第三十六話
前回は突然休んでしまってすみませんでした。
今週は土曜日お仕事なので、時間が少し早いですが投稿させていただきます。
そして来週ですが、三連休に遠く家を空けるので、お休みの予感がしています。
ごめんなさい。
「ごちそうさまでした。」
「おそまつさまです。」
焼いた蟹と魚、蟹で出汁を取った、魚のスープ。
それを全員で食べた後。
ビックリすることに食べ終わった後の食器はそのまま消えてしまった。
慌てて戸棚を確認したら、食器は元の場所に戻ってる。
何でだろう……どういう理屈……?
……ゲームだからか。
「代金はどうすればいい?」
「代金?」
「料理の代金だ。いくらだ?」
「い、いりませんよ!?」
代金って、そんなのもらえるわけないよ。
だって魚はメーアさんがくれたものだし、料理は俺たちがしたくてしたことだし。
隣でアマレットさんもばたばたと手を振ってるし、そもそも。
「お店じゃないんだし、お金払ってもらうものじゃないでしょ?」
「いや、通常なら金払うのが定石だな。」
「えぇ、本当に?」
当たり前の顔してそんなことを言うナオと、真顔で頷いてトレード画面を開こうとするメーアさん。
焦る俺たち二人の代わりにメーアさんを止めて、一応な、という言葉で解説を始める。
「プレイヤーが作ったものには基本、お金を払うってルール……っていうかマナーがあるんだ。」
「マナー?」
「略取とかにならないようにだ。お金を払うのが当たり前、という風潮にしてあるんだよ。」
「なるほど。」
そう説明されれば、俺にもわかる。
出来によって払うか払わないか決める、だったら、いちゃもんとかつけられてお金もらえなかったりするもんね。
このゲームだと物が実際に物として触れるようになってるから、文字通り奪い取っていくこともできるし。
何となくそういう風潮にしている、だけでルールとしては決まってないなら完全な抑止にはならないかもしれないけど、効果はゼロじゃないと思う。
「でもまぁ、何事にも例外はあるし、今回は友達価格プラス材料提供プラス試作品ってことで。アマレットもそれでいいか?」
「はいっす! むしろ止めていただいて助かったっす!」
「だよね。」
俺たちだけだったら事情がわからないうちにあれよあれよとお金受け取っちゃってたかもしれないし。
難しい話をするときはナオを間に挟むのが安全、と。
……今さら確認するまでもないか、こんな当たり前のこと。
「……もうちょいゲームの常識なんかを教えといた方がいいのか……? いやでも、あんまりがんじがらめになってもつまんねぇしなぁ……。」
「ねぇナオ、俺達ここでご飯食べたけど、実際の栄養は入ってないんだよね? 帰ってから晩御飯食べても平気?」
「はぁ……あぁ、大丈夫だよ。角煮でもなんでも食えばいい。」
「あれ? 角煮嫌いだっけ?」
「クオン兄さん、今日は角煮なんすか?」
「うん、妹のリクエストで。でもナオ苦手だったみたい、ごめんね。」
「角煮は好きだけどお前の呑気さはちょっと……嫌いでもないけど……。」
「……? ありがとう?」
「どういたしまして!」
なんで怒ってるの……。
違う料理用意した方がいいかな?
ええっと今冷蔵庫何あったっけ、魚はさっき食べたばっかりだから省くとして、野菜たっぷりオムレツとか?
「クオン、誤解だ、角煮は楽しみにしてる。あとのことは忘れろ。」
「うん……?」
「忘れろ。美味しい角煮の作り方だけ考えていろ。」
「はぁい……?」
作り方っていってもほとんど味付けは終わってるし今煮込んでる途中だと思うんだけどな……。
どっちかが火加減見といてくれてる……と、思う。
「クオン兄さん、妹さんいらっしゃるんすね! って、これマナー違反っすか、ごめんなさい!」
「んー、俺あんまり気にしてないよ。言いふらしたりされちゃうと困るけど、しないでしょ?」
「しませんっす!」
「だから大丈夫。妹と姉さんがいるよ。あと母さんと父さん。」
「三人兄弟なんすね。」
「うん。」
「この見た目だから三人姉妹みたいだけどな。」
「俺は背が高いもん。」
「オレへの当て付けか?」
「なぁ、前から突っ込もうか悩んでいたんだが、この際だし一つ良いか?」
「はい?」
突然、今まで笑いながら話を聞いていたメーアさんが真面目な顔で口を開いた。
なん、だろう?
