第三十五話
「な、何で!? 俺と一緒に遊ぶの嫌……!?」
「お前と遊ぶのが嫌だったらこのゲーム誘ってねぇから落ち着け。」
どうどう、とナオが俺の顔の前に手のひらを突きつける。
うう、まぁ、言われてみればそう、かもしれないけど。
でもだったら、どうして?
「こないだメーアさんと会った時さ。」
「うん。」
「情報屋って結構面白いんじゃねぇかと思って。」
「やるんすか?」
「やってみようかなーってさ。やめるかもだけど。でも、情報を売買する立場になるんだったら、どこか一つのギルドと癒着してるのよくないだろ?」
「癒着って、政治家じゃないんだから。」
だけど、言いたいことはわかった。
癒着、はどうかわからないけど、内容としては正しいと思うし。
「わかった。じゃあ、ナオは誘わないことにするね。」
「おう。」
「アマレットさんは誘ってもいい?」
「大歓迎っす!」
とはいえクランを作るかどうかもわからないんだけどね。
今のところ、こうしてパーティを組んでるだけで充分楽しいし……あれ?
そもそもクランってなんのための集団なんだっけ……?
「クラン別対抗戦とかあるからな。」
「あ、そっか。」
「い、いきなり何っすか? 師匠、別に他のとこに入るわけじゃないなら敵にはならないっすよね?」
「あぁ。なんかこいつがクランって何のためにあるんだろうとか考えてる気がしたから。」
「当たってるよ。」
「……以心伝心っすか……?」
「ううん、俺一方的に読まれてるだけ。」
そんなにわかりやすい顔してるとは思わないんだけど……ナオにもメーアさんにもわかりやすいって言われたから、そういうものなのかな。
自分ではよくわからないや。
「あ、クオン兄さん。」
「うん?」
「蟹っす。大きいやつ。」
「え、どこ。」
唐突にアマレットさんが俺の袖を引いた。
反対の手で指し示す方を見れば、がしゃがしゃと鎧みたいな音を立てて近づいてくる赤色の蟹たち。
あの大きさなら、さっきの背景じゃなくてモンスターなんだろう。
だとしたらモンスターは倒したらアイテムを落とすはずで、可能性としては。
「蟹クリームコロッケ……!」
「乱獲するっす!」
「お、おい!」
後ろでナオが何か言ってる気がするけど、今はいいや。
多分まだ台所ないとかなんとか言ってるんだと思うし。
でも確かアイテムは、たとえそれが食材でも、ストレージに入ってる間は劣化しない。
……って、前にナオが言ってた!
「アマレットさん、一人でいける?」
「北や塔よりレベル低いはずなので、多分……?」
「ハクか小夜貸そうか?」
「いいんすか!?」
「どっちがいい?」
「素早い方!」
「じゃあ小夜かな。」
多分。
あの子跳ねるし。
って会話を走りながら早口で終わらせて、そのまま召喚魔法発動。
出てきた白黒のもふもふたちに、またも早口でお手伝いをお願いする。
こくこく、と頷いて話を聞いてくれた小夜が、俺の肩からアマレットさんの肩へと跳び移る。
よろしくお願いしますっす! ってアマレットさんが小夜に言ってるのが聞こえた。
お願いするね、と俺もハクに囁けば、こん、と耳元で鳴いて応えてくれる。
小夜がいた方と反対側の肩でぴんと耳を立てていたハクは、蟹に十分近づいたと判断したところで飛び出した。
バチバチバチ、と、先が少し割れたしっぽの先で電気がはじける。
一直線に飛んでいく電気の球。
低い音を立てて蟹にぶつかってもくもくと煙が立つ。
そこに突っ込んでいって追撃……っと待って待って剣!
何も考えずに抜こうと思うとどうしても癖がついてて引っかかる。
結局鞘に収まったままの剣の柄を握って蟹の前に躍り出た俺は、やむなく。
「ファイア!」
ここでなら、火事になっても水はたくさんあるし。
ただ一応、向こうが攻撃をしてこられない程度に怯んでもらえればそれでいいんだし、そこまで威力は上げないで。
固そうな甲羅の表面で爆発が起きてびしりとヒビか入る音がした。
すかさずそこにとびかかる白い影。
そのあとは完全に狐の捕食シーンだった、とだけ言っておこうかと、思う。
まぁゲームだし、そんなにグロテスクなわけではないんだけど。
「クオン兄さん! 蟹肉! 落ちました!」
「俺も今倒したとこ。確認するね、ちょっと待ってて。」
駆け寄って来るアマレットさんに、ストレージ画面を表示。
えー、と。
「あった、蟹の爪肉。」
「え、私蟹の腹肉でした。」
「なんでだろ。俺お腹爆発させたからかな。」
「私は爪と足から攻撃して動けなくしてからやっつけました。」
「きれいに残ったところが落ちるってこと?」
「じゃあ加工しやすい爪肉の方がいいっすね。次はお腹攻撃するっす。」
「でも、お腹はいい出汁でるよ。」
「お味噌汁……!」
「何でお前ら飯の話になるとそんな話が早いんだ。」
「ナオは何が食べたい?」
「経験値。」
「食べるの?」
「おこぼれもらった。ごっそさんです。」
「どういたしまして?」
のんびりと後を追いかけてきたらしいナオがため息をつく。
俺とアマレットさんは二人とも蟹の肉に興味があっただけで、経験値のこと考えてなかった。
ご馳走様、と言われても倒したの一匹ずつだし、あんまり入ってないと思うけどな。
「とりあえず、もう少し蟹獲っててもいい?」
「いいぜ。オレ先に村の方行ってる。道具屋のラインナップ確認してくるな。」
「面白いものあったら教えて。」
「おう。」
ひらりと手を振って歩いていくナオ。
その後ろをついていく蟹の攻撃を飛び上がることで回避して、ちらりと俺を見て飛び去って行く。
……代わりに倒しといて、ってことだね、了解。
地面を蹴って、翅をはばたかせる。
ナオの方を見ている蟹の視界には俺はいない。
今度はまっすぐに引き抜いた剣を構えて、一度着地。
突進技の構えを取って、剣が光に包まれるのを確認、駄目押しで地面を蹴り飛ばすように加速。
ばぁん! と空気の爆ぜる音がした。
深々と体に突き刺さる剣、ぶくぶくと口から噴き出る泡は、蟹だから……なのかな?
