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第四話

「こんなもんか。動き辛いとかあるか?」

「ううん、大丈夫。ありがとう。」


音也……ナオに言われて開いたストレージには、ギフトボックスと身だしなみポーチなるものが入っていた。

ポーチの中から櫛とゴムを取り出して、ナオが俺の髪を後ろで一つに編んでくれる。

きつく縛ると稽古中みたいでイヤだ、と言うまでもなく、肩のあたりはゆるくゆとりを持たせて編むナオはさすが、付き合いが長い。

ちなみに結ぶのではなくて三つ編みなのは、編んだ分短くなるから、だそうで。

現に髪は膝より少し下くらいまで縮んでいた。

編み上げて加減を聞いてくれたあと、何やら手を動かしたり空中でキーボードを打つ仕草をしていたナオは、ため息をつきながら俺に向き直る。


「一応、親父にメールはしてみたけど、まぁ今日は初日で忙しいだろうからしばらく返事はねぇと思う。悪いな。」

「ううん、ナオ何も悪くないし。俺こそなんか、ごめんね。」


ナオが言うには、髪の長さもカスタマイズはできるそうだけど、ここまで長いのは選択肢には入っていなかったはずだ、と。

そりゃあほかにもこれくらい長い人がいるなら、周りから見られてないだろうし。

二人でいるからか話しかけては来られないけど、さっきからちらちらと視線が肌をなでる。

VR世界での視線って、どうなってるんだろう。


「仕方ねぇし、後回しにするか。クオン、ギフト開けたか?」

「え、まだ。」


ポーチを出したときと同じようにギフトボックスを指でつつく。

軽い音を立てて現れる四角い箱。

ステータスポイントの時とは逆で、乳白色の箱にかけられた黒いリボンに、灰色のメッセージカードが挟まっていた。

取り上げてみて、見つめる。

表示される文字列。

ログ、というんだったっけ。


内容は、初期のステータスポイントで扱える武器の一覧をつけるから、そこから一つ選んだらそれをプレゼントするよ、というもの。

初期装備の武器編ってところかな。

下に続く一覧にあったのは、片手長剣、片手細剣、片手短剣、片手斧、片手槍、片手槌、鉤爪、杖、本…。

助けを求めてナオを見つめると、苦笑とともに可視化してくれ、と言われる。

可視化の方法を教わってリストを見せると、おお、多いなと呟いた。


「振ったのはstrとagi、あとintか?」

「えっすごい、なんでわかるの。」

「うーん、まず消去法。大剣とか両手系の重いのがないのはvitがないからだろうし、弓矢とか投擲はdexがないから。」

「うんうん。」

「杖とか本とかがあるならintは振ってるとして、残りはstr、agi、mnd、luk。」

「うん。」

「ステータスポイントはそう大量にはもらえないし、クオンの性格からしてまずlukには振らない。」

「うん。」

「そんで、のんびりしてるけど防御より攻撃だ。よってmndの優先度は低め。まぁ残りから見てstrに振るのは確実として、鉤爪はagi振ってないと出ないからな。」

「うわぁすごい。」

「とはいえintは攻撃じゃなくて召喚用だろうけど。」

「完璧だ。」


拍手にニヤリと笑って見せて、ナオはリストを俺に返した。

首をひねって尋ねる。


「ある程度知ってるやつがいいか? 全然知らないのがいいか?」

「うーん……ほとんど知ってるか、全然知らないのがいい。」

「……あぁ、お前居合の癖がついてて剣道ド下手糞だもんな。」

「うん。振りかぶって剣振るの苦手。」

「じゃあ突く系の細剣はなしだろ。槍も。魔法はどうだ?」

「攻撃にMP使って、そのうえでもふもふ出せる?」

「なしなー。それならstrに振ってんのもったいないし。」


そんな会話で残ったのは、片手長剣、片手短剣、鉤爪、片手斧。

ナオはagiに結構振ってて鉤爪を選んだっていうから、一緒だとつまんないので却下。

長い剣か短い剣か斧か……。

結局俺は片手長剣にすることにした。

自分の好きなように振ればいいんだから、振りかぶる系のスキルは使わないようにすればいいやということで。

それになんかやっぱり短いと、長いつもりで振って当たらなかったりしそうだし。





スタートラインの街には東西南北四つの門があって、そこからそれぞれのフィールドにつながっているらしい。

南は広い草原、東には明るい森と、西には泉。

その奥には小さいけど村もあるんだとか。

そして北。

暗い森があって、その先には高い山みたいな塔みたいな、黒くて大きなもの。


