シネマ・イン・HS!!
【シネマ・イン・HS!!】
・明宮 芥[男]
・照富士 柊[女]
・大路 朱音[女]
・淺内 兼次[男]
・榎木 具雅[男]
・長谷部 響[女]
・佐文字 ほたる[女]
・雪村 カナタ[男]
[Act.01]not / Enjoy・ザ・文化祭!
[Act.02]有志でない勇者達
[Act.03]ハチコロビ
[Act.04]Calling!!
[Act.05]景、時間は無慈悲に流れ出す
[Act.06]TRUE High.-show time-
[Act.07]Ending・ザ・文化祭。
音:学校のチャイムが入る。ガヤガヤ音
照upホリ:橙色の空っぽい感じ
明/大/淺/雪が箒と塵取を持って掃除をしている。しかし、大路はスマホを弄っている
大路「はぁー、もうっ……(イライラしている)」
淺内「~♪ ~♪」
淺内が箒を持って空気を読まず歌っている
他の二人は大路を避けて掃いている
大路「ああぁ、もうっ!(さっきよりイライラ)」
淺内「~~♪ ~♪!(歌が盛り上がっていく)」
一瞬空気が停止するが歌&掃除続行。
大路「あぁぁあぁ! もうっ! アンタらっ!」
もう一度空気が停止するが、すかさず淺内謝罪。
淺内「すいませんでした!(スライディング土下座)」
大路「アンタじゃない!」
淺内「~♪」
大路「歌い続けるな!」
淺内「(一瞬ビクッとする)……はぁ。俺の歌のせいじゃ
ないってなら、なんでイライラしてんだよ」
大路「なんでって、一つしかないでしょ! 文化祭よ、文化祭!」
淺内「文化祭がどうしたってんだよ。高校生活最後の文化祭ってだけで、そこまで騒ぐようなことじゃな いだろ?」
榎木「――(振り向き、ぼそっと)後夜祭」
大路「そう、後夜祭! あのハゲ、『今年は最後の文化祭なので、せっかくだから私たちのクラスは後夜 祭は絶対に出ましょう』とか言っちゃってさぁ」
淺内「あぁ、確かに言ってたなぁそんなこと。後夜祭って有志の奴が集まってやるものなのにな」
大路「しかもあのデブ、『自ら進んでやる子が居るとは思わないので、先生がセンスの有りそうな子を勝 手に選びました』とかほざきやがって!」
榎木「――(振り向き、ぼそっと)自分勝手」
淺内「まぁ、自分勝手だとは思ったけど。で?」
大路「で? じゃないわよ! それに選ばれちゃったのよ! 私も、アンタらも! 文句が無い方がおか しいでしょ! あぁ、もう、ナナとユキと一緒に回るはずだったのに~」
榎木「――(振り向き、ぼそっと)不本意」
明宮「まぁ不本意なのは分かりますけど、今さら抗議しても無駄だと思いますよ」
淺内「だよなぁ。ウチの担任一度決めたことは曲げようとしないからなぁ」
大路「なによ明宮。アンタ、後夜祭に出るメンバーだって名前呼ばれたとき、一番嫌そうな顔してたくせに」
明宮「それは大路さんの見間違いですよ。選ばれた全員、先生に名前呼ばれたとき嫌そうな顔してました」
大路「全員じゃないわ(淺内を見ながら)」
明宮「あぁ、淺内くん……」
淺内「え、オレ?」
榎木「――(振り向き、ぼそっと)名前呼ばれたとき、一人だけすごいテンション上がってた」
淺内「逆になんで嫌なんだよ。目立てるだろ?(舞台中央に)目指すは武道館! その踏み台に丁度いい舞台だろ。まさに、俺の為に用意されたステージといっても過言でもないっ!」
大路「ア・ン・タが、武道館行って何するの。嵐のニノ君とかがライブするなら行くけど、アンタのソロライブなんて豚が顔認証する価値も無いわよ」
淺内「おいおい、将来のハリウッドスターにそんなこと言っていいのか?(客席に向けて決めポーズ)」
(音:沸き上がる歓声)
(照:単サスorピンスポ?淺内を狙う。Lowホリ:明るい色)
大路「どうなってんのこれ? 明宮、アンタ止めなさい よ」
明宮「無理ですよ、こうなったら止められません!」
淺内「今日は皆、来てくれてありがとうっ!」
淺内、一人で盛り上がっている。その間、明/大は教室の端に避難する。ジェスチャーで、榎木にも避難するように伝えるが、榎木は箒を持ったまま動かない。
淺内「それじゃあ早速聞いてくれ! 俺のウルトラソウルをっ!」
音:B'sの『ウルトラソウル』~♪
この間も明/大、ジェスチャーするも、榎木動かず。
淺内「悲しみを知り~♪(箒をギター代わりに)」
榎木「(急に歌に乗っかる)一人で泣きましょう~♪」
淺/榎「そしてーかーがやーくウルトラソウッ!」
(Hey!!と同時に淺内の箒が真っ二つに折れる)
(照明、元に戻る)
(淺/榎、ゆっくり明/大を見る
→明/大、折れた箒を指さす
→淺/榎、折れた箒を指さし、ゆっくりと振り向く)
淺内「俺のスタンドマ――箒がぁあぁあああ!」
(淺内の悲痛な叫び声で、空気の流れも元に戻る)
大路「はぁあ、バッカらし(鞄を持ってくる)」
明宮「大路さん、まだメンバーが揃ってませんよ」
大路「どうせ誰も来ないわよ」
榎木「――(ぼそっと)みんな帰った」
大路「ほら、榎木もこう言ってるんだし」
明宮「ていうか、居たんですね榎木くん」
大路「さっきバリバリ乗ってたじゃない」
榎木「(頷く)」
明宮「あ、あのB'sな感じな人でしたか、てっきり別人かと――」
(大路、明宮を肩で押しとばす感じで教室を去ろうとする)
明宮「帰るんですか?」
(大路、扉の一歩手前で明宮に振り返る)
大路「当たり前でしょ。全員揃いもしないし。そんな気分じゃないし。――こんなんで、最後の文化祭、楽しめるわけないじゃない」
(大路、苛立ちながらピシャリと扉を閉める)
暫く、間
明宮「楽しめないって……楽しむためのイベントなのに。それに、僕だって好きにやってるわけじゃないんだから――」
榎木「――新学期早々、いい迷惑」
明宮「榎木くんの言う通り、ホント良い迷惑ですよ。でも、仕方ないことだと思います。今さらメンバーを変えてもらうわけにもいきませんし」
明宮「(淺内を見ながら)やる気の無い人に変わるより、まだマシですよ(鞄を用意し始める)」
