6-7 メンテナンス
起きて出勤の用意をしたら、すぐにダイブ。
もちろん、アラームは忘れずに。遅刻するわけにはいかんし。
早速に、“錬金”で寝てる間に追加された薬草などを乾燥させる。取引や移動時間を無視できるだけでも、雇った甲斐があったと実感する。彼らの給料のためにもお仕事がんばらんと。
思ったよりも、追加されている物は少ない。イベントフィーバーはだいたい終わったってことか。
ま、その間、値崩れしないように買い集めた物質がうちの倉庫に溢れてるんだけど。
作業所にはアロはいなかったけど、所々鍛冶で使わない道具があることからすると、他の分野の人も来てくれるようになったのかな。
「皮と毒草、毒キノコがそろそろヤバイか。薬草と魔力草は通常営業で、食材は持ってってくれたのか。麻痺草とかの類いはまだまだ大丈夫と。
これなら朝の短時間でも処理できそうだ」
皮は“簡易なめし”をしておけばOKだろう。早めにちゃんとした鞣しのレシピを覚えたいな。品質向上させるには簡易じゃ駄目だろうし。将来的には革鎧とか作ってみたい。
手元にある皮はウサギとウルフの毛皮にバットの翼膜。何に使うかはわからないけど、鞣しておくか。
で、毒キノコは毒抜き後に乾燥させて食材に。どっちの作業も手作業でしたことないから“錬金”が必須。住民の錬金使いがいれば弟子入りするのになぁ。
毒草は……色々な初心者回復薬と組み合わせて、回復阻害薬(微)やら作ろう。
初心者魔力薬をどんどん飲み干しながら“錬金”と“クリエイトウォータ”を使いまくる。初心者系はレベルで回復量が減るけど、クールタイムが無いのが魅力だ。もうMPの半分も回復しないけど、生産の補助に使うにはまだまだ現役。
「さて。これくらいにしようか」
2刻ちょっとでけっこうできた。ステータスとスキル様々だ。
お仕事(現実)の時間ですな。
「メンテナンス後のアナウンス確認したか?」
「軽くだけどな。確か……」
「接続時間100時間までの取得経験値やドロップ率、リポップ率の上昇ボーナスだな。50時間過ぎからボーナス量が減って、100時間で通常になる。新規参入にやさしいサービスだな」
「ここの運営は半分超えたら減ってくのが好きだな」
「急に終わると苦情出すプレイヤーもいるみたいだからな。アナウンス確認してないやつばかりだろうけど。
今後入ってくる新規プレイヤーにも良いけど、俺ら先行組にも利益があるからありがたいよ。せっかく攻略組に近づいたのに一気に追い抜かれるなんて目も当てられないし」
サービス開始からまだ12日目。1日最大12時間とは言え、100時間なら、社会人プレイヤーで引っかかる人間は少ないんじゃないか?
廃人と一般プレイヤーの差を減らす意味でも良い措置だと思うな。
ちょっと疑問が思いついたので須佐美に聞いておこう。
「今回の新規参入は急に決まったからイベントは無しかね」
「何かあるって思うけどな。イベントモンスターとかならそこまで大変じゃないだろうし」
「ああ、クリスマスのサンタ系?」
「それだと単体だろ。どっちかって言うと、ハロウィン系だな」
たいして違わないだろ。
「そういえば、もう次の街に行ったんだっけ?今何やってるんだ?」
「ああ。農業都市セックだな。
まあ、農村に毛が生えたくらいだ。詳細も聞きたいか?」
「うーん。……いや、良いわ。行ったときの楽しみにしとく」
「ま、そうだよな。聞きたくなったらいつでも良いぞ。
今はその次の街を攻略組が探してるので、それを手伝ってる状況だな。戦いってよりも、探索メインだ。
後は、セックに行きたいってプレイヤーをパーティーに入れて連れてく商売も始めたぞ。
フィールドボスと戦えるから人気の商売だぜ」
「あー、良いなそれ。お互いwin-winだな」
「1,000Gが今の相場だから、高めだけどな」
「そうか?次の街にそれで行けるなら安いくらいだろ?」
「今は新しいドロップも無いから稼げる素材が無いんだよな。向こうから来るときにアークにない素材や回復薬を買ってきても、利益はたかが知れてるし。買い取る生産プレイヤーがいないからな。
金策としてどっかのパーティーが始めたんだけど、最初は高くてさ。参入パーティーが一気に増えたけど、ボス戦があるからどうしてもそれなりの金額がかかるし。
ダンジョンで追加効果付きのアイテムを得た人はほとんど利用したんじゃないかな。あれは金になったから。他のプレイヤーはほとんど無し。依頼だけの稼ぎじゃ間に合わないし、間に合う頃にはレベルも上がってるから挑戦可能だし。
おかげで2極化が進んでる」
【採取】とかの資金集めスキルがないと、金銭的に厳しいのか。まだ生産がきちんとできているプレイヤーも少ないだろうし。早く、生産ギルド立ち上げないと。プレイヤー間取引が増えないと、新素材も値段が安いままだろ。
俺が考えるよりも、戦闘特化は大変なんだな。
「討伐報酬とか低いのか?」
「いや、低くはないぞ。高くは売れないけどドロップもあるし。ただ、パーティーで分けるとどうしてもな。
ほら、回復薬とか修理とか経費もかかるだろ?攻撃に金がかからない魔法職がうらやましいよ」
その分、MPって制限があったり、スキル枠がかつかつだったりするんだけど。生産系なんて、戦闘スキルを入れる余裕なんてないし。そう考えると、技術をそうそうに学べた俺はかなりのアドバンテージを持ってるんだな。
攻略に向かってないから持ち腐れなアドバンテージかもしれないけど。
「楽しそうだな」
「それは宗谷もそうだろ?
