プロローグ
プロローグ前に、1話を載せてしまいましたので修正。
修正のため割り込み投稿をしたらいろいろおかしくなりました。
ご迷惑をおかけしました。
暗闇の中。光るのは、鍛冶用の炉といくつかある蝋燭。そして、薬草を煮るための火。
窓を開けてもまだ朝日は差さず、光魔法の“ライト”を使うことは俺にはできない。だから、夜の明かりは火が中心。明るくないと困る作業を別の灯に持って行けば良いだけなので、特に気にしてない。
いろんなことに手を出してる数少ないメリットだろう。できなきゃ他のことをすればいい。
ま、そんなことは別にして、今は単に日課である薬作りの最中。まだまだ大量に流通するために余りがちな薬草や魔力草を消費する作業。兼、金儲け。
新しく来たメイドさんはまだ練習段階。消費はしても、収入にはなっていない。練習作として、原価以下で住民へと販売している。だから、家やら何やらの維持のために俺がたくさん作るしかない。ま、作るのは楽しいので苦にならないけど。
ただただ無心に初心者回復薬や初心者魔力薬を作り続ける。生産シーンとしては鍛冶で鎚を一心に振っている方が絵になるんだろうけど、俺の得手は【錬金】と【薬剤】だし。【錬金】はアーツでパパッて感じだから、今一つ様にならない。作ってる感は技術の【薬剤】だ。
スキルだとアーツを使うのでほぼオート。アーツなしでもセミオート的な作り方。作りやすいけど、個性は出しにくい。つーか、レシピから外れた作り方なんて知らんわ。
技術だと手作業。頑張ってもセミセミオート。アーツもゆるゆる。だから、工夫の余地がたくさん。本格的に生産が好きなら技術一択だけど、そんなプレイヤーは少な目。技術は手間もかかるし失敗も多い。基本はスキル取得だよな。大変すぎるもの。
それにしても、炎を見つめていると心が落ち着いていく。精神が安定すれば、おのずと動きが安定して、作品の質が上がっていく。
ここ数日、出勤前にこの作業をしてるけど、そのおかげか仕事でも順調。公私共に充実している。
予定していた分の薬剤ができたらちょっと休憩。中身の入った瓶を置く場所にも困るから、片付けがてらだけど。
「よろしいでしょうか?旦那様」
「……またか」
「はい。申し訳」
「セバンスのせいじゃないだろ。気にする必要はない。
……良いよ、連れてきて。丁度一段落したから」
「承知しました」
「予定通りの数は揃えたから、頼んだ。
後はいつものように」
俺の言葉にセバンスは静かに頭を下げ、音もなく退出する。
五月蠅くなる前に売り物だけはきちんとしておこう。そう考え、次の素材を用意する前に成果物をまとめなおした。
こういう時に、インベントリの整理機能が役立つ。一度まとめて入れれば、種類ごとになるからね。同じ初心者回復薬でも品質や効果で大まかに分けておくと整理しやすいのだ。
「師匠。おはようございます」
「今は夜だな」
「おはようございます」
「……まだ丑三つ時にすらなってないがな」
「お、は、よ、う、ごじゃいます!」
「ああ、おはよう。まさに早いな」
力を入れすぎたか、噛んだ恥ずかしさからか、顔を真っ赤にしている。こいつは、自分が変な時間に来ていることに自覚はないのか?
「挨拶は基本ですよ。朝はおはようです」
「だから、こっちは」
「リアルは朝です」
「せっかくのVRだ。リアルを持ち込むな」
「それはその通りですね……師匠。こんばんわ」
「ああ、こんばんは」
出勤前の日課だから、朝には違いないけど、意識すると楽しさが減少するだろうが。
なぜか、こいつは挨拶にはこだわる。それ以外でも、きれいに整理しなさいやバランスのいい食事だとか、なんか、漫画で見るおせっかいな幼馴染っぽい言動が多いが、まだまだ知り合ったばかりのはずだ。
適当に聞き流しているが、このまま放っておいたら、いつの間にか家にすら上がられてそうだ……こっちの家じゃなく、リアルのね。
言えばわかるし、挨拶を除けば距離感も適度。そして、俺をししょーと呼ぶ。特に何か教えた記憶はないんだが。変わった子だ。
正直思う。
どうしてこうなった?