榎木「――明宮、帰る?」
明宮「えぇ、今日のところは無理そうですし。ここで無駄な時間を過ごすより家で案を練った方が堅実だと思うので――っと、それじゃ、また明日の放課後にでも」
(明宮、教室を去っていく。それに続くように、急いで榎木も帰る準備をして教室を去ろうとする。淺内と目が合う)
榎木「――そして輝く、ウルトラソウル(キリッ」
淺内「オーマイ……マイ、スタンドマイッ!」
(照:舞台FO)
[Act.02]有志でない勇者達
(音:学校のチャイムが入る、ガヤガヤ音)
(照:佐文字と雪村ネライ)
(雪村、片手で顔を覆っている。禍々しいオーラが滲み 出る)
(音:コーラスっぽい荘厳な音楽)
雪村「それから月が沈み日が昇りし翌日。積み重なりし六段のカルマから解き放たれた8人の選定者は」
佐文「いつも通り六時限の授業を終えた8人の後夜祭メンバーは」
富士「(暗くなってる中、動き回りながら)あの、」
雪村「ここに集い、今控えたる午夜の聖戦に迎えたるための円卓へ」
佐文「教室に集まって、三週間後の後夜祭に向けての準備をしようとしていたのだが、」
富士「あのー」
雪村「右手には混沌の女神ケイオス、左手には全能の神エクスゼス、その威光を持って契りとす!」
佐文「そのメンバーの半分は委員会に行ってしまい、残された我々は全員が揃うのを待っていたのであっ た!」
富士「あーのーっ!」
(照:元に戻る、音:BGM CO)
富士「……あの、気は済みました?」
佐文「うん!」 雪村「うむ!」
富士「ならいいけど、とりあえず皆が委員会から戻ってくるまでに後夜祭で何やるか候補ぐらい出しておきましょうよ」
長谷「そうだぞ。何もやらないんだったら、俺は帰っからな」
注意された後、雪村と佐文字が厨二的なポーズの練習をしている
富士「言っておくけど、響ちゃんもだからね」
長谷「長谷部だ! 下の名前で呼ぶなって何度も言ってるだろ」
富士「そんなに下の名前で呼ばれるのが嫌なの? 可愛い名前だと思うけど」
長谷「(そっぽを向いて)可愛いから嫌なんだよ――そういってる照富士は考えてるのか?」
富士「ちゃんと考えてるよ、ホラ(紙を見せる)」
長谷「ん。おい、雪村! 佐文字! いつまでも馬鹿なことやってないでこっち来い!」
雪村「我が名を呼ぶ声が」
佐文「私の名前を呼ぶ声が!」
長谷「それぐらい翻訳しなくていいから! あーいや、俺が両方呼んだのか、面倒くせぇなぁ……」
富士「ほらほら、響ちゃん、続き続き!」
長谷「あぁ、そうだった。えーと」
佐文「伝説のロックバンド?」
雪村「〝何か出し物〟とも書かれているが」
長谷「清々しいほどの適当さだな」
富士「適当じゃないわ。これくらいしか思いつかなかったのよ。あと、一番現実的なのは」
雪村「ふむ、戯曲か」
佐文「なるほど、戯曲ね」
長谷「おぉ、ぎきょくか。随分変わった物を――なんだそれ、喰えんのか?」
富士「はぁ……二人が難しく言うせいで響ちゃんが分かってないよ。戯曲ってのはつまり劇ってこと」
長谷「なんだよ、それなら最初からそういや良いのに」
佐文「でも、劇ってワタシ達の学年のほとんどがやるんじゃない? ウチのクラスもそうだし」
雪村「だからこそ、では無いのだろうか」
長谷「おい厨二村、そりゃどういうこった」
雪村「我が真名は雪村なのだが」
富士「ほぼ全クラスがやってるから、全部見たくても一日二日で回りきれるわけがないでしょ? 逆に中に はクラスでやる劇を全く見ない人もいるかもしれない」
佐文「見てない人と見足りない人の両方を狙い打ち(ズッキュンのマイム)するってわけだね!」
富士「まぁ、だいたいそんなとこなんだけど」
佐文「でも劇って一番めんどくさそうじゃない? 台本だとか役者だとか舞台のセットだとか」
雪村「うむ、一理あるな」
富士「ネックなのはそこなのよね……」
長谷「おい、厨二村」
雪村「厨二村では無い。スノウヴィレッジヴァンガード雪村だ」
長/佐/照「…………」
雪村「ス、スノウヴィレッジヴァンガード雪村だ」
富士「(セリフにかぶせるように)とりあえずフィーリングでやってみない? どうしても無理そうだった ら別の案にかえましょ」
長谷「そうだな、まず動かなねぇと始まらないしな」
佐文「人数も少ないし全員でやろうよ」
長谷「あー、俺はそういうのはからっきしダメでさ。今回は見てる側じゃダメか?」
富士「そうね、客観的に見る人も必要だと思う」
佐文「それじゃ三人だね」
雪村「設定はどうするのだ」
富士「そこは響監督に任せるわ」
長谷「へ? 俺がか。んーじゃあ学園モノって設定で」
佐文「なかなか乙女チックな設定だねー」
長谷「う、うるせぇ! 何となくだよ何となく!」
雪村「名前以上に可愛いではないか」
長谷「……」
雪村「許してください」
富士「はいはい皆、やるから位置ついて」
4人、それぞれ散っていく。
富士「全員、位置についた?」
長谷「おう。ただ見てるだけなのになんか緊張してきたな」
佐文「ついたよー」
雪村「雪村カナタ、ここに」
富士「じゃ、行くわよ……3、2、1、アクション!」
照:教室中央を明るく。
佐文「ちょっと、待ってよ!」
雪村「止めるなっ! 僕は行かなければならないんだ」
富士「どうしたの佐文字さん、そんなに騒いで」
佐文「照富士さんも雪村に言ってよ!」
雪村「言われたところで、僕の気持ちは変わらないぞ」
富士「とにかく、何があったのよ」
雪村「何を言われようと、僕は保健室に行かなければならないっ」
富士「保健室? 本人が行きたいって行かせてあげればいいじゃない」
雪村「仮病を使って保健室に行くっ!」
佐文「絶対にダメよそんなこと!」
富士「け、仮病? 確かによろしくないわね。もうすぐ授業も始まるし。幾ら嫌気がさしたって学生の本 分は勉強なんだから、サボっちゃダメでしょ?」
佐文「生徒と教師の恋愛なんて絶対に上手くいかないに決まってるわ!」
