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生産だって冒険だよね  作者: ネルシュ
生産どうでしょう
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6-15 違うけどできた

 仕事はきっちりと時間内に終わりにして、定時上がり。須佐美は仕事がそれなりに来てるみたいで、昼休憩も早めに切り上げてた。全ては定時上がりのためとのこと。

 その短時間でも、『冒険者達』の話が止まらないのはご愛敬。

 俺は面倒で通勤時の公式サイト訪問もサボり気味だけど、須佐美はそれどころか掲示板での情報収集すらしてる。そこまでしなくてもと思うんだけど。自分の力で知った方が面白いじゃん。

 そう主張する俺に、やつはあきれた声を返す。


「週末のイベント情報くらいは知っとけよ。新規参入イベントは来週だけど、今週末もミニイベントがあるんだぞ」

「ミニイベント?」

「ああ。早ければ追加組が明日の夜には参加し始めるだろ?その対策。

 ……ってことになってるけど、100時間の関係で先行組が追い抜かれるとユーザー離れになりかねないからフォローする意味もあるんだろうな。

 モンスドロップに特別品が金曜の朝から日曜まで追加されるし、街中クエストでもお礼品に変化があるってさ」

「金曜って、明日だろ?朝って、6時頃か?それなら出勤前にちょっとできるな」

「ああ、違う違う。朝は朝でも、向こうの朝。2時9時が金曜の最初のだけど、その夜明けからだってさ。向こうで言うと、6刻過ぎだから、4時過ぎからか?

 確率は低いけど、アークじゃあまり見かけない回復薬や魔力薬とかもドロップするってさ」


 ウサギやらの動物が薬を落とすのは微妙な気もするけど、ありがたいのには違いない。そろそろ先行組には100時間ボーナスが終わるプレイヤーも出てきてるし、先に進むためのレベルアップを促すには良いイベントだろう。

 強いモンスターほど良いのを落とすらしいので、先行組は得なわけだ。クエストも同じか。金回りも良くなるかもな。


「来週の情報も出たのか?」

「自分で見ろ……と言いたいところだが、見るだけ無駄だな。ダンジョンアタックとしか出てない」

「タイムアタックかポイントランキングかってところだな。いずれにせよ、戦闘系か」

「まだまだ生産系のイベントは難しいだろ。来月の第3弾が入ってきたら特別フィールドでのサバイバルとか良くある展開が待ってるんじゃないか?その頃ならある程度生産プレイヤーも増えてるだろ」


 生産ギルドがアークにできれば、もっと違ったイベントが考えられてたのかな。第2弾の追加も急遽だったし可能性はあったろうけど、今更か。




 帰ってすぐのダイブは、朝と同じく暗い場所での覚醒だった。朝は見慣れない天井――使ってなかった寝室――だけど、今は見慣れた作業所の壁が目の前にある。

 室内を見ると、机の上に載りきらなかったのか、所狭しと並んだ包丁。半分くらいに細工や装飾がされていて、2ふつか程度でかなり作れるんだと驚いた。順に手にとって見比べながら、“鑑定”をする……が、やっぱり追加効果にはなってない。柄と刃の隅に番号が掘られているのは、どの作り方ならOKかを調べるためか。

 どれでも、品質の高低がちょっとある程度の違い。説明文はほとんどが同じ、『薬草を混ぜているが効果がない』表記だ。

 見た目の輝きがちょっと違うような気がしなくもないが、気のせいと言われる範囲かな。念のため、良い輝きっぽいのと、品質が高いやつを別にしておこう。あ、でも、細工とかが品質に関わってるんなら、それが良い作り方かどうかわからんな。装飾付きはちょっと置いといて、分けるのは素のやつだけにするか。

 順に見ていくうちに、外が少し明るくなってきた。MPには余裕があるから良いけど、数値見て判断するのに時間がかかるな。


「おや、早いである」

「仕事終わって、速攻帰ってきたから。そっちこそ」

「今日まで休みを取ったである。振り替えが貯まってたのでちょうど良かったである。

 どうであるか?今日の成果は?」

「たった2ふつかでこれだけ作れるとは」

「全部作り方を変えてるである。

 でも、その顔じゃあ、成功はしてないようであるな」

「まだ全部は見てないから。ここまでは似たり寄ったりだな。この二つが品質高め。装飾付きだと、あれとあれ」


 そう言いながらも、次々に鑑定していく。この結果を基に、これから完成品を作ってもらうんだから。やっぱり少しでも高品質の物にしたい。たとえ、追加効果が無くても。

 何も混ぜないのが最も高品質?それは言わない約束だぜ!


「ふむ。そうなると、高品質の手順もある程度見えてくるであるな。薬草そのままよりも磨り潰した方が品質が良いと。まんべんなく混ざるからであるかな。

 こっちとこっちはどうであるか?」

「ん?それは品質も説明文もダメ。他のもん混ぜたろ。そっちのもそうだろ?」

「これであるか?