その赤い姿はすぐに揺らいで、ポリゴンのかけらになって空気にとけていく。
フードの中から顔を出したハクが、欠伸をする声が聞こえた。
「これくらいあれば十分かな。」
「足りなかったらまた獲りにくるっす。」
「そうだね。えぇと、ナオはどこにいるかな、と……。」
「ここにいるぜ。」
「うわ!?」
アマレットさんと二人でストレージを見せ合っていると、背後から飛んでくる声。
ビックリして振り向くと、ニヤニヤと笑ったナオが浮かんでいて。
「いつからいたの?」
「結構前からそこの岩に座ってたぜ。終わったっぽいからこっちきた。」
「お待たせして申し訳ないっす!」
「いや、色々データとれたから大丈夫。ありがとな。」
知らない間に何かに利用されている……。
まぁ、ナオが俺たちに対して困ることするわけもないし、全然いいんだけど。
何のデータかもよくわからないし。
ナオって分析とか好きだし、その辺を考えてみたら情報屋って向いてるのかもしれない。
恩恵にあずかることも多くなる気がするし、今のうちにデータ提供として協力しておけるのはいいよね。
俺は何もしてないわけだけど。
「とりあえず、釣り竿売ってた。焼き魚は興味ねぇか?」
「ある!」
「淡水魚だったら刺身は難しそうっすね……煮物にしてハーブとか一緒に入れたらおいしく食べられるかもっす!」
「ハーブ探さないとだね。」
「お前ら料理人じゃないだろ。」
「二人は料理ができるのか?」
「うわぁ!?」
唐突に、聞き知った声が聞こえた。
三人で振り返ると、風にひらめく青い髪。
そこに立っていたのは、大剣を背負った水魔法使い、メーアさんだった。
……ただし、今は釣り竿を肩に引っ掛けた、という但し書きがつくけれど。
「なぁ、魚を釣ったんだ。料理ができるなら捌いてくれないか?」
「あの、だけど、料理スキルは持ってなくて……。」
「大丈夫だ、料理スキルがなくても料理は出来るらしい。」
「そうなんすか?」
「スキルを使うと工程が簡単で一定の味が出せるけど、スキルがないとリアルと同じように調理しないといけない、ってだけだ。」
「実際に料理の腕を持っていればここでもできるってことみたいだな。」
「……包丁!」
「フライパンと鍋も欲しいっす!」
「調味料と香草は売ってるかな。」
「森とか原っぱで手当たり次第に草引っこ抜いたら当たらないっすかね!?」
「お店によった後なかったらそっちに回ろう。」
「……シンプルに塩焼きが食べたいんだが……。」
「……塩は売ってますか?」
「台所に備え付けだ。」
「じゃあ、行きましょうか。」
思わずヒートアップしちゃったけど、食べたいものがあるっていうならそれを食べてもらいたいもんね。
塩焼き、シンプルなだけに腕が試される料理だ。
「わがままを言って悪いな。こっちにある。」
「こちらこそ。ついでに蟹焼いてもいいですか?」
「お、おいしそうだな。」
「アマレットさんも、いい?」
「いいっす! 塩美味しいっすよね、魚も蟹も!」
「魚は結構釣ったから、皆で食べよう。」
「いいんですか? ありがとうございます。」
「蟹も結構あるっす! ご馳走っすね!」
「オレだけ何もしてなくて悪いな。」
「いや、俺はナオを見つけて追いかけてきたからな。ナオがいないと出会えなかった。」
「一番の功労者だ。」
わいわいとしゃべりながら、村の方へ。
連れて行ってもらったのは村の中の小さな宿屋だった。
がらんとした台所は、前にナオが言ってた通り設備はそろってるとは言いづらいけど。
「塩焼きには十分だね。」
「メーアさん、お魚くださいっす!」
「あぁ、これなんだが、頼めるか?」
「ばっちりっす! クオン兄さん、小さい魚は丸ごとでいいっすか?」
「うん。あ、フライパンでスープ作ってもいいけど。」
「それいいっすね! 下ごしらえ始めるっす!」
「じゃあ俺は大きいの捌いとくね。蟹も。」
「あ、蟹肉お渡しするっす。」
「ありがと。お腹のはスープでいいかな?」
「はいっす!」
二人で材料を広げて動き出す。
その後ろで、ナオとメーアさんがついていけないな、と呟いたのが小さく聞こえた。
……置いてけぼりにして申し訳ないです。




