Day 2 火曜日
昨日の朝とは違い、今朝は浮足立っているのが自分でもわかる。あー、どうしよう、落ち着くのよ、私っ。
教室に入ると、ダンスパーティーの申し込み開始を明日に控え、男子も女子もなんかそわそわしていることに気づいた。なんで私は、昨日まで気づかなかったんだろう。思ったより私って、鈍感!?
そんなことを考えていると、シュウくんが教室に入ってきた。すると、同じ女子でも派手な人たちの集団が、シュウくんの周りに集まる。今まで、自分の心の中でひそかに好意を寄せていただけなので全く気が付かなかったが、よく考えればシュウくんはクラスの女子、もとい学年中の女子から人気がある。よく考えたらそれもそのはず、シュウくんは、スタイルが良く高身長、そして頭も良くて、何より優しい。女子たちから人気がないはずがない。幼馴染で小学生の時はよく一緒に遊んだシュウくんだが、中学生になって以降あまり話していない。あー、なんでいつの間にか、こんな、近くて遠い人状態になってしまったんだろう!
遠巻きに見つめていると、マリがやってきた。
「リゼ、おはよー。今日は元気がないね。」
「あはは、思ったよりシュウくんって人気があるなぁと思ってさ。私の出る幕なんて、あるのかしら。」
「リゼが弱気なんて珍しい、テストの時だって弱音を吐くのを見たことないのに。意外と恋愛は奥手?」
「奥手も何も、今までこういうことがなくて、どうしたらいいのかなぁ、って思ってさ。」
「じゃあ、初恋の人ってわけだ。応援してるよ。」
マリは、私をちょっと面白がっているようにも感じたけれど、まあ、応援してくれるというし、これからも相談に乗ってもらおう。
朝のホームルームが過ぎると、今日の1時間目は数学だ。確か、先週の章末テスト、今日返すって言ってたような……
隣のクラスの担任である数学教師が入ってくると、予想通りテストの束を抱え込んで入ってきた。
「今朝は先週のテストを返すぞー。優秀者表は、教室後ろのボードに貼っておくから見ておけよ。」
と飯尾話あるや否や、ブーイングの嵐が巻き起こった。前の席のマリが、
「リゼはいいじゃん、勉強できるんだから。」
と振り向いて話しかけてきた。
「そんなことないよ、今回難しかったからね。」
と、答えた。確かにマリの学力は平均といったところで、私は一応上位者に乗れる程度の学力がある。というか、外見もパッとしないし運動もそこまでできない私にとって、磨けるものが勉強しかない、といった方が正しかった。
授業後、学年上位20人の名前が書いてある上位者表を身に教室の後ろへと向かった。20位から目で追った。「柚子島リゼ」……あった、4位だった。自分の点数の割には、平均点が低かったこともあり、順位は予想以上だった。そのままトップ3も見た。お、今回の1位は、瀬野川修太、つまりシュウくん、だ。この時独り言のつもりでぼそっと、
「1位は、シュウくんか。私ももっと頑張らなくちゃ。」
と言ったら隣から、思わぬ返事が返ってきた。
「お、おう、ありがとう。」
なんと、隣にシュウくんがいたことに全く気が付いていなかったのだ。うー、顔から火が出るほど恥ずかしい。
独り言のつもりが、まさかシュウくん本人の前だったというのは予想外だった。でも、これで話すきっかけは掴めた。何とか話を続けなきゃ。でも、考えれば考えるほど話題が浮かばない。あーもう、こうなったら何でもいいや、口から出まかせだ。
「瀬野川くん、数学できるんだね。すごい。」
あー、何が言いたいんだ、私。どう続ければいいのさ、この話題。と思った瞬間、以外にもシュウくんが話題に乗ってきた。
「今回の2次関数こそ僕が1番だったけど、柚子島さんだって、この前の確率の単元テストは、僕より上だったじゃん。」
「あはは、たまたまだよ。それにしても、今回のテスト、難しかったね。いつもより10点くらい低くて、復習しなきゃって感じだね。」
「おう、そうだな。」
そういうと、シュウくんは去ってしまった。うーん、せっかく話題が続いたのに、成果なしか。小学生の時からの幼なじみだけに、余計誘いにくい、あー、どうしよう。
昼休み、いつも通りマリと話しながら弁当を食べる。
「で、1時間目の数学の後、優秀コンビで会話が弾んでたようですが、その後どうなったのですかお嬢さん。」
相談にのるというより冷やかしている感も否めないが、その軽いノリこそがマリの良い所。「優秀コンビって。いやー、今回は点数が低めだったから、お互いに復習しなきゃ、って話をしただけ。」
「やっぱそれだけかー。それよりダンスパーティー、どうするの、明日から申し込み開始なんだよ、金曜日までだけど、シュウくんが先に誰かと申し込まれたらアウトだよ、大丈夫なの、そんなに悠長に構えて?」
「あ……」
この後私は、10秒程度、固まっていた。しまった、金曜日までにと考えていた自分が浅はかだった。もう、こうなったら神頼みをしつつ、次のプランを練るしかなかった。
続く