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生産だって冒険だよね  作者: ネルシュ
生産どうでしょう
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6-10 シロ

シロ再登場です

 シロさんが来るまでの間、作業所で他のお弟子さん達が来ても大丈夫なように素材を壁際に積んでおく。これだけあれば、ログアウト中も問題なかろう。一通り俺に教えて満足した彼女から練習用に使って良い毛と針、革の切れ端をもらう。これを使って、待ち時間に練習しよう。

 毛が抜かれた皮は“錬金”で“簡易なめし”をして、自分の練習用に。時間を見つけて、手作業でもできるようにしないと。

 そして、セバンスにお出迎えの話と、作業所に不足している道具があればとお金を渡しておく。基本は持ってきてくれるだろうけど、できればこっちで経費は持ちたい。

 ついでに、彼らが使っている小物類は同じ物を購入できると嬉しいな。伝手を紹介してもらえないかな。あ、でもその分のお金がないか。


「お金でしたら、ポム薬剤店でいただきました。街から入金される売り上げと税の免除分がそれなりの額になっていたようで」


 税金が免除になったんだっけ。そこは忘れてた。金額は怖くて聞けないや。利益総額から考えれば、すごいことになってそうだな。困ったぞ。どうやってか使わないと。

 そう思いながら応接室に入ると、この間見たのとは違い、シンプルでも品の良い調度品が、うるさくない程度に置かれていた。うわぉ。リアルじゃこんな部屋に入りたくない。なんか緊張するわ。


「念のため、この部屋のみ整えさせていただきました。

 まだ最低限度の物しか準備できておりませんが……」

「ありがとう。

 うん。問題ない。これぐらいすっきり落ち着いた感じが良いな」

「畏まりました。ではそのように」


 嘘は言ってないぞ。俺は落ち着かないが、雰囲気は落ち着いた感じだ。このレベルなら、そこまで緊張せずに生活できる……と思う。

 こんなところで【裁縫】の練習をして良いのかとも思ったけど、掃除の甲斐があるのでかまわないとのこと。うーん。甘えちゃおうか。

 もらってきた毛はウルフの物で、長さは3~4センチ。端を玉結びすると、結構短い。

 それでも練習だからと、まずは三角に刺繍。最初は一辺を一本で。玉止めと糸通しの練習にもなる。ちょっと目が痛いけどな。

 慣れてきたら、長めの毛を選んで一本で一つの三角形を描く。う~ん。ちと歪。何度か繰り返すと、今度は四角。おっと。平行四辺形になっちまった。

 さて、そろそろ星形かと気合いを入れ直したところで、部屋にノックの音が響いた。


「シロ様をご案内しました」


 作業に使った道具類は、インベントリに入れて後で整理しよう。

 ドアを開けるとセバンスとシロさんが立っていた。既に懐かしいな。


「申し訳ありませんね、急に」

「いえいえ。お気になさらず。お元気でしたか?」

「ええ。何とか。

 そうそう、もっと砕けていただいて大丈夫ですよ。この間のように。

 私の口調は癖だから気にしないでください。職業病でしょうね、家でも丁寧語になりますから」


 それは大変だ。

 でも、砕けて良いって言ってもらえると助かるな。感覚が引きずられないように気をつけて、と。


「では、お言葉に甘えて。

 それで、今日はどうしたんです?」

「お礼メールの際にも書きましたが、フィールドボス『ハイウルフリーダー』のドロップをお願いしようと思いまして」


 ある意味、お礼も兼ねてます。そう言いながらテーブルの上に置かれたのは、毛皮。ウルフの物よりも三回りくらい大きく、毛並みも良く感じる。


「これは通常ドロップですかね、全員が貰いましたから。微レアでは、爪と牙。私は爪でした。

 ハイレアと思しき物は得られませんでした」

「最初から無い可能性もあるね、ハイレア」

「まあ、その辺りは検証班が見つけてくれるでしょう。

 で、こちらが初討伐報酬の『撃破のウルフ』です。なんと、敏捷力+2、筋力+1にウルフ系のみですが、ダメージ微増と威圧(微)が付いてます。

 複数の能力値が上がるのも、効果が付くのも私が知る限りでは初めてですよ」


 次々に出してくれたアイテムを、一言断って“鑑定”すると、それぞれ見たことのない内容。……って言っても、ハイウルフリーダーの毛皮とか、爪とか、牙って書いてあるだけだけど。

 あ、でも爪って初めて見たな。

 そのことを伝えると逆に驚かれた。ハイウルフからも牙と同じくらいドロップしたらしい。

 ただ、シロ――さん付けはなしでと言われました――にしても、ウルフからはドロップした記憶がないようだから、そういう物かもしれない。実際に見ると、ハイウルフの爪でなんとかダガーレベル。加工したら、投げナイフとかにできるかな?ウルフだと小さすぎるかも。そういった微妙な感覚をきちんとアイテムに反映しているのはすごいな。

