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第一話

しき! あれ見たか? 昨日のコマーシャル!」

「音也……おはよう。」


四月中旬、某日。

小柄な体で転がるように勢いよく教室に入ってくるなり話し始めたのは、俺の幼馴染の瀬名音也。

鞄くらい下ろしてくればいいのに。

クラスが違うんだから、自分の教室素通りしてきたんだろうけど。


「おはよう、そうじゃなくて、見たか? 見たよな? コマーシャル!」

「Fairy Knight On-lineのこと?」

「そう!」

「面白そうだね。背景とか、妖精とか、きれいだし。」

「一緒にやろうぜ! 中間テストとか放り出してさ!」

「別にいいけど……先生来てるよ。」

「えっ」

「瀬名音也……桐生織……その話、あとでゆっくり聞かせてちょうだいね。」

「冗談! 冗談だって先生!」

「いいから瀬名は教室に帰る! 桐生はせめて髪を結ぶ!」


追い立てられて出ていく音也を見送りつつ、長い髪を結ぶ。

そりゃあ、背中の途中くらいまであるのは、男にしては長いってのはわかってるよ。

でも同じくらいの長さでも、体育じゃない限り女の子は下ろしてて怒られないのに、理不尽だ。

それに、テスト放り出そうって言ったの音也なんだし、俺まで怒られなくっていいと思うんだけどなぁ……。






Fairy Knight On-line

昨日発売が発表されたオンラインゲーム。

少し前に現実となったバーチャルリアリティ技術を駆使した、VRMMO。

それまでリリースされていたVRゲームとは一線を画す、「本当のVRMMO」を謳うゲームだという。

何が違うのかというと、まずビジュアルの精密さとフィールドの広さ、キャラクターのカラーや装備のカスタマイズの自由度、ステータスやスキルの豊富さ、それからなんといっても、空を飛べること。

Fairy、つまり妖精の名前に恥じず、キャラクターには翅が生えていて、その翅でゲーム世界の空を飛ぶことができる。

翅という実際の人間には存在しない器官を作り出すことはとても大変だった、らしい。

それでも空を飛びたい人はきっとたくさんいて、ゲームを作った人たちもその一人だったんだろう、とは、音也の言葉だけど。


「なにより織が喜びそうなのはこれだろー!」


先生から冗談混じりの注意を受けた休み時間の残り。

音也がFairy Knight On-lineの公式ホームページを映した端末を机に滑らせてくる。

そこで動いていたのは昨日のコマーシャルと、それに続く短いPV。

ゲームの広報キャラクターなのか、黒の妖精が喋っている。


「Fairy Knight On-lineでは、プレイヤーであるFairyがKnightであると同時に、FairyのKnightになってくれる子を呼び出すことができます!」


駄洒落のようなことを言って、黒い妖精は召喚!と片手を掲げた。

途端、空中に現れる黒の魔方陣。

そこからでてくる、もふもふの毛皮に包まれた足。

全貌を現す前に、どんな子を呼び出すか、はたまた呼び出さないかはあなたの自由!

Fairy Knight On-lineはこれからもどんどん情報を発信していきます!

という黒の妖精の台詞と共に動画は終わってしまったけれど。


「もふもふ……」

「だろ!?」

「もふもふしたい……」

「だとおもったよ!」

「音也、俺、これ、やる。」

「そーこなくっちゃ!」


マンガやアニメなら、にししし、と声が付きそうに笑って、音也は端末を取り上げた。

親指が滑るように動いて、誰かに連絡を取ってるみたい?

そういえば、さっきの翅の話といい、なんだか実際に聞いてきたかのような語り口調だったのは。


「音也……」

「ん?」

「もしかしてこれ、お父さんの?」

「お、よく気付いたな!」


音也のお父さんは、大手ゲーム会社でゲームを作ってる。

つまり、この満を持して発売されるゲームを作った一人が、音也のお父さんなのだと、そういうことだろう。

ちなみに音也自身もゲームクリエイターになりたいらしくて、日々文系である俺にはわからない勉強をしている。


「結構なー、世間で話題になると思うんだよ。だからそれを見越して小刻みにちょっとずつ発売していく予定らしくてさ。」


競争率凄まじいと思うんだよなー、と、端末から顔を上げずに音也は呟く。

音也が言うならそうなんだろう。

学校休んで並びにいかないとダメかな、五月はまだ寒いから、徹夜は嫌だなー……。


「よし! で、だ、織!」

「炬燵とか持ってったらいけるかなー……あー、コンセントないやー……」

「織ー?」

「うん?」


何を想像してたんだ、と苦笑する音也。

何って徹夜準備だけど、寝袋とかいるかな、テントとか。

もう少しあったかかったらキャンプみたいで楽しそうなのに。


「おーい。かえってこーい。」

「……ただいま。」

「おかえり。それで、親父ゲーム確保しといてくれるって。」

「え、ほんと?」

「おう。息子の親友料金で割り引きしとくぞ、」

「それは申し訳ないからやだ。」

「っていっても断るだろうから定価でな!」

「わーい、ありがとう。」


お父さんがいるときにお礼しに行くね、おう、なんなら今日でも良いぞ。

という会話に被せるようにチャイムがなって、音也は慌ててまたあとでな、と言い残して出ていった。


Fairy Knight On-line

きれいな世界ときれいな妖精。

ちょっと、楽しみになってきたかもしれない。


「いっぱいもふもふできたらいいなぁ。」



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