リアルっぽいのに万能感もあって、成長も実感できる。仲間たちと力を合わせてボスと戦うのも緊張感があって良い。
ゲームらしく、面倒なことが結構軽減されてるし。ほら。解体なんか、ナイフ刺すだけだろ?【解体】スキル持ってたって、ドロップ数が増えるくらいだぜ?
実は、その手の小説だとリアル解体も多いから心配してたんだけど」
「……そんなスキルも出てくるかもな」
「うーん。アイテム数が多くなるだろ?今ならウサギの肉で済むけど、後ろ足だのヒレ肉だの増えても困るぞ。ドラゴンの鱗が腰と胸と腕で効果が違ったらどうする」
そこまでは考えてなかったな。肉が部位になるのは料理系のプレイヤーには良いんだろうけど、むやみやたらに種類が増えても困るのは確かだ。
でも、将来的にマンネリになったら増えるかもな。
「ボスは大変かい?」
「もう何度か倒してるからな。初めにいたやつよりも結構弱体化してるから、そこそこのパーティーでも何とか倒せる。ちゃんと攻略を見てれば、平均レベル15もあればかな?
やっぱりボス戦は連携が肝だ。役割分担と予測と協調」
「予測と協調?」
分担はわかる。今までやったゲームでも、回復、攻撃、盾、撹乱、魔法とかいろいろ役割を振って戦った。2時間かかったレイドボス戦は今思い出しても楽しい記憶だ。
「時々、パターンに無い動きとかあるんだよな。学習的っていうか、こっちの動きを理解してる感じの動きが。その動きを予測して、声かけしながら回復薬をその場その場で誰がどこに投げるか判断しないと全滅もあり得る。ま、作業戦闘はそうとうレベル差が無いと難しいな。
それもあって、役割分担も固定的じゃなくて、できることを全員が担う感じかな」
「業務委託ってよりもグループワークか」
「……ちょっと違う気もするが、そんなもんだ。だから、戦闘後の反省会をきちんとしてるパーティーは成長が早いし、レベルの割に強いぞ。
ソロとパーティーで強さが全然違うプレイヤーも多いな」
「……反省会か」
できること、できないことを相互に理解し、得意なことを得意な人がする。単なる役割分担には終わらず、協力して物事を成し遂げる。
……そうだよ。今の共同作業に足りないのはそこだったんだ。今やってるのは、完全なる業務分担。鍛冶関係は【鍛冶】、細工関係は【細工】がしてる。裁縫関係は【裁縫】、革関係は【皮革】がしてる。その間には、成果品が動くだけ。
でも、鉱石の分類や下処理は【石工】の方が得意って言ってたし、宝石系の研磨も最終行程付近までは【石工】が上回る。毛皮から毛糸を紡ぐにしても、皮から外すまでは【皮革】が上手ってことだし。そうすれば、もっと良いのができるはずだ。
他分野からの気づきももらえる。……はず。
一緒の場所で作業を始めたばかりだけど、そんな感じで相互協力してもらおう。
で、今日明日で薬剤系の追加効果が見られないようなら、あきらめて、その時点で提出しよう。
うん。そう決めた。
「そう聞くとパーティーは難しそうだろ?でも、思ったよりも難しくない。最初は、人数が多い利点を使って、集団での戦闘経験を積むためと割り切ればいい。ソロで行き詰ってきたら、気分転換にでもパーティーを試してみるといい。
なんだったら、俺に気軽に声を掛けてくれ」
「悪いな。セックに行く時には頼むかもしれん」
「まいどあり。今はイベントも終わって停滞期っぽいから、そういう依頼とかあるとこっちも刺激になって助かる。
金も稼げるし」
「現実でもゲームでも、金は重要だな」
「今回のアップデートで、いろいろと変更があってな。覚えてないか?復活の時に所持金が低いときの寄進額の目安が変わったんだよ」
「あーなんかあったな。覚えてないけど。
前は1,000Gだったっけ?そういや、初期所持金と同じだな」
「そ、実際にやってみると、その金額はかなりでかくて大変なんだ。今回でレベルかける50Gってなってた。今の俺が18レベルだから、ほとんどのプレイヤーには嬉しい変更だろうな。
そんな感じの細かいけど、初心者に親切な変更だったな。つーか、それくらいはきちんと読め」
「まだまだ外に出るつもりはないから流し読みだったよ。今度腰を据えてヘルプを読んでみるか」
「攻略情報を知るのが嫌でも、基本情報は押さえておかないとな」
「ヘルプがあるから、必要になったら調べようと思ってたんだけど」
「そういうやつは大抵調べない。ま、自分が不利になるだけで周りに実害がなければ別にかまわんが」
「今後誰かに協力してもらうこともあるだろうし、一通り目を通しておくよ」
「これからも細かい変更はあるだろうし、もしかしたらルールも大きく変わるかもしれないから、確認しておくに越したことはないな。
ま、お互い楽しんでいこう」
そりゃそうだ。楽しむためにゲームしてるんだから。