美少女を食べる際に気をつけたいマナー その3
鉄兜が声を張り上げる。
「よーし、おめえら! このマナーの先生の言うとおりにしろ。全員着てるもん脱いで、この人間のメスも裸に剥くぞ!」
「鉄兜の旦那がそう言うなら……」
傷顔も含めて、オーガ達は鉄兜の言葉に従う。従わないのはテーブル上で身構え続ける人間の少女だけだ。
「くっ……そんな辱めを受けるくらいなら……!」
そんな少女の様を見て、少年は首を振る。
「やれやれ……オーガ達にできるマナーが、あなたにはできないのですか? これだから田舎騎士は……」
「わ、私は腐っても神に仕える聖騎士だ! モラティス神の名にかけて、怪物共の言いなりになることなど許されない……!」
「このままではオーガ達に無理矢理服をはぎ取られますよ。その際、彼等があなたの身体や服に特別な配慮をするとは思えませんがね。端的に言って、怪我をするか服を破かれるかするでしょう」
「わ、私は肉体の死や負傷を怖れない……! 心の敗北、信仰を失うことの方がずっと悪いことだからだ」
「モラティス神の教えに、怪物に従ってはならないというものがあるとは聞いたことがあります。ならばなおのこと、あなたは自ら身につけている物を脱がねばならない」
「なんでだ!?」
「オーガ達に力で無理矢理従わされるよりは、食人のマナーに則って自ら服を脱ぐ方が、怪物に従ってはならぬというモラティス神の教えに適うからです」
「……そうか? 結局、怪物達の望み通り裸になるのは同じじゃないか?」
「だが、裸になるのにあなたの意志が介在している。オーガ達に従ったのではなく、あなたの意志で裸になるのです。それこそが気高き精神。あなたは望んで裸になるのです。衆人環視の前で、嬉々として、全裸に」
「それじゃ私は変態じゃないか……!」
「それがモラティス神の望みとあれば、あなたは喜んで変態になるべきです。それが神に仕えるマナーというもの」
「勝手なこと言うな!」
などと人間達がこそこそ話し合っている内に、オーガ達は準備万端。かぽーんかぽーんと風呂上がりに脇を鳴らすかのごとく、むくつけきむきだしの腕を振る。
「おう、こっちは皆、おめえのマナーに従ったぜ。後は、その娘だけだ。裸に剥くから、そこどけ」
鉄兜を脱いだ鉄兜が歪んだ笑みを浮かべる。
「……く……っ!」
「脱ぎなさい。失礼ですよ」
「き、貴様……っ。み、見るなよ!?」
少女は顔を赤く染め、ぶるぶる震えながら、自ら服を脱いでいく。
「ひゃっはー! このメス、怖くて震えてやがるぜぇ!」
オーガ達がやんやと喝采を上げる。が、少女はそれには構わず、殺意の篭もった眼差しで少年を睨むのみだ。
「……これ、私に服を脱がせたのは、貴様が見たいだけではないのか?」
「その指摘には当たりません」
至極真面目な顔で、少年は答えた。
「さあて! これでようやく食えるな!」
素肌を晒した少女を前にして、鉄兜の声は弾む。周囲に知らしめるような大声だ。
「まずは、このメスの腕を引きちぎって味見と行くかぁ!」
「くっ……! 最早これまで……!」