努力家な姉と愚かなふりをしている妹の話
貴族ものってファンタジーだよね!!!!
私は天才だった
まだ乳飲み子の内から言葉を理解し、他の子よりずっと早く寝返りをうち、立つことができた。
「あなたが私の妹?始めまして、あなたのお姉ちゃんよ」
それが姉との初対面だった。私の小さな手に触れた小さな指にぬくもり感じた
私には年が近い姉がいた
姉は小さいのに努力家で、無関心な両親に愛されたくて必死に頑張っている
「なんでお前はこんなこともできんのか!98点だと!?満点をとらんか!」
「すみません、すみませんお父様!次はもっと励みます、どうかお許しください…!」
「お前はほんとに駄目な子ね、期待するだけ無駄だわ。常に完璧でなければお前はろくな価値がないのよ」
そんな姉に両親は無関心なばかりか、常に完璧を要求し少しでも期待に添えなければ酷く叱責し、最悪の場合鞭打つような最低な人達だった
「あなた、この子寝返りをうちましたよ!」
「おお!普通の赤ん坊よりずっと早い、この子は天才かもしれん!」
私は他の赤子より早く寝返りができたせいで、この子は天才かもしれない、と浮足立った両親に強い関心を向けられた
その時、自分の天才性が姉の立場を危うくさせてしまうと気づいてしまった
姉が幸せになるために愚妹を演じようと
自分がまだ乳飲み子にも関わらず、そう決意した
それから私は愚かなふりをし始めた
本当は立ち上がることも話すこともずっと早くできたのに、人目がある所では決して行わず平均的な赤子より遅めに発言させた
愚かなふりをし始めた自分に両親の関心が失われると思ったが、幸運にも私が絶世の美人に産まれたことと、赤子ながらも精一杯愛想を振りまいたことで両親の関心はより強くなった
「お前は本当に可愛いなあ、それに比べてあいつはなんと可愛げのないことか」
「ほんとにあれとは比べ物にならないわね」
姉も美しい容姿なのに、両親は姉の事を私と比べてこき下ろしてしまう
それでも私は愚かなふりをし続けた。勉強もマナーもダンスも禄にできないふりをし、両親の愛を欲しいままにするわがまま放題の困った妹になった
「え〜、あたしこんなのわかんな〜い。せんせえきびしい〜!パパもっといい人に変えてよ〜」
「お嬢様、これは貴族の基本な事です。きちんと学ばないとお嬢様が後悔することになりますよ」
「ええい、黙れお前はクビだ!もっとましな家庭教師を用意しろ!」
「そんな…!はあ、姉の方はもっとちゃんとしてたのに…」
姉の優秀さを引き立てる為に身近な子女子息に困った振る舞いをわざとやり、私の尻拭いのために姉が毅然とした対応をとることで姉に対する同情と尊敬を集めた
「なによこのブス!あたしは思ったことを言っただけよ!言われるようなことをするあなたが悪いんじゃないの!」
「なんて非常識な…!公爵令嬢だからとそんな振る舞いをしていいのですか!」
「妹が申し訳ありません伯爵令嬢。妹にはよく叱っておきます。後ほど伯爵家にお詫びをさせていただきますね」
「そ、そう…。ならいいですわよ許して差し上げます」
両親にわざとらしく甘えることで、両親の鬱憤の矛先を姉に向けさせないようにした
「全くお前はいつもいつも生意気だな…!」
「っ…!」
「お父様〜〜!!あっちでお母様とお茶しましょ〜〜〜!!ついさっき豪華なドレスと宝石たくさん買ったばかりなの!見てみて〜!!」
「おお、そうかそうか。それは楽しみだ!…おい、次はないと思えよ!」
「……畏まりました、お父様。私はこれにて失礼させて頂きます」
授業の時間をギリギリまでサボり、その時間を使って手駒を増やすことにした
「ねえ貴方、私に雇われない?報酬は貴方の家族の医療費と生活費の合計より何倍もあるわ」
「……どうして俺みたいなスラム出身を雇う?」
「私、人を見る目があるの。貴方が誰よりも仕事ができて口が硬いのは見てればわかるわ」
姉によってくるクズ男を引き離す為に何度も何度も誘惑しては切り捨てた
「ねえねえお姉様、そのカッコイイ男の人はだあれ?」
「……この方は私の婚約者の侯爵令息様よ」
「始めまして妹さん、お姉さんの婚約者です」
「うわーーっ!カッコイイ!……ねえねえ一緒にお茶しない?お姉様抜きで」
「良いですよ」
「………」
「ねえ侯爵令息様、私知ってるの。貴方が結婚詐欺をして被害者女性を人身売買してるのを」
「……知らないな、人違いじゃないの?」
「この証拠を見てもそう言えるの?」
「う、嘘だ…!これをどうやって知った!?」
「私に優秀な手駒がいるのよ、こんなことくらい容易いわ」
「これを知って君もタダで済むとは思うなよ!」
「ああ、さっきまでいたあなたの手勢かしら?弱すぎてつまらなかったわ」
「そ、そんな……」