 ……ふむ。これは魔力草だけを使った物である。魔法剣とか作れないかと考えたのであるが……」

「属性剣とかMP消費で切れ味アップとかか?じゃあ、作り方が違うんだろうな」

「残念である。非常に残念である。これができれば、魔術系のプレイヤーも戦いやすくなると思ったであるが」

「ま、始めたばっかでそこまで求めてもしょうがあんめぇ」

「仕方がないである。では、そこのは?」


 とても残念がっていたクロが最後に指したのは、一つだけ棚に置かれた箱。覗いてみると鈍く光る包丁が入っていた。色はとても薄い紫。ほんのりと怪しい。


「……怪しいので、最後でも良いか?無装飾は後3つだし」

「その3つにあれば良いであるが」

「……ん、ないな。残念」

「で、あろうな。その2つは薬草を入れるタイミングやら量を変えただけであるからな。

 でも、こちらもダメであるか」

「そうだな。それも効果がないってなっている。これだけ手伝ってくれたのに、悪かったな」

「まだ、残ってるである」


 鑑定しろとばかりに怪しい包丁が差し出される。ちょっと嫌な予感がしたので、手に持たずに“鑑定”を……んあっ。なんじゃこりゃ。


毒包丁 攻撃力4 耐久力65 品質37 HP損傷(10秒につき1) 効果継続1細刻 武器


「ど、毒包丁?

 効果は薄いが、追加効果があるぞ!いったい、どうやったんだ?」

「ほほう。効果付きか。

 ふむ。思った通り。色が色なので何かあるかと思っていたである。

 それはそうと、落ち着くである」


 クロの言葉に、意味もなく包丁の入った箱を左右に動かしていた手を止めた。

 そうだ。落ち着け。確かに効果が付いてるが、品質は低く、効果も低い。でも、確かに付いてるぞ!見えてる情報が細かいのは、【鑑定】のレベルが結構高いからかな?


「んんっ。うん。

 で、どうやった、あ、教えて大丈夫か?」

「大丈夫である。【言語】が40を超えてわずかに読めるようになった本に、追加効果付き装備の作り方があったである。

 ほんのちょっとしか解読できないであるが、ダガーで草を入れてるレシピがあったである」

「ほうほう。それで?」

「……正直、何を入れているかは読めなかったであるが、草の他、冷却用の水に薬液が使われていたのである」

「薬液……ここにあるのは初心者回復薬と初心者魔力薬か」

「それに、毒薬と回復阻害薬があったである。草も同じ素材ならと考えたので、それぞれの組み合わせで作ったであるが、唯一の成功がその毒包丁のようであるな。

 こちらの薬草と初心者回復薬が成功してれば良かったであるが……」

「温度とかの問題じゃないよな」

「それなら割れるそうである」

「そうなると……そうだ!使ったのは初心者回復薬だよな?回復薬じゃないよな?」

「残念ながらここに回復薬はないである」

「じゃあ試してないんだな。それなら試そう。

 あ、でも手に入るのか?」

「この辺りではあまり売ってないである。すぐに買われてしまうである……作るにしても、水が」

「やっぱり、普通の水じゃできないのか?」

「レシピ本では、魔力を含んだ水と出てるである。セックでは精霊の泉の水で作るそうである」

「魔力を含んだ水か……“クリエイトウォータ”じゃ初心者回復薬だし、“ウォータブレッド”は攻撃魔法だし。他には覚えてないんだよな」


 もっとレベル上げをしておくべきだった。水魔術は18になってるが、まだ他の魔術は覚えてない。水汲み用にしか使ってなかったのが敗因だな。

 魔術の得意なやつが身近にいれば……いるじゃん。


「そうだ。クロは何か水を生み出す魔術は覚えてるか?あるならそれを使ってみようぜ」

「“ウォータウォール”“ウォータアロー”に“ヒールウォータ”があるである。

 この中では、“ヒールウォータ”が可能性が高いかな」

「悪いんだけど、そこの瓶に溜めてくれないか?早速作って見るよ」

「試しで作って見て、回復薬や魔力薬ができるようならまとめて作るである。それなりの量がないと鍛冶で使えないである。

 下手に混ぜるとダメになるのが困りものである」


 そういや、そんな設定あったな。これじゃあ、短剣レベルならまだしも、長剣以上のサイズでこれを作るのは難しいってことかな。ま、それは後で考えよう。

 んじゃ、早速。


ごりごり ピチャピチャ くつくつ たっぷり かんせー


 おおー。薬草と回復水――俺命名――で回復薬か。効果は前に見た市販のより低いけど、確かにできるんだな。こりゃ、水魔術のレベルアップをしないと。“クリエイトウォータ”じゃそろそろレベルが上がらないから、“ウォータバレット”でモンスターを倒すしかないか。

 この先のことを考えていた俺に、クロから声がかかった。


「できたであるか?」

「お、悪い悪い。まだまだ質は低いが、問題なくできたぞ。次は魔力草で魔力薬だな」


ごりごり ピチャピチャ くつくつ たっぷり しっぱい


 う~ん。こりゃダメだ。作り方自体は間違ってないと思うんだけど。


「作り方は初心者と同じだよな?」

「記憶にある範囲ではそうであるな」

「そうなると材料か」

「魔力草の高品質とか“ヒールウォータ”以外の水であるか……状態異常を治す“キュアウォータ”があったはずである」


 その台詞だとまだ覚えてないか。こりゃ、魔力薬はお預けだな。

 それか、セックで売ってるのを買ってくるか。


「我の友人はセックにいないので、買ってきてもらうこともできないである。冒険者ギルドに依頼でもするであるか?」

「万が一を考えて、セバンスに頼んどこうか。回復薬で作っても成功しない可能性もあるし。入手が遅くなっても使い道はあるから」

「魔力薬ならいくらでも使えるである」


 そうだな。外はかなり明るくなってきた。そろそろアロも来るだろ。そうしたら、回復薬で試してもらってるうちに、セバンスに頼もうか。

 その前に、大きめの器で回復薬を作りましょうか。何度も作るだろうから、瓶のあるだけ、ね。

三人寄れば文殊の知恵と言いますが、船頭多くして船山登るとも言います。

難しいものです。

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