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生産だって冒険だよね  作者: ネルシュ
生産どうでしょう
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6-14 クロ

クロ再登場です

 朝5時起きでダイブ。早寝早起きで健康的だけど、やってることは寝っ転がってゲームだからな。不健康だ。

 筋力保持とか睡眠代わりの疲労回復とか、健康面の対処も必要かも。絶対に社会問題になるぞ、これ。


 こちらはまだ夜。それを予測して、インベントリには生産グッズ。【夜目】のおかげで、暗闇でも明るく見えるわけじゃないけど、簡単な作業するくらいはなんでもない。

 薬草から初心者回復薬を作るのは目をつぶってもできるくらい作ったからな。それが毒薬に変わったって、何も違いはない。ぼんやりとでも見れればなんとかなる。

 せっせと毒薬を作り、インベントリに保存。飲んで耐性取得はできてなかったみたいなんで、そっちの検証は後回し。水魔術の“ヒールウォータ”か“キュアウォータ”を覚えてからかな。何度も飲めないと意味がないからね。レベル上げで作ったけど、シロに渡すか、検証してる人達に届くように、冒険者ギルドに売ろうかな。

 そんなことを思いながらも暗闇で生産していると、視界の隅にメッセージアイコンが現れた。こんな時間に誰だと思い確認すると、なんとクロから。思わず、生活大丈夫?と自分を棚に上げて考えてしまった。


『シロから話は聞いたである。丁度良いスキルアーツも覚えたので、本の収集は是非とも受けたいである。

 今、ギースト殿はログイン中であるが時間があるであるか?もし良ければ、これから伺うである』


 【言語】のレベルアップ作業に忙しいはずなんだけど、落ち着いたのかな。うん。来てくれるなら、作業所で話をすればいいか。門番さんに話をしておけば入れてくれるだろうし。

 そう考えて、さっそくに返信。その後、片づけをしてから、できるだけ音を立てずに庭へと出る。

 ……なんか、屋敷内から視線を感じるなぁ。もしかして、セバンスあたりが起きたのか?こっちの住人とは違って俺らは変な時間に活動することも多いから、これもなんとかしないとみんなの負担がなぁ。

 もっと人を増やして3交代とかにすべきか?そこはおいおい考えるか……面倒だしセバンスに任せちゃうかな。どうせ、このゲーム内の通貨は現実には使い道ないんだし、使いまくっても問題ない。

 今晩の門番はガーディ―。責任者がやってるのかよ!と思ったけど、まだ人手が足りてないようだ。今灯きょうの昼間に面接予定とのこと。トルークさん紹介の元兵士達だから人柄の心配はないけど、それを合わせても人数はまだ10名。4組に分けての3交代1休を考えてるから、せめて16人は欲しいな。

 メイドは紹介者がいないので、商人ギルド経由で募集した人をセバンスが面接中。順次増やしているとのこと。まあ、俺との顔合わせが終わるまでは試用期間扱いらしいけど。

 そんな感じで色々とガーディ―に聞いていると、夜闇の向こうからクロが歩いてきた。う~ん。夜だといくら松明やら光魔術で明かりがあっても見通しが悪いんだな。遮るものがない広い道なのにここまで近くに来るまでわからないんだから。

 でも、警備役のガーディ―は驚いた雰囲気はない。後で聞いたら索敵系の技術を持ってたので害意のない人が近付いているのはわかっていたらしい。


「久しぶりである」

「わざわざ来てくれてありがとう。こっちにいるとは思わなかったよ。セックに行くって聞いてたし」

「あちらで読めるだけ読んで帰ってきたのである。向こうにしかない素材も持ってきたので買い取ってもらえると助かるである」

「それは願ってもない」


 これから練習するんだから、素材はありがたい。新しい素材でやると経験値が結構もらえるみたいだから。

 作業所に案内している間は、この家や建築に関する世間話。なんでも、この家の様式はルネッサンス様式らしい……ほんとか?俺には単に西洋っぽいなとしか思わんが。そもそも、そんな様式があったとはとんと知らんかった。

 作業所の中は、外観から想像するよりも一回り以上大きい。たぶん、ゲーム的処理のおかげだろう。素材置場に困っている現状ではとっても嬉しい。これがあまりに違いすぎると興がそがれるけど。

 ひとしきり雑談をしていると、クロが姿勢を改めて話し始めた。


「本の納品についてであるが、すごくありがたい話であるが、実は少々時間がかかるである。なぜなら、販売しているところを知らんので、書き写しているからである。

 【言語】25レベで“模写”のアーツを覚えたであるが、低レベルのためか写し間違いが多いので時間がかかるである」

「あー、いや、それに関しては、特に急いでないから大丈夫。欲しい内容は、主に各スキルや技術の初心者本なんだけど、報酬とかどうしようか?」

「薄い童話の賠償金が図書館で5,000Gである。確か、専門書は初心者向けでも2万Gからだった気がするである」

「あーやっぱ結構するね。じゃあ、手に入れにくさを考えて、3万Gくらいか?