 一人感心していると、ノックとともに、メイが紅茶を持ってきてくれた。薫り高く、高級品っぽい。

 そのまま会話の邪魔をしないようにか、すっと部屋から退出した。

 熱い紅茶には良い思い出がないので、俺はゆっくりと、シロは優雅な雰囲気で紅茶に口を付けた。

 うん。美味い。


「良い葉を使ってますね。淹れ方も申し分ない」

「葉と、入れ方ですか。それがわかるのはすごいですね。

 入れ方や茶葉の善し悪しはわからないけど、美味しいことだけは俺でもわかります」


 思わず、丁寧な表現になりました。


「いやいや。コーヒーばかりだと胃に来まして。私は専ら紅茶党です。

 それはそうと、それらは加工できそうですか?」

「……正直、厳しいです」

「うーん、そうですか。でも、私達が持っていてもしょうがないですし。特に、死に戻りでロストする可能性を考えると。

 ……爪や牙も今のところ使い道が」

「爪や牙は、どうにかすれば武器になりそうですけどね。毛皮も鞣せれば使い道はあります。

 ただ、俺はまだ手作業で鞣したことがないんで、“錬金”だとロストの危険性があるし」

「それでも、ギーストさんが私達の知るプレイヤーの中ではもっとも進んだ生産者だと思うんですよ。住人の方でも良いんですが、せっかくですからお世話になったギーストさんにお願いしたいと思いまして。

 おかげでボスを倒せましたから、貴方の役に立つならそれで行こう。それがチームの総意なんです。

 単純に購入していただいても良いんですが、それだけだとあまりお礼にならない気がしますし。

 他力本願で申し訳ないですが、何か思いつくことはありませんか?」


 そう言われると、何かできないかと思っちゃう。頼られると単純に嬉しいし。

 うーん。まあ、失敗を考えなければ俺でなんとかなるか。後は、ペントとペトロの【皮革】組にお願いしても良いし。最悪、レベル上げ用の練習素材かな。

 まずは、洗って乾かせば、ゲーム内ではそれなりに日持ちするようになるし。


「……失敗前提なので、購入でも良いですか?

 それで良ければ、まずは俺が買い取って、できるだけの加工をします。難しそうなら、この街の【皮革】組合にお願いしてみますよ」


 それを、できによっては買い取ってもらえばいい。売り物になりそうもなければ、俺の加工用材料にすれば、損はしない。こういうゲームなら、レアものとかで作業すれば経験値も高いだろうし。

 ちょうど、シュラナ・サラーニナさんが気合い入れてるから、ペトロさんが来たところで【皮革】勉強会になるだろうし。そこで技術を伸ばせば、俺でも加工できるかもしれない。


「毛を抜いて、鞣したら、レザーアーマーや靴の材料になりますし、抜いた毛も使いようがある。……と思います。

 “錬金”でやると失敗の可能性があるので、手作業ですけど」

「それなら貴方の技術も上がりますね。

 ……でも、買い取りは規定額で良いですよ。持っていても仕方の無いものですし、お礼の一環ですから」

「いやいや、そうはいきません。ハイウルフすらなかなか手に入らないのに、リーダーのドロップは今他に手に入らない。相応の対価は必要でしょ」

「そうは言っても……ほら、貴方もあのイベントではご奉仕価格で販売していたではないですか。あのお礼なんですから」

「いやあれは」


 あれは、違う。それなりに理由があってあの値段だったんだから。


「あれは、俺のわがままです」

「と、言うと?」

「俺が街で薬作りの手伝いをしていたのは知ってますよね?

 このアークで売ってるのは、初心者回復薬。それの値段が一定なのは知ってますか?」

「ええ。ありがたいですよね」

「おかしいと思いませんか?商売の基本として、需要があれば高く、供給が多ければ安くなるのに、品薄になっても金額がかわらない。

 俺も後で知ったんですが、あれは各ギルドの協力で販売価格を決めているんです。初心者や住人のために」

「……最初のうちはお金がないですから助かりますね」


 シロは初めて聞いたらしく、感心した雰囲気。

 俺も、良いやり方だと思うんだよね。


「まあ、どこでも手に入る物やどこでも必要な物だけみたいですが。

 で、街の薬師達は、需要がひっきりなしで休む暇がなかろうが、安く提供してくれてます」

「……儲けが少ないってことですか?」

「……それもありますが……住人でも必要とする人は多いんですよ、初心者回復薬は。普通の住人なら、そんなに回復量はいりませんし、値段も安いですから普通の回復薬よりも初心者向けを購入します。

 それを転売して大儲けってのはやっぱり許容できなかったんです。……買い占め転売は違法みたいですし」


 とまあ、これをきちんと言葉にできるまでには時間がかかった。当時は、なんとなく嫌だからって感覚だったし。

 (中)を俺も買い占めた感じになったけど、その分、(小)や(微)を広めたので住民には不便がなかったし、利益も協力してくれたお店に流した。現場でも大量に作ったので、そんなに市場での流通は減ってない。それどころか、ポム店長曰く、イベント開始直後に比べて流通数は逆に増えたとのこと。

 ま、結果論だけど、ね。


「買う人の足下を見るのも、やり過ぎると気分が悪い。あの場所までは、街道を通ればほぼエンカウントなし。必要なのは原資とちょっとした時間だけ。それで3倍売りはちょっと、ね。衛兵隊も目を付けてたみたいだし。

 5割増しでもそれなりの利益になるはずなので、十分かと」

「……そんな理由があったんですか」

「それとは事情が違うので、今回はきちんとした金額を支払いたいです」

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