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第十六話

「そろそろ人も多くなってきたし、場所変えるか。」

「そうだね。」

「経験値も素材もたくさん稼げたっす!」


連休のお昼間だもん。

そりゃあ人もたくさんいるよね。

このゲームはレベルもスキルの熟練度もなかなか上がらないみたいだけど、俺たちが初ログインの時にここで十分戦えたんだから、レベル上げをこっちでやろうって人が来てもおかしくない。

それに、アマレットさんのいう通り赤い犬も紺色狼もたくさんドロップがあったから、これ以上はいらないかな。

生産スキルを持ってたりそういう知り合いがいたら何かに使ってもらえるのかもしれないけど、今のところはNPCの店に売るしかないなってナオは言うし。

俺はNPCのお店行ったこともないけど。

あんまり攻撃を受けないからかHPもほとんど減らないし、魔法も使わないからMPも減らない。

素材を売るって考えもなかったからずっとためっぱなしだったし。

三人で並んで町に帰る。

開きっぱなしだった地図は、東の森と町を分ける門の所で途切れていた。

東の森っていう一つのフィールドの地図みたい。

門をくぐると、中途半端に出来上がった町の地図。


「……町も自分でマッピングしないとだめなの……。」

「おう、大変だよな。掲示板に設定されてるお使いクエスト全部こなしたら、地図完成するシステムになってるらしいぜ。細い路地は網羅できねぇかもだけど。」

「へぇ……。」

「まぁそのお使いも時間差で更新されるから全部こなすのは時間かかるかもだけどな。」

「めんどうだね。」

「お使いクエストは討伐みたいに協力してできないっすからね……。」


代わりにお使いしてきて、ってわけにはいかないってことだ。

うへぇ、大変だ。


「あ、それと、地図にはマーカー機能があるから。」

「なにそれ。」

「例えばこの店の場所、遠くに離れたら地図のどこだったかわからない、なんてこともあり得るよな。」

「十分あり得るね。」

「クオン兄さんは方向音痴っすか?」

「重度のな。そういうやつのために、地図には自分で好きにマークを付けられることになってる。」

「へぇ。」

「設定で店やクランホームなんかを表示することも出来るけど、結局どのマークがどの店だったかわからなくなるのがオチだろ?」

「目に見えてるね。」

「胸を張るな。」


ナオはその場で可視化した俺の地図の画面にマークを付けてくれた。

今のところ必要なのはこのNPCのお店だけ。

よく使うと言えばクエストが載るってる掲示板もあるけど、それは噴水のある中央広場にあるから、さすがにもう迷ったりはしない。

お店のお姉さんにたくさんの素材を渡して、チャラチャラと金貨を渡してもらう。

金貨に書かれているのは一対の妖精の羽。

単位はフェインっていうんだって。

略すなら大文字のエフになるのかな。

お店の前に陣取ってたら邪魔になるから、少し離れたところで作戦会議。


「さて、次はどこ行くかな……アマレット、時間は平気か?」

「あと一時間くらいっす。」

「了解。……って、ギリギリまでいる前提で進めてるけどいいのか?」

「はい! もともとそのつもりっす!」

「大型連休っていいよね。」

「素晴らしいっす。」


うんうんとうなずき合う。

宿題とかは多めに出るのかもしれないけど、明日何時に起きないとーって時間の制限がないのは気が楽。

今日だってお昼ごろまで寝てたわけだし。


「アマレットは東の他はどこ行った?」

「南は結構行ったっす。最初のフィールドなんで。」

「西と北は?」

「西はちょっと覗いて、話しかけにくそうな人ばっかだったんでやめたっす。」

「そしたら東にこいつがいたと。」

「きれいなお姉さんだと思ったら優しいお兄さんだったっす。」

「クオンは基本的にお人よしだからな。」

「ナオには言われたくない。」

「お二人ともいい人っす!」


アマレットさん、目がキラキラしてる。

アバターは脳波から読み取った感情をそのまま表現しちゃうから、アマレットさんが本当に俺たちに好意的な感情を持ってるのがみて分かる。

ちょっと照れくさいけど、嬉しい。

俺と同じようにちょっぴり照れたらしいナオが誤魔化すように笑いながら口を開く。


「どっか行きたいとこあるか? やりたいこととか。」

「討伐もレベル上げも、人数が多い方が効率良いもんね。」

「離れてそれぞれで戦えるならだけどな。今のところ索敵なしでもお前ひとりで戦えるし。アマレットも一人でも戦える。」

「敵に囲まれたらピンチっす!」

「その時はちゃんと助けに入るって。って言っても、効率的にゲームを進めることだけがゲームの楽しみじゃねぇし、何なら町の散策とかでも全然いいぜ。」

「町の地図も完成に近づくしね。」


正直俺たちは攻略速度は遅い方だと思う。

俺なんか行ったことあるフィールド、東の森だけだし。

初日にナオが言った通り、前線を走り続けることにやりがいを見出すタイプじゃないからそれでいいんだけど。

せっかくだから好きなように楽しむのがいいじゃん?