 でも、内容にもよるよな。なんか良い方法がないかな」

「大体、初心者向けの本には5つもレシピが載っていれば良い方である。1レシピ5,000Gでどうであるか?」

「レシピ毎か……ある程度まとまったら、分野とかでわけて製本したいな。ま、それは追々。

 でも、費用的にそれで足りる?時間を考えると安くないか?」


 写本なんて面倒なのに、そんなに安くて良いのか?


「図書館で手に入るレベルの内容である。価値はたかが知れてるである」

「でも、自宅で自由に読めるのはかなり嬉しい価値だけどな」

「今は欲しがるプレイヤーもいないし、普通ならネットで調べられる物にそこまでの金額を出すのはいないである」

「あーそっか。調べりゃすぐに出てくるか」

「今はβ時代のデータしかないであるが、生産ギルドが設立されればすぐである。

 ……期待しているである」


 クロの思わせぶりな視線から目をそらしてしまった。机の上に置かれたアロの力作達が視界に入る。

 行き詰ってるんだよなぁ。どれもこれも、追加能力がなく、説明文でも『薬草を混ぜているが効果がない』から変わってないし。


「シロから聞いたである。生産ギルドの象徴になるものを作っていると。そこの包丁であるな?」


 そう。俺が作っているのは包丁。木も鉄も使うし、装飾も入れられる。使い方では野菜を料理すれば、【薬剤】以外はコンプリート。


「別に、コンプリートしなくてもかまわないのでないか?そこまで求められてないと思うである」

「そうは言うけど、やっぱり全部入れたいじゃん。心情的に」

「……それはわかるであるが……」


 気持ちはわかるけど、生産ギルド設立が遅くなるのもってやつか。そう言われればそうか。でもなぁ。


「わかっちゃいるんだけどな。みんなのためにはスグにでもってのも。

 でもなぁ。今ここにいられるのも、クロ達に会えたのも【薬剤】のおかげだからな。そう思うとな」

「そういった思い入れは大切である。

 ……そうだ!我はこれでも色々な本を読んできたである。その知識を使うである」


 そうだろうな。先行した俺の言語レベルをとっくに超え、今や30近いんだろ?

 俺なんかとはけた違いの情報を知ってるはずだ。読むのに夢中だった本人が覚えているかは別にして。


「魔法ギルドで読んだ本もあるである。内容はおぼろげにしか覚えてないであるが、現場を見て助言や調べものくらいはできるである。協力させてほしいである」

「そりゃ嬉しいが、良いのか?報酬くらいしか返せる物がないぞ?」

「ふん。報酬なんていらないである。どちらかというと、生産ギルドが早くできること自体が報酬である。

 それに、先日のフィールドボス討伐と情報提供のお礼でもある。それくらいは返させてほしいである」

「いや、ギルドは今内装やら設備やらで時間がかかってるだけで、その間自由に作らせてもらってるだけだけど……」

「そんなのゲーム的処理に決まっているのである。こっちの準備ができれば、即、設立になるである。

 今日明日なら、我は自由にダイブできるである。手伝わせてほしいである」


 ……その可能性もある。ポポロさんの時と同じか。

 それなら、ケツを決めておかないといつまで経っても、だな。


「じゃあ、明日金曜の朝まででどうだ?それとももっと時間があった方が良いか?」

「う~ん。逆に今日の夜くらいが良いと思うである。週末に入る前に生産ギルドを開放しないと、トラブルになるである」

「トラブル?なんでまた」

「激混みである。待望の生産ギルドがアークにできるのだから、どう考えても激混みである。

 それに新規プレイヤーが大量に来るであるからして、金曜中には第一弾プレイヤーが使えた方が良いである。経験値増の新規プレを考えると先に始めたアドバンテージを少しでも得られるようにしないと、逆恨みされかねないである」

「……そんな奴は少ないと思うけど」

「少なくてもいることは確かである。ただでさえ先行者はねたまれやすいのだから、できる対策はしておくべきである」


 PKはMPKくらいしかできないって聞いてたから安心していたけど、確かに無用な反感とかはわざわざ買うもんじゃないからな。仕方ない。こだわるなら、自分で作るときにするか。


「じゃあ、今日の夜締め切りかな」

「ちょうど、16にちが7時から2時であるから、暗くなる前、12時前がおすすめである。

 完成品を持って、ギルドに行くである」

「それなら俺も問題なくダイブインできそうだ。でも、本当に良いのか?今は【言語】のレベル上げで忙しいだろ?」

「そこは気にしなくて良いである」

「そうは言ってもなぁ……そうだ!“模写”なら紙を沢山使うだろ?これ、羊皮紙がわりにできないか?」


 そう言って、俺は毛を抜いたウルフの皮を取り出した。後で鞣そうと裏側の脂層もかなり削り、そこそこ薄くなってる。これなら、練習用に良いんじゃないかな?

