閑話 ある少女たちの一コマ
今年もよろしくお願いします。
ちょっとだけ雰囲気を変えた閑話。
相変わらず、可愛い女の子が表現できません(TT)
「ねぇ、雪。最近ゲームしてる?」
昼休み、お弁当を食べ終わって雑談している中、突然ゆりからの質問。
エリとみっきーが席を外したタイミングで小声ってことは、既にあの二人には聞いたのかな。
一緒に始めたはずの二人は、『冒険者達』の難しさに早々にギブアップしたのも私は知ってる。最近はまったくアクセスしてないみたい。
「ゆりは諦めてないんでしょ?」
「もちろん!……でも、一人じゃ寂しくって」
「でも、私だって違うわよ?」
質問に質問で返した私に、彼女は屈託のない笑顔で答えた。が、すぐに顔が曇る。うーん。元が良いから、曇った顔も可愛いわね。うらやましいわ。もう少し髪を伸ばせば日本人形ちっくになる彼女と違って、顔つきがちょっときつめなのがコンプレックスなのよね。
おとなしげな外観とは違って、ゆりはアクションゲーム大好き。今話題の『冒険者達』でも、先頭切って戦闘に勤しんでる。
私は彼女とは逆で、スポーツ少女系な顔の割にはインドア派。好きなのは読書。最近の趣味は編み物。先日始めたばかりだけど。
『冒険者達』も、ゲーム内で編む練習をするために始めたようなもの。現実の何倍もの時間練習できるんだから助かっている。
だから、戦いメインの彼女と一緒に冒険はなかなか難しい。
「でもさ、雪だけだもの。まだやってくれてるの」
「あら。二人だって、完全に止めたわけじゃないわよ。お稽古の復習にとか言ってたわよ?1時間が3時間になるから私も助かってるわ」
「みんな忙しいもんね。現実の本とかが持ち込めるようになったら受験生がみんなやり始めるんじゃない?」
「ふふっ。ゆりらしくないわね。情報遅いわよ。
みっきーのところからこの前発売したソフトがそれ、よ。脳の疲労を考えて倍速みたいだけど」
それでも、倍の時間勉強できるなら50万円は高くないと思う。
今後は、VRは一家に一台ってことになるかも。みっきー家の会社は大儲けね。
……ありがたいことに、私の家はそこそこ裕福。私立の中堅お嬢様学校に娘を入れても大丈夫なくらいには裕福。この学校では下から数えたほうが早いだろうけど、誕生日プレゼントにVRを買ってもらえるくらいには裕福。あ、これは嘘。半分以上は私のお年玉貯金から出てるので。
まあ、そんなお嬢様学校なので、周りの子も半分くらいは購入……というよりも、親がどこからか手に入れてくれたらしい。こういうのがあるからプレミアムが付いちゃうのよね。欲しい人に届かないのはちょっとと思うわ。
ま、その恩恵を受けてる私が言っても説得力がないけど。……ちなみに、私は自分で申し込みました。それもあって、ゲームで行き詰っていても止めようとは思わない。結構高かったからね。
他の子は結構早く諦めちゃった。もっと遊びやすくなれば戻ってくるかな?あれだけ人気のゲームだから埃に埋もれてたらもったいないと思うのよ。
「うーん。それもありだけど、面白くないじゃない?私はやっぱり冒険したいのよね。
だからさ、こんど冒険行かない?レベルあげたほうが色々幅が広がるわよ」
「……私はあまりレベルは関係ないんだけど」
「今は何してるの?毛糸見つかった?」
「聞いて?いい感じの紐を見つけてね。指編みの練習してるの」
「指編み?手編みと違うの?」
「編み棒がなくてもできる編み物なのよ。編み棒がどうしても見つからなくて仕方なく始めたんだけど、面白いわ。
紐は街中の依頼で見つけた雑貨屋さんにあったんだけど、編み棒がどこにもなくて困ったわ。
こっちで、道具がなくてもできる編み物を調べて見つけたの。やっとシュシュが作れたわ」
