦
準備は整った。
集まった兵隊は約百名。
ぜレンス領への移動は完了した。
統率はライラが取り仕切っている。
適当な魔王と比べて、厳格なライラならキチンとした指示ができる。
俺と魔王は実働部隊に加わることになった。
前線での指揮に徹する。
目標はミュレを懲らしめることだ。
今日もミュレが屋敷の中にいることは事前に確認している。
「作戦のおさらいをしましょう」
ライラが言う。
「まずは陽動部隊。あなたたちは屋敷の周辺で暴れて、警備の注意を引いてください」
聞いて、陽動部隊のメンバーが返事する。
「任してくださいヒャッハー!」
「血祭りに上げてやるぜ!」
「皆殺しだ!」
などと盛り上がりを見せる面々。
殺しはしないでね。
と、一応忠告はしておく。
個人的にはミュレに死んでもらっても構わないけど。
「次に突撃部隊。ディノ様の指示に従って、ミュレ様の部屋を襲撃してください」
聞いて、突撃部隊のメンバーも返事をする。
「やってやるぜヒャッハー!」
「地獄を見せてやる!」
「五臓六腑をぶちまけろ!」
なんかさっき聞いたような盛り上がりを見せる面々。
俺が取り仕切る部隊だ。
失敗は許されない。
ともかく実行の時間はきた。
俺の準備は整っている。
陽動部隊を先に暴れさせ、後からこっそり突撃部隊が屋敷内に突入する。
警備の隙をつくルートは事前に出来ている。
俺たちはルートに従って攻め入るのみ。
他のメンバーは財宝の保管されている金庫に突撃させ、俺が単独でミュレを強襲する。
ミュレに消えないトラウマを刻み込んでやる。
「時間だ。行くぞ、貴様ら」
俺の体を使って魔王が指揮を取る。
今回は最初から魔王モードだ。
その気になれば一瞬で屋敷ごと破壊できる、らしい。
でも今回はそこまでするつもりはない。
あくまでミュレを痛めつけるだけだ。
「おうよ!」
「やってやるぜ!」
「ヒャッハー!」
魔王の号令に兵士が湧き上がる。
というか、さっきからヒャッハー言いたいだけの奴いるよな?
まあ、戦力になればなんの問題もない。
ともかく行くぞ。
作戦の時だ。
「暴れろ、貴様ら」
陽動部隊が屋敷の門をぶち壊し、正面から突撃する。
敷地内で暴れ回るメンバー。
警備が騒ぎを聞きつけて止めに来た。
「今だ、突入するぞ」
騒ぎに乗じて屋敷内へ侵入する突撃メンバー。
ミュレの部屋に通じるルートはわかっている。
後は金庫に向かう舞台と別れ、俺が単独で向かうだけだ。
「せーの、こんばんわー!」
勢いよくミュレの部屋の扉を蹴り破る魔王。
「ギャーァ! いきなりなんなのよーォ!」
絶叫して飛び上がるミュレ。
部屋の中央に飛び込んだ魔王。
その姿を見てミュレが激昂する。
「アンタ、ディノじゃないの! なんで家を追い出された出来損ないが、私の家にいるのよーォ!? 汚らわしいったらありゃしない! 今すぐ出ていけーェ!」
それを聞いても魔王は動じない。
「フハハハハハハ! 貴様が小僧の元婚約者か! 小僧が世話になったな! お礼に、愛ある拳を食らわせてやろうぞ!」
というか魔王は人の話を聞いてない。
天上天下唯我独尊。
少々おふざけに振り切ってる気もするが、魔王を表すのにはこの言葉がちょうどいい。
「アンタ、本当にディノなの?」
ここでミュレが俺の正体に疑問を持った。
まあ、明らかに俺本来の性格とはかけ離れているからな。
少しでも俺と交流のある相手ならすぐに異変に気づくだろう。
「雰囲気がまるで違う! あの負け犬オーラ満々だったディノが、なんでこんなに自信に満ち溢れているの!?」
「不思議か? 何故なら我が魔王だからだ!」
ドストレートに本当のことを言う魔王。
「ふざけてるの!?」
まるで信じようとしないミュレ。
そりゃそうだ。
俺だって未だに信じきれていない。
「ならば証拠を見せようぞ! これが魔王の能力だ!」
と言って、魔王がミュレの体に触れる。
それが魔王の能力、留魂転生の発動条件だ。
魔王は触れた魂を支配することができる。
魂の情報を読み取ることもできるのだ。
「ふむふむ。ミュレ=フォン=ゼレンス。年齢十六歳。身長は一五七センチ、体重は五六キロと偽っているが……実際の身長は一六三と、体重は六◯を超えている。バストがあまり大きくないのがコンプレックスで、常にパッドで胸囲を誤魔化している。デュラン……ディノの兄だな、が胸をチラチラ見てくるのがウザい。吐き気がする。けれど金遣いがいいので付き合ってはいるが、そろそろ見限ろうかなと考えている」
魔王が長々と読み取った情報を述べる。
要約すると、ミュレがクズだってことだ。
わかりきっていたことだが、言葉に表すと恥ずかしいところがあるな。
実際にミュレはテンパって赤面している。
「な、な、な……なんでアンタが知ってんのよ! 私の恥ずかしい考えを!」
狼狽えるミュレ。
いい表情だ。
その姿が見たかった。
俺の目の前でたじろうその姿が。
肉体的にではなく、精神的なダメージをミュレに与える。
それが俺の事前に考えていたプランだった。
魔王の能力を使えば、ミュレの恥ずかしい記憶をいくらでも読み取ることができる。
後はそれをネタに脅すだけだ。
「他にも◯◯◯とか◯◯◯とか◯◯◯とか。おっほう、いくらでも恥ずかしい記憶が溢れてくるぞ!」
「辞めてディノ! それ以上は! 恥ずかしいから! 言葉に出されると、ものすっごい恥ずかしいから!」
なりふり構わず魔王を止めようとするミュレ。
ここまでくれば計画通りだ。
トドメの一撃を指すよう魔王に指示を出す。
「そこで、だ。貴様の恥ずかしい秘密を暴露されたくなければ、我の指示に従って欲しいのだが……どうかな?」
魔王がミュレに尋ねる。
「ええ! 何だってやってやるわよ! だからお願い! これ以上は!」
瞬間、魔王の能力がミュレを拘束する。
「なにこれ!」
「誓約と制約だ。貴様は誓った、我の言うことを聞くとな。それを強制するための術式だ。ちなみに約束を破ると、貴様の身に恐ろしいことが起きるぞ」
魔王が言うと、ミュレが青ざめた顔で問い返す。
「恐ろしいこと……って?」
魔王がキメ顔で返す。
「死か、全身の毛穴から醤油が溢れ出す呪いをかける」
「それだけは嫌!」
全力で拒絶するミュレ。
「ならば誓え!」
魔王が強制する内容を宣言する。
「今回の騒動、全ては貴様の差金だと報告しろ! ミーシャに行った非道の数々もな! さすれば、貴様の地位は底まで落ちることになるだろう! だが必ず成し遂げろよ?」
魔王が言うと、ミュレが激しく首を縦に振る。
無事やることは終わった。
胸を張ってミーシャたちと合流することができる。