4-11 『辻ヒール』シロタ
じゃあ次は私ですか。
『辻ヒール』のシロタ。シロと呼んでください。
二つ名からわかると思いますが、回復職です。
このゲームじゃ職業制は採用していないので、スキル構成とプレースタイルですが。
見た目でもわかる人はわかるんじゃないですかね。
ほら、全身を覆う白いローブと樫の杖。なんとなく聖職者っぽくないですか?
ええ。私はロールプレイを心から楽しんでますよ。
ここ二日は時間を確保して一緒に冒険していますが、元々は不規則すぎてソロになったようなものですから。
身につけている装備は、全て回復術の追加効果があります。防御力よりも、追加効果に重点を置いてますから、ほとんどがぼろいですね。お金を掛けたのは樫の杖とローブです。こればっかりは、見た目が良いのは高いですから。
スキル構成は魔法寄りですね。【回復魔術】【魔力増加】【杖】ではじめまして、【魔力回復】【魔力操作】【詠唱短縮】【精神力増加】と取りました。
それと、攻撃されて呪文が中断したり、バッドステータスになったら他の人に悪いので、【頑健】と【健康】ですね。この二つは持ってる人が多いんじゃないですかね。
私の遊び方はちょっと特殊なんですよね。
二つ名そのまま。辻ヒールだけなんですよ。
うーん。そうですね。
私はお客様相談室の苦情係をしていまして、怒られることはあってもお礼を言われることってないんですよ。
それでストレスを貯めてましてね、あるとき見つけたのがMMORPGの広告でした。
ほら、集団ですごいボスと戦ってたり、イベントに皆で集まったりする画像が載ってる広告です。
そこに、ヒールを掛けてお礼を言われてる絵があったんです。
これだ!そう思いましたね。
さっそくにそのゲームをはじめまして、フィールドでそこらの人にヒールを掛けてお礼を言われる。
その為だけにゲームをしていました。
人間ってのは贅沢ですね。だんだんとそれじゃ満足できなくなってきたんです。
嬉しくて、ストレスも解消されるんですが、何か足りないと思えてきたんですよ。
私のどこかに、所詮ゲームという感覚があったんでしょうね。
そのときに『冒険者達』の情報を知りました。
自分が入り込むリアルな世界。
そんな世界ならと思って、ここにいるわけです。
ギーストさん。あなたが教えてくれた住民が生きていることを最も喜んでいるのは私でしょうね。
え?種族ですか?
……ヴァンパイヤです。妖人族のレアだったので選んでしまいました。日中の攻防にデメリットはありますが、戦闘をしない私にはMPなどのメリットが魅力的でして。
ここでもしているのは、フィールドでの辻ヒールばかりでした。
する前に一声掛けて、ですよ。もちろん。
そうするとですね、時々言葉以外にもお礼をいただけます。
声を掛けるときは皆さん戦闘中だったりしますので、ありがとうの一言で十分なんですけどね。
中には、後日私を探してまでお礼の品をくださる方もいました。
その一人がクロだったんです。
短時間のダイブで、戦闘もしなかった私はレベルが低くてですね。スキルは高くなりましたからそれなりにMPがありましたが、それでももっとあったらと何度も思いました。
でも、辻ヒール歴は長くても戦い方もわからない素人です。どうしたものかと悩んでいたら、クロがレベル上げに誘ってくれまして。
それから、何度か組ませていただきまして。それで今回、ここの洞窟前で回復待ちをしている方々の話を聞きまして、せっかくだからと辻ヒールをしに来たわけです。
クロは護衛をかってくださいました。
ありがたいことです。
そこで皆さんと出会って、迷宮攻略を繰り返したわけです。
正直、私はあまり役に立ってないんですがね。
ああ、ヒールの有効距離はレベル1で2.5M、レベルが上がると5㎝ずつ広がりますが、11になっても3Mですからね。
どのスキルでも同じだと思いますが、レベルが上がると少しずつ効果が高くなっていきますね。
相手も激しく動いていることを考えると、3Mは意外と短く感じるんですよ。
辻ヒールレベルなら大丈夫ですが、激しい戦闘を繰り広げている場所へ入っていくのはどうも苦手でして。
ええ、【頑健】と【ダッシュ】で悩みましたよ。でも、呪文を唱えながら動くのはまだまだできないので、それならと【頑健】にしたんです。
ミラさんの話にもありましたが、迷宮内での戦い方は難しかったですね。
私は、邪魔にならないように動くのが精一杯でした。集団戦は、戦えない、補助役の後衛が狙われると思いましたから。実際、狙われましたしね。
戦闘には参加出来なくても、一瞬でも身を守れるように【杖】の訓練はしていますよ。【杖】のレベルが上がると魔術の効果もわずかでも上がるのはβから知られてますし。
でもまあ、所謂攻略組と呼ばれる方々の戦いは見ていて圧倒されます。低レベルの敵は一撃。集団戦やボス戦でも、そこまで危なげはなかったですから。まさに縦横無尽でした。
ああ、クロ。あなたの魔術も的確だったと思います。
生産メインのギーストさんも戦闘だとあまり活躍は難しいと思いますが、他の方が危険にならないように立ち振る舞うことを覚えると喜ばれますよ。
射線が重ならないようにとか、不意打ちされないように周りを気にするとか。【投擲】をお持ちですから、味方が一息つくタイミングや敵の攻撃の直前に当てることができれば最高でしょうね。
何より重要なのが死なないことですね。
ボスが顕著ですが、戦いは大きく強力な個人と集団戦に分けられます。
対個人であれば、こちらの人数が多いことで、相手の意識が分散されます。
それは、わずかであっても前衛の危険性を下げるんですよ。
集団戦なら一人いるかいないかはなおさら重要です。いつもは問題なかったウルフの群れに、一人殺されたことがきっかけで全滅させられたなんて良くある話ですから。
一人減るとカバーできる範囲が減りますし、一人が相対する数も増えますので。
うーん。私はそこまでゲームをしていませんから、お話しできるのはこれくらいですかね。
色々な物を作らないとレベルが上がらない生産スキルに比べると、魔法や武術、その他系は使い続ければレベルが上がりますから、時間があるなら色々と試してみると良いと思いますよ。
それにしても今後が楽しみですね。
今まで攻略ばかりに向いていたプレイヤーの皆さんの意識が、スキルやアーツに向いて、今まで知られていなかった世界が広がるでしょうから。