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第十二話

場所を移して、おなじみになりかけてる東の森。

昨日別れた後もアマレットさんはこの森で狩りをしていたらしいから、慣れているところのほうがいいだろうって。

ちょうどこの森の赤い犬の討伐クエストも出ていたから、三人で受注してパーティを組む。

森の奥の方には違うモンスターも出るらしくて、その討伐クエストも受注。

速さを求めているらしいアマレットさんはナオの隣であれやこれやと尋ねていた。

戸惑ってはいるけどもともと世話好きなナオは楽しそうに話しながら進んでいく。

やがて森の入り口にたどり着いて、俺は一度鞘ごと腰から外した剣を抜いて、鞘だけ腰に戻す。


「クオン、お前短剣スキル取ったんだよな?」

「あ、うん、でも」

「アマレットさんは索敵スキル持ってるか?」

「はい!」

「クオンは索敵もってねぇんだよ、三人まとまって戦うことになるけどいいか?」

「俺短剣スキル削除」

「もちろんです!」


俺の話を聞いてくれない。

別に一人でも戦えるのに。

昨日だってアマレットさんに出会うまで一人で戦ってたんだし。

なんて言っても聞き入れてもらえないだろうなーってのはもうわかってるから言わないけどさ。


「アマレットさん短剣だよな?」

「はい。」

「オレ鉤爪だし、クオンだけリーチ長いよな……。」

「お店で短剣買ってこようか……? 一応スキル持ってるし。」


……いつかは削除するつもりだけど。

あー、でも、もしこの先三人で戦うことが多いなら、短剣にシフトしたほうがいいのかな。


「お前は長剣でいろ。」

「え」

「三人とも超近距離担当だとまずい。長剣でも十分近接武器だしな。」

「槍とかが長い武器?」

「あれは……近距離になんのかな……全体でみると。」

「この世界には魔法がありますもんね。」

「弓とか投擲とかもあるからな。」

「なるほど。」


アマレットさんにまで諭されちゃった。

だって弓矢はともかく、魔法はなんて使ったことないから頭になかったんだもん。

飛び道具だって、本職は違うのかもしれないけど俺はそんなに飛ばせないから、遠距離って感じじゃないしさぁ。


「まぁ奥に入るまでは多少離れてても問題ないだろ?」

「結構平気だよ。」

「アマレットさんはオレと一緒かクオンと一緒か一人かどれがいい?」

「俺索敵持ってないから個人的には俺と一緒はやめといたほうがいいと思うけど。」

「じゃ、じゃあ、ナオさんとご一緒させていただいてもいいですか?」

「おう、よろしくな。」


討伐対象をパーティで何体倒したかはずっとログで表示されてる。

赤い犬を倒した数がクエスト達成に足りるまでになったらこの森の入り口で合流しようってことになって、解散。

索敵スキルを使ったらどんな風に敵が来たって情報が来るのかはわからないけど、今のところは目と耳からの情報で対処できる。

剣を抜いてさえいたら赤い犬なんて敵じゃないね。

ざっくざっくと犬をポリゴンに還すこと少し。

討伐の指定数がもともと少なかったのもあって、俺たちはかなり早く合流した。


「奥行くか。クオンは奥の方行ったことないよな。」

「ない。」

「アマレットさんは?」

「すこしだけ……。でもまだソードスキルがちゃんと出せない頃だったから、すぐに帰りました。」

「そか。ネタバレしたほうがいい?」


てくてく歩きながらナオが言う。

ナオとアマレットさんはあんまり身長が変わらないから、兄弟みたいでほほえましいな。

色もなんか似てるし。

ナオの方が薄いけどどっちもきれいな金色。


「クオンは……まぁいいよな。」

「なにが?」

「話聞いてないやつが悪いってことで。出てくるのは狼みたいなやつだ。色は紺。名前はネイビールー。」

「また英語とフランス語混ざってる。」

「ルーってフランス語なのか?」

「多分。狼って意味だったと思うよ。」


正直国語や日本史は得意だけど外国語は良く知らないから、あってるか怪しいけど。

ネイビーが紺色だっていうのはさすがに間違ってないと思うけどさ。


「で、その狼なんだけど。水魔法使って来るんだ。」

「へぇ。」

「ちょっと水が飛んでくるってだけなんだけど。mnd振ってなくてもほとんどダメージはない。」

「……じゃあ別にいいんじゃ?」

「ただしちょっと遠くからいきなり来る。索敵持ってたら問題ないけど、お前ないからびっくりしそうだ。」

「……短剣外して索敵入れようか。」

「いやいいよ別に。びっくりするのが嫌だったら入れればいいけど。」


当たったところでダメージがないからか。

でもこの先は遠くから強い魔法を使ってくる奴らもいるんだろうし……。