富士「いや、ツッコミ違うでしょ!」
長谷「コラァ、なにつっ立ってんだ。授業始めるぞー」
富士「ひ、響ちゃん見てるんじゃなかったの?」
雪村「長谷部先生!」
長谷「なんだスノウヴィレッジ。お前も早く準備して席につけー」
雪村「ちゃんと聞いてください! 僕は仮病をして保健室の志賀先生に会いに行きます!」
富士「そこで仮病って言っちゃう方がよっぽどダメでしょうが!」
佐文「先生も言ってください、生徒と教師の爛れた関係だなんてけしからんって!」
富士「さっきと主張違ってるよね!?」
長谷「雪村ッ、よく聞け」
雪村「ひゃ、ひゃいっ」
富士「そりゃ先生も怒るわよ」
長谷「志賀先生はな、四歳以上年下の異性は教え子としてしか見れられないって言ってたんだよ!」
雪村「そんな、バカな」
長谷「悔しいかもしれないが、諦めろ。叶わない恋だと分かった今、お前に出来ることは教科書の方程式 を解くことだけだ」
雪村「フ、フフ……フハハ……」
佐文「雪村?」
雪村「先生、貴方は今『お前に出来ることは教科書の方程式を解くことだけだ』、そうおっしゃいましたね?」
長谷「そ、そうだが。それがどうした」
富士「何この展開?」
雪村「間違っているんですよ先生。僕が今できる本当のこと、それは志賀先生の心の方程式を解くことな んですよ(キリッ」
照:舞台の明かり戻る
委員会を終えた榎木が教室に入ってくる。4人、榎木に注目する。
雪村「え、榎木殿……」
榎木「『僕が今できる本当のこと、それは志賀先生の心の方程式を解くことなんですよ(キリッ』」
佐文「バッチリ聞かれてたーっ!」
長谷「ちょ、アイツ逃げるぞ!」
教室から逃げようとする榎木を必死にカバディ
富士「待って榎木くん、これには深い事情があって」
佐文「かくかくしかじか」
雪村「しかじかうまうま、なのでござるよ」
榎木「なるほど、後夜祭で劇をするのか」
富士「榎木くんはどう思う?」
榎木「悪くない案だとは思う。けど、さっきの奴は微妙だった」
長谷「まぁ、さっきのはお遊びみたいなもんだったからな。出来が悪いのは仕方ねぇよ」
佐文「あ、そうだ! 榎っちも来たんだし今度は4人でやろうよ」
富士「結局全員でやることになりそうだけど……」
雪村「では、引き続き長谷部殿は監督役で、我らのフィーリング即興劇を見ててもらうでござる」
榎木「さっきのやつ、バリバリ長谷部が出てた気がするんだけど」
富士「気にしたら負けよ」
佐文「準備、準備ー!」
富士「それで響ちゃん、今度の設定はどうするの?」
長谷「とても綺麗なストラップを拾った少年が、その持ち主の少女を捜し出す話、とかはどうだ」
佐文「おぉ、響っち、さっきのよりストーリー性が増してきたね」
長谷「ま、監督だしな、この位考えないと務まんねぇよ。それじゃ、位置つけー」
全員「オッケー」
再び、五人教室に散り散りに。
長谷「いくぞ。3、2、1、アクション!」
榎/佐「はーいどもども、今日はよろしくお願いします」
富士「ちょっ、ちょっと待って!」
長谷「何だよ、始まったばかりだろうが」
富士「いや、色々とおかしいところが」
榎木「(構わず続ける)最近ですね何と道端で宝石を拾ったんですよ綺麗な青色の宝石でしてね。ネックレ スみたいに首にかけられるようになってるんですよ」
佐文「質屋に入れたら高くつきそうですな」
榎木「いや入れませんがな」
佐文「違いますよ、それぐらい大切なものじゃないかってことです。それで、その持ち主さんは見つかっ たんですか?」
榎木「持ち主っぽい女の子は見つけて声は掛けられたんですがその後がもうてんやわんやで。じゃ、ちょ っと持ち主の女の子の役をやってもらえますか」
佐文「女の子の役ですね、はいはい分かりました」
榎木「お嬢さん、流行りの宝石はは好きですか?」
佐文「そんな物いらない、早くパズーに会わせて!」
榎木「君が協力してくれるならあの少年を自由にしてやっても良い……リュシータ・シバサキ・ウル・ラ ピュタよ」
長谷「ムスカっ、シータを返せっ!」
榎木「パズー君、君のあほ面には心底ウンザリさせられる」
佐文「――っ(一瞬の隙に宝石を取り戻そうとする)」
榎木「くっ、放せっ(振り払う)」
佐文「きゃっ!(宝石がこぼれ落ちる)」
長谷「シータっ!(宝石と振り落とされたシータを抱える)」
長谷部、佐文字をつれて教室の端に連れて行く
しかし榎木に追い詰められる
榎木「どこへ行こうというのかね」
長谷「……シータと直接話がしたい」
榎木「三分だけ待ってやる」
長谷「シータ、あの呪文を教えて」
佐文「でも」
長谷「大丈夫、僕も一緒に唱えるから」
榎木「時間だ、答えを聞こう」
ちょうど淺内が教室に入ってくる
長/佐「――バルス」
照:up lowホリ強い水色、明滅
淺内「目が、目がぁあぁぁああ!」
富士「ちょっと、いい加減にカットカット!」
淺内「あぁああぁああぁぁあぁ!」
富士「淺内君は何であのタイミングで教室に戻ってくるのよ!」
雪村「いやいや、今回は一回目の時より格段にクオリティが上がってたでござるよ!」
長谷「即興の劇にしては凄かったぞ! なんかこう、やってる側も役に入り込めたっていうか」
富士「だから響ちゃん見てる専門じゃなかったの!?」
佐文「ワタシもなんかこうバルスって叫んだときに熱くこみ上げるものがあったよ!」
淺内「俺も途中参加だったけどセンスあると思うぜ」
榎木「劇、行けると思う」
なんだかんだ盛り上がってる中、明宮がガラッと教室に入ってくる
明宮「いや、アウトだろ!」
長谷「なんだ、明宮も戻ってきてたのかよ」
明宮「さっきから廊下にいましたよ……」
淺内「俺は明宮と帰ってきたからなー。俺が居たときにはもう居たよ」
佐文「淺内くんも明宮くんも後夜祭の出し物劇にしようよ!」
淺内「俺は反対はしないぜ。演技力もハリウッドスターに求められるからな」
明宮「僕も、劇は悪くないと思うけど……」
榎木「けど?」
明宮「まとめ役とかは誰がやるんです?」