トッププレイヤーでいるために頑張ることが楽しい人はそれを楽しめばいいし、のんびりゲームするのが好きな人はそれをすればいいし。

アマレットさんもどっちかっていうと俺たちと同じ感じの人だったっぽくて、ちょっと考えた後におずおずと提案してくれた。


「私、町を歩いてみたいっす。一人で歩いてもつまんないかなーって思ってあんまり見てなくて。」

「俺も。お使いクエストであっちこっち行って迷子になったくらいしか歩いてない。」

「町のデータ一番持ってるのはオレか。」

「町だけじゃないと思うけどね。」

「それで、その……探したいものがあるんすけど……。」

「ん? なんだ?」

「おいしい食べ物売ってるレストランか屋台っす!」


食欲旺盛。

名前にハニーって入ってるくらいだから、甘いものは好きなんだろうけど。

でもそういえば、ゲームの中で食べ物売ってるお店って見てないや。

いやでも売ってはいるはず。

ステータスには関係ないけど、お腹が空いたって感覚はゲームの中でもあって、ナオがどこかで買ってきてたっぽいパンをくれたことがある。

全然深く考えてなかったけど、パンがモンスターから落ちるはずはないし、あれはどこかのお店で買ってきてたってこと……だよね?


「代金はいいぞ、クオン。」

「今度なにかおごるね。」

「おう。」

「何の話っすか?」

「いや、こっちの話。で、食い物屋だっけ?」

「はい。私、食料、あのNPCのお店で売ってるパンしか知らなくって。あれもあれでおいしいんすけど、せっかくだからゲームっぽいもの食べてみたいんす!」

「骨がついた漫画みたいなお肉とか?」

「そういうのっす!」

「それがあるかどうかはわかんねぇけど、とりあえず店探してみるか。」

「はいっす!」





それから数十分歩いてわかったことは、この町は統一性がない雑多な空間だってこと。

噴水のある中央広場は城っぽくてちょっとおしゃれな外国風なのに、少し離れた街並みは赤レンガだし、路地裏みたいなところは土埃が立つ発展途上の路地裏もある。

全部の道がそうなわけじゃなくて、ちゃんとレンガや石畳で整備された路地もあるし。

適当なのかなぁ、それとも、わざとそういう風にしてるのかな。

埃っぽくて細い路地には屋台なんかもなさそうだし、そういうところは避けて、少し大きめの道を選んで歩いていく。

最終的に見つけた屋台は三つ。

串焼きにしたお肉が売ってるところ、みたらし団子と三色団子が売ってるところ、それから串カツみたいなものが売ってるとこ。

串刺しが好きなの?


「上手いな、この団子。」

「うん。みたらしのタレがいい感じだね。」

「もちもちでトロトロっすー!」


三人でベンチに並んで座って団子を頬張る。

ゲームの世界で食べるものってそんなに味なんて重視されてないと思ってたんだけど……。

味はもちろん、団子の弾力とかかかってるタレのトロトロ具合とか、最高だ。

ログアウトしたら作ってみようかなぁ。

お団子はお腹にたまるしおやつとしても優秀だし。


「クオン兄さん、幸せそうっす。」

「クオンはうまいもの食うのもそれをどうやって作るかを考えるのも好きだからな。」

「クオン兄さんは料理するっすか!」

「早いしうまいぞ。」

「私もお菓子はたまに作るんす! 洋菓子ばっかっすけど……。」

「俺もたまに作るよ、洋菓子。シュークリームがきれいに膨らまないんだけど、コツとかない?」

「ありきたりっすけど、粉を二度くらい振るっておくとか……。オーブンが上からの加熱しかしない場合、予熱するときに下の段に鉄板とか入れておくと、焼くとき下からも加熱されて膨らみやすいっす。」

「本格的だな。」

「すごい、ありがとう! 早速試してみる!」

「今日のデザートはみたらし団子とシュークリームか。」

「きれいに膨らんだら色んなクリーム入れてみようよ。」

「それ楽しそうっす! うちでもやるっす!」

「カスタードと生クリーム……ぐらいしか想像できねぇんだけど、何入れるんだよ。」

「生クリームにいろんな果物混ぜてみるのが手っ取り早いかな。イチゴクリームとかみかんクリームとかになるよ。」

「へぇすごいな。」

「コーヒーとか紅茶とか混ぜてみるのもよくないっすか!?」

「あ、それおいしそう。」


アマレットさんとは話が合いそう。

料理スキルをとったらこの中でも好きなように料理できるのかな。

コーヒーとか紅茶の味を出せる材料ってあるのかな。

料理しあったら楽しそうなんだけどなぁ。


「そういえば、ナオ師匠とクオン兄さんは一緒に暮してるんっすか?」






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