5-3 困りごと
帰宅してすぐにダイブ。今日は5時間くらいはできそうだな。まずはおめでとうメールを送って、と。
朝のダイブでは作り慣れた物しか作ってないから、レベルも何も上がってない。
まずは、MP&素材消費に、日持ちしない食材で【錬金】のレベル上げかね。
……ついつい興が乗って、【錬金】以外でもまだ作ってなかったレシピや1回しか成功していなかったレシピを☆2つ(11回成功?)になるまで作ってしまった。
料理系はこのままじゃ腐って駄目になるかと無理をして食べてみたら、なんと、『食べ過ぎ』のバッドステータス。効果は、HP&MPの回復速度上昇(微)、攻撃力、防御力と敏捷力の低下(小)。HP&MP微回復は街中なら使えなくもないバッドステータスだけど、敏捷力の低下で作成速度がわずかでも落ちるからなぁ。
うーん。劣化速度低下もしくは時間経過がないアイテムボックスが欲しいな。
思わず素材に囲まれた作業所を見渡しながら、そんなことを考えてしまう。昔やったゲームでは、アイテムが劣化しなかったから余計にそう思ってしまう。
MMOだからなのか、このゲームだからなのか、微妙に現実を取り入れた不便さが気になるなぁ。かと言って、わざわざゲームだってことを示すような変な部分もあるし。それなりの考えがあるんだろうけど、変な運営だよな。
ま、考えても仕方ない。こういうもんだと思わなきゃ。もっと良い方法があるのかもしれないけど、自分の性格じゃ掲示板での情報収集なんてやらないし、やりたくない。それなら、それは受容しなきゃ。
……本当に気になったらやるけどさ。
食べながら作って、作りながら食べて。食材を一通り消費したところで思い出した。まだ俺、薬草を冒険者ギルドへお願いしたままだ。魔力草も余ってたら買ってくるか。
前に行ったのが確か土曜だから……こっちだと4灯、いや1巡は経ってるか?引き取りに行かないとだな。
せっかく行くなら、売れそうな薬類を持って行くか。コッコ焼きのペルさんに売るつもりだった肉は、ついさっき使っちゃったからまた今度。
MPが必要だから売るのは……回復薬系と残ってる睡眠薬類かな。全部は入らないから、持てるだけ持って、さて行くか。
ということで、やってきました冒険者ギルドです。
中に入ると、買い取りコーナーは長蛇の列。急遽、素材とその他に分けてある。なんで?
「こりゃ良いとこに。薬草の受け取りやろ?
もし時間があるなら、ちょっちこっち来てくれへん?」
疲れた顔のギルド長に呼ばれ、2階の会議室へ。雰囲気では嫌な話ないみたいだけど、いったい何だろう?
「人が多いですね」
「嬉しい悲鳴やけど、困ってもいるんや。ま、それは追々として、まずは薬草やな?」
「薬草の受け取りもそうですけど、魔力草の残りもあります?それに、「あるでー。たーんまり」」
ん?
さっきまで疲れた表情だったのに、今は少しだけほっとした顔をしてる。
「お祭りの影響か、ここんとこ素材の買い取りが急増してな。欲しい素材がよりどりみどりやで。
……消費量はそう増えんから在庫は増すし、かといって買わんわけにもいかんし」
先日のイベントをNPCはお祭りと理解してるわけか。なぜだかわかんないけど影響があるなんて後始末が大変だな。
「買い取り値段を下げたりとかはできないんですか?」
「あー無理や無理。どこでも取れるもんの値段は同じと決まっとるんや。売値もな」
軽く手を振りながら否定するギルド長。そこでしかって特産品は別にして、どこの街や迷宮でも手に入るような物は、値段が一律で決まっているらしい。なんでまた。
「んーまあ別に秘密でも何でもないからええか。
うちらの冒険者ギルドや魔法ギルド、まだできてへんが生産ギルドが何をしてるか知っとる?」
「簡単に言うなら、冒険者や職人、ま、構成員の手助けですよね?
依頼を集めて仲介して報酬を渡す。個人個人でしてたら大変ですから」
「確かにそれが一番の目的や。魔物を倒す冒険者や魔法使いがおらな、みんな殺されてまう。得られるもんも価値があるけど、そうじゃない魔物の討伐依頼も多いのはこれが理由や。人はそこまで強ぅない。
職人がおらな、まともな生活も難しい。かといって、一朝一夕で育つもんやないし。今度ギルドができるのは、うちとしては万々歳やね。
ランクで手ぇだせる仕事に制限掛けてんのも、無茶して失敗しないようにや。簡単な事からやってもらわんとな。死なんように手助けせな」
そう言ってから、彼女は少しだけ身を乗り出した。
「でも、それだけやないで。ギルドはそのためだけにあるんやない。
怪我で引退せなあかん冒険者。頼れるもんがいない孤児。下手したら灯々(ひび)の食事にも事欠くもんはようけいる。低ランクの依頼は、半分くらいそんなもんらのためにあるんや。
買い取り金額を下げたら、飯が食えんなる。命に関わるやろ?
だから、うちらギルドは一定金額で購入する訳や」
言い終わると、ため息を一つ。
へー。所謂セーフティーネットをギルドが担っているわけだ。
「だから、今困ってるんやけどな」
おおー話が戻った。
沢山あって困るって……あ!