ハクと小夜のことは知ってるし……。
この際、ってことは、もしかして。
「リアルであったことある、とか……?」
「ない。」
一刀両断、だ。
ううん、じゃあなんだろう?
「その髪なんだがな?」
「あぁー。」
そういえばそうだった。
珍しいんだったね、これ。
ナオは言わずもがな、アマレットさんもシャロンさんもきれいな髪だって言ってくれたけど、それ以上はなにも言われなかったから忘れてた。
俺は気にしてなかったけど、こういうときに聞いておかないと聞けないようなこと、っていうなら、もしかしてこういうのもマナー違反になるの?
「お前が特別なだけだよ。」
「え?」
「ど、どうした? ナオ。」
「いえ、すみません。続けてください。」
「あぁ……いや、FKOでは髪はリアルの長さか既製の髪の毛パーツから選ぶしかないだろう?」
「そうなんですか?」
「そうなんだ。で、髪の毛パーツにはそんな長さの髪はなかったはずだ。編んでそれだけなんだから、実際はもっと長いんだろう?」
「はい、もう少し。おろしますか?」
「いやいい。もう一度編むの大変そうだしな。」
「編むのナオだから大丈夫ですよ。」
「おい。」
じろりと睨んで肩をどついてくるナオからちょっとずつ逃げながら、メーアさんに首をかしげる。
正しく意図を汲み取ってくれたメーアさんは俺達の状況を真顔で眺めながら続きを話してくれる。
「となると、リアルでそれだけ髪が長いことになるんだが……邪魔じゃないのか?」
「あー、ええと、何て説明したらいいのかな……?」
「難しいようならナオに投げてもいいぞ。」
「じゃあ投げるね。」
「おう、投げられるな。」
「師匠たちはそれでいいんすか……?」
不思議そうに首をかしげるアマレットさんを他所に、ナオがうーんと眉を寄せる。
……あ、そっか。
俺がこんなに髪の毛長いの、ナオのお父さんからゲームもらったからだし、身内に運営側の人がいるのって、知られたらまずい?
メーアさんとアマレットさんがそういうことするとは思えないけど、ほかの人ならなんか掛け合って優遇して、とか言われたりすることもあるんだろうし。
それに、開発者の人たちの情報は公開されてるからこの中のどれかの息子なんだって特定されるのも怖いし。
ええと、ここはナオが話すことをよく聞いて、必要なら口裏を合わせないと……!
「オレ、父親がこのゲーム作った会社にいるんですけど。」
えっ。
言っちゃうの、それ、言っちゃうの?
アマレットさんもメーアさんもびっくりしてるけど、一番びっくりしてるの俺だと思う。
「そんで、このゲーム父親から融通してもらったんですけど、シリアルコードが身内用のやつで、仕様的なバグでこうなってるそうです。」
「仕様的なバグ、か……。なるほど、アバターの見た目ならゲームバランスにも影響はないしな。」
「ステータスとかはおんなじ条件ってことっすよね。」
「あぁ。確認するか?」
「いいっす!」
アマレットさんが慌てて首を振って、ステータス画面を表示しようとしてたナオがそうか? ってウィンドウを閉じる。
そのアマレットさんの隣で、メーアさんがぽりぽりと頬を掻いて、ええと、と言い淀む。
「すまない。」
「はい? あ、ステータス見ます?」
「見ない。疑ってはないし、もし万が一君たちが優遇されたデータでプレイしているとしても俺は気にしない質なんだ。」
「ずるい、とか思わないんですか?」
「トッププレイヤーならそうかもしれないけど、俺のプレイスタイルは遊んでなんぼだからな。強いていうなら、luk値が高くなってたりしてネタアイテムとかたくさん落ちるなら見せてほしい、くらいか?」
「あいにくオレもクオンもluk値全然振ってないのでご期待には添えませんが、そこでレアドロップじゃなくてネタアイテムなの流石メーアさんですね。」
「ははは、誉めてもなにもでないぞ。」
あれは……誉めてた、のかな?
まぁでも貶してはないし、皆笑ってるしいっか。
「なら、もう答えはわかりきってはいるんだが、一応確認させてもらってもいいか?」
「はい?」
「なんでもどうぞ。」
疑問符を頭に浮かべる俺とは対照的に、笑って頷くナオ。
だけどメーアさんは、頼りになりそうなナオじゃなくて俺をまっすぐに見て、尋ねる。
「クオンは、健康体なんだな?」
「……はい?」




