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#04 ディノの幸せな日々、そして兄の後悔

 地下室から脱出し、実家の領地から離れた俺とイリナ。


 俺たちは身元を隠しながら、徒歩や馬車を利用し領地から遠く離れた街へ来た。


 実家の連中は俺が父を殺めたことで激怒しているだろう。

 当然、俺を始末するための追手を差し向ける。

 

 だがここまで離れてしまえば、実家が俺たちの居場所を特定するのは困難だ。

 思う存分、羽を伸ばして生活を送ることができる。


 今は街のカフェでゆっくりお茶をしているところだ。

 恥ずかしいことに、金はイリナが持ってきた僅かな分しかない。


 早いうちに俺が稼ぎぶちを見つけなければならない。


「しかし、本当なのですか?」


 イリナが不思議そうな顔で俺を見つめる。


「ディノ様の体に、その……魔王の魂が憑依したというのは?」

「本当だ。信じられないかもしれないが、あの時の俺の変化はそれが原因なんだ」


 地下室での出来事を思い返す。


 今でもにわかには信じられない出来事だ。

 魔王は実在し、その魂が俺の体の中にいる。


『我も正直実感ないんだけどね。初めての経験だぞ、他人の体に憑依するなど』


 まあ、ちょくちょくこうやって魔王が話しかけてくるので、俺は嫌でも魔王がここにいることを実感しなくてはいけない。


『そんなことより。ディノ、先程貴様が食べていたあれ……なんて言ったかな? ともかくアレをもう一度食べよ』

『アイスクリームのことか?』

『そそ、アイスだアイス。我と貴様は味覚も共有している。あれは美味だ、もう一度食べたいぞ』


 ワガママを言う魔王。


 言動だけを聞いてると、とてもコイツが魔王だとは思えない。

 年下の子供と話してる気分だ。


『すまないが、持ち金も少ない。あまり贅沢は言わないでもらおうか』

『む、ディノのけちんぼ! 守銭奴!』


 魔王がプンスカと怒る。


 うーん、うるさい。

 どうにか魔王の声が聞こえないように設定はできないのだろうか?


「ともかく、私はまたディノ様に助けられました」


 そんなことを考えていたら、イリナが話を進める。


「なんとお礼を言えばいいか……」

「イリナ」


 彼女は笑いながらも、真剣な顔で喋っている。


 とてもじゃないが指摘できない。

 これは俺の功績じゃなくて、ほとんど魔王の功績だということを。


『感謝してるんだし、我にもう一個アイスを食べさせてもバチは当たらんと思うぞ?』


 それでいいのか魔王。

 アイス一個で黙っててくれるのか?


「イリナ。俺に感謝してくれているなら、一つ頼みたいことがある」


 魔王の願望はガン無視で俺が話を続ける。

 

 俺は前からどうしてもイリナにしてほしいことがあった。

 けれど実家にいる間は、貴族と使用人という立場なので無理な願いだった。


 けど今は違う。

 今ならできることだ。


「敬語を取って話してくれないか? これから俺たちは同等の付き合いをしていくんだから」

「敬語を、ですか?」

「特に様付けは辞めてくれ。俺のことは、ディノって呼んでくれていい」

「わかりました……あ、わかった……よ、ディノ」


 少しぎこちないが、彼女は敬語を取っ払って喋ってくれた。


『我的には様付けで呼んでもらった方がいいなー。だって我ってば魔王だし』

『お前は黙ってろ!』 


 今いいところなんだから!

 イリナが俺のことを初めて呼び捨てで呼んでくれた!


 仲が縮まった証拠なんだ!


「ありがとう、イリナ。これで、本当の意味で俺とお前は友達だ」

「ディノ……」


 友達の間にはどんな壁も必要ない。


 フラットな関係。

 それが友達だ。


 俺はずっと友達が欲しかった。

 使用人でも、意地の悪い家族でもない。

 

 それが今、初めて叶ったんだ。


『で、アイスは?』

『お前は黙ってろって言っただろうが!』

『なんで貴様はさっきから、我に対してそんなに偉そうなんだ! 普通逆だよね? 我が貴様らのこと助けたんだよね? もう少し感謝してくれてもいいんじゃないかな!』


 そういえばそうだ。

 すっかり忘れていたが、一つ疑問に思っていたことがあった。


『何でお前は俺に力を貸してくれたんだ?』


 魔王が何の対価もなしに、俺に協力する理由が分からない。

 

 俺的には、代わりに厳しい条件を課されると思っていた。

 例えば、俺の体は一生魔王の物になるとか。


『別に、気分だよ気分』


 魔王はしれっと解答する。


『我は我のやりたいことをやるだけだ』


 それでいいのか魔王。

 こんな威厳も何も感じない男が、本当に古代で大暴れした魔王なのか?


 まあ、実力を見る限り強いのは本当だ。

 彼に助けられたのも事実だ。


『まあ、我の宿主が貴様であることは事実だからな。協力はしてやる。ありがたく思え』

『感謝はしている。お前のおかげで、俺もイリナも生き残れたんだからな』

『なら感謝の印として、やはりアイスを……』

『それはダメだ』

『何でそこだけ頑な!?』


 これからの生活。

 イリナとの生活。


 ちゃっかり混ざった魔王との生活……。

 いろんな不安と期待が頭の中でごっちゃになる。


 けれどこれだけは確信していた。

 これからの生活は、今までと比べて明らかに楽しい生活になるだろう。

 

 俺にはそれが楽しみで仕方ない。


 

 *



 数日前。

 ボロス家の地下室にて。


「なんだこれは……いったい、何があった」


 ディノの兄、デュランが地下室の惨状を目の当たりにしていた。


 惨殺された兵士。

 そして首の無くなった父の遺体。


 デュランはここにディノがいたことを知らされていた。

 しかしディノの死体は見当たらない。


「穴に落とされたか……いや、だとしたら誰が父上を?」


 デュランはディノの犯行と断定した。

 そして歓喜した。


「素晴らしい! 素晴らしいぞディノ! どうやったかは知らんが、この力ならお前は俺の役に立てる!」


 ディノが父とその精鋭の兵士を殺害するほどの実力を持っているなら、確実に役に立つ。


「惜しいことをしたな……ディノを追放するんじゃなかった。だが、出て行ったのなら連れ戻せばいいだけだ」


 そしてデュランは部下たちに命令を下す。


「ディノを探し出せ! そして連れ戻せ! あのクソ親父は死んだ! 今日から俺がボロス家の当主となる!」


 こうして、デュランの送り込んだ追手とディノとの戦闘が始まることになる。

 しかし、それはまだしばらく先の話である。

 読了お疲れ様です!


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