1-7 図書館
多くの方にご覧いただいたおかげで、日間ランキングに載りました。うれしいやら恐れ多いやら。
現実に戻って来たことは、顔に感じる密着感でわかる。
VRシステムを外しても、そんなに違和感がない。ゲームと現実が混同しないような何かがあるのかな。
何時間もしていたのに、疲れもしていないことの方が驚きだな。
寝汗がないのはクーラーの勝利か。
感覚と時間経過の差はどうしてもあるし、家の中で時差ぼけにかかりそうだ。
夕食後、念のためにストレッチをしてから再ダイブ。
【英雄歴263年春3月6日15:37(6月4日19:32)】
【スキルスロットが1つ開放されました(6時間経過)】
ダイブした瞬間、視界の隅に時計とアナウンスが表示されていた。
確かログアウトしたのは現地時間で14時前。現実では1時間経ってないのに、こっちでは2時間ちょっと。3倍速ってとこか。
6時間ってのもこっち時間で6時間だな。実質は2時間。とっくの昔に開放されていたんだろうけど、ログやアナウンスを表示するようにしてないから気づかなかったな。たまには見た方が良いのはわかるけど、それよりもこの街を堪能したいから後回しにしてたんだよな。
6時間分遊べば、欲しいスキルの一つくらいあるってことかな。
えーっとスキルの取得はっと。
自動的に目の前に大きくウィンドウが立ち上がる。
考えるだけで表示されるのは楽でいいや。
一番上にSP2で、その下にはスキル一覧が出てた。
左から、武術系、生産系、魔法系、補助系とそれぞれ何種類も表示されている。
キャラ作成時になかったスキルもあるな。
剣術2や盾2があるかと思えば、鍛冶3ってのもある。鍛冶がグレーになってるからには、横の数字は必要SPだろうな。
すげぇ。光魔術はSP5かよ。他の魔術も3~だ。
ちなみに、俺が持ってる錬金、採取、鑑定はどれも2。文字は赤くなっている。SP的には最初の設定画面で魔法を取りまくった方が得なのか。
で、言語は1。
予想ではSPが余って仕方ない状況にはならないだろうから取るのも良いけど、所持スキル数に制限がないとも限らない。
ここは後回しにして、図書館で勉強してみるか。
図書館の中は、とても静かだった。入り口横の受付では真剣に本を読む女性がいた。
あれが司書の、えーっと誰だっけ?ま、いいや。
「すみません。ちょっとよろしいですか?」
「ご入館ですか?」
読みかけの本を丁寧に横によけて、受付の人が聞いてきた。
「初めてなので、利用方法を教えてください」
「わかりました。ここは始まりの街アークが誇る【英雄図書館】です。住民なら誰でも利用できますが、住民以外の方は1回100Gが基本となります。必要な本をお伝えいただければ、こちらで席までお持ちしますので、気軽にお声かけください。
開館時間は日の出から日の入りまで。今日ですとあと2時間ほどですか。時間制限はありませんから、お時間があるのでしたら、本を読まれるのは明日にされた方がよろしいかと思います。
こちらでは紙束5G、ペン2Gで販売しております。インク補充は1Gですから、ペンが書けなくなったら是非どうぞ。
こちらの特徴は、トリスタンの英雄物語の初版本が保存されていることと、子供向けや色々な分野の初心者向けの本が充実していることでしょうか。
始まりの街の図書館として恥ずかしくない蔵書かと思います。
代読や調べ物は内容にもよりますが100Gからとなりますし、特別な蔵書は閲覧に別途料金がかかります。
写本やメモは自由ですが、本に書き込み等見つかった場合は、罰金と本の買い取りをお願いすることになりますので、ご注意ください。
簡単ではございますが、何かご質問は?」
「写本を作るのに紙束はどれくらい必要ですか?」
受付の下から取り出してくれた紙束を見て気になったので聞いてみた。
さっき読んでいた本に比べると、もさっとしていて分厚い。一束で本より厚くなっている。
「こちらでの写本はお薦めしませんが……そうですね。10束以上ですかね。
写本をされるなら、こういった写本専用の白本をご利用になられた方がよろしいかと思います。一つ100Gですが、場所を取りませんし見返すのも簡単です。さらに、紙束ですと本屋や図書館での買い取り額はとても低くなりますから」
何も書かれていない本を片手で示しながら言われた。そりゃそうですね。こんな簡易メモは高く売れないよね。
「ちなみに」
「罰金は1ページ100Gからで、買い取りは最低1冊5000Gからですね。 市販の本より少々お高くなっておりますので、お互いのためにご丁寧な利用をお願いします」
誰でも聞くことは同じですか。そうですか。何もかぶせ気味に言わなくても。
情けない俺の表情が面白かったのか、司書さんがくすっと笑う。
まじめそうな表情が崩れてとてもかわいい。ちなみに、司書さんはちょっと耳が尖った亜人系美人だ。エルフかな?
「すみません。つい」
はい。笑顔の美人には勝てません。気にしないでください。
それでは気を取り直して。
「私はこちらの文字が読めないのですが、どうしたら良いでしょうか」
「それでしたら、代読を依頼するか文字を学ぶかですね。手当たり次第に代読させるよりも調べる内容が決まっているなら依頼を出していただいた方が時間がかかりませんが、その分料金がかかります。
文字を学ぶのであれば、講座を開設しております。1巡100Gとなっております。
祝福の冒険者様の中には、言語の祝福を獲得される方もいらっしゃるとか」
あー。祝福ってスキルのことか。確かに初期設定時に世界の祝福とか言ってたし。あれ?神の祝福だっけ?
ま、良いか。
「ちなみに、こちらが講座のテキストになります。
まず、基本文字を学んでいただいて」
紙束と同じ処から改めて薄めの本を取り出して見せてくれた。
紙面に大きく書かれた文字がいくつかある。ぺらぺらとめくられても似たようなページだ。
「基本文字を覚えた後に、よく使う単語を学んでいただきます。その組み合わせで文章になっていますので」
基本文字と単語の組み合わせ……ひらがなと漢字の日本語っぽいか。そうなるとマスターは困難だな。日本語ですら読めない漢字があるのに。こりゃ、「言語」を取得すべきかね。
「基本文字っていくつあるんですか?」
「基本文字が100文字、よく使う単語は200単語でしょうか。大体覚えたら、わからない部分を代読依頼しつつ学ばれる方が多いですね。
先ほどのお詫びに、一時間ほどでしたら無料で手ほどきさせていただきますがいかがされますか?」
「地元の方から読めないよりは読めた方が良いと言われましたが、ハードルが高そうですね」
「あら、良いことを言われましたね。どなたですか?」
「えーっと屋台でコッコ焼きをしていたー厳つい顔の、ほら」
「もしかして、ペルさんですか?」
あ、そんな名前だった。
「そうです。ペルさんです。良かった思い出せて」
思い出せてないって?それは言わない約束でしょ。