長谷「監督なら私がやるぜ!」
富士「響ちゃんは前科が二回もあるから却下で」
長谷「んだよケチだな」
佐文「監督さんよりも舞台のセットを作った方がいいんじゃない? せっかく土木仕事のお手伝いしてる んだから、木材の加工とか得意なんじゃない?」
雪村「それがいいで良い。ちなみに我はこのような性格ゆえ、監督は辞退させていただく」
榎木「右に同じく」
淺内「ハリウッドスターはあくまで俳優だからな、俺は役者に徹させて貰うぜ」
富士「と、なると私か明宮君なんだけど、どうする?」
明宮「あー……」
全員、明宮の方を見る
明宮「……僕、ですか」
[Act.03]8コロビ
明宮「今日も大路さんは来ないですね」
淺内「アイツ、後夜祭のメンバーに選ばれた日にも散々愚痴言いまくってたし、あんまりやる気無いんじ ゃない?」
長谷「愚痴言いたくなる気持ちも分からなくはないんだけどな。俺も名前呼ばれたとき、は? って思っ たし」
佐文「ワタシも最初に選ばれた時はビックリしたなー」
榎木「そういえば、後夜祭に出るメンバーが決められた日に、4人は先に帰ってた」
富士「あぁ、その日はちょっと家で考えようと思って」
雪村「我は風が泣いていたのでな」
佐文「ワタシは、その、夏休みの課題がまだ提出しきれてなくて……」
長谷「俺はあの日親父の仕事の手伝いがあったな」
明宮「仕事の手伝い?」
富士「あぁ、知らない人がほとんど響ちゃんの家は土木系の仕事をしてるのよ」
長谷「そんな言いふらすことでもないしな」
雪村「なるほど、そういう家柄だから長谷部殿は男勝りな性格になったのでござるな」
佐文「中身は乙女だけどねー」
長谷「うるせぇ!」
榎木「必死に否定するあたり、乙女だと認めてるようなものだ」
大路、教室に入ってくる
明宮「あ、大路さん、来てくれたんですね」
富士「これでようやく8人全員揃ったのね」
大路「何か勘違いしてると思うんだけど、別にウチは後夜祭とかそういう面倒臭いのに首つっこむつもり で来たワケじゃないから」
雪村「どういう、ことでござるか、大路殿」
大路「大体分かるんじゃない?」
長谷「お前、後夜祭のメンバーから抜けるって言い出すんじゃないだろうな」
大路「もしかしなくてもそうよ。それとも何? アンタ達好き好んでやってるわけなの。それはそれはご 苦労様」
淺内「そんな言い方はあんまりじゃないのか大路」
大路「何よ目立ちたがりや」
淺内「うっ(三角座り)」
雪村「他人を誹謗中傷するのはお門違いでござるよ!」
大路「何よ厨二病」
雪村「うっ(三角座り)」
長谷「あの、これいじょう三角座りを増やすのはやめてくれよ」
大路「つっかかってきたのは向こう側よ」
長谷「いや、まぁそりゃそうだけどさ……」
佐文「大っち、本当にやらないの」
大路「やらないわよ」
明宮「幾らなんでも勝手が過ぎますよ」
大路「説教なんて聞きたくないの説得しようとしても無駄だから――もう用も済んだしウチは帰らせても らうわ。あのハゲにはよろしく伝えといてー」
明宮「待ってください!」
大路「言いたいことがあるなら早くしてくれない? ウチ用事あるんだけど」
明宮「その、なんというか、不本意にも監督になってしまった責任があるので、僕は大路さんを引き留め ないといけないんです」
大路「監督? アンタが?」
富士「そうよ。私と淺内くんと雪村くんが役者、響ちゃんが舞台美術、ほたるちゃんが音響、榎木くんが 照明、明宮くんが監督」
大路「そこまで決まってるなら、もう他にやることないでしょ。ウチが居なくても大丈夫じゃない」
富士「まだ話は終わってないわ」
大路「……はぁあ――何? まだなにか言い足りないわけ? 説教でもするの?」
大路、持っていたバッグを下ろす。凄むような感じで。
大路「この際だからハッキリ言っておくけど、ウチはアンタらのことが嫌いなの。だから後夜祭もクソも ないワケ。アンタらが乗り気だろうがなんだろうが関係なく、ウチは後夜祭には絶対に出ない。高 校最後の文化祭を削ってまでやりたくない。アンタらも嫌なら止めればいいのよ。そっちの方が有 意義な最後の文化祭を楽しめるわよ」
富士「あら、さすがのクラスの女王様といえど逃げるときは逃げるのね」
大路「は?」
雪村「照富士殿! その発言は日にありとあらゆる油を注いでるのと同義でござるよ!」
富士「だって、今の話を聞いても私の耳には、朱音ちゃんが後夜祭できませんって言ってる言い訳にしか 聞こえなかった」
大路「そんなはず無いでしょ!」
富士「じゃあ証明してみなさいよ! 朱音ちゃんの薄っぺらいプライドなんかじゃないって、逃げてるん じゃないって!」
大路「そこまで言うなら今に見てろし、ウチに出来ないものなんてないんだから……あとで泣いたってウ チは知らないからね! 明宮、ウチは何すればいいのよ」
明宮「え、えと。あと衣装集めと演出くらいしか考えてないです」
大路「衣装集めと演出なんてウチのためにあるような仕事じゃない! トレンドばっちり抑えたオシャレ なコーデ考えてやるわよ!」
照:少し暗くなる。雪村ネライ
榎木「それからというもの、毎日は大変だった」
照:元に戻る
雪村「あかまみまみあおまみまみきまみまみ(キリッ」
富士「雪村君、いくら何でも噛みすぎでしょ」
淺内「隣の竹垣に竹立てかけた(ドヤァ」
榎木「明宮、照明のQシート修正加えた。一度目を通して欲しい」
明宮「さすが、仕事が早いですね」
佐文「明宮くん、ここでBGM流したいんだけど」
大路「一応カタログ持ってきたわよ」
明宮「い、いっぺんに来られても困りますよ!」
長谷「どうよ! 一週間で作り上げたみごとな舞台装置だぜ!」
全員「おぉー(拍手)」
照:雪村ネライ
榎木「こうして、俺たち8人の後夜祭メンバーはようやくにして真の意味で揃い、後夜祭に向けて意識を 高めさせて言っていたのだった。しかし、すぐそこに迫る闇に、我々はまだ気づいていなかったのだった」
[Act.04]Calling!!
