5-15 楽しい会話
最初のうちはお互いちょっとぎこちなかったけど、趣味のことに関して話し始めればすぐに仲良くなれるのは誰でも同じ。瞬く間に盛り上がった。
ま、ほとんど百合香さん――高里さんだと区別が付かないのでそう呼んで欲しいとのこと――が話して、時々自分の経験やら聞いた話をちょっと言うくらいだけど。それでも、ジーン達の冒険譚を聞いたおかげで、未経験のことでもおぼろげながらに知っているので話についていける。
うーん。やっぱり戦闘系のプレイヤーとは視点が違うな。身体的特徴を変更した際の影響ってそこまであるんだとか。現実の自分との感覚違いがそれほど起こらない理由の推測とか。アーツの使い方もよくよく聞くとちょっと違うし。
生産だと、このアーツを使うって決めてから発動だけど、戦闘中にそんな悠長なことはやってられない。無意識というか、即発動できるようになって一人前とか、ハードル高いわ。
「そうですか。もうすでに次の街ですか。スゴいですね」
「フィールドボスがなかなか倒せなくて大変でした。記念イベントが終わってから挑戦者が増えたそうですよ。そこそこの人数がセックへと到着しているとか。
宗谷さんは戦ってみましたか?」
「ウルフに手こずっている状態ですから、まだまだ遠いですね。
まあ、私は生産がメインなので、次の街に行けなくてもそれほど困りませんが」
「……生産ですか。それだけですとレベルは上がりにくいですし、セックに行かないと生産ギルドもありませんから大変で……え?」
「どうかしました?」
驚きを顔に出した百合香さんは、年相応の高校生に見える。落ち着いて丁寧だと、大人っぽいのに。こう見ると、意外と高里さんに似ているな。
それはそうと、さっきの話で驚く場所が何かあったかな?
「……えーっとですね。聞いても大丈夫ですか?ダメでしたら答えていただかなくて結構ですが。
生産ギルドが無いのにどうやって生産をしてらっしゃるのですか?私のお友達は道具を使わないものしかできないって話をしていましたが」
「あーそういえば、そうでしたね。私も、高里さんほどではありませんが事前情報を入れない質ですので、それを知らなかったんですよ。
その事実を知る前に、私は、たまたまですが、住人の方から依頼を受けまして」
「そういえば!
しっ失礼しました」
思わず叫んだ百合香さんは、顔を真っ赤にしながらソファーへと座り直した。
「住人からの依頼。生産現場での作業。
噂は本当だったんですね」
「私は噂には疎いのでよくわかりませんが、住民の方々も生活をしてますから、生活も、戦闘も、それなりにあるようですね。あまり知られていないようですから、私は運が良かったみたいです」
「まだあまり知られていない情報なのに、聞いてもよろしかったのですか?掲示板でも最近話題になり始めたばかりですし」
「私は別に隠しているわけではありませんし。掲示板を使ってないだけですから。
最近話題になりつつあるわけですから、街中を中心に活動しているプレイヤーなら大抵は知ることができるんだと思いますよ。ただ、外で戦う方が多かっただけかと」
「そうですね……周りを見てもほとんどの方が街中で活動していませんね。私も外で戦ってばかりでした。
もう少し、学校のお友達の話をきちんと聞いていれば良かったです」
「まあまあ。そう考えこまずに。
遊び方が違えば楽しみ方も違う。それでも、どちらでも楽しめる良いゲーム。私はそう思いますよ」
「……そうですね。戦えない人を切り捨てていると言われていましたがそうではなかった。そう考えれば、今まで以上に『冒険者達』を楽しめる気がします」
「学校の友達がまた戻って来てくれるような、そんな何かが見つかると良いですね」
「はい」
そんな感じで話をしていると、気がつけば夕食の時間が迫ってきていた。高里さんのキャラメイクはっと。
そう思って目を向けると、丁度ログアウトしたのか、身じろぎした高里さんがVRを外すところだった。
「いやぁ思ったよりも時間がかかったよ。これじゃあ、寝不足にならないように気をつけないとだな。
宗谷君も百合香の相手をしてもらってすまなかったね。私が招待したのに」
「ご無理を聞いていただいてすみませんでした」
「いえいえ。なかなか楽しい時間を過ごさせていただきましたから。それに、こういうときは、ありがとうございました。ですね」
「こちらこそ。本当にありがとうございました」
「さて、そろそろ夕食だね。宗谷君。こんなお詫びで申し訳ないけど、楽しんでもらえると嬉しいな」
計ったようにドアがノックされ、準備が整ったことを告げられた。さて、夕食の時間だ。
結局、夕食の間は『冒険者達』の話はなく、高里さんの外国話がメインだった。流石ホスト役と言える、無理なく楽しめる話ぶり。できる男ってこういうのかね。コミュ能力高いなぁ。
美味しい夕食後は、ちょっとだけお話しをして、早々に退散。高里さんもゲームをしたいだろうし、そもそも俺がしたい。食後の会話にも混ざっていた百合香さんももちろんだろう。それなら、不自然じゃ無い程度に早く帰るに越したことは無い。
ちなみに、普段買うことの無いそこそこ高級食材――外国製――をお土産に貰ってしまった。料理に使うのも勿体ないけど、使わないのもな。流石高里さん。貰うのを躊躇するほどの物では無いけど、お礼の品としては変じゃない物を上手に選んでいる。
ありがたく頂戴して、ゲームと共に、休日の楽しみにしますかね。