今更ながら復習すると、このFAOは今俺たちがいるところを一層として、この上に二層、その上に三層が積み重なっている、豪華なパンケーキみたいな構造をしている。

何層まであるかは発表されていない……というか今後のアップデートで随時追加されていくから、サービスが終わらない限りは層の数は定まらない。


そしてその、二層に上がるための階段になっているのが、北の森の向こうの黒いの、とのことで。

その中には強いモンスターがいて、それをやっつけながら黒いのの頂上に行くとボスがいて、そいつを倒したら二層へ行けるのだとか。

もちろん始めたばっかり、レベルも装備も初期状態の俺たちにはまだまだ早いから、まずは簡単なところから。


「とは言っても南の原っぱは人詰めかけてるだろうしなぁ。一つ飛ばして東行ってみるか。死にそうなら諦めて南行くってことで。」

「うん。」

「その剣装備しとけよ。」

「はーい。」


歩きながらメニューを開いて剣を装備。

……アイテム欄に何か増えてる。

えっと、初心者ポーション(緑)×10。(青)×10。

色から考えてたぶん、緑はHPを、青はMPを回復するアイテムなんだろうなぁ。

他のボタンはどこにつながっているんだろう。

手元のメニューを見ながら前を行くナオも見ながら町を東へと横切るように進む。

大きな門を守る門番みたいな人にちょっと頭を下げて、森へつながるなだらかな草原に足を踏み出す…はずが。


「わっ?」

「ん? どした?」


ピピッ、と音がした。

同時にログ領域に文字が流れる。


「えっと……武器スキルがセットされていません、フィールドに出ますか? ……って」

「あっ忘れてた悪い。」


一足先に町を出ていたナオが引き返してきて、メニューをのぞき込む。

さっき教わった通りに可視モードに変更する。

それをしないと自分以外の人のメニューはただの色のついた板に見えるそうで。

あれ、でもさっきナオがお父さんにメールしてるとき、メニューもキーボードも見えなかったような。

それも設定で変えられるのかな。


「クオン、スキルの説明いるか?」

「簡単にお願いします。」

「らじゃ。スキルはその名の通りこのゲームでなんかするためのもので、大きく分けて武器スキルと補助スキル、趣味スキルがある。」

「うん。」

「武器スキルは使う武器に対応した武器スキルをセットしてないと、ただ剣を振ってるだけ、ただ本を開いてるだけ、って状態になる。クオンで言うとソードスキルが使えないってことだな。」

「ソードスキル、は、システムに任せてできる必殺技みたいなもの、だっけ?」

「まぁそんな感じ。俺の鉤爪も剣じゃないけどソードスキルになる。斧とかも。弓矢とか銃の遠距離攻撃と、魔法スキルは別物になるけどな。」

「なるほど?」

「補助スキルは、有名どころで行くと索敵とか隠蔽とか、所持アイテム増やすとか、ソードスキル使った後また使えるまでの時間をクールタイムっていうんだけど、それを縮めるスキルとか、まぁ便利なスキルのこと。」

「うん。」

「で、趣味スキルはそのまま。って言ってもこれは戦闘職が勝手にそう呼んでるだけだから、鍛冶とか調合なんかの生産スキルも含まれてるし、料理とか裁縫とかの攻略にはそこまで関係しねぇのとか、潜水とか釣りとか色々だな。」

「いっぱいあるんだね。」

「あぁ、それで、だ。」


一度言葉を区切って、ナオは俺の前にメニューを戻した。

画面はスキルを設定するスキルスロットを映した状態。

そこには四角い模様が並んでいて、今は真っ白だ。

スキルを選択してセットしたら、中身の入った箱みたいになるんだと思う。

ただ、問題は。


「……スキル、たくさんあるんだよね?」

「あぁ、たくさんある。」

「武器スキルは取らないと戦えないんだよね。」

「そうだな。あ、クオンはサラマンダーだから、初級火魔法はスキル設定なし、杖とか本とかなしで使えるぞ。」

「……そうなんだ、そっか、えっと……」


だからといってもともと使う予定ではなかったわけだし、それは、あって損はないけど今のところそこまで嬉しくないというか。

武器スキルを、一つ。それから召喚魔法を、一つ、いれたとしたら。


「……補助スキル、一つしか入れらない……。」

「……まぁ後々レベル上がったら増えるとはいえ……最初のスキルスロット三つはちょっとしんどいよな。」

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