5-13 情報交換
昼休みのちょっとした情報交換。攻略情報やネタバレ的な話ではなく、自分達の冒険譚や面白かったことを話しているだけ。掲示板を見てまで情報収集したいとは欠片も思わないけど、情報の重要性は理解しているし、こういった時間も面白い。ほら、酒場で情報収集する冒険者みたいじゃないか。
向こうも、俺の話……って言っても、基本的に初心者回復薬を作っているだけだけど、を聞いては色々と考えているみたいだ。須佐見はネットも駆使して情報収集してるから、俺のちょっとした話でも気になることが見つかるんだろう。
そういや、昨日もバタバタしたし、今回のイベントと生産ギルドの話はほとんどしてなかったな。イベントの件はかなり盛り上がってたし、俺の話をすると面倒なことになりそうだから止めとくか。その代わり、生産ギルドの件は話そう。
なにせ、生産職が不遇扱いされているのは、アークに生産ギルドがないからだ。だから、設立されれば生産系の人間が爆発的に増え、俺も目立たなくなるだろう。
これでも、『名無し』の面々に、非常識を体現しているはずの奴らに、驚かれたことを気に病んでいるのだ。
「そうか、生産ギルドができるのか。それは嬉しいな。今週末だろ?2次勢が来るのは」
「今までみたいに戦闘系だけが進みやすいってのもあれだしな」
「それはそれで、冒険らしくて良いけどな。
プレイヤーメイドが解禁か。こりゃ攻略が一気に進むな」
「おい。あくまで住民からの未確定話だぞ」
念のため、そういう説明にしてある。
「あほか。住民の噂話なら、そっちの方が確度が高いだろ。成長型AIってことだし、そうなると実際そこに住んでるのと変わらないんだから。
そうなると、βと違ってプレイヤー層に変化が出るな。楽しみだ」
「変化?生産職が多くなるだけだろ」
「今までは、戦闘力がなければ何もできなかった。だから結構偏ってるんだよ。生産目指している人はスキル枠が圧迫されるから低レベルだし。
今後は生産特化とか幅が広がるんだぜ。そうすりゃ、ネタプレイヤーも増えるってもんさ」
楽しくなりそうだと笑う。うーん。そんなもんかね。
生産プレイヤーが熟達するまでは、ただの見た目だけ装備とかが手に入るレベルだろ?そこまでネタプレイをする奴が……いるか。装備無しとかの縛りプレイで不思議のダンジョン系をクリアしまくってた古い友人が思い浮かぶ。
俺じゃ無理だけど、遊びの幅は広がるか。なりきり系とかありそうだな。
「それなら、賑やかになりそうだな」
「……だからか」
「ん?何を自分で納得してるんだ?」
勝手に自分の中で納得している須佐見が気になった。
「ほら、このタイミングでフィールドボス突破だろ?タイミング的にどうよと思ったんだけど、運営側の思惑とか考えるとありかなって」
「どういうことだよ」
「まだ、ぼんやりなんだけどな。
今後、毎月本体が5千、最大で1万販売される予定だろ?つまり、中の時間軸で言うと、3連に一度、1万人が来るわけだ。それだけのキャパはあの街にない。
課金を考えると一週間で次の街って運営側としては攻略が早すぎる気もするけど、追加ユーザーからの評価が人混みがすごいとかになる前に対処しようとしたのがあのイベントだったのかなって。ほら、あれでレベルアップして倒せたわけだし。
でも、それだけユーザーが増えると、生産メインを希望する人も多くなるだろうし、いつまでも戦い必須じゃあ止める人も出てくるだろ?それもあって、生産ギルドが設立されるのかなって思うと、なんとなく納得できたんだよな。うん」
「あーそう言われると。でも、そこまで運営が采配してないと思うけどな、面倒だし」
関係した人間としては、全て運営のもくろみ通りとか言われるとあれだけど、言われた内容には納得できなくもない。でもまあ、うがち過ぎだとは思うけどね。
「まあ、どっちにせよ、世界が広がるのは面白いよな」
「わくわくするな」
年甲斐もなく。
話があっちこっちに飛んだり跳ねたりしながら、須佐見との話は続く。始まったばかりなのに、いや、ばかりだからか、都市伝説チックな噂や怪しい情報とかが多いな。
「……でな。後は……そうだな。日曜の夜に出たNPCが生きている説。あれも結論がでないままで、色んな方向に検証されてるな。なんつーか、極端な感じだ」
「俺がやってる範囲だと普通の人間とたいして変わらないけどな。会話もできるし、感情もあるし」
「そこなんだよ!