早いうちに索敵スキルは取っておいたほうがいいかもしれないなぁ。

短剣だって使わないんだから削除しちゃっていいと思うんだけど。

なんかさっきから妙に、外そうとするのをナオに阻止されてるような、気がしないでもない。

気のせいかもしれないけど、特に急いで何かスキルを入れないといけないってわけじゃないから、とりあえずはおいておこうかな。


「アマレットさんはmnd振ってる?」

「いいえ全く!」

「最初はそうだよなぁ。強い魔法使って来る敵なんてなかなか出てこねぇし。PvPでも相手も強くないしな。」

「ナオ、」

「PvPってのはプレイヤーバーサスプレイヤー、例えばオレとクオンみたいに、プレイヤー同士で戦うこと。」

「そんなのあるの?」

「悪いアマレットさん、こいつゲームのことあんまり知らねぇんだ。ちょっと付き合ってやってくれ。」

「ごめんなさい。」

「いえいえこちらこそ、私も、たまにやったりはしますけどそんなに詳しくないですから……むしろ、一緒に聞けて助かります。」

「そう言ってもらえたら俺も助かります。」

「ありがとな。じゃあ続けるけど、ここみたいなフィールドは戦闘区域、町とかは非戦闘区域っていう……のはさすがに知ってるよな。」

「さすがに知ってる。」

「圏外とか圏内って言い方もしますよね。」

「あぁ。でも人によっては圏外って言って戦闘圏外、つまり町中って思う人と、非戦闘圏外、フィールドって思う人がいるから、どっちのつもりで言ってるのか確認したほうがいいけどな。」

「そっか、どっちの意味でも取れるんだ。」

「いつもパーティを組んでるやつらの間ではこう、って統一してる中で使うには短くていいと思うけどな。」

「なるほど……ありがとうございます、覚えておきます。」

「そんなかしこまるようなことじゃねぇけど。っていうか、今更だけど敬語じゃなくてもいいんだぜ。俺もこんなんだし。」

「たぶん年もそんなに変わらないしね。」


アマレットさんのアバターが実年齢と同じなら、という前提があってのことだけど。

でもそう外れていなかったのか、もしくはアマレットさんがその役になり切っているのか、こくりとうなずいた。


「ありがと……っす。」


んんん。

言葉に甘えてタメ口にしたいけどやっぱりそれも失礼なんじゃないかでも敬語を貫くのもかえって失礼な気がする。

という心の声が聞こえてきた気がする。

ナオがちらっと俺をみて、何もなかったように話を続ける。


「で、フィールドではプレイヤー同士でも戦える。」

「俺がナオにソードスキルうったらダメージはいるんだ。」

「町ではだめだけどな。それと、もちろんだけど戦ってどっちかが倒れたら、倒れた方はデスぺナがある。」

「ですぺな。」

「デスペナルティ―、っす。一定時間ステータスが極端に低下したり、もらえる経験値がすっごく減ったりする……っす。」

「そうなんだ……面倒だね。」

「それとは別にPvPやる方法もある。一つが決闘だ。」

「物騒な響きだけど?」

「じゃあデュエルにするか?」

「そういう問題じゃないと思うんだ。」

「例えばオレがお前にこういう申請を送るとする。」

「えっ」


言葉と共に、正面に四角い画面が現れた。

ナオさんから決闘を申し込まれました、って書いてあって、その下に受諾と拒否のボタンがある。


「可視化してくれ。」

「うん。」


いつもの動作で画面を見えるようにする。

同じような画面を前に出したナオが、アマレットさんにそれを見せた。

俺もナオの反対側に立って画面を並べる。

ナオの方には、クオンさんに決闘を申し込んでいます、の文と、一つだけ取り消すのボタン。


「これをな、クオン、受諾。」

「え、はい。」


言われて反射的に指が受諾ボタンを押していた。

俺とナオの間で、Duel!!という紫色の文字が激しく瞬く。

けど、俺とナオはアマレットさんを挟んで超至近距離にいたわけで。

目の前でそんな眩しい光がぴかぴかしたアマレットさんにはとんだ迷惑だっただろうなぁ。

俺とナオの画面は消えて、代わりに視界の端っこにちょっと大き目な数字が表示されている。

今は45。

一秒で一つずつ減っていく。

これがゼロになった時がデュエル開始、なんだろう、けど。

これどうしたらいいんだろう、どこかに取り消しボタンとかないのかな。

降参って言ったら終わりになる……?

でもなんか降参って言うのはこう、なにかに障るというか、端的に言うと降参って言いたくない。

そんな俺の心なんてしっかりわかってるんだろうナオが、ニヤリと笑う。


「せっかくだし一戦交えるか?」


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