「気づいたようやね。
そう。長持ちせん物があるんや。かといって安ぅ売るわけにもいかんし、買い取らんわけにもいかんし。
いつまで経っても減らんどころか増える始末や。仕舞う倉庫も余裕がない。ここはセックよりも小さな街や。消費するにも限度がある。
少しでも協力してくれると助かるわ」
「俺が買う量はたかがしれてるけど……」
「そうでもないで。買ってもらえりゃ本当に助かるわ。
今一番困ってるのは、素材を買い取ってばかりでギルド手持ちの現金が乏しくなってることや。中には追加効果付きの装備まで持ち込むもんがおる。あれは一気に金が出てぐんでなぁ。
このままじゃ、買い取り所か、下手したら依頼達成報酬の支払いも滞りかねんわ。そしたら、どんだけの命に関わるか……。
だから、少しでも素材を買ってくれれば嬉しいわぁ」
時間があれば装備も金に換えられるけど、即効性がないから今の対策にはならないとのこと。ま、順次売ってはいるみたいだけど。金策で打てる手は全部打っておきたいみたいだな。
イベントも終わったし、そこまで大事にはならないと思うけど……。
でも、そうなるとこっちの買い取りはあれかな?インベントリから初心者回復薬やら混乱薬やらを取り出しながら聞いてみる。
「じゃあ、こんなのは止めといた方が良いですか?」
「買うわ!」
でも、全部併せれば俺が買い取る薬草代の数十倍になるぞ?
なにせ、(小)100個に睡眠薬、混乱薬、麻痺薬が各53、笑い薬23に光玉94、60回復の初心者回復薬(中)が5個だ。残りスペースは通常の初心者回復薬。安く見ても2万Gを超える。基準額が1つ5Gの薬草どころか、20Gの魔力草でも100枚程度じゃ話にならない。
「在庫が減ってて困ってたんや。一時的に金が少なくなろうと、すぐに売れて金が戻ってくるんやから問題ない。
もしなんだったら、こっちが支払った金でなんか買うてって」
ギルド長は笑いながら付け加えた。
あ、その方法があったか。
「じゃあ、支払いを素材でお願いできます?」
「……それは助かるけど、ええの?なんの得にもならんで。うちらが得するだけや」
「別にかまいませんよ。練習も兼ねて沢山消費しますから。作った商品はまたすぐに持ってきますよ」
お金は減らずに素材が減る。売れる物も手に入るので、資金繰りも少し楽になる。冒険者ギルドに取って良いことばかりだ。
それなのに、ギルド長は素直にウンとは言わなかった。
「うーん。嬉しいんやが、返せるもんがないんやなぁ。ほら、ここの使用料の類いはただになったやん?」
「別にいりませんよ」
ゲーム内でも、さすがに、子供が飢えるって話を聞けば、なんとかしてあげたいと思う。こっちには特に損もないし、逆に手間が減って助かる。売って買ってよりも一括で物々交換の方がこの場合は楽だ。
どっちにしろ、家で山になった素材も消費しないとと思ってたから、作業時間が伸びたと思えばそれでいい。図書館とか魔法ギルドへ行くのが遅くなるけど、言うなれば、それくらいしか影響がない。
「そうはいかん。なあなあは後々困るようにできてるんや。
そうや!今回の納品は、先に依頼として出させてもらうわ。報酬は値段相応の素材とした依頼や。ほとんどが簡単な納品やけど、こんだけあれば、一気にランクが5になるやろ」
「いいんですか?」
「簡単な納品依頼だといくらこなしてもランクは5迄しか上がらんし。それ以上は討伐や護衛、それもランクにあったもんをやらんと、な。冒険者の実力を測るメモリは、やっぱり戦闘力やから」
難しい納品なら別なんだろうけど、初心者回復薬とかは依頼としては低ランクになるみたいだ。当然かな。数が数なので足しあげるとそれなりになるらしいけど。
「他にも何かしてやれればええんだけど、思いつかん。ごめんな。
この調子でどんどん納品してもらえると、本当に助かるわ。ただでさえ廃棄はなくならんのに、このままじゃ山のように捨てなあかん羽目になりかねん。
かといって、買い取らんわけにもいかんし」
なんか、本部から押しつけられるコンビニ状態だね。廃棄品の有効利用ができれば……もらえないかな?
「廃棄って、ゴミとして捨てるんですか?勿体ないし、手間ですね」
「そうや。
夜の暇な時に、翌灯には駄目になりそうなもんを引き上げるんや。面倒だし勿体ないけど、買う方からして見りゃすぐに駄目になるんだからしゃあないわ。
……今の状況じゃ、捨てる手間がスゴいことになりそうやなぁ」
「それ、欲しいですね。安く売ってもらえませんか?」
俺の提案に、ギルド長はちょっとだけ顔をしかめた。
「嬉しい提案やけど、こっちも規定があって売る訳にゃいかんのでなぁ。
……そっちさえ良ければ、報酬のおまけにちょびっと付けられるで」
「良いんですか?そっちの方が得ですけど」
「素材が山になって邪魔やし、売れそうもない古いのをまとめて付けるわ。
それでもどんなに持っても数灯やで?どこも買い取らんから何の価値もないで」
「練習用として使おうと思います。まだまだ経験が足らないので」
「……それはアリやな」
これからできる生産ギルドに、今後は練習用素材として古めのヤツを安くまわしてもらえるようにお願いしたら、そちらは快くOKがもらえた。ギルド間の取引はある程度問題ないらしい。それなりの理由付けはするんだろうけど。
ただし、引き取りや整理は生産ギルドの職員がすること。
生産ギルドは素材が安く手に入るし、冒険者ギルドは仕事が減るしわずかでも収入になる。練習用として格安で提供すれば、初心者プレーヤーでもスキルレベルが上げられるし、良いことばかりだ。
「んじゃ、依頼書を書いてるから報酬を決めてんか」
そう言われた瞬間、懐かしい選択ウィンドウが立ち上がる。今ギルドにある素材の一覧から好きなだけ選べるみたいだ。
まあ、まだ作る時間はあるし、日持ちしなそうな商品を選びますか。