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第三十一話

「良いんですか……!?」


ぱぁっと顔が輝いた。

そして瞬間、困ったように曇る。


「私、あと三十分くらいしたら、ログアウトしようと思っていて……それまででも、良いですか……?」

「もちろん。」

「ぴったり三十分じゃ、なくても、大丈夫なので……。」

「わかりました。」


連続ログイン時間の制限が迫ってるわけでは、ないらしい。

けど、俺も隣で寝てるはずの音也が起きてきて俺を呼び出したらログアウトしないとだし。

まぁ音也のことだから、呼び出す前に俺が何をしてるかくらい確認するだろうし、誰かと一緒ならしばらく放っておいてくれたりするだろう。

と、思う。


「えっと、じゃあ、どうしましょうか。したいこととかありますか? バトルの続き、とか。」

「ええと、特には……というか、あんまりよく、システムとかわかってなくて……。」

「俺も、同じく。友達が詳しくて、頼りっきりなんです。今度連れてきますね。わからないこと、どんどん聞いてください。」

「ご丁寧に、ありがとうございます。」


ふにゃりと眉を下げて笑う。

その顔は、初めに見たような静謐な美しさからは離れた、柔らかなもので。

その割に言葉は綺麗で丁寧で、きっといい人なんだろうなぁ、シャロンさん。


「じゃあ、一緒に戦うのでいいですか? 少しは助けになれるかもしれないし。」

「はい、お願いします。あ、えっと、回復魔法はちょっとだけど使えるので、危なくなったら。」

「うん、ありがとう、頼りにさせてもらいます。ごめんなさい、俺攻撃スキルしか持ってないから、そういう時になったら足手まといかもしれません。」

「いえ、あんまり使わないものなんでしょう、回復魔法、序盤では。私、心配性でつい。」

「ううん、そういうの大事だと思います。」


俺の知り合い、スピードほぼ極振りが二人と、魔法と大剣の人だもん。

まぁ筆頭はスキル三つとも攻撃で埋めた俺だけど。

索敵すら持ってないもんね。

というか。


「ちょっと、聞いてもいいですか? あ、移動しながらでいいので。」

「はい、何でしょうか。」

「回復魔法って、回復魔法っていうスキルがあるんですか? 何かの属性の魔法の、レベルが上がると使えるようになる……?」

「回復魔法っていうスキルが、あります。えっと、これ。」


ちょっとおぼつかない手取りで白いパネルを呼び出して、いくつかの場所をタップする。

少しして、シャロンさんは俺の前にパネルを滑らせてくれた。

……スキル編成画面。

……ええっと、これ、人に見せていいやつだっけ。

さっき会ったばかりの俺なんかに見せていいやつでしたっけ音也先生!


