#01 外れギフト『憑依』と貴族家からの追放
ギフトというものがある。
十五歳になった人間に伝えられる才能。
どんなギフトを持っているかで人生が大きく変わる。
強いギフトを持っていれば地位も名誉も約束される。
逆に弱いギフトを持っていれば、どうやってもそれは手に入らない。
貴族は特にギフトを重要視した。
どんなギフトを所有するかどうかで、家の強弱が左右される。
だから貴族に生まれた人間は、どうしても強いギフトを身につける必要があった。
そして、家族からもそれを強要される。
ボロスという貴族家がある。
俺──ディノ=エル=ボロスの実家だ。
この家は異常なまでにギフトに執着していた。
強いギフトを持たなければ人間ではない。
例え血の繋がった家族でさえも、弱いギフトを持っていればゴミ同然に扱う。
俺の実家は、そんなクソッタレな取り決めを持った一族だった。
そんな家に生まれた俺は、今日で十五歳を迎える。
つまりギフトが判明する日。
俺は不安と期待を胸に抱きながら、その時を待った。
専用の器具に俺の血液を垂らすことでギフトは判明する。
そして『憑依』というのが俺のギフトだということが判明した。
『憑依』とは死者の魂を自身の体に憑依させる能力である。
死者が生前持っていた技能を扱うことができる。
強いか弱いかでいえば、ぶっちゃけ弱い部類のギフトである。
一般では外れギフト扱いされているギフトだ。
当然、家族は弱いギフトを授かったことに激怒した。
面汚し。無能。役立たず。
そんな罵倒を親兄弟から浴びせられた。
特に酷かったのは、俺の兄──デュラン。
「お前は本当に何の役にも立たないんだな!」
兄は怒鳴りながら、俺の顔面を殴り飛ばした。
それを見ても他の家族は止めようともしない。
兄は天才だった。
強いギフトを持っている。
家族も出来の良い兄を寵愛した。
当然のように、兄はボロス家の次期当主として選ばれた。
それと比べて俺は落ちこぼれもいいとこだった。
はっきり言って俺に魔術の才能はない。
俺は家に必要ない存在だった。
それでも、少しは強いギフトを持っていれば役に立つだろうと思われていた。
俺もギフトさえ強ければ家族の役に立てるだろうと考えていた。
けれど違った。
俺が持っていたのは『憑依』などという外れスキルだけだった。
「家族に申し訳ないと思わないのか! お前はボロス家の恥だ! お前が生きていたって、家族には何の得もない! お前は何のために生まれてきたんだ!」
地面に転がった俺を何度も踏みつけながら、兄は続ける。
そんなこと言ったってしょうがないじゃないか。
俺にはどうすることもできない。
俺だって少しは役に立とうとしたさ。
けれど、俺は何をやったって家の役には立てなかった。
「もういい。デュラン、そのくらいで辞めておけ」
父が兄を静止した。
兄が俺への暴力を止める。
流石の兄も父の言うことは聞くしかない。
「殺しはするなよ。外れギフト持ちの無能とはいえ、それは家族だ。家族を殺めたと知られれば、他の人々からどんな目で見られるかわからない」
いけしゃあしゃあと、そんなことをのたまう父。
父が兄を止めたのは、決して俺を助けるためじゃない。
周りからの評価を気にしてのことだった。
家族なんて、周りからの評価をよくするための道具でしかない。
父は生粋の貴族主義者だ。
「いいか。どんな理由であれ、家族に迷惑をかけるんじゃない」
「クソ親父が。よくもまあ、ぬけぬけとそんなことを言えるな」
兄が父を睨みつける。
「もしディノが俺より良いギフトを持っていたら、平然と次期当主の座をディノに渡したくせによ」
「当然だ。強いギフトを持つ人間が当主になれば、家に箔が付く。子供なぞ、その為の道具に過ぎないと散々教えてきただろう? デュラン?」
「そうか、じゃあ次期ボロス家は安泰だな。俺が当主になった暁には、親父、真っ先にアンタの首を刎ねてやるよ」
俺の目の前で兄と父が醜い争いをする。
それを見ていることしかできない俺に、一人の女性が近づいてきた。
ミュレ=フォン=ゼレンス。
俺の婚約者だった女性だ。
彼女は俺のことを微塵も心配していない
何故なら彼女は、性根の腐った最低の女だからだ。
「無様ねディノ。いつもそうですが、今日は一段と無様ですわ」
まず口が悪い。
いや、俺の家族も大概口が悪いのだが……。
特に彼女は最悪だ。
人がその時一番言われたくない言葉を平然と使ってくる。
「万が一にも強いギフトを授かれば、待遇が改善されると思っていたのでしょう。けど、それはありえない。何故なら貴方は生まれつきの負け犬だったからです」
彼女は愉快そうにそんな台詞を吐く。
これでも俺と彼女はそこそこ長い付き合いだ。
家同士で取り決められた婚約。
けれど俺は彼女のことが好きだった。
彼女にも好かれようと必死にいろんなことをやった。
でも、彼女は俺に振り向いてくれなかった。
それどころか……、
「何だよミュレ、まだそんなクズに構ってるのか? 必要ねえよ、放っておけ」
「あらそうですか。ではディノ、これでさようなら」
デュランとミュレが肩を抱き会いながら歩いて行った。
二人は付き合っている。
彼女は、俺の目の前で堂々と不倫していることを見せつけてくるのだ。
性格が最悪すぎる。
俺はあんな女のために今まで何をしてきたんだ。
いいや、彼女だけじゃない。
家族もそうだ。
俺を道具としか考えていない父親。
ゴミのように扱ってくる兄。
無関心な母親。
その他の兄弟。
俺はこんな連中の役に立とうと考えていたのか?
そんなことを考えていると、自然と涙が溢れる。
「ああ、それとディノ。お前に言っとくことがある」
怒りに震えて涙を流していた俺に、父が告げる。
「お前をこれ以上ボロス家に置いておくことはできない。追放だ。今日中に荷物をまとめておけ」
ついで感覚で追放を言い渡された。
父にとって俺はその程度の存在だったわけだ。
わかっていたことだが。
それでも異常に腹が立つ。
家族からの裏切りに。
そして、自分の非力さに。
「追放だって? そりゃあいい!」
兄とミュレが食いついてくる。
「家を追い出されてどうやって生きていくんだ? 何もできない無能が?」
「せいぜい、そこらへんで野垂れ死ぬのがセオリーでしょう。というか死んで。できるだけ早く」
言いたいことだけ言って二人は去っていった。
何一つ言い返すこともできない。
どこからも、そんな気力は湧いてこなかった。
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『次回 #02 悪魔崇拝と生贄』