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#05 元婚約者の妹と格の違い

『もういい! 貴様がそのつもりなら、我がどうにかする!』


 突然、魔王がそんなことを言った。


 どうにかする?

 どうにかアイスを食べたいってことか?


『問題は要するに金だな。貴様らの手持ちが少ないなら、我が金を稼げばいいのだ!』


 魔王は断言する。


 しかしそんなに簡単に金が手に入るものではない。

 いったい魔王はどうするつもりだ?


『まあ見ておれ。我と貴様らとの発想力の違い、格の違いを見せてやる』


 そう言って魔王はしばし黙った。

 すると突然俺の体を乗っ取り、魔王が行動を開始する。


「ついてこい女!」

「え、ディノ!? いや、あなたはもしかして……」


 魔王がイリナの腕を掴んで無理矢理移動を開始する。


 人の限界を遥かに超えたスピードで走り抜ける魔王。

 イリナのことはお姫様抱っこで連れて行く。


「到着だ」


 辿り着いたのは人気のない路地裏。


 いや、正確には俺たち以外にも人がいた。

 ガラの悪い二人組と、明らかに二人組から暴行を受けている少女。


「フハハハ! わかりやすい下衆がいたものだ! アレなら少女を助けるという口実で、相手を痛ぶっても構わないだろ? ついでに身ぐるみを剥ぐのだ! 持ち金を奪って、アイスを手に入れるのだ!」


 魔王が俺の体で宣言する。


 ただのタチの悪い追い剥ぎじゃないか!

 いやでも、現場を見てしまった以上、少女を見捨てる訳にはいかない。


「なんだぁ、テメェ?」


 ガラの悪い男Aがメンチを切ってくる。


「俺たちをいたぶるだと? 舐めてんのか?」


 男Bもメンチを切ってくる。


「舐めるだと? 誰にモノを言っているのだ?」


 男AB以上にガラの悪いゲス顔を披露する魔王。


「我は魔王だ! 我以外、万物万象等しく我以下為り! この世に我が見上げるモノはない! 全ては我以下の存在なのだ!」


 言い切ると、魔王が凄まじいスピードで男ABを撃破した。


 殺しはしていない。

 みぞおちへの一撃。


 男ABは完全に意識を失いぶっ倒れた。


「財布は、っと。尻ポケットの中か。ふむふむ、そこそこの収穫だな」


 男たちの持ち金を強奪する魔王。


 まあ、これくらいならよしとするか。

 それより男たちに絡まれていた少女の安否が心配だ。


『いい加減代われ、魔王。ちゃんとその金でアイスを買ってやるから』

『約束したな? 絶対だぞ? 嘘ついたら心臓を握りうぶすからな?』


 そんなことしたら確実に死ぬ。


 俺も、魔王も。

 だからちゃんとアイスは買ってやると心の中で誓った。


「そんなことよりも、だ」


 俺は少女の元へ近づいた。

 

 ひどい話だ。

 男が寄ってたかって、一人の少女を痛めつけるとは。


「大丈夫ですか?」


 俺が少女に手を差し伸べる。


 彼女はその手を取り、立ち上がる。

 そして彼女が礼を言う。


「危ないところを助けていただき、ありがとうございました」


 微笑む少女。


 先ほどまで顔はローブで隠れていたので見えなかった。

 そして今、彼女の顔を見て驚愕する。


「君は……」


 俺は驚きの表情でつぶやく。


 青髪で容姿の整った美少女。

 俺は彼女のことを知っていた。


 彼女の名前はミーシャ。

 俺の元婚約者だったミュレの妹だ。


「ディノ? もしかして貴方、ディノですか?」


 彼女も俺のことに気づいたらしい。


 嬉しそうに俺に抱きつくミーシャ。

 俺と彼女は昔から仲が良かった。


 義理の兄妹になるはずだった関係だ。

 俺たちは実の兄弟以上によく遊んだ。


 お互いの兄姉の性格が最悪だったからだ。

 二人はまるで自分の弟妹のことなんか構いもしなかった。


 しかし、そんな彼女が何故こんな場所に?


「ここから先は私が説明いたしましょう」


 突然聞こえてくる第三者の声。


 ギョッとした。

 しかしすぐに声の主が現れ、納得した。


「お久しぶりですディノ様」


 長身でスラっとした体型の美人が頭を下げる。

 彼女はミーシャの専属メイド、ライラだ。


「ミーシャ、ライラ。二人は何故こんなところに?」

「ディノ様、先程のチンピラ二人はご覧になりましたよね?」

「ああ。もしかして、ミーシャが襲われていたのにも関係が?」

「ええ。単刀直入に言いますと、ミーシャ様の命が狙われているのです」


 それを聞いて俺は驚愕する。

 何故そんな物騒なことに?


 ミーシャは優しい子だ。

 誰かから恨みを買ったとも思えない。

 

「ミュレ様の嫌がらせです」


 ライラの言葉を聞いて納得した。


 あの女か。

 確かにあの女なら、気分で自分の身内を始末するとかやりかねない。


 本当に捩れ曲がった性格の持ち主だ。

 だが不思議な感覚だ。


 ミュレが俺自身をバカにしたときはそれほど腹が立たなかったのに、ミーシャに危害を加えているのを知るとやけに腹が立つ。


 ともかくミュレを野放しにすることはできない。


「ミーシャ、俺に協力できることはないか?」


 俺はミーシャの顔を真っ直ぐ見ながら聞く。


「お前のためなら俺は何だってやる。お前を守ってやる。今の俺にはその力がある」

「本当にいいんですか?」

「ああ、本当だ」


 俺が言うと、ミーシャが満面の笑みを浮かべる。


「ありがとう、ディノ。私、ずっと怖かったの。見知らぬ人に命は狙われるし。誰も助けてはくれないし」

「何言ってんだ。今までライラが守ってくれてたんだろ?」


 そう言って俺がライラの方を見ると、ライラが目を逸らしながら言う。


「私、戦闘は専門外なので。ミーシャ様が襲われていた時は、隠れてやり過ごしてました」


 コイツ。

 まるで役に立たない。


 仕方ない。

 ここからは俺が指揮を取るしかない。


 まずやるべきこと。

 それはアイスを食べることだ。


『やったね』


 存分に味わってくれ魔王。

 お前には、今回かなり役立ってもらうことになるからな。

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