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生産だって冒険だよね  作者: ネルシュ
生産どうでしょう
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6-5 執事

 面接って何するんだっけ?

 自分が就職するときは……履歴書を出して、試験をして、うーんと、会社で何をしたいかとか聞かれたけど……ここで聞くことじゃないな。


「まあ、お座りください」


 そう言っても誰も座ってくれない。


「ギーストよ。主となるお主が立っていては、座れるものも座れまい。お主の方にもふさわしい態度が必要であろう」

「まだ。雇用主じゃないですから、対等ってことで……って言っても難しいですね。

 じゃあ、改めて、座ってください」


 お互い立ってても仕方ないので、自分がまず座ってからソファーを勧める。人数がいるのでちょっと狭いかなとも思ったけど、なかなかどうして、領主様がここに入れてくれたソファーは5人が座ってもそこまで窮屈そうではない。

 ま、一人が少女だってのもあるんだろうけど。家族なんだろうな、結構顔が似ている。

 誰が話そうか。そんなちょっとした沈黙の後、順当に仲介者であるトルークさんが口を開いて、ロマンスグレーを紹介する。


「こちらがセバンス。以前はこの国有数の商業都市、テツエンの商家で執事をしていた。

 詳しい話は本人からしてもらった方がいいだろう」

「……私は、セバンスと申します。テツエンのある商家で執事として、別宅の一つを管理しておりました。

 こちらが娘のメイと孫のサンです。両名とも、私と同家でメイドをしておりました。メイは別宅の調理部門をまとめ、サンは掃除部門で見習いをしておりました。

 婿のガーディーは別宅の警護部門で働いておりました」


 セバンスさんがわざわざ立ち上がろうとしたので、押しとどめた。座ったまま、立った人の報告を聞くほど偉くなった記憶は無い。つーか、首が痛くなるわ。

 それにしても、大きな商家で働いていたんだな。別宅にすら各部門があるんだろ?一家四人では別宅管理にまるで人数が足らないってくらいだから、別宅はここくらいでかいのかね。


「ここのところ海難事故に何度も見舞われたのです。この一節で立て続けに3度。

 他の商家よりもかなり安全に注力していたのですが、悪いことは重なるものです。おかげで、かなり規模を縮小することになりました」


 利益率の高い商品ではなく、日持ちする物を購入し安全性の高い航路をとっていたにも関わらずとのこと。これまでは断トツの生還率だったらしく、乗組員の質も高かったそうだが、今回の件で乗りたがる船員も激減。かなり大変らしい。

 もともと冒険する性質ではないので、それでも商家の屋台骨は揺るがなかったが、活動規模をある程度確保するためにも、それなりの資金が必要となった。

 それが、今回の雇用に繋がると。


「まずは、商売に関係の浅い、別宅や別荘を売りに。そうして余った使用人、それなりに技術を持った者を新興の商家や貴族に紹介します。こちらは少額ですが紹介料を貰い、あちらは教育の手間が省ける。

 以前からある方法ではございますが、好んで取りたい方法でもございません」

「まあ、そうだろうね」


 現代でいうリストラだろ?紹介するったって雇用条件が良くなるとは限らないし、何よりこのくらいの時代設定なら使用人とは雇用契約ってより人生契約に近かったはず。そうなると終身雇用時代よりもがっちりと雇うはず。そう考えれば、切られる方も、切る方も仕方なくだろう。

 落ち着いて話すセバンスさんだけど、薄青い瞳には無念の思いが表れていた。まあ、この雰囲気なら生涯を費やしてきた商家なんだろうから、その思いは当然ともいえる。


「丁度私の管理する別宅も売却の運びとなりましたので、最後の仕事と思いまして人員整理の責任者を希望しました。共に働く仲間を他へとやるのです。私も残らぬ覚悟でした。

 ……家族には迷惑をかけましたが、理解してくれましたので」


 それを自己満足と言う人もいるだろう。そう言われても、セバンスさんの考えは変わらなそうだ。信念ってやつかね。よくもまあ、家族がついてきたもんだとも思ったけど、その先まで考えていたらしい。

 生まれ故郷アークにはトルークさんを始めとした古馴染みがいるし、テツエンの大きな商家で働いていたなら引く手数多。そう考えた。

 実際は、テツエンほど栄枯は激しくないので、そこまで求人も多くない。ただ、経歴からすると雇いたいって人は結構いるようだ。

 うちにはもったいないくらいの人だな。どうしようか……って考えるまでもないか。なにせトルークさんの紹介だし、何より改めて探すのは正直面倒。ここでお願いして、さらに、足らない分も流石の目利きで確保してもらおう。俺の目的は家の管理じゃないからそこまで手間をかけたくない。


「お求めになられているのは家の管理と伺っています。将来的には商店も開くとか。雇用の条件は見直しが必要かと思いますが。

 そういったことを含めご主人様のお力になれるかと……」

「あーっと。できれば、ご主人様ってのは……ちょっと恥ずかしい」

「……では、旦那様では?」

「うーんそれでよろしくお願いします」


 そういうと、ちょっとだけセバンスさんの眼元が笑った……後、厳しい表情になった。


「旦那様。私は使用人でございます。そこまで丁寧な言葉遣いは不要でございます」


 さん付けももっての外だとか。そういった関係に慣れてないから、丁寧語レベルまでは勘弁してほしいな。よく聞くと、雇用条件も改善要求ではなく、俺が提示したやつは一般的よりも良すぎるとか。

 うーん。現代的には当たり前なんだけど。しゅう休2制……って、あれか。しゅうは5にちだっけ。なら1にちでも……ってそれでも多いのか。まあ、昔の日本でも、丁稚奉公とかほぼ休みなしだったみたいだし、年代的にはそのあたりの考えなのかな。

 でも最初は住み込み、人が増えれば商店兼用の寮を用意するつもりで、トルークさんに建物探してもらうことにした。だから、こっちを休みの日も半分くらいは商店での対応になるだろうから、そこまで好条件じゃないよ。

 夜間警備とかあるから護衛系は3交代で1にち休ってのも多いって言われても、いざって時に動けないと困るから休養は必須だし。

 商店の準備もあるし、新人教育も平行だし、そこまで好条件じゃないと思うんだけど……そうですか。他はもっと大変ですか。

 え?給金も多い?三食付きの住み込みならもっと安いって?ブラックだなぁ。護衛なんて兵士よりも安かったらなり手がいなくて困るでしょ。ああ、休みが多いから比較すると好条件になるってことか。でもまあ、その分、質が良い人を雇えると思えば、それで。

 あ、料理できる人も雇わないと。メイ一人じゃ大変だろうし。

 ついでに、メイドさんと一緒に商店の対応もしてもらえば助かるし。ログアウトしている時間を考えると、指示待ちじゃなくて自分達で考えて商店運営してもらわないとだし、色々とお願いしたいこと――例えば、レシピや素材の収集とか――もあるし、そこまで好条件じゃないと思うんだけどな。

 ……まだ雇ってないし。

執事=セバスチャンはいつからの伝統なんでしょうかね

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