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生産だって冒険だよね  作者: ネルシュ
探検ぼくのまち
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1-3 大通り

 賑やかな声が少しずつ耳に届く。頬を風が撫でた。

 目を開ければ、噴水。周りを見れば、広場には同じように噴水に見入っている一般人風と急ぎ足の冒険者達。ぱっと見、いろんな種族がいる。

 噴水に見入っているのは、俺と同じ初ログイン組だろうな。

 それにしても、なんかすごいな。練習に試したアスレチックも驚いたけど、こっちの方がさらにリアルっぽい。


「うわー」


 思わず声が出る。

 こりゃ、街中を廻るだけで冒険だな。

 さっそく、色々と見て回ろうか。フィールドに出るのは後回しだ。


 そこらにいるのはプレイヤーばかりのようだ。

 そろいの簡易鎧を着た衛兵くらいしかNPCらしきキャラはいない。

 う~ん、どっちに行こうか。

 噴水広場から延びる道はきれいに四方向。もっとも近い道から行ってみよう。


 広場の各角には目印のように大きな建物が建っている。

 そこそこの出入りがあるから、たぶん冒険者に必要な施設なんだろうな。後で行ってみよう。

 馬車が数台すれ違っても余裕があるほどの道幅。その両側には民家が建ちならんでいる。

 中に人がいるらしい雰囲気はあるけど、外に出てくる気配は無い。


 ゆっくりと歩きながら街並みを見ていると少しだけゲームらしく感じた。

 脇道が少なくて家がくっついている。これじゃあ奥の家は出入りは無理だが、街を一つ丸々作るのは難しいから仕方ないな。街だってここだけじゃないし。

 脇道は専用のエフェクトがかかっているらしく、暗くて奥が見えない。

 そっちは後回しにして先に進むと、左右の建物の雰囲気がなんとなく変わってきた。ほのかにすえたアルコールの臭いがする。

 もしかして、こっちは歓楽街かな?

 そう思って辺りを見ると、歩いている衛兵も厳ついし、周りから目線を感じる気がする。


 思い込みかもしれないけど、案外正解かもね。

 近づいてきた門を見てそう思う。

 かなり重厚で、門番なんて衛兵よりも二回りくらい大きく、目つきが鋭い。

 ま、善性のNPCだろうから別に気にしなくて良いんだけど。


「あ、お仕事中にすみません。

 私は今日この街に来たばかりで見て回ってる処なんですが、この門ってどこに通じているんですか?」


 どうも丁寧にしゃべる仕事の癖が抜けないけど、どう見ても俺より年上っぽいから良いか。


「この東門はルートへと通じている。森の魔物が来ないように、不要なときは閉めておる」


 一見怖そうだけど、対応は普通って当たり前か。


「あ、そうなんですか。じゃあ、私には通れないですね」

「そうだな。お主にはまだ早かろう。もっと強くなってから出直すと良い」

「通れる目安ってどんなもんですか?」


 小首を傾げて質問すると、あごひげを撫でながら答えてくれた。


「そうさなぁ~。西の岩場で安全に狩りができないなら問題外だな。

 それに、危険は自然だけでは無い。人の悪意を理解できないのであれば、揺り籠から外に出るべきではあるまい。この街は治安が良いが、完全無欠な人間がいないように、きれいなだけが街ではないのでな」


