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#06 魔王のカリスマ

「作戦があります」


 ライラが提案する。


「それはどんな?」


 俺が聞き返すと、ライラが一枚の紙を取り出した。


「ゼレンス邸の屋敷図です」


 ミーシャの実家の見取り図だった。

 今もミュレが平然とそこにいるという。


「警備の配置も記憶しています。後は兵隊さえ集まれば、簡単に攻め落とすことができるでしょう」

「なるほど。無理矢理いく感じね」


 納得した。

 物理的にミュレを痛めつけて、報復しようと言うわけだ。


 ただ、それでミーシャが納得するとは思えない。

 彼女は優しいから報復など望んではいない……かもしれない。


 しかし抑止力にはなる。

 ミュレを痛めつけてわからせれば、今後こういった嫌がらせはなくなるかもしれない。


「ミュレ様を殺しはしません。あくまで脅すだけです」


 ライラもそのつもりらしい。


 となればすることは決まった。

 兵隊を集める必要がある。


「しかし、こちらに兵隊を集める手段はありません。ゼレンス家の兵隊はほとんどがミュレ様側ですし」

「わかった、ライラ。それなら俺に任せてくれないか? 考えがある」


 まあやるのは魔王なんだが。


 アイスを食べながら魔王に話しかける。

 おい聞こえてるか魔王。


『なんだ』

『そろそろ動くぞ、用意はできてるか? さっき言ってたあれは本当だろうな?』

『本当だ。いい加減我のことを信用しろ、小僧』


 それは難しい相談だ。

 

 いまだに魔王の本心がわからない。

 俺の寝首をかこうと狙ってるのかもしれない。


 信用しすぎるのは危ない。


『そんなことしないよ』


 可愛く言ってくる魔王。

 それでもダメなものはダメだ。


「移動するぞみんな」


 俺が指揮を取る。


 これから俺は少し危険な場所に向かおうとしている。

 イリナとミーシャはここに置いていった方がいいのかもしれない。


 けれど、また追手がきたら守れるのは俺だけだ。

 二人とも俺の近くにいた方が安全だ。


 ライラはどっみち来てもらわなければ困る。

 マネージメントをしてもらいたい。


 歩いて数分。

 俺たちは怪しげな酒場の中にいた。


 そこら中にガラの悪い連中がわんさかたむろしている。

 ここが魔王に探させた、街で一番の悪党が集まる場所だ。


『我の能力は魂を使って索敵することもできる。魂の良し悪しも見分けがつく。ここにいる連中なら、金さえ払えばどんな悪事にも加担するだろう』


 兵隊として十分な条件だ。


 戦力は申し分ない。

 こちらの素性さえ明かさなければ、犯行がバレたとしても連中が独断でやったことにできる。


 これほど便利な存在はいない。


「ライラ、報酬はいくら用意できる?」


 後は金だけだ。

 ライラがいくら金を用意できるかで、兵隊の量が変わる。


「それがですね、ディノ……」


 ミーシャが申し訳なさそうな顔で進言する。


「私たち、ほとんど残金がないんです。日々の生活だけで限界かと」

「マジか」


 困ったことになったぞ。


 連中は金がなければ働かない。

 兵隊が手に入らなければ、作戦を決行することもできない。


『周りくどいことをしておるな』


 魔王が話しかけてくる。


 少し黙っていてくれ。

 今は次の策を考えなくてはならない。


『報酬など用意しなくとも、兵を動かすことなぞ簡単だぞ?』


 魔王が思いがけないことを言ってくる。


『それは本当か?』

『我を誰だと思っている? 魔王だぞ? かつては何千何万もの配下を従え、地上に恐怖と絶望をばら撒いた魔王だぞ我は?』


 だから、お前からはこれっぽっちもそんな感じがしないんだって。


 しかし、それが事実なら心強い。

 金を使わない部下の従え方とやら、是非教えてもらいたい。


『よかろう。とくと見せてやる。魔王のカリスマというものをな』

 

 そう言って魔王と俺の魂がチェンジした。


 瞬時に酒場の中央に移動する魔王。

 そして、一人の大男に向かって魔王が言う。


「おい、この酒場で一番腕が立つのは貴様だな?」

「あん? ガキが、よくわかったじゃねえか」


 大男は迫力満点の顔を俺の顔面に近づけながら凄む。


 かなりの威圧感を感じる。

 間違いなくこの男は強い。


「そうか、では」


 そう言って魔王は、大男の胸ぐらを掴み軽々と投げ飛ばした。


 ドシャ!


 地面に叩きつけられ、気絶する大男。

 酒場中の視線が一気に俺の体に集まる。


「すげえ、何者だあのガキ」

「あの大男を一発で倒しただと?」

「俺らじゃ束になっても敵わないって言うのに」


 驚愕の群衆う。

 余程この大男は有名だったらしい。


「聞け! 貴様ら!」


 魔王が声を張り上げた。


 耳を傾ける群衆。

 それを確認すると、魔王が続けた。


「貴様らに仕事を持ってきてやった! 腕に自信がる者は手を上げろ! 


 湧き上がる群衆。


「俺はやるぜ!」

「私もやってやるよ!」

「アンタと一緒なら、どんな仕事だってこなせる気がするぜ!」


 何だこの場の盛り上がり方は?

 異常なまでの熱気に包まれている。


「安心せい、褒美はたっぷりと用意してあるぞ!」

 

 報酬があると宣言する魔王。

 いや、だから金はないんだって。


 しかし群衆の盛り上がりはさらに高まった。


『どうだ、我のパフォーマンスは』


 魔王が俺に語りかける。


『大事なのは場を盛り上げること。まあ、簡単に言うと誰が見ても凄いと思うようなことをして注意を引け。今回はこの場で最強の大男を倒したことだな。最も魂の強い人間を選ばせてもらった』


 魔王は簡単に言うが、そんなことをできる人間は限られてくると思う。


『そしてこちらの要求を伝える。場の空気に飲まれた連中は、例え初対面の我の提案でもあっさり受け入れるといった寸法だ』


 なるほど、納得した。

 

 少々強引ではあるが、これで兵隊の心配はいらない。

 だが報酬の問題が残っている。

 

「あれは、本当にディノ様なのですか?」


 驚きを隠せないライラ。


 無理もない。

 ライラは俺の気弱だった部分しかみていないからな。


「ライラとやら、ちといいか?」


 魔王がライラに話しかける。


「少しは屋敷に財宝が貯蔵されているのだろう?」

「はい、あります……」

「屋敷を攻め落とすんだ、ついでにそれを盗ませてやれ。報酬はそれでどうにかすればいい」


 平然ととんでもないことを言う魔王。


 いや、アリなのか? 

 俺たちは屋敷を攻め落とすんだ。


 それぐらいやってもいいのでは?


『見たか小僧、我にかかればこのくらいどうってことないのだ』


 偉ぶる魔王。


『少しは見直したか?』

『ああ、見直した。凄いんだな、お前』

『なら言わなくても、報酬はわかっているよな?』

『はいはい、アイスね……食い過ぎで腹を下さなければいいが』


 兵隊を取りまとめた俺たち。

  

 これで準備は整った。

 後は作戦を決行するだけだ。

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