6-1 作るのは大変
六章は毎日投稿です。
ダイブすると、この間と同様にアロがいた。違いは、熱心にダガーを磨いていること。炉は火が落ちているが、部屋はまだ暑い。
というよりも熱い。熱気がスゴいわ。
作業所に炉をつけたのは良いけど、ちょっと熱気の抜き方を考えないと。換気口を追加するか。
「おう。お疲れ」
「これで3本目っす。薬草の数を増やしてちゃいるっすけど、品質が下がるだけっすね」
3本ってことは、6枚までか。えーっと、メンテナンスが入ってるから、ダガーは1灯に3本作れるって見とけば良いのか?そうなると、20枚までいくのに後3灯、明日の夜が目安かな。
「ぱっと見、同じに見えるけどな」
「見る目を鍛えるっす。目の善し悪しが職人の基本っす」
「“鑑定”に頼ってちゃダメか」
「ん?別に良いっすよ。せっかく使えるんだから、使うと良いっす。
そのときに特徴を覚えていけば、わざわざ“鑑定”しなくてもわかるようになるっす。そこまでできて一人前っすね」
“鑑定”も大量にすると住民は疲れるらしい。プレイヤーはMPを消費するんだけどな。
どちらにせよ、素材を見て、できあがりを見てなんてしていたら仕事にならないか。
「じゃあ、手伝うよ。鉱石の仕分けで良いかい?」
「そうっすね。休憩がてら教えるっす。ギーストさんは筋が良いっすから教えやすいっす」
「褒めても何も出ないぞ」
現実では、不器用さで進路を諦めた俺だから、そう褒められるとむず痒いし、あまり喜べない。ゲームだからだとわかっているけど、リアルさがねぇ。
「そんなんじゃ無いっすけど、まあ良いっす。
じゃあ、前回は鉱石の仕分けを教えたんで、今回はお手入れの仕方と補修っす」
「おおー。鍛冶っぽくはないけど、必須の技術だな」
「それじゃ始めるっす」
アロが鍛冶を再開できるようになるまで色々と教えてもらった。武器だけでなく、皮鎧でも簡単な手入れならできそうだ。鍛冶屋ってよりも武具屋スキルな気もするが。
さっきまで大変そうな表情だったけど、そろそろ疲れも取れたみたいだ。つーか、鍛冶って本当に体力勝負だよな。
でも無理はしてもらいたくないな。それとも、現実じゃあ気絶なんて話は聞かないけど、こっちではよくあるのかね。
「他の皆はどうかな」
「何がっすか?」
「ん。進み具合さ。詳細な打合せはしてないからどんなもんかなって思って」
「うちが一番進んでないと思うっす。他のは通常作業の範囲っすから。
なんだったら見に行くっすか?どこも近いっすよ」
「アロが打ち終わったら、休憩がてら案内して貰えるかい?」
「了解っす」
「こっちがカロの作業場っす」
「たしか、あそこが鍛治場だろ?近いんだな」
「まあ、このあたりは職人街っすから」
ポム薬剤店から奥に入った道を少し行くと、アロが一軒の建物を示した。このあたりの建物は縦に長く、音が上に抜けやすい形になっている。完全に作業所と倉庫の集合体だ。大通り沿いは住居兼店舗だから間口が広く、入りやすい作りになっているから、ちょっと印象が違う。
聞くと、厳密では無いけれど音のうるさい施設は自然とここに集まっているようだ。街はそこそこ広いので小売店舗はばらけているみたいだけど、生産場所は密集か。確かに効率的ではあるな。
「カローいるっすかー?」
「んーなんかあったッスか?」
「作業の進み具合を見に来たっす」
「それなら中に入るッス。うちの大将はいないけど良いッスね」
「実際にやってるのはカロだろ?」
話しながらドアをくぐると、作業場って言うよりも倉庫的な空間が広がっていた。あちらこちらに石が積まれ、施設の中心よりもちょっと手前に作業用の広い机と道具類が置かれている。
鍛治場とはかなり印象が違うな。でも、あの隅にあるのは炉だろうな。あまり使わないのかな。
「インゴットにするのはそっちでするってことッスから、ここじゃあすることが無いッス。精々、鉄鉱石納入の際に品質や大きさを揃えるくらいッスね。
あとは、細工のポリーナへ渡す原石を用意してるだけッス」
「……石工にメインでやってほしい作業は今回ないっすね」
「まあ、建物とか作るならまだしも、今回は」
「しゃあないッス。石工ッスから。うちらは建物の土台ッス。
その分、良い素材を準備しとくッス」
石工が噛んでる作業は沢山あるけど、どれもメインじゃ無いんだよな。協力してくれるのにちょっと申し訳ない気もする。
そんな俺にカロはいつものことと笑う。城壁や壁などの作成では独壇場な分、こういった場面では道具作りや手伝いなどの裏方になるのが一般的らしい。実際、石がメインの作業なんて、パッとは思いつかないけどさ。
次に訪れたのは、この前の会議を欠席した【皮革】のところ。確か……代表はベントだっけ?