「すごいじゃない。やっぱり、あの世界は自由度が高いのね。
そうじゃないかと思ってたの」
「ゆりは最初っからそう言ってたわね。だから私もできるんじゃないかと思ってやってみたの。
その点ではゆりのおかげって言えるわね」
「そんなことないわよ。やりあげたのは雪じゃない。
私じゃ無理ね。細かいのは苦手だわ」
「……簡単なのに」
まったく、ゆりったら。見た目だけなら編み物とか趣味でもおかしくないのに、ほんと、見た目だけなんだから。私も人のこと言えないけど。
「エリとかみっきーはやっぱりだめよね。他の子は?」
「他の子なんていないわよ」
「えっ?だって、みんな買ったって……あ、そうか。この学校の生徒なら、戦いなんてしないわね」
「違うよー。みんなはVRの機械だけ。流石にソフトは手に入らないわよ。限定3000よ、3000。そんなの手に入るわけないじゃない。
この学校で手に入るのは、由比崎先輩くらいでしょ」
「由比崎先輩かぁ。あの先輩なら手に入りそうよね」
中堅でもお嬢様学校。毎年10人は運転手付きで送り迎えされる子が入ってくる。その中でも飛びぬけてお嬢様な人の代表が由比崎先輩。……でも、あの由比崎先輩はゲームなんてやりそうもないけど。
それにしてもそっか。みんなVR持ってるだけで、『冒険者達』はやってないのか。うーん。もっと広まってくれないかな。編み物友達なんてこのままじゃ見つからなそう。
「もっと広まってくれると良いんだけどね。まだまだ友達になれそうなプレイヤーが少なくて」
「でも、戦いたいって人は少ないと思うわよ。私だって、戦うのはお断りだもの。」
「……さすがに、学校の友達は難しいと判ってるわよ。エリもみっきーだって止めちゃうし」
「あらっ?私は止めてないわよ」
「わたしもー」
「二人とも、止めたんじゃなかったの?」
いつの間にか戻ってきてた二人が会話に加わった。最近ログインしてないみたいだから、止めたんだと思ってたのに。
「お父様に勉学優先って言われて仕方なく。試験も終わりましたし、そろそろ再開しますわ」
「わたしもー。早く動物が飼いたい」
「あら?その系統のスキルってありました?」
「あったよー」
「あ、私も見てない」
「記憶にないなぁ。じっくり見たはずなのに」
「……噂は本当のようですね」
「人によって取れる初期スキルが違うっての?あれだけの数あったのにね」
エリもみっきーも、私と同じく攻略には興味がなさそう。こういう自由度の幅が『冒険者達』の売りなんだと私なんかは思うんだけど。
ゲームはまだまだ始まったばかり。ゆりの話を聞いていると先に進もうとする攻略組?ばかりみたいだけど、私たちみたいなプレイヤーが増えれば、面白くなるのに。
「あー早く来週にならないかな」
「急にどうしたの、ゆり。来週何かあったかしら?」
「今週末から新規プレイヤーが追加されるでしょ♪」
「歓迎イベントが来週末だよね」
「違う違う。……あ、イベントは来週末だけど、私が待ってるのは違うこと」
「……噂で生産ギルドができると伺いましたが」
「あ、それはできると思うよ。それも併せて、プレイヤーが増えれば、エリたちみたいに色んなことに挑戦する人が増えるじゃない?そうなると、アークでももっと色々楽しめるようになるんだろうなって思うと待ちきれなくて」
「初心者でも楽しめるようになると良いわね」
そっか、ゆり。これから面白くなるんじゃなく、今の時点ですら楽しい『冒険者達』がもっともっと楽しくなるんだね。
年末に投稿しようと思ったら年始になってしまった。
執筆は遅れていますが、12日(投稿一周年)には6章をアップしたいと思います。
1/2誤字修正