人によっては、なんだ、会話がちょっと微妙だったとか、ほら、ゲームのNPCそのままの対応だったとかあってさ。どっちも自分の経験だから譲らないし。
でも、住人との交流で技術を習得したり、イベント的なのが発生したりがあるから、検証班としては制限付きのAI搭載じゃないかって意見が主流らしいぞ」
「住人の対応ねぇ。……あーっ、それはプレイヤーの方にも原因があるんじゃねぇか?須佐見。お前は買い物ってどうしてる?」
「買うのは回復薬系と装備だけだな。店選びが面倒だから、ギルドに紹介された行きつけのところで買ってるぞ。買うのも決まってるから、時間かからないし」
「店舗内ならメニューからでも買えるだろ」
「あれなぁ。味気ないし、邪魔だからな」
「住人目線で考えると、あれでばっかり買ってる人に、親切な対応したいと思うか?頼み事をしたいと思うか?」
「……ないわぁ~。そんな客には、客としての対応だけだな」
「それが対応の差なんじゃね」
まあ、それだけじゃ説明できないこともあるけど。例えば、住人の成長。たぶん、プレイヤーが関係しない状況じゃあ、変化も成長もしないようになってると思う。急いで迎えに行ったはずなのにポポロが帰ってきたのも丁度クエスト時間が経過したタイミングだし、ちょっと教えると技術レベルは急上昇だし、新しいレシピを教えるとすぐに作れるのにそれを発展させようって行動は起こさない。アロだってこっちが指示しなきゃ試行錯誤しそうもなかった。
なんとなくだけど、そんなAIになってる気がする。そうじゃないと、現実世界の技術に魔法を加えて、一年もすれば現代日本を超える街並みになってるだろう。つーか、魔力で走る車くらいはすぐできるだろ。蒸気機関なら燃料代わりに火魔法にすれば、エコだし。
でも、そうなってないということは、運営側からなんらかの規制が入っていると考えられる。勝手に技術革新しないように、創造と技術拡散についてはシステム的な制限があるって考えた方が良いだろうな。
まあ、そうじゃないとオリジナルレシピなんて存在できないだろうし。試行錯誤は職人の本能って話だし。
「お?そろそろ昼休みも終わりか。
早く帰って冒険したいぜ。メンテ明けだしな」
「あ、今メンテナンス中だっけ」
「宗谷は今日、高里さん家だっけ?ご愁傷様」
「VRセットを渡すだけと思ってたんだけど、食事に誘われてさ。
攻略組じゃなくて良かったと思うよ。もしそうだったら我慢できなかっただろうし」
「まあ、手に入れようとしても手に入るもんじゃないからな」
「須佐見の時もそうだけど、転売ならこんなにスムーズにいかないぞ。複数当選したことと併せて、事前にサポートに連絡していたから受け渡してすぐにゲーム開始できたんだし」
「それなのにお礼を受け取らないからな、お前は」
「性分でな」
「ま、精々美味しい物をごちそうしてもらえ」
須佐見の台詞が情報交換の終了の合図となった。午後の仕事をしたら、早めに高里さん家に向かうか。
時間の余裕は見てるけど、遅くなるのは困る。