4-2 儲け話
食事を食べた人から、代わりにと素材を貰ってしまった。
逆に竈のお礼として余った初心者魔力薬をブレッドに押し付けた。
味気ない携帯食料に嫌気が差していたのと、食べないと空腹のステータス異常があるから食事は重要らしい。街中にいてばっかりだから忘れてたよ。
ラッキー!貰った素材に魔力草が混じっている。
でもこれじゃあ、インベントリが空かなくて意味ないじゃん。なんとか、日持ちしない食材は処分できたけど。
あ、そうだ!木材の時と同じく、初心者魔力回復薬(中)を作って、【錬金】しまくれば良いじゃん。
思いの外袋を占領しているのは……毛皮類だな。大袋1つに10枚しか入らないし。
よし、これを【錬金】しよう。
ウサギ20、ウルフ4、バット6のなめし革ができました。う~ん。これじゃあ、まだちょっと入らないな。
余ってる初心者魔力薬(中)をスライムゼリーで保存するか。これは【薬剤】でできるから失敗無いし。
後は……もったいないけど、流木と珊瑚の欠片で細工を作ろうか。
流木細工6の珊瑚細工7か。
これでインベントリに余裕ができたな。まだ初心者魔力薬(中)が7個残ってるから、いくつか交換するか。
薬を求めるパーティーに声をかけたけど、インベントリの都合で断らざるをえなかった。
だって、7個で1,400Gの2倍、2,800Gもするから、提示された素材(薬草)だと持ちきれないんだ。だって、560枚だぜ。
「じゃあ、装備品ならどうだ?」
代わりに、追加効果ありの装備を提示された。
生産者のネックレス 生産者の指+2
これは欲しい。確か、アクセサリーは2つまでしか意味がないけど、着けられないわけじゃないから荷物にもならないし。回復の耳飾りは冒険用、こっちは生産用に分ければ活用できる。
でも、これじゃあ俺が渡せる物が少ない。向こうはそれで良いって言うけど、これじゃあ、あまりにもぼったくりだ。
「ちょっと待ってください。今度はこっちが足りないです。魔力草か薬草ありますか?
全部薬にしますよ」
「う~ん。両方とも10はあるよ」
「じゃあ、あるだけください。……その数なら初心者魔力薬(中)が1つですね。はいOK。
で、これで作ったヤツとそのネックレスを交換しましょう」
そういって作り始めると、いくつかのパーティーからも同じ事を言われた。魔力草を集めて、初心者魔力薬(中)で支払う。
気がついたら200個ほど作ってしまった。
早く帰ってこいってことなのか、【ダッシュ】が付いた装備がいくつも集まる。どこも、不要な品を持っているみたいだ。
「いや、もうこれ以上着けられないから。またダッシュで戻って来るんで」
アクセサリー3つ、服、ズボン、籠手2つ、帽子を貰ったところで一時撤退を決める。
そろそろダイブして6刻近い。700個以上作ったしな。予定の残り時間まではあと6刻。暗くなる前に作って戻ってくるためにも、そろそろ一度帰ろうか。
テントを片付けていると、インベントリが満杯になったパーティーが、名