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しあわせバトン

しあわせのぐるぐる

作者: 三稜 諒

 四月。

 桜が満開の川土手で、初々しくお弁当を囲む男女。……のうちの片割れ、浅井さくら。

 手元には微妙に焦げた卵焼き。

「ご、ごめんね。頑張ったんだけど……」

「ちゃんと美味いから気にすんなって」

 向かいに座る彼はそんなことすら嬉しそうにお弁当をほおばる。

 ──量も足りなかったかしら。

 実のところ、あたし料理苦手なのよねぇ。

 卵焼きも焦げてるし、ポテトサラダも味が薄い。コロッケは市販のものを揚げただけなのになんか油切れが悪い。

 失敗してないのはおにぎりとハムのチーズ巻きとハンバーグ。あとはタコさんウィンナーだけ。

 まぁ、それでも朝五時から頑張って作ってはみたのよ。これがあたしの全力だからしょうがない。友達とのお花見なら絶対、近くのデパ地下で買ってるわ。

 でもやっぱり、お花見が初デートなら手作りのお弁当が理想的じゃない?

 満開の桜の下でビニールシートに一緒に座ってあたしが作ったお弁当を食べる彼。

 そんな妄想にウキウキしちゃったんだもん。

 でも、青のビニールシートは嫌い。

 だから可愛い柄のものを用意してきた。そしたら、彼はアウトドア派だったようでちゃんとビニールシートは持ってきていたようだ。……青のを。

 でも、さくらに遠慮してくれて青のシートは出さずに今は可愛い柄のシートに二人で座っている。彼は若干居心地悪そうだけど。

 それもこれもうっかりさくらが「ブルーシートは景観壊すから嫌いなんだよ」と言ったせい。

 その後で気まずそうにブルーシートを指差す伊藤くんが可愛かった。

 ごめんね、空気もうちょっと読むのに長けてたらなぁ。

 『その天然ぽいところが可愛いんだよ』と言ってはくれたけど、毎回こんなことやらかしてたら絶対ケンカになっちゃう。


 今日はお弁当を食べたあとは特に考えてない。

 伊藤くんは何か考えて来てくれたのかなぁ?もうちょっとでお弁当食べ終わっちゃうよ。

 まさか、このまま解散なんてことはないよ、ね?

「さくらちゃん?」

 あ、ごめん。自分の世界でぐるぐるしてた。

 伊藤くんが話しかけてくれてたみたいだ。

「ご、ごめん。なに?」

「いや、この後なんだけど──どした?」

 だって同じこと考えてるんだもん。ちょっとにやけるくらい、許してよ。

「同じこと、考えてたから」

「そっか。うん、この後なんだけど……実はノープランでさ」

「えぇ?うーん。どうしよっか?実はあたしも考えてなくって……」

「じゃあとりあえず、もうちょっとまったりしようか?そうだな、寒さに我慢できなくなるまで」

 そんな、我慢大会じゃないんだから。と、笑いながらうなずいた。

 付き合い始めだもん。

 質問がいっぱいで話なんて尽きないよ。

 伊藤くんが好きなのはキャンプとかのアウトドアで普段のお休みは土日。

 お休みの日は走ったり、草野球したりサッカーしたりして過ごしてるんだって。運動かぁ、学校卒業してからは全然してないなぁ。

 あたしは大体は本読んで過ごしてるインドア派。だから、これからアウトドアの楽しみも教えてね?

 でも、運動苦手だけど大丈夫かな?

 今度テニスしようね、だって。大ホームランかましちゃったらごめんね!

 伊藤くん本は読まないの?

 読むの?やった!共通の趣味もあったね。

 あたしのおすすめの本、今度持って来るね。面白いって言ってくれるかな?

 でもあたしが読むの恋愛小説だな……。伊藤君なんの本読むんだろう?

 あ、推理小説?そっか、やっぱりジャンルが違うなぁ。

 推理小説なんてここ数年読んでないや。今度お奨めあったら教えてね。

「また、自分の世界に入ってる?」

 笑いながら聞いてくれた。

 いや、ちゃんと声にだして返事してるじゃない!……ちょっと、遅いだけで。

 違うのよ?特別鈍くさいわけじゃないのよ?

 あたまの中でちょっと質問と回答を反芻してるだけなのよぅ!

「ま、まだちょっと緊張してて……」

 そうそう。これが正解、かもしれない。だってまだ会うの二回目だよ?

 ちょっとペース遅いけど、早目に慣れるから許してね。





 今度二人で青じゃないシートを買いに行こうね。

 次はバーベキューかな?

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