長・大・佐・淺・明・榎の順に教室に入ってくる
淺内「はぁーあ、ようやく今日も授業が終わった~」
明宮「授業が終わっても後夜祭の練習がありますよ」
淺内「あー、そうだった。でも、今日照富士熱出して休んでるじゃん。練習どうすんの」
明宮「むー、今考えてる最中です」
一番最後に教室に入ってきた榎木、淺内の元に駆け寄る。
榎木「淺内、先生が呼んでる。今すぐ来いって」
淺内「へ、俺が?」
大路「アンタ、また何かやらかしたの?」
淺内「またってなんだよ、またって! 俺は何もしてないからな」
長谷「大路に構ってないでさっさと行ったらどうだ。セン公待ってんだろ」
淺内「そうだな、んじゃ行ってくるわ」
榎木「淺内、」
淺内「なんだよ榎木、まだ何かあるのか」
榎木「荷物も一緒に持ってこいって」
淺内「カバンも? なんでだろ」
淺内、首をかしげながらもカバンを持って教室から出て行く。
佐文「淺内くん帰っちゃうのかなー? ん、どうしたの朱音ちゃん、そんな考え込んで」
大路「なんか変ね……」
雪村「うむ、さすがの我を違和感を憶えたぞ。もしや、呼び出しと称し、学校の闇を見てしまった淺内殿 を(首を切るマイム)消すために」
大路「そんなことあるわけないでしょ」
長谷「でも確かにオカシイよな、普通呼び出しに荷物も持ってこいなんて言われねぇよ。おい榎木、ウチ のセン公他にも言ってなかったのか?」
榎木「何にも、ただ『今すぐ淺内を呼んでこい、荷物も持たせて教務室に来させろ』ってだけ」
長谷「ますます怪しいな」
榎木「あっ」
佐文「何か思い出した?」
榎木「いや、もう文化祭まで後二日だから机も椅子も教室から出さないと」
大路「なんだ、淺内関連のことじゃないのね」
長谷「とりあえず俺、セン公に淺内のこと聞いてくる」
長谷部、教室から出ていく。
雪村「しかし、榎木殿の言う通り机と椅子をこのエリアから撤去しなければならないのは事実」
榎木「残ってるのは俺たち後夜祭メンバー8人分の机と椅子」
大路「8人が自分で自分の机と椅子を持てばいい話だけど、生憎今は6人しか居ないし……やっぱり、8 人じゃないと足りない感じがするわね」
長谷「ただいまっと」
榎木「淺内は?」
長谷「それなんだけど、アイツあのまま帰ったらしいんだ。ケータイにも連絡とかきてないか?」
佐文「今のところは全くだね」
雪村「明宮殿、今日はどうするでござろう役者が二人欠けてるでござるが」
明宮「あっ、あぁ、とりあえず、今日は一回全体で通して、軽く反省した後解散するという感じで」
長谷「(ヒソヒソ話っぽく)明宮、どうしたんだ。淺内が居なくなってからボーッとしてるけど……あいつ も熱か?」
雪村「きっとお二方が心配なのでござろう」
榎木「なんだかんだ言って、明宮も心配性だから」
大路「あの二人って後夜祭に向けてかなり積極的だったからね……ウチが言える立場じゃないかもしれな いけど」
明宮「ほら、始めますよ」
チャイムが鳴るまで練習風景のマイム
照:Upperホリ 水色→オレンジ lowホリ 無色→暗い色
音:18:00のチャイム
大/長「おつかれさまー」
榎木「明宮、先帰ってる」
大/長/榎が教室からバッグを持って出ていく
雪村「明宮殿、ちょっと」
明宮「ん? どうかしたんですか」
雪村「いや、今さらながら明宮殿の連絡先を存じ上げておらなかったので、せっかくの機会だし交換して おこうと考えてな(スマホを取り出す)」
明宮「それにしても急ですね(スマホを取り出す)」
雪村「別に我のコミュ力が低いからこんな空気の読めないタイミングで連絡先を交換しようと言い出した のでは無いのだ」
明宮「はぁ」
雪村「明宮殿は最近少しばかり無理をし過ぎているように思えてな」
明宮「無理、ですか」
雪村「照富士殿もまた、根を詰めすぎたせいで熱を出したようにも思える。お主もそうなる前に、我ら仲 間に相談すべきだ」
明宮「雪村君……」
雪村「ま、要約すれば構って欲しいということなのだがな!」
明宮「何だそういうことですか」
雪村「フハハハ! ではまた、輪廻巡りし翌日に」
明宮「あぁ、また明日」
雪村、教室から去っていく
明宮「雪村君があんなキャラだったとはなんか意外だったな。
しっかし、照富士さんは大丈夫なんだろうか。
いつも平気そうだったのに急に熱を出すなんて普通じゃないし……淺内君も心配だし……」
音:明宮の電話の着信音
明宮「ん? こんなタイミングに電話か、誰からだ?――(電話に出る)はい、明宮です」
照:舞台上、雪村ネライ FO
雪村「ククク……素晴らしい、実に素晴らしい! まさか本当にのこのこと罠にはまりに来るとは」
明宮「あの、どなたですか」
雪村「我が声、我が名を忘れる訳があるまい」
明宮「あなたのことは知りませんけど、あなたと同じような言動をする人間は知ってますよ」
雪村「それはいと面白き! 貴様の言う戯れ言が真ならば世界は二度目のラグナロクへと」
雪村、虚しく一方的に電話を切られるが正座して改まった姿勢で電話をかける
音:二度目の着信音
明宮「はい、明宮ですけど」
雪村「あの、雪村カナタと申す者ですが、先ほどは大変申し訳ございませんでした、少々悪ふざけが過ぎ まして。待ってください切らないでください」
明宮「あの、今どこに居るんですか」
雪村「無論、昇降口の前だが?」
明宮「はぁ、それで用件は」
雪村「来たる神の信託、その欺瞞と偽善に満ちた」
明宮がちゃ切り
音:三度目の着信音
