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第十四話

「お、おう……」


上擦って掠れた声がナオの口からこぼれた。

俺からしたらびっくりして思わず漏れた声だったんだけど、アマレットさんには肯定の返事に聞こえたのかぶんぶんとナオの手を上下に揺らす。


「ありがとうございます! 精進するっす! がんばるっす!」

「おう……」


ぱぁぁぁって音が聞こえるような笑顔。

ナオは状況をやっと理解したのか、困ったような苦笑いの顔になる。


「でも、オレは師匠として何をすればいいんだ?」


それでも師匠やめるとか言わないあたりがナオらしい。

簡単に言うと優しい。

アマレットさんはナオの言葉にぴたりと動きを止めて、首を傾げた。


「えっと……なに……っすかね。」

「そこノープランかよ。」

「ナオ師匠がすごいと思ったから師匠って呼びたいっす!」

「クオンじゃなくて?」

「クオンさんは……師匠っていうかなんか……違うっす!」

「そうか。」


アマレットさんの基準がどこにあるのかはわからないけど、俺じゃあアマレットさんの師匠にはなれないらしい。

スプライトじゃないからかな。

師匠になれたとしても教えられることなんて何もないから、むしろなれなくて全然いいんだけど。

というより俺もナオに沢山教わってるんだからいっそ。


「ねぇナオ、」

「お前には師匠と呼ばれる筋合いはないからな。それより進むぞ、歩け。」

「はぁい。でも筋合いはあると思うけど。色々教わってるし。」

「お前に師匠って呼ばれたら背中がぞわってするからやめてくれ。」

「じゃあナオに嫌がらせしたいときにすることにするね。」

「やめろ。」


心底嫌そうな顔! って顔をするから、嫌がらせの時はこれにしよう。

実際に師匠と弟子って思われても仕方ないほどいろんなことを教えてもらってるわけだし。

で、それはそれとして。


「紺色の狼が出るのってもっと奥?」

「ん? あー、この辺でも出るには出るけど、まばらだな。このあたりだと赤い犬の方が多い。」

「そうなんだ。」

「あの辺から木の色がちょっと青っぽくなってるのわかるか? あれが目印だ。」

「あれから先が紺色狼の領域なんだね。」

「そういうこと。」

「あの、お二人とも。」

「どした?」

「なんでモンスターの名前、ちゃんと呼ばないんっすか?」


きょと、と目を瞬かせて首を傾けている。

あー、たしかに、赤い犬も紺色狼もちゃんとした名前あるもんね、英語とフランス語のミックスだけど。

それを俺たちは適当な感じで呼んじゃってるのは、まぁ違和感だとおもうけどさ。


「これには、その……深い事情が。」

「え」

「ねぇよ。」


誤魔化そうと思ったら一刀両断されちゃった。

あきれたような目と声でナオが言う。


「こいつカタカナの名前覚えんのくっそ苦手なんだ。」

「え、でも、」

「言いたいことはわかる。ルーってのが狼のフランス語だって知ってるような奴だし、紺色狼なんだからネイビールーにつなげるのは難しくないはずだってことだろ?」

「はいっす。」

「ところがなぜか、こいつにはそれができないんだ。」

「なんでっすか。」

「オレも知りたい。なんでだクオン。」

「俺も知りたいよ?」


でも覚えられないものはしょうがないじゃんか。

ルーはフランス語で狼だけど、フランス語で狼ってだけなんだもん。

ネイビールー? になったらそれは別の生き物の固有名詞だもん。

別物なんだもん。

と、言ったところで理解はともかく納得してもらえないだろうけどさ。


「まぁ、そういう理由でこいつにもわかる名前で呼んでるだけ。オレはちゃんとわかるから、アマレットさんは普通に呼んでくれていいからな。」

「りょ、了解っす。」


びし、と敬礼みたいにして頷く。

ナオのなにがそんなに琴線に触れたのかわからないけど、仲良くなるのはいいことだ。

青っぽい木のあたりまで来たら、三人で固まって戦うのかな。

でもそれだと狩れる数も少なくなるし、出番がなくなってつまらない思いをしたりさせたりするかもしれない。

多少ビックリする程度なら、俺一人で戦ってもいいかな。

ソードスキル教えるにしてもアバターの良い動かし方教えるにしても、ナオの方が武器も似てるし種族は一緒だし。

速く飛びたい! って言ってたから、アマレットさんも結構agi振ってるのかもしれないしね。

mndもそんなにって言ってたくらいだから、少なくとも防御型じゃないことは確かだと思う。


「あ、の、クオン……さん。」

「呼びにくい? さんつけなくていいよ?」

「いえ、その、ナオ師匠のことは師匠で、クオンさんはさん付けだとなんか、格下って言ってるみたいっていうか……私、クオンさんのことも、すごいと思ってて、でも師匠ではなくて!」