「本当、だ。回復魔法っていうスキルが入ってる。これは、誰でも取れるんですか?」

「多分……? 最初にステータスを振るときに、魔法が使えるものに振らないといけないかもしれません。」

「あとは、本とか杖とかがいる?」

「はい、たぶん。私は小さな本を持ってます。どんくさいから、似た形の武器を持ってたら間違えそうで。」


そういって恥ずかしそうに笑うシャロンさんの腰には、細い剣が下げられている。

見せてくれたスキル編成画面に書かれているのは、細剣。

レイピア、だ。

イメージとしては、フェンシングなんかで使うような、針を大きくしたような武器。

刺突剣、ともいうんだっけ、俺たちの剣が切るのを目的としてるのに対して、刺すことで攻撃する武器。

シャロンさんみたいに体の線が細い人なら、軽くて使いやすい、いい武器かもしれない。

俺は……やっぱり、刺す動きには慣れてないから、選ばなかったけど。


「えっと、三つ目は、考え中ですか?」

「はい……どれにすればいいのか、わからなくて。」

「俺もそうでした……俺、は、ほんと詳しくないから、今度良かったら、それも友達に聞いてみてください。相談、乗ってくれると思うから。」

「ご迷惑では、ないですか?」

「俺のスキル編成も手伝ってくれたんだ。俺がとりたいものも考えてくれて。人の世話焼くの好きなやつだから、大丈夫だと思うよ。」

「じゃあ、お言葉に甘えて。」

「えっと、話は変わるけど、ソードスキルは出せますか?」

「はい、初級のものは何とか、発動できるようになりました。」


唐突に変わった話に戸惑うことなく、こくりと頷くシャロンさん。

シャッ、と鋭い音を立てて、レイピアを腰の鞘から抜きはらう。

打って見せたほうがいいですか、って尋ねるのに、首を振って。


「もうすぐ来ると思うから、シャロンさん、戦えますか?」

「はい。」


意味の、解らない言葉だと思うけど。

それでもシャロンさんは頷いてくれた。

片手でレイピアを握って、きゅっと足を構えの体勢に持っていく。

実は、喋ってる最中からなんか、チリチリと、視線を感じてるんだよね。

うなじで火花が散るような、産毛が逆立つような。

初めてログインしたときに感じたような、ただ見られているだけのものとは違う、敵意だか何だかを孕んだ視線。

果たして。


「来ました……いきます!」


焦げ茶色のブーツに包まれた足が地面を蹴って、俺の後方へ。

鋭い衝撃音が響いて、ポリゴンがキラキラと消える音に変わる。

……思ってたより、速い。

後ろからモンスターが来るなぁ、っていうのは視線で何となくわかってたから、シャロンさんが俺の後ろに向かって走り出すのはわかってた。

ただ、想像以上に、そのスピードが。

もしかしてこの人もスピード振りまくってる人なんだろうか、いや、回復魔法持ってたからintには振ってあるはず、なんだけど。


「一度で倒せました……! やっぱり、来るってわかってると心構えができるから、でしょうか。」

「今まで、一度では倒せなかったんですか?」

「はい……いつも先に攻撃を仕掛けられちゃって、ビックリしてるうちに、っていう感じで……。」

「そっか……ここのもり、猫さんもコウモリさんも変なところから飛んでくるもんね。」

「そうなんです……。クオンさんは、どうしてモンスターが来るってわかったんですか? 索敵スキル、というやつですか?」

「ううん、俺索敵は持ってないんだ。というか、サポートスキル持ってなくて。わかったのは……なんとなく、かなぁ。」


言いながら、俺もスキル編成の画面を可視化してシャロンさんの前に表示する。

危ないことなのは一応わかってはいるけど、シャロンさんのだけ見て俺のは秘匿しますなんて不公平だと思うし。

それに、シャロンさんが人の情報を見て悪用しようっていうような人には見えないんだもん。

だから、大丈夫だと俺は思うんだ。

……音也には怒られるかもしれないけど。


「直長剣と、短剣と、召喚魔法……?」

「変だよね。俺もそう思う。」

「いえ、その……はい。」


困ったような顔をして、恐る恐る頷く。

そんな怖がらなくても、変なスキル編成を見て変って言われても怒ったりしないのに。

俺だって変だと思ってるもん、この三つ全部攻撃っていうの。

っていうか、攻撃じゃなくて武器スキルっていうのか、この場合は。


「なんかね、流れに流されてたらこんな感じになっちゃった。友達が索敵を持ってるから、それにお世話になってるんだ。」

「そう、なんですか?」

「あ、でもね、考えなしに人のスキルをこんな感じにするような人じゃないから、相談するときは安心してね。」

「はい、それは、大丈夫です。」


俺相手じゃなかったらもう少し手加減するだろうし。

俺だって別に、直長剣がいいとか召喚魔法は取りたいとか言いたいことは言ってるし叶えてもらってるしね。

……そして、大丈夫っていうのはそんな人だって心配はしてないっていう意味か、面白スキルになってもいいって言う意味か、どっちなんだろう。

どっちにしたって俺は相談には乗れないから一緒なんだけど。


「あの、クオンさん。」

「はい?」

「突然ですが、サラマンダー、ですよね?」

「はい、そうです。シャロンさんは、シルフィード?」


白は確か、風の妖精シルフィードの色だったはず。

髪も目も、翅も真っ白だし多分そうだと思うんだけど、と思ったら、やっぱり。


「はい。あの、火の魔法、使ってらっしゃいましたよね。」

「うん、見た通り火魔法スキルは持ってないから、初級魔法しか使えないけど。」

「私も、です。えっと、その、一度、やってみたいことがあって。」

「……? 何でしょう?」


そわそわと両手を握って、瞳がキラキラと輝いて。

かわいらしい人だなぁと場違いに考える俺に、シャロンさんは口を開く。


「火魔法って、風魔法と一緒に使ったら威力大きくなるんでしょうか?」

「うーん…? どうだろう?」


確かに言われてみれば、火と風は相性いいって言うよね。

でも、メーアさんの水魔法でも俺の山火事の消火は出来なかったし……。

いや、やってみないと分からないよね。

ハクも小夜も呼び出す予定はないからMP使っても問題ないし、さっきの火魔法使った分ももう回復してるし。


「じゃあ、やってみましょうか。えっと、比較対象がいりますよね。まずは、普通に。」

「はい、お願いします!」


弾むような声を受けて、ええと、あんまり大きいと困るから、どうしよう、じゃあMPを5くらい消費する感じで、ってイメージして。

場所はどこにしよう、足元でいいかな。

近すぎると怖いから、一メートルくらい離れたところに。


「ファイア。」


ぼっ、と小さな火が灯った。

ゆらゆらと揺らめく、バレーボールくらいの大きさの炎が一つ。

今までは燃え盛る炎だったけど、これはろうそくの先の火をそのまま持ってきたみたいな、ファンタジーな火だ。


「じゃあ、もう一つ出しますね。」

「はい。せーの、でいいですか?」

「お願いします。」


目と目を見合わせて、頷き合う。

どちらからともなくせーの、と声を合わせて。


「ファイア。」

「ウィンド……!」






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