雪村「明宮殿、話の途中で電話を切るのは少々横暴では無いだろうか?」
明宮「おかけになった電話番号は、電波の届かないところにあるか、電源が入っておりません」
雪村「む、繋がらなくなったか」
明宮「ご用件のある方は、発信音の後にお名前とご用件をお話ください」
雪村「むぅ、せっかく電話番号を交換したのだから電話で会話を楽しもうと思ったのだが……」
照:舞台上、雪村ネライ FO
明宮、深く溜め息をついて再び歩き始める
音:四度目の着信音
しかし、明宮、数秒電話に出ずに無言でガチャ切り
音:五度目の着信音
明宮「"あ"ぁ"あ"ぁ!(電話に出る)はい、明宮ですけど!?」
淺内「え、何でお前そんな荒れてんの」
明宮「そ、その声、淺内くんですか?」
照:舞台上、淺内ネライ FI
音:駅のホームのガヤガヤ音BGM
淺内「おう、それより繋がって良かった。ずっと話し中になってて繋がんなくてさー」
音:BGM CO
淺内「悪い、明宮。俺、後夜祭でられなさそうだわ」
明宮「――え?」
淺内「えっと、急にこんなこと言われても困るよな。とりあえず俺さ、いま駅のホームで新幹線待ってる んだけど」
明宮「し、新幹線? 何でまた」
淺内「今日の昼、放送で呼ばれたじゃんか。アレ、ウチの親が学校によこした電話が原因でさ、田舎に居 る爺ちゃんが倒れて病院に運ばれたって話だったんだよ」
明宮「それじゃあ、呼ばれた後に早退したのって、怪我とかじゃなくて」
淺内「あぁ、急に爺ちゃんのとこに行くことになったから、家に帰らなきゃならなかったんだ。親父が言 うには、三日間は向こうで色々やらなきゃ行けないみたいでさ」
間。
淺内「皆頑張ってるのに俺だけ練習行けなくてホントごめんな。帰ってきたらちゃんと話そうと思ったん だけど、本番も近いしそんな時間も無さそうだからせめて明宮だけには伝えておこうと思ってさ」
明宮「そういうことなら……しょうがないですよ」
淺内「――悔しいな、ようやくそれらしい舞台に立てると思ったのに」
明宮「俳優、目指してるんでしたよね」
淺内「あぁ。でも、ハリウッドスターへの道はしばらくお預けみたいだな、ははっ」
明宮「きっと、まだチャンスはありますよ」
淺内「そうだな。まだまだチャンスならあるよな」
明宮「……お祖父さんが良くなるようにこっちから願ってます」
淺内「ありがとな。また何かあったら電話するよ」
明宮「分かりました。また」
照:舞台全体FO
[Act.05]景、無情に時間は流れ出す
照:舞台全体FI
榎木「淺内が、来られない?」
佐文「そんな……」
明宮「出来るだけ速く戻れるようにするとは言ってましたけど、暫くは帰ってこれないと思います」
長谷「じゃあ、今までのことは無駄だったんだな」
長谷部、おもむろに舞台セットを壊し始める
榎木「長谷部」
大路「ちょっと、何してんのよアンタ! 無駄かどうかなんてまだ決まったわけじゃ」
長谷「だってそうだろ、淺内は絶対に来られない、照富士は来られるかどうか分からない! メインの二 人が欠けてるこの状況でできるかっての!」
大路「なんでそうすぐに決めつけんの! それだったら私が集めてきた衣装だって無駄になるってことに なるじゃない!」
長谷「そうじゃんかよ! 衣装用意したってそれを着る役者が居なくちゃ意味無いだろうが!」
雪村「止め、止めにするでござるお二方っ! 仲間同士の争いほど醜いものは」
大路「黙ってて!」 長谷部「うっさい!」
雪村「(普通とは違う声で)アッ、ハイ」
大路「そんなことを言うなら、アタシが衣装集めた努力も水の泡じゃない!」
佐文「二人とも落ち着きなよ! 今は言い争ってる場合じゃないって!」
大路「こんな風になるなら、最初っから劇だなんてやらなきゃよかったのよ!(持っている衣装を床に投げ つける)」
榎木「何するんだよ、大路!」
教室に照富士が駆け込んでくる
榎木「――照富士」
雪村「照富士殿!」
富士「みんなゴメンなさい、本番二日前に休んじゃって。明日は本番だし、今日は絶対来ようって思って」
グシャグシャになった衣装、壊れて倒れた舞台のセットを見る照富士。固まる。
富士「ね、ねぇ、何これ。どうなってるの?」
(皆、動かない。気まずそうな雰囲気が流れる)
富士「(大路の近くに寄り)ねぇ、朱音さん、衣装作るのすっごい頑張ってたじゃない」
佐文「…………」
富士「(長谷部の近くに寄り)響ちゃん! 舞台のセット、壊れちゃってるのよ! こんなことがあって黙っ てるなんて響ちゃんらしくない!」
長谷「…………(悔しそうに拳を握りしめる)」
富士「淺内くんも居ないし、どうなってるの? 何か言ってよ!」
皆黙っている。沈黙
富士「ねぇ!」
明宮「…………仕方がなかったんです」
富士「しかた、ないって」
明宮「淺内君は、もう来られません」
富士「――え?」
明宮「田舎に住んでいるお祖父さんが危篤状態になってしまったそうで、しばらくは親御さんと田舎の方 に留まるそうです。……少なくとも、三日は」
富士「でも! 淺内くんが居なくても、その分みんなで頑張れば」
明宮「欠けてた役者二人の内一人が戻ってきたことは大きいです。でもセリフのほとんどは淺内くんが担 当してたんです。仮に誰かが代わりに役者をやったとしてもカバーしきれるとは思えないです」
富士「………」
明宮「それ以前に、衣装は縫えばどうにかなるかもしれないですけど、舞台セットはほぼ壊れてます」
富士「………」
明宮「諦めるしか、無いですよ」