「まぁジャンルが違いそうだもんね。やってる武道そのものか、流派が違う感じ? 違うとこの人師匠とは呼べないよね。」

「あ、なんか似てるっす!」

「その感覚すごくわかる。別に無理して敬称つけなくってもいいんだよ。呼び捨てでもいいくらいだし。」

「それは、私の台詞っていうか! どうぞ呼び捨てにしてくださいっす。」

「少なくともナオは自分の弟子なんだから呼び捨てにするべきだよね。」

「飛び火。」

「サラマンダーだから火をつけるのは得意。」

「炎魔法使ったことないくせに。」


じっとりした目で俺を見つめる。

だって使い方わからないんだもん。

ナオはもう雷魔法使ってみたのかな。

どうやって発動させるのかまた教えてもらおうっと。

……うーん、やっぱり俺もナオに弟子入りしてるみたい。


「だったらアマレットさんの兄弟子になるのかな。」

「何がだ。」

「俺はナオのこと呼び捨てにするけどさ、」

「呼び捨て以外は気持ち悪いからやめろよ?」

「ゲームのシステムとかそういうジャンルで弟子っぽいし、一応年上だから、」

「無視か。」

「流派は違うけどナオの弟子ってとこだけ見たらアマレットさんの兄弟子になるのかなーって。」

「俺はお前を弟子に取った記憶はないんだけどな。」

「それならなんかしっくりくるっす! クオン兄さんっすね!」

「俺妹増えた。」

「お前が増やしたんだよ。つーかお前はそれでいいのかよ。」

「クオン兄さんと呼ばれる結果になるとは思ってなかったけど、別に……うーん、でもなんか強制してるみたいに見える?」


町中でクオン兄さんって呼ばれて、可愛い女の子にお兄さんって呼ばせて喜ぶような人だって思われたらやだなぁ、さすがに。


「その心配はねぇけど……どっちかっていうとお前兄さんじゃなくて姉さんだし…」

「髪の毛は長いけど。」

「突っ込みどころだよ。強制って言っても、本人が言いたくないことを無理やり言わせることは出来ないしな。」

「現実と同じだよね。脅迫とか方法はあるけど。」

「いきなり物騒なこと言うな。それに、クオンお兄ちゃんならちょっと怪しいけど、クオン兄さんならあんま色っぽい響きもねぇしいいんじゃねぇの。」

「ナオにクオンお兄ちゃんって言われると、それこそ怖気が走るね。」

「言うな。オレも自分で言って寒気感じたから。」


二人でぶるぶるっと背筋の寒さを振り落とす。

間でくすくす笑ってるアマレットさんは平和そうでうらやましい。

ずーっと長い付き合いの幼馴染にお兄ちゃんとか呼ばれたらすっごいぞっとするから、一度体験してみてほしい。

たとえそれがキャラクターの名前でも、ほんとにすっごくすっごく寒いから。


「さて、そろそろこの辺りでいいか。クオン、どうする?」

「とりあえず一人でいいかな。しんどそうだったら合流してもいい?」

「わかった。その時はメッセージ飛ばせ。その時は……討伐数満たしたときも、ここで待ち合わせな。」

「うん。」

「アマレットさんは一人がいいか? オレと来る?」

「師匠とご一緒させてくださいっす!」

「よかったね師匠、もてもてだね。」

「もててるのはオレの技術だ、師匠って言うな。」


さっさと行け、っていうように手をひらひらさせる。

あんまり奥の方に行ってたくさんの狼に囲まれても困るから、そう遠くへは行かないようにしよう。

あ、その前に魔法の使い方聞けばよかった。

うーん、でも相手が水魔法を使うなら、炎魔法は効きにくそうなかんじだなぁ。

ナオとアマレットさんの雷魔法はよく効きそうだけど。

やっぱり剣で戦うのがよさそうだ。

魔法ってどんな感じで飛んでくるんだろう。

音とか聞こえてくるのかな。

耳済ませてたら察知できたりしないかな……っと。


「つめたっ」


無理だった。

首筋に水滴振りかけられた感じ。

この冷たさは絶対ナオが言ってた狼の魔法だ。

問題はどこから飛んできたのかってこと。

後ろからだってことはわかるけど、狼の姿は全然見えないし足音もしない。

探しに行くしかないか……。

序盤のモンスターだし、魔法の射程距離だってそんなに広くないはずだ。


と、探しに出て、結構あっさり見つけた狼をさくっと倒して、また水滴かけられて、探しに出て、倒して、水滴で……と繰り返すこと、何回か。

向こうも順調に討伐が進んだのか、クエスト完了のログが流れる。

合流しなきゃ……と思ったところで、やっと気づいた。


「……帰り道、どっちだろ。」

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