4-14 イベント終了
急に熱が入ったクロに話を振られた『廃神様』ジーンだけど、小首を傾げただけで何も言わない。
だからこそ、皆の意識が集中していく。
皆がジーンの一挙一動に動かされる。
すげぇ。これがカリスマってやつか。
「……戦い続けた」
え?それだけ?
「……【HP回復】と……称号《ウルフキラー》……持ってた」
「マジで!……であるか」
素。素が出てるよ!
「……マジであるか!」
『魔術狂』は真っ赤な顔のまま、素知らぬ顔で言い直した。
「キラー系の称号はβでは実在が確認されなかったのである。
単位時間での討伐数か総討伐数か、連続討伐かと激論が交わされたであるが、結局取得ができなかったである」
「ウルフ……数えてない。
……ウルフリーダー……2連続」
「ウルフリーダーってあれよね?10匹以上の群れを率いてるやつよね」
「……連続ってこたぁ20匹以上かよ。30には届かねぇよな」
ジンが呆れたように手を大きく広げる。
なんで短時間ってわかるんだろう?
「ウルフは遠吠えで仲間を呼ぶんでしたっけ?」
「群れの場合は数によって変わるである。2連続で終わるならば、2刻はかかってないはずである。
ふむ……数と時間……連続……いやレベル差が……」
後半はブツブツと独り言になってしまい良く聞こえない。
それにしても20匹か。普通はソロじゃどうにもならないだろうに。
「武器……壊れる前……感触違う……私知る……それだけ」
話によると、ダイブ時間のほとんどを草原での戦闘に費やしていたらしいし、情報らしい情報は持ってないのかもしれない。それでよく攻略組のトップと張り合えるな。
それにしても≪ウルフキラー≫ねぇ。まさに、フィールドボスを攻略しろって運営の思し召しだろ。
ブツブツと呟いていたクロが頭を大きく振って話に戻ってきた。
「称号に関する研究も後回しにするである。
他に何もなければ、すぐに迷宮攻略へ行くである!」
時間は貴重であり、特に、この迷宮で問題なくボスを倒せるのはこのイベント期間中のみとのこと。経験値的にもタイミング的にも今行ってダイブアウトすると、『戦乙女』とやらが戻ってくる時間にピッタリらしい。
そこで、イベント中にもかかわらずフィールドボスを倒しに行くと。
うーん。ちょっと抜け駆けな気もしなくもないけど、そもそもそんな協定もないわけで。
俺としては、新しい素材が流通するならうれしいけど、農業都市であるセックとやらには興味は薄い。スキル枠は欲しいけど、技術で賄えるから今のところは差し迫ってないし。
それよりも、そろそろゆっくりアークを楽しみたいな。
「そうですね。だいぶ回復しましたし」
「初心者回復薬と初心者魔力薬も手に入れたし、迷宮はなんとかなるわよね」
あっそうだ。忘れてた。
「フィールドボスに行く前にちょっと寄ってよ。初心者用だから回復量は劣るけど、両方の(大)を渡すから」
レシピは教えてないけど、話の中で(大)の存在だけは伝えてある。純正の回復薬(回復50)、魔力薬(回復50)に比べると40(高レベルなので80が半減)は低いが、(中)よりはマシだろう。
「マジか?わりぃなぁ」
「助かるである。初心者用は回復量は少ないであるが、クールタイムがないのでボス戦では助かるである」
「でも(大)でしょ?回復量だってかなりのものよ」
「普通の魔力薬は高いうえにクールタイムが30秒もありますからね。少しくらい回復量が少なくても、それがないだけで何倍も価値がありますよ」
そういうもんかね。そんな戦闘なんてやってみたいとは思わないからよくわからんわ。
話が途切れたら上手い具合にブレッドが帰ってきた。トルークさんが中の様子をうかがってタイミングを見てくれていたみたいだ。
邪魔になる荷物(素材)と追加効果ありの装備をまとめて薬へと交換してから、6人は陽炎迷宮の攻略へとテントを出て行った。
彼らのことだから無事に戻ってくるだろうけど。それにしてもすごいもんだ。迷宮踏破なんて、俺には夢のまた夢。ってか、目指してないから。
「取っておいたやつを使うかな」
【薬剤】や【生産者の指】、器用力が上がったおかげで、極々稀に品質だけでなく効果がちょっとだけ多い初心者回復薬や初心者魔力薬ができる。確率的には0.数%だけど、今は1刻で360個作ってるからトータルでそれなりな数になる。それを元にして(大)を作るとしよう。少しは効果があがるかもしれないし。
俺としても、農業都市セックにフィールドボスを倒してまで行くつもりはないけど、誰かが行って素材が流通すれば助かる。
まずは彼らの分を作ってしまおう。後で良いのができたら、入れ替えれば良いんだから。
初心者回復薬と初心者魔力薬の(大)を20個ずつ6名分の240個。プラス魔法職用に初心者魔力薬(大)を60個追加で。
これだけあれば、なんとかなるんじゃないかな?念のため、回復薬や(中)も買えるだけ買ってくだろうし。
どれだけ作っただろう。一通り準備した後は、元通り、ただひたすら薬剤作成ましーんとして活動した。
時々トルークさんが様子を見に来てくれる&できた薬を持って行くので、そのたびにちょっとだけ雑談。ま、手は止まらないんだけどね。
そうこうしているうちに、俺のログイン時間が制限一杯になりそうだ。彼らはまだ戻ってこない。迷宮攻略してログアウトしてからそろそろ4刻経つから、間もなく来るだろうけど……。
トルークさんに後を頼んで街へ帰ろうか。
「祭りが終わっても数灯はここにおるから、気にするな。この迷宮が元に戻ったら、まだまだボスを倒されては困るのでな。入場制限もしなければならん。当面はこちらにつきっきりよ。
なんなら、その間の取引もするぞ」
「助かりますが、良いんですか?」
「今と変わらんだろ」
笑いながら言われてしまった。確かに、今その状態だもんね。
じゃあ、時間まで作り続けよう。荷物は馬車でほとんど運んでもらってるから、月曜日の朝のダイブで荷物まとめて帰ればいいや。
4-9~12はそれぞれが話をしている形式ですが、13だけは心の中での独白でした。
この章ではいろいろと試してみましたが、改めて書くことが難しいと感じました。