 後半部分はきつい目を左右に振りながら小さくつぶやかれた。

 あ、こりゃこの通りは夜には近寄らないことにしよう。

 なけなしの金(初期所持金は1000G)が今の生命線だ。

 門番さん(名前は教えてくれなかった)にお礼を言い、またぶらぶらと噴水広場へと戻る。


 前提知識を持って街並みを眺めると、門の近くは退廃的な雰囲気があり、噴水広場近くに比べると脇道はより暗い。

 注意深く見ればわかりやすく出来てる。このゲームと現実のバランスがすごいな。

 噴水広場までにすれ違ったのは見回りの衛兵のみ。こちらがにこやかに会釈をすると会釈で返してくれるから、AIはきちんとしてる。

 逆に、街並みはリアルさがすごいけど、よく考えるとゲームらしい。

 中心からぷらぷら歩いて10分かからず街から出るって、狭すぎるだろ。

 容量と時間の問題もあるし、冒険するプレーヤーには丁度良いんだろうけど、リアルさがすごい分どうしても違和感を覚えるよな。

 今後は観光メインのプレーヤーにも楽しめるように充実化してほしいな。



 広場は相変わらず冒険者が多かったが、NPCらしき人も所々にいる。

 次は人通りの少ない右手側に行ってみるか。方向は北かね。

 こっちは高級街らしく、高そうな家が建ち並び衛兵の数も多い。

 ちょっと話しかけづらい。

 奥に行くと入り口の両側に門番が建つ館も増え、道行く人や脇道の入り口にも目線を配っている。

 道の中程にひときわ大きな建物が両側に建っている。

 右手側はまさに館。広い庭を持つお屋敷だ。入り口にはきれいに細工された門があり、門番が四人。近くの脇道には衛兵が佇んでいる。

 左手は落ち着いた雰囲気で、入り口に四角い物が描かれた板が掲げられているが、中はひっそりとしていてちょっと入りづらい。

 政の中心地って感じかね。そうなると、周りの高そうな家は貴族系統かな。異世界風建築は見るのは楽しいけど、こっちに来ることはあまりないかもね。


 歩くにつれ、建物の作りが華やかさから無骨さが目立つようになった。行く先を阻む門は東側よりもさらにしっかりとしていて、門番はこちらも四人いるし詰め所もある。

 貴族ってよりも騎士って感じか?