「もう二度と私とお姉様に近づこうと思うなよクズが」
「侯爵令息様とはどうなったの?」
「侯爵令息様?なんか〜、急に遠い外国へ留学することになって〜、ついてきてほしいっていうから別れちゃったあ」
「はあ……貴女もうこれで3人目よ?いい加減にしてちょうだい」
「いいもーん!白馬の王子様みたいな人探してるだけだもん!」
「もう…(この子には早目にお嫁に行ってほしいけど、この子に甘いお父様が頷かないわね…。どうしましょうか)」
何度も排したにも関わらず王太子というトップオブクズ男がお姉様に寄ってきた
お姉様はクズ男を引きつける体質なのだろうか
「始めまして、私の婚約者の妹さんだね?義兄としてよろしく。こんなに美人な義妹ができるなんて嬉しいよ」
「キャッ!カッコイイ〜〜!よろしくお願いしますう〜!お姉様のことならなんでも相談してくださいね、応援してます!」
「(嘘ばっかり…どうせ王太子も盗るつもりなんでしょ)」
王太子という身分だと簡単には排除できない。悩んでいると、お姉様が平民の男と恋に堕ちたことを知った
お姉様は男と同じ身分になり、苛烈な貴族社会と程遠い平穏な平民暮らしに憧れていることを知った
幸い平民の男はクズ男共と違い、誠実で思いやりの溢れた人だった
それを聞いた私は早速行動を起こした
王太子が廃嫡されるようにいつもより徹底的に証拠を集め、暴動が起きるように被害者達を集めた
王太子が自分にのめり込むよう、誘惑にさらに磨きをかけた
そしてお姉様が耐えかねていつ出奔してもおかしくないように、お姉様を支える人手と資金や支度等を用意した
しかし時間がかかってしまい、お姉様と王太子の結婚まで数日となってしまった
お姉様は我慢して王太子と結婚するつもりなのだ
だがそれでは困る、私は最終手段を用いることにした
「お姉様ったらいちいちうるさいの。うっとうしいから早くいなくなってほしいわあ。お姉様に王太子妃なんてつとまるわけないし」
今までお姉様の悪口なんて言ったことなかった私は、ドアの向こうにいるお姉様に聞こえる様に話した
お姉様が急いで立ち去る音がかすかに聞こえる
翌日、結婚式会場にお姉様がいないことに周囲は騒然としていた
お姉様が逃げ出した時に信用に足る手駒が手引きしたから私は知っている
お姉様の恋した平民の男と落ち合いしたことも聞いた
「花嫁がいなくなっては結婚式なんてできん…!そうだ、お前が姉の代わりに花嫁になるんだ。同じ公爵家の人間だから問題ないだろう」
くると予想してたがクソみたいな提案を聞かされた
従う訳ない
「お生憎ですが私も王太子と結婚する気はないですの。だってこんな非人道的なことをする人なんですから…!」
集めた証拠を一斉にばら撒いた
婦女暴行、奴隷売買、詐欺、暴行、搾取、殺人、等々王太子がやらかした犯罪のオンパレードだ
王太子ら関係者が顔を青褪める
周囲の人達は証拠を見て驚愕していた
「王太子、これは一体どういうことですかな?説明して下され」
「私の娘をこんな酷い目にあわせただなんて…!」
「わ、わわわ私は違う、誰かに嵌められたんだ……!」
「これだけの証拠が揃って何を言い逃れするのか」
それと同時に勢い良く扉が開いて多くの暴徒達が流れ込んできた
私が集めた被害者達とその遺族達だ
「金返せ!俺はお前を信じて投資してやったんだぞ!?」
「うちの娘を返してちょうだい!!」
「商品を駄目にした弁償代払ってもらおうか!!」
そして結婚式は有耶無耶になり、王太子は廃嫡どころか犯罪奴隷落ちになった
死刑の判決がされそうだったが、被害者達が「楽に死なせてやる訳にはいかない」との訴えにより、子孫が残せないように生殖器を切り落としてから、長く苦しめる為に奴隷になった
ざまあみろ
姉は王太子の業を知ったので逃げ出したのだろうと失踪扱いにした
いつでもお姉様が公爵家に戻れるように
王宮ではまだ幼い第二王子を王太子にしようと動いている
私は女の身でありながら一人で公爵家を切り盛りしてる
両親は強引に隠居させた
婚約者を打診されたけどいらないと突っぱねた
今まで甘やかされていただけの愚かな令嬢に何ができると侮る人達がいたけど、化けの皮を剥した私に何も言えなくなっていた
公爵家を切り盛りしてから数年、私の天才性を思う存分使った
領内は私が開発した農機具や医療施設、教育機関の設置や福祉の導入より国内のどの地よりも発展させていた
発展した公爵領を風の噂で聞いたのか、平民の男と設けた子供を抱いてお姉様が公爵家に訪れてきた
お姉様が幸せな家庭を築けていることは知っている
「おかえりなさいお姉様」
狐につままれたような顔をしたお姉様に、執務室の私は優美に笑いかけた
妹はお姉ちゃん大大だ〜〜い好き!!!自分の幸せはお姉ちゃんの幸せ大前提!!