富士「……諦められない。なんでそんな簡単に、諦めちゃうの!? 分からない……分からないよ」
思い切り教室から出て行く富士を引き留めようとする明宮だが、もうすでに富士は教室から去っている
佐文「……ねぇ、本格的にまずいんじゃないの? 後夜祭に出ないにしたって、先生に話つけたりしないと」
佐文字、明宮に語りかけるが、明宮は動かない
佐文「富士っちだって、荷物、ここに置きっぱなしにしちゃってるし」
佐文字、語りかけ続けるが、明宮動かない。肩が震えているようにも見える
佐文「ねぇ、どうするの?」
照:舞台外側をレベルダウンする。教室全体が明るく照らされるように内側をレベルアップ
明宮「……(聞こえるか聞こえないくらいの声で)分かってる」
佐文「どうするのよ! 明宮くんッ!!」
明宮「分かってるよっ!! 分かってるんだっ!! どうにかしなくちゃならないことくらいっ!!」
榎木「……明宮」
音:淋しいBGM
明宮「長谷部さんは一生懸命舞台のセットを作ってくれた! 同じくらい頑張って大路さんは衣装をかき 集めてくれた! 雪村君は積極的に練習に参加してくれたし、佐文字さんも何かあれば必ず教室に 顔を出してくれた! 榎木君は役者以外の仕事も何もかも嫌な顔一つしないで引き受けてくれた! 淺内君は一番後夜祭に向けて張り切ってたのに出られなくなった! なによりも照富士さんは、こ のメンバーを一つにしてくれてたんだ!」
皆、顔を上げる。
明宮「ずっと、ずっと俺は、自分に仕方ないって言い聞かせてきた。後夜祭のメンバーに選ばれたときだ ってホントに嫌だった。でも仕方ないと思って、妥協してやり続けてきた。淺内くんの件だって照 富士さんをガッカリさせたくなくて、それなら黙ってたほうがマシだろうって、心の中で言いたく ない自分を肯定してたんだ。――後夜祭を諦めることも、仕方ないって」
佐文「明宮くん……」
明宮「でも、こんな状況になってまで照富士さんは諦められないって言ったんだ。きっと、後夜祭に出よ うって言い出した先生も、出られなくなった淺内君も、まだ諦めてないはずなんだ。
それなのに、俺が、俺が勝手に諦めてどうするんだ!
俺だって……俺だって、まだ諦めきれないんだ」
雪村「明宮殿」
雪村、明宮を呼び止める。
雪村「照富士殿を、探しに行くのでござろうか」
明宮「あぁ、照富士さんに会って、ちゃんと話して、謝らないと」
明宮、教室からはける。その後中割の後ろへ。
照:舞台FO
大:中割を締める
照:中割が締め切りBGMが流れ、間をおいてFI
照:舞台FO
音:虫が鳴いているBGM
明宮『(中割の裏手から)照富士さん、照富士さーん』
照:舞台FI
富士「なんであんなこと言って出ていっちゃったんだろ私……」
音:オルゴールっぽいBGM
富士「私は、頑張ってる姿を誰かに認められたくて褒められたくて、負けたくなくて……そんな薄っぺら いプライドだけでここまでやってきたのかしらね。それで、その結果がこれ。――朱音ちゃんのこと、 笑えないわね」
音:車が行き交う音が遠く小さく聞こえる
富士「もっと、別の言い方があったかもしれない。もっと話を聞いてればこんな状況にはならなかったか もしれない……過ぎてからしか、後悔ってできないのかしら。本当に、本当に後悔しかない」
音:ガサガサと草を掻き分ける音
音に気づいて辺りを見まわす富士。
富士「明宮君……?」
探るように見るが出てきたのは佐/大/長の三人。
佐文「あ、やっと見つけたー。大っち長谷っち、こっちこっち!」
大路「明宮じゃなくてウチ達で悪かったわね」
長谷「……」
佐文「富士っちが無事で良かったよ、教室に戻ろう? 荷物も置きっぱなしだったからさ」
富士「でも、今さら戻るのは」
大路「いつものアンタらしくないわよ、照富士」
富士「朱音ちゃん」
大路「ごめんなさい、アンタが居たからやる気が出たのに、せっかく集めた衣装をグシャグシャにしちゃ って……やっぱり、アンタが居ないとやる気もでないわよ」
佐文「私も同じだよ。せっかく頑張ってきたのに、できなくなるなんて耐えられないよ」
大路「ほら、アンタも何か言いなさいよ長谷部」
長谷「……俺が言う資格なんて無い」
富士「そんなことない、響ちゃんが居なきゃ舞台美術はできなかったわ」
長谷「それでも、俺はせっかく作ったものを壊しちまったんだ。照富士が休んで淺内も早退したって聞い て、後夜祭で劇を出来なくなるって思ったら、今までの努力を否定された気がして、じゃあ何なん だよってついカッとなっちまって……とりかえしがつかないことは分かってる。でも、どうか謝ら せてくれ――すまなかった」
佐文「皆、こんなことになってもやっぱり諦め切れてないんだよ。榎木っちと雪村っちも先生と話しをつ けに行ってる。だから、教室にもどろ」
富士「……うん」
長谷「よっし、もういっちょ舞台セットを作り直すか」
富士「えっ、もうこんな時間よ?」
長谷「責任とらねぇと気が済まないんだよ。家に帰ってスペシャルパーフェクトなもん作ってやる」
佐文「さすが男前だねー」
長谷「だろ? もっと言っても良いんだぜ」
大路「ねぇ、照富士。明宮と会わなかった?」
佐文「そういえばそうだね、ワタシ達より早く探しに行ったのにすれ違わなかったしね」
富士「……また、何か少しいやな予感がするわ」
照:FO後、数秒おいてFO
音:車が行き交う音
明宮、舞台入ってくる
明宮「くそっ、もうこんなに暗くなってる……はやく照富士さんを見つけないて謝らないと」