「こんにちは。こっちには初めて来たんですが、この先ってどこに続いているんですか?」

「なんだ冒険者か。そんな格好だから住民かと思ったぞ。

 この先にはアーク所有の鉱山などがある。盗掘しようとする不届き者もいれば、鉱山特有の魔物も時にはやってくる。

 そのため、こうやって厳重に管理しているんだ。用が無ければあまり近づかん方が良い。中には気にする者もおろう」

「ご親切にありがとうございます」


 この街の衛兵さんは皆丁寧だね。

 人様の家をじっくり眺めるのはまずかろう。他に見る物もないし戻るとするか。

 ぷらぷらと見学しながら噴水広場まで戻る。じっくり眺めたい欲求を振り払うのは大変だった。

 一度見た建物も見る方向が違うとちょっと印象が変わるな。

 本当、街中を歩くだけでも価値あるゲームだな。

 さて、今度は西側に行くか。南は混んでるから最後にしよう。

 こっちは馬車が止まっている倉庫が多いな。

 所謂問屋街って奴かな。馬車はさらに西に向かうことが多く、たぶん、西門から他の街に行くんだろう。


 馬車が通るからか、歩いている人は少ない。

 その分、建物の中では忙しそうに働いている。

 大きな倉庫ほど、入り口脇に事務室があることが多く、大きな商談はそこでするんだろうな。

 ドロップ品が大量にあるなら、ここと取引ってこともあるかもな。

 こっちは皮、剣、野菜、あれは塩か?あ、この香りは香辛料。

 この規模の街なら万はいなくても数千人はいるよな。それなら結構な交易場面を演出しないとリアルさが出ないもんな。

 このゲーム機は安くないから遊んでいるのは大半そこそこの年齢だろうし、その辺りで手を抜くと一気に嘘くささが出るし。開発者は大変だ。

 ああ止め止め。現実はあっちに置いといて、こっちを楽しもう。


 こんな距離で武具を見ると迫力あるな。うわっフルプレートだ。あれ着たら動けないぞ。

 にんじんとじゃがいもっぽいのがあるな。キャベツもどきは色があれだ。ショッキングピンクは自重しろ。

 西門は馬車専用っぽい。徒歩の旅人は横の小門から出てる。

 結構並んでるな。荷物チェックもあるみたいだし。

 ここは荷物チェックもする門番が六人と監視の衛兵が四人か。人数が多い分、スムーズに進んでいるのかも。


「君は旅商人かね?」


 ぼけら~と見ていると衛兵から声がかかった。振り向けば、壮年の衛兵がにこやかに微笑んでいる。隣の若いのは軽くこちらに肩をすくめて見せた後、道行く人を眺め始めた。


「今日こちらに来たばかりの冒険者です」

「おお、そうか。もしかして祝福の冒険者かな?」


 初めて聞く単語に首を傾げてしまった。


「なんです、それ?」

「神の祝福を受けて、死の軛から解き放たれた冒険者がここのところ増えていてな。

 そんな格好でこの街に来たとなると、君もそうかと思ってね」


 ああ、死に戻りがあるのってプレイヤーだけってことか。

 少なくとも、この世界のNPCは死んだらお終いって感覚か。


「そういう意味ですか。それでしたら私は祝福を受けたと言えますね。

 とは言っても右も左もわからぬ若輩者ですから、神の祝福と言われるにふさわしいとは……」


 自分はまともな冒険者じゃないし、そうありたいとも思わない。

 好き勝手楽しむつもりだ。

 壮年の衛兵は顔をくしゃくしゃにして笑う。


「そう呼んでいるだけで、神が正しく祝福したとは誰も思っとらんよ。中には素行の悪い者もいる。

 悪魔の呪いと嘯く口の悪い者がいるくらいだ」

「それは良かった。天地神明に誓って正しい人間とは間違っても言えませんから」

「ほう、とてもそうは見えんがね」


 笑顔のままで目線が刺すように鋭くなる。ちょっと背筋が冷たくなってきたが、そんなことは顔に出さずに肩をすくめながら笑顔で返す。


「そうですか?嫌なことがあれば酒飲んで上司の悪口を言いますし、馬鹿を相手にすれば広い心で対応なんてできませんよ」

「なかなか言うではないか。

 それでこそ人間よ。貴殿とは良い酒が飲めそうだ。

 そうだ、儂の名はトルーク。ここアークの衛兵だ」


 俺の台詞がツボにはまったのか、遠慮無しに俺の肩をたたきながら朗らかに言う。衛兵だけあってちょっと力が強いよ。


「これはこれはご丁寧に。私はギーストです。今後もこの街に長く滞在させていただきますので、機会があれば一献」

「その際は冒険譚でも聞かせてくれ。こちらも噂話くらいなら幾晩でも話せる程度には持ってる。

 儂は大概、巡回か詰め所におる。衛兵でも時には冒険者の協力が必要なこともある。詰め所にもたまには顔を見せると良い。儂の名を言えば中には入れよう」


 杯を掲げる仕草はこの世界も共通らしい。

 トルークさんも同じ仕草を返してくれた。気の良い人だ。面白い話が聞けるんじゃないかな。金が稼げるようになったら誘ってみよう。



「トルーク小隊長。そろそろ」

「あ、これはお仕事中に失礼しました」


 盛り上がって話をしていたら結構時間が経っていたみたいだ。これからどうするつもりかって話から始まり、この門から延びる街道が遙か先の商業都市テツエンにまでつながっているとか、問屋街だから大型の馬車が多く検査に時間がかかるとか、近隣の魔物や旅の基本荷物など、思い出せる範囲でも結構色々と話を聞けた。

 ずっと待っていた若手の衛兵さんにも併せて深く頭を下げる。


「かまわんよ。困っている人を助けるのも衛兵の仕事の内よ。ま、この先会うことも多かろう。

 ではまたな」


 つきあいやすい人だけど、同僚としてはあれかも。補佐の若い人は苦労してるのかな。

 さて、ここは脇道も無いし戻るとするか。あっても入らないけどね。

あなたは、ゲームが始まって即レベル上げに行くタイプですか?

私はうろつくタイプです。

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