 羊皮紙の作り方なんて知らないけど、紙代わりだから、毛を抜いて薄く伸ばして、必要なら表面を削ってでもある程度なめらかにすればOKだろう。ある意味、色の白いなめし革とも言えるんじゃないか?

 知ってる人間からしたら噴飯物の認識だろうけど、俺はそんな感じで捉えてる。本当は違うんだろうけど、ちゃんとしたのはレシピが読めるようになってから勉強すればいいや。


「羊皮紙と言うには書きづらいではあるが……使えなくはないである。保存性が我にはわからないのでどうかとも思うが、レベル上げ用には十分使えるである。いくらであるか?」

「こっちを手伝ってくれる報酬だからただで良いよ。まともな紙でもないし」

「……切って整えれば、1枚から図書館の紙束以上の枚数が採れるサイズであるが……」


 紙束が5Gだったっけ?手間に比べればたかがしれてる。錬金アーツを使った“簡易なめし”ならMP消費でできるけど、既に経験値としてはほとんどもらえない。それなら、【皮革】の技術を覚えられる可能性と【裁縫】用の糸作りを兼ねて毛抜き&簡易紙加工をした方が良い。それでレシピに出れば、【錬金】のレベル上げにも使えるし。最終的には、その紙を使って、俺も【言語】のレベル上げをしても良いかも。

 鞣すって言っても、鞣し液の作り方も俺にはわかんない。ただ水で洗って毛を取って、脂とかを削って叩いて揉んで干すだけのレシピだから、原始人的鞣し方と言える。どんなに頑張ったって高品質にはならない、下処理レベル。薄くして表面を書きやすく整えれば低品質の羊皮紙ウルフだけどになる。書きやすい紙にするには、まだいくつか工程が必要なんだろうけど、それは後で調べよう。

 ま、いずれにせよ、羊皮紙は売るにしてもたかがしれてる。ましてやこれは、俺の練習結果として大量にできるが低品質の上、たぶん保存性も悪い。消費してくれるだけでありがたい。

 そう言うとクロは納得してくれた。


 アロとの顔合わせをしておきたいんだけど、まだ外は薄暗く、来るまでには時間が必要だと思う。クロには申し訳ないけど、雑談しながらでも作業させてもらおうかな。

 そう言うと、本の内容の復習にもなると快く受け入れてくれた。なので、大量にある素材をただ消費するんじゃなく、クロに見せながら色々と作る。目の前で実演する代わりに、俺じゃレシピを読み切れなくてわからなかったコツとかをクロは教えてくれた。おかげで、わずかではあるが作成スピードや品質が向上するレシピが続出。俺は大満足。

 ただでレシピを教えてもらったとクロは恐縮していたけど、レシピの内容自体は本で読んでるんだからクロにもあるはず。ただ技術がないから表示されてないだけだろう。何度か自分で作って見て技術が生えれば、本から得たレシピは全部表示されるに違いない。

 そう考えると恐縮してもらう必要もないし、逆に俺が教えを受けたってことなんだけど……どっちもどっちとの結論にした。お互いに利益があったからね。


 一通り作った後は毛抜きからの羊皮紙もどき大量生産。“簡易錬金”でしか作ったことのないレシピは後回し。あまり時間をかけてもアロが来たらお終いにして、出勤できるようにしないとだから。手作りへ&技術獲得への挑戦は、時間があるときにしよう。

 作った物は、売り物コーナーへ。こうしておくと、セバンス達が処理してくれる手はずになってるので楽ちん。必要なら、アロ達で使ってもらってもかまわないし。

 ちょろっと残っていた食材で作った朝食を食べていると外から声が聞こえ、入り口からアロが顔を覗かせた。いつも一番早かったのに、来たら人の声が聞こえていたんで入って良いもんかと思ったそうな。扉を開けておけば良かったか。

 アロとの顔合わせを済ませる頃には、辺りも十分に明るくなった。これなら手元が暗いなんて感じないか。【夜目】を上げる良いチャンスだったけど、低レベルだから面倒でもあったんだよな。

 ま、いいや。

 アロは早速に作業に入ったし、クロは作業を見ながら自分の記憶をまさぐってる。そろそろ出勤の時間だし、お願いしちゃうか。


「じゃあ、俺はこれであがるけど」

「了解っす」

「任せるである」


 こっちを見ようともしないのは、頼もしいのか、なんなのか。

 考えても仕方ないか。

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