そう考えていたら、目的地から普通のおっさんが顔を出した。
「おう。ボルボランとこのアロじゃねぇか。どしたい?」
「あっご無沙汰してるっす、ペントさん。今回の件のギーストさんをお連れしたっす。ペトロさんはいるっすか?」
「ペトロなら奥で仕上げ中だな。終わったらこっちに寄こそう。それまで待っててくれるかい?
案内してやりたいんだが、臭いがどうもなぁ」
「膠の臭いは慣れてないとキツいっす」
「これでも昔よりゃマシなんだかな。熱と一緒に上に抜ける構造になる前なんて、街中に作業所を入れるなんてできなかったんだぞ」
「魔道具様々っすね」
「ほんと、助かってるよ。待ってろ、ペトロに話しとくから」
そう言って、屋内に入るペントさん。ベントじゃなかったとは。俺の記憶も当てにならない。
便利な魔道具があるんだな。臭いって聞いたことがあったのにこんな街中にあるなんて、と驚いた俺は間違ってはいなかったわけだ。
「久々ですね、アロ。
あの件で寄ったと聞きましたが」
「久しぶりっす。ペトロ。相変わらず丁寧っすね。
こっちがギーストさんっす。ここで話すのもなんなんで、中で良いっすか?」
「こちらの小屋の方が臭いませんから、どうぞ」
誘われたのは、作業所に取って付けたような小さな小屋。商談とかに使うのだろうか。
口調が丁寧なペトロは、ペントさんを少し若くした感じの、ごく普通の人。あまり特徴は無い。これまでが濃かったから、余計に印象が薄くなってしまう。
「ここなら落ち着いて話せます。あまり大きな声で話す内容ではありませんから」
「そうか?別に普通の依頼だろ?」
「……違うっす。ギルドの象徴を作ることなんて、そうあるもんじゃないっす。大きな街でも10節に一度くらいっす。
それも、新設の生産ギルドっすから、決まるまではあまり外で言える話じゃないっす」
そういや、アロはあの件だの今回の件だのって表現してたな。よく知ってる中だからかと思ったけど、違うんだ。
俺は頭を掻きながら、小屋に入る二人に続いた。
「ギーストさんは祝福の冒険者っすから知らなくて当然っす。説明しなかった俺が悪いんす」
「私たち職人の間では常識ですから伝え忘れてもおかしくはありませんが、もう少し落ち着いて仕事をしないと周りに迷惑をかけますよ」
「申し訳ないっす」
「ま、まあ俺にはたいして影響ないし、謝ってもらったからこれで手打ちって事で。
で、そちらの作業は進んでるかい?」
「ええ。とは言いましても、お話通りでしたら、私は鞘、ですかね、まあそれを覆う革と持ち手の革を作るだけですから。それぞれに細工を施すようですが、私の作業としては、毎灯の仕事となんら変わりはありません。
実用性を考えるなら持ち手の革を、水濡れしても滑らないように処理するくらいですか」
「そうっすよね」
ペトロの言うことももっともだ。他にしてもらうことも無いし。
簡単な世間話が途切れたら、さっさと次に行こう。仕事を邪魔するのも悪いし。
腰を上げたところで、ペトロから一つお願いを受けた。
「申し訳ありませんが、この後はどちらに?」
「ジョルジョオのとこに寄ってから、シュラナ・サラーニナさんのとこっす」
「それでは、少々お手数ですが、シュラナ・サラーニナさんにそちらの山になってる革を持って行っていただけますか?」
「この切れ端っすか?」
見ると、完全に切れ端でしかない。
「たしかに切れ端ですが、ちょっとした修繕には使えるんですよ。
今回はシュラナ・サラーニナさんからまとめた注文がありまして。刺繍をして小物入れでも作るのでしょうかね」
「今回の件でシュラナ・サラーニナさんにもお願いしてるっす。たぶん、そのためっす。
どっちに先に行っても似た距離っす。先に【裁縫】のとこに行って渡すっす」
「それは任せるよ」
つーか、どっちに行くかよりも、【裁縫】のNo.2がシュラナ・サラーニナって長い名前なのが覚えにくくて困る。挨拶交わしたはずなのに、どうにも名前が覚えられないな。相手に“鑑定”すれば名前って見れるんだっけ?
【裁縫】はトップも長い名前だったし、妖人族はそんな設定なのかね。