6-13 変ですか?
毒薬。それは、毒草を初心者回復薬と同じように煮て作る薬品。
効果は低いが、それなりに先々では使えるようになるはず。
毒薬 品質10 HP損傷(10秒につき1) 効果継続1細刻 回復薬
いやぁ~。うっかり初心者回復薬と混ぜ合わせて回復阻害薬を作れたおかげで、通常の作り方に挑戦するのを忘れていたんだよね。空き時間に急いで作ったから効果は低いけど、作れることは確かめられたんでOK。水から煮出すのではなく、沸騰してから入れるのがポイント。
なんか他にも忘れてることがある気がするけど、それはまた思い出せばいいや。
んで、“キュアポイズン”を覚えても使ったことがないというシロのために、回復阻害薬と毒薬を飲むのはどうかと提案したんだけど、正気を疑われた。
別に良いじゃん。
プレイヤーは死なないし、俺はアイテム消費できるし、シロは経験値貯まるし。もしかしたら、【毒耐性】とか【回復阻害耐性】とか覚えるかもしれないじゃん。そっちは、毒キノコや毒薬をそのまま食べた方が良いのかな。
ある程度回復させてもらったら次は麻痺薬だな。“キュアパラライズ”も覚えてるし。
……耐性取得を考えると、混乱薬とかもいけるだろ。でも、あれはまだ回復できないか。
毒キノコや毒草をそのまま食べても良いかも。麻痺草とかも試してみるか。
こんなの試せるのは、回復できる人が近くにいる場合だけ。今だけなんだよな。
「摂取しないと当面は毒にも麻痺にもならないでしょ。俺も耐性が取得できれば良いなってもくろみがあるんで気にせず、試しましょうよ」
「う~ん、良いんでしょうか。モラル的に」
「自分で飲んで耐性系のスキルアップするのは良くある話ですよ。それに、今なら取得経験値アップの効果もあるでしょ」
せっかく100時間までの限定ボーナスなんだから、活用しないともったいない。でも、麻痺薬飲んだら話もできないしな。そっちは後回しにしようか。
まずは、在庫の回復阻害薬と毒薬を飲み干す前に、セバンスを呼んだ。作業所から毒草と毒キノコ、麻痺草と在庫の麻痺薬。ついでに薬剤制作キットを持ってきてもらう。
回復阻害薬と毒薬を立て続けに飲むと、呪文を唱えだしたシロに待ったをかける。
「あ、キュアポイズンはちょっと待ってください。今、次の毒薬作りますんで。ダメージはたかが知れてますし」
HPが減ったら、“ヒール”の練習もできる。MPが回復しやすい街中だからできる経験値稼ぎだな。
呆れたようにシロがぼやく。
「普通のゲームならまだしも……」
「俺らにとってはゲームじゃないですか、ここ。苦痛とかも大幅に軽減されてるし。
住人にとっては現実でも、プレイヤーにとってはやっぱりゲームですよ」
「……そう言う割には、はっちゃけてませんね。ゲームだとタガが外れる方も多いのですが」
「俺にとってゲームでも、彼らにとっては現実なので。
シロも会ってるけど、執事のセバンスとかも住人です。雇用したので。
そうなると、雇用主としての責任もあるでしょ」
「変わりませんねぇ」
「まあ、一日二日で性格はそうそう変わりませんよ」
「いや、ほら。大金を得られたじゃないですか。人って変わるんですよ」
「……ああ、それはわかります。でも、ほら。現実で得たわけじゃないし、そもそもこの家も、お金も結構前からあったんで」
「……ん?そういえばそうでしたね。それでは変わりませんか。当然ですね」
ゲームで大金持ってるからって、何か変わるもんじゃないでしょ。
有名になると中には性格が変わる人もいるって聞くけど、俺は少数派だと思うな。もし変わるとしたら、有名になる前は猫をかぶっていただけだと思うんだよね。
そんなことを考えながらも、雑談は続く。途中でセバンスが道具と素材を持ってきてくれたので、作って飲んで回復しながらの会話はそれなりに弾んだ。
その際にわかったのは、麻痺は完全麻痺ではなく、行動阻害に近いこと。俺が作れる高品質の麻痺薬で「それはそうだけど」が「それ、は……そうだ、けど」レベルになる。麻痺っても頑張れば、それなりに活動できそうだ。でも、戦闘中なら軽い麻痺でもかなり危ない。
これなら、抗麻痺薬を飲んだ上で、どんな感じで「抗」なのかも調べないと。……でも面倒だから検証系プレイヤーに依頼しようかな。あ、もしかしたら本に載ってるかも。
シロに尋ねると、軽く片眉を上げた。見たことあるかクロに聞いてくれるらしい。
「そういえば、クロと会う予定はありますか?」
「ちょうどその話をしようと思っていたところです。
これから会いに行く予定なんですよ、図書館に。それでですね、さっきのお話にも通じるんですが、頼んでみたらどうでしょう。本の収集」
「……依頼としてですか?」
「ええ。依頼として。
たとえばレシピ集。たとえば魔術書。高価な物も多いでしょうし、貴方の目的からすると、お金の使い道としては真っ当ではないでしょうか。図書室とか、部屋のコンセプトとしても良い感じでしょうし」
「良いアイディアだと思います。
後はクロが了解してくれるかですね」
「すると思いますよ。先日、本を購入するか考えてると話をしていましたから。本は高いしあまり売っていないそうで、少し躊躇しているようですが。
読み終わった本を買い取れば、クロは次の購入資金ができて、貴方は読めそうな本が手に入る。どちらにも利益がある話です」
【言語】を育てるためとはいえ、ものすごい熱心だな。やっぱり、スキルじゃなく、自分の力で魔法を放つってことは、クロにとってロマンに満ちてるんだな。
……そこまで色々と読み漁っているなら、追加効果が付かない現状に関しても、何かアイディアを貰えるかも。そう考えると、会ってお願いしたくなるな。
「じゃあ、お願いしてみようかな。ちょっと聞いてみてください。
クロが良ければ、直接会って改めて条件の摺合せをしますよ」
「これからセックに行く予定ですから、現実の明日の朝か夜になるでしょうね。それはクロから連絡するでしょう」
最後にそう言うと、シロは良い時間なんでと帰って行った。おおぉ。気が付けばもう外が薄暗く。
【英雄歴263節春 4連12灯17:13(6月15日20:44)】
一眠りして、朝、再ログインしようか。