薄暗い中、照富士を名前を呼びながら歩き回る明宮。
悲鳴と同時に明宮倒れる
照:パーライト・舞台FO
明宮「くそっ、もうこんなに暗くなってる……はやく照富士さんを見つけないて謝らないと」
薄暗い中、照富士を名前を呼びながら歩き回る明宮。
明宮「そんなに遠くは行ってないはずだし、この近くに居るはずだ。早く、早く探さないと」
音:クラクション音
明宮、車のクラクションに気づかず呼び続ける。
明宮「照富士さーん!」
音:ブレーキ音
照:パーライト、黄ゼラFI
明宮「うわぁあっ!」
悲鳴と同時に、(何かに躓いたように)明宮倒れる
照:パーライト・舞台FO
[Act.06]True High. -Show time-
音:カラスの鳴き声
照:舞台全体FI
舞台下から、頭に布をぐるぐる巻かれた明宮がフラフラ歩いて出てくる。
明宮「くっそ、あのヤブ医者め……怪我したのは足だってのに頭を治療しやがって。しかもただの打撲なのに めっちゃきつく包帯巻かれるし、親にはこっぴどく叱られるし、急いで学校に来たけど後夜祭も終わっ てるし――はぁ、結局、後夜祭はどうなったんだろうな」
音:賑わっている音
明宮「何だ? もう今日の文化祭も後夜祭も終わったのに活気だな」
大:中割を引く
照:教室の外だけ照らす
明宮「うわっ、ウチの教室の前にすごい人だかりが出来てる。何が目的なんだ? ――す、すいませーん 少し通してくださーい」
明宮、人混みを押しのけるように歩いて扉の前まで。
明宮「放課後特別公演上演します……これって」
明宮、扉を開ける。
照:教室の中もCI
雪村「フハハハ、無駄ッ! 何ごとも無駄なのだよ! 仲間は倒れ、まともに立っていられるのは貴様一 人ではないかッ」
淺内「黙れ魔王!」
富士「に、逃げて勇者、全滅するより誰か一人が確実に生き残った方がよっぽどマシだわ」
榎木「(裏声で)勇者、逃げてー」
雪村「大切な仲間もそう言っているぞ? 今なら貴様くらいは逃がしてやってもいい。仲間も守れなかっ た貴様の情けない話を歴史に刻むがいい、フハハハハ!」
淺内「――いつ、誰が逃げるって言った」
雪村「諦めの悪い奴だ。おとなしく逃げてればよかったものの……」
音:熱い戦いのBGM
淺内「諦めていいことなんて無い! これまでに直面した困難だって、それを克服する度に深まった仲間 との絆だって、否定することになる。だから俺は諦められないんだ!」
雪村「きれいごとを並べおって。ならば思い知るといい、自分という人間がどれだけ弱いのかを! 黒い炎 に抱かれながらな!」
淺内「行くぞ! 魔王!」
雪村「来い! 勇者ァ!」
雄叫びを上げながら互いに向かって走る
音:二人が重なり合ったところで武器がぶつかるようなSE
照:舞台FO
[Act.07]Ending・ザ・文化祭。
佐文「文化祭が終わった後は受験勉強かー」
雪村「まさしく、俺たちの戦いはこれからだ! ってやつでござるな」
大路「打ち切られちゃってるじゃないソレ」
三人放してる中、他のメンバーが机を持って教室にはいってくる。
富士「三人とも手伝いなさいよ! まだまだ机と椅子は残ってるんだから」
長谷「そうだぞー。お前ら手伝わないってんだら俺は帰るかなー」
淺内「それも結局ダメじゃね?」
榎木「でも、無事に終わって良かった」
明宮「教室入って淺内君が勇者やってたの見たときにビックリしましたよ」
大路「そうよ淺内、なんで来たのよ」
淺内「なんで来たのよって、酷い言いぐさだな」
雪村「そうでござるよ。田舎の御祖父様はもう大丈夫なのでござるか?」
淺内「そうなんだよ、田舎の病院行って俺が祖父ちゃんに声かけたらうっすら目開けてさ。後夜祭のこと 話したら『行ってこい』って言ってくれてさ。
それ隣で見てた親も今すぐ行けって」
佐文「いい話だねー。お祖父ちゃんに感謝しないと」
大路「そうね、そうじゃなかったら今頃教室つかって劇なんてできてないわよ」
富士「私も聞きたいことがあるんだけど、なんで教室にでやることになったのかしら」
榎木「先生のところにことのあらすじを話したら」
雪村「我らだけ後夜祭の後に教室でやった方が、青春ぽくて盛り上がるんじゃないかと言われたでござる (キャピッ」
大路「あんのハゲそんなことを……」
明宮「まぁまぁ、とりあえず盛り上がってたと言えば盛り上がってたんですから結果オーライじゃないで すか」
佐文「でもまだ終わった感じしないよねー。余韻に浸ってるというかさー」
淺内「おっ、締めやっちゃう? 一本締めみたいな」
雪村「良い案でござるな」
榎木「誰が音頭とる?」
富士「そうね――どうせなら監督の明宮君にお願いしたいわね」
明宮「僕?」
長谷「いいじゃねえか。監督、ここは一つ頼むぜ」
明宮「そ、それじゃとりあえず形つくりましょうか」
全員、弧の形に並ぶ
佐文「ここまで、本当に色々あったね」
榎木「でも楽しかった」
淺内「三週間もあったのにすっごい速かったな」
雪村「F1並の速さだったでござる」
大路「ま、悪くは無い時間だったけどね」
長谷「少し寂しくなるな」
富士「それでこそ終わりってものじゃない?……監督さん」
皆、口々に明宮の名前を出す。
明宮「それじゃ――」
皆、互いの顔を見合わせる。その顔はどこか達成感に 溢れている。
明宮「これからの僕らにも、諦めない心と笑っていられるハッピーエンドの物語を!」
全員「おーっ!」
閉幕。
ご精読、ありがとうございました。