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第二話

あれから数週間後。


「織、起きろって、こら、おい織!」


音也の声と体を揺さぶられる感覚に目を開けると、呆れたような怒ったような顔が俺を見下ろしていた。

ゆっくりと体を起こす。

日の当たる、少し広めの縁側。

太陽の高さからして、お昼の三時くらい。


「……なに?」

「何じゃねぇよ。ゲーム持ってくる約束だったろ。」

「……ごめん、寝てた。」

「見りゃわかる。つーかそこじゃねぇよ。門の閂かけとけよ、不用心だろ。」

「あれ、かかってなかった?」

「かかってなかったからオレがこうしてここにいるんだけどな?」

「じゃあ、結果オーライ?」

「不用心だっつー話をしてんだよ。……まぁ居合道場構えてるウチに忍び込むやつなんていないのかもしんねぇけど。」


家の鍵まで外れてんじゃないだろうな、とため息をつきながら音也は靴を脱いで縁側に上がり込む。


「で、その格好、稽古終わりか?」

「あ……うん。」


黒の道着、きつく縛った髪、居合刀。

音也が言った通りうちは居合の道場をやっていて、それでこの姿だったら稽古行く途中か終わった後かだって申告してるようなものだ。


「音也がくるから、それまでに終わらせようと思って、終わって、着替える前にちょっとひなたぼっこしようと思って、」

「寝たと。まぁそんなこったろーとは思ってたけど。」

「ごめんね。」

「怒っちゃねぇよ。着替えてくるか? お茶淹れとくし。」

「うん、ありがとう。」


ひとつ大きく伸びをして歩き出した後ろで、障子に手をかけた音也が玄関閉まってても入りたい放題じゃねぇか、と呟いていた。






道着から浴衣に着替えて髪をほどいて居間に入ると、勝手知ったる余所のうちとばかりに音也がお茶を啜って煎餅をかじっていた。

向かいに座って、用意してくれていたお茶を飲みながら俺も煎餅に手を伸ばす。

今日音也が持ってきてくれたゲームは言わずもがなFairy Knight On-line、略してFKOで。

本当は発売日は明日なんだけど、そこは関係者権限ってやつ、らしい。

といってもこのゲームソフトはFKO世界に入る鍵みたいなもので、扉とその向こうの世界であるサーバが開かれない限りはログインもできないそうだけど。

その辺の詳しいことはよく知らない。

音也は得意分野だろうから聞けば教えてくれるとは思うけど、今はソフトがあってもプレイできない、ということがわかってそれでいいと思う。


「リンカー・リングの準備は万端か?」

「うん。しばらく使ってなかったから、昨日ちゃんと調整しといた。身長伸びてた」

「おめでとう。」

「ありがとう。……アバターは作ってないけど、いいんだよね?」

「ああ。身長とか体型がプリセットされてれば大丈夫。」


VRゲームが出回った当初、この三次元世界での体より縦に長く横に短いキャラを作る人がとても多かったらしい。

でも、横はともかく縦は、視線の高さも手足の長さも違って操作に支障をきたしたり、いわゆるVR酔いに陥る人が数えきれなくて。

結果、体の大きさを弄ることは禁止こそされていないものの、リンカー・リングをつけた状態で指示通り体を触って測ったのと同じ大きさのアバターを使うことが推奨されてる。

加えて、ほとんどのアバターがリアルに準じている以上、顔だけを弄ると変に作り物めいててそうとわかってしまうんだとか。

それに何となく表情のぎこちなさを生んだりもするっていうから、正直そんなに見た目に拘らない俺はリアルそのままな作りの顔を使うことにしている。

顔が原因でリアルで特定されるなんて奇跡みたいな確率でしか起こらないって音也は言うし。

そのまま、とはいえ、ゲームってことでやっぱり、多少は美化されてるみたいだし。


ちなみにリンカー・リングはVR世界にいくための機械で、布団やベッドに寝転んだ体勢で使う。

走れ、とか、跳べ、とか、そういう脳の命令を実際の体じゃなくてアバターに伝えるもの。

これも詳しくは音也に聞かないとわからないけど。


「FKOは初期アバターは色ランダムで選ばれるからな。種族によってイメージカラー決まってっから。」

「カラー以外に顔とかいじりたかったら今のうちに作っとけよーってことでよかった?」

「おう。っていってもいじらねぇだろ? オレもだけど。」

「うん。音也は種族、何にするか決めた?」

「スプライト。」


種族。

プレイヤーはゲームのなかで妖精になるけど、その妖精の種類のこと。

音也のいうスプライトは雷の妖精で、イメージカラーは黄色。

あとは火の妖精のサラマンダー、色は赤、水の妖精ウンディーネで青、風のシルフィード、白、土のノーム茶色、そして草、レーシー、緑。


髪の色や目の色はそれぞれ選んだ種族のカラーからランダムに当てはめられるらしい。

スプライトなら淡い金色からオレンジに近いもの、蛍光色みたいな黄色までたくさんの中から、って感じかな。

途中でカスタマイズ用のアイテムも出るって話だけど、最初から好きな色を含むのを選ぶのもいいと思う。

とはいえ。


「速いから?」

「速いから。」


スキルやステータスは自由に構成していける、というのが売りだけれど。

だからこそ、なのかな、ステ振りは種族決定時から始まっている、みたいな。

種族によってほんの少しボーナスがついてるらしくて、スプライトは agi…素早さが少し高い。

サラマンダーは攻撃力に関係するstrが、ウンディーネはHPそのものが高くて、シルフィードは魔法攻撃のint。

ノームはスタミナや防御のvit、レーシーは魔法防御のmndが。

ステータスには他にもMPや、器用さを表すdex、運のlukなんかもあるそうで、ステータス振るの大変そう。


「織はどうするんだ?」

「サラマンダーかなぁ……。あと、騎士団? だっけ、あれってなにか効果とかあるの?」

「あー、あれな。効果はねぇよ。好みでいい。騎士団ごとでバトったりするらしいけど。」

「ふぅん。」


この前のPVで黒い妖精がFairyがKnightって言ってたのが、それ。

ゲームのなかには四つの騎士団が存在してて、それぞれ理念が違う。

プレイヤーはその内のどこかに所属して、その騎士団の騎士として動く、と。

どこに入ってもいいらしいけど、ひとつ注意しないといけないのは、プレイヤーがクランを作ったとき、同じ騎士団の人しかクランには入れないということ。

クラン、っていうのは、他のゲームだとギルドって呼ばれたりもする、プレイヤー同士が自由に作れる団体。

他の騎士団の人と仲良くするなんてー、って設定だそうだけど、本当のところは騎士団同士のバトルとクラン同士のバトルが両立できないと困るから、というのが真相だと音也が笑う。

四つの騎士団はそれぞれ、正義を重んじるディオッシュ、真理の探求を目的とするアレーティア、平和・平穏を求めるイリーニ、裏社会を牛耳るとされてるアンディクス。

といっても、騎士団にはすぐには入らなくてもいいし、早いうちに入りたいクランがみつかればそれに合わせて入団することにすると言うので、俺もそうすることにする。



「にしても、何でサラマンダー? 火力? 赤好きだっけ?」

「んー? あぁ……火が、あったかそうだから。」

「……ほんと相変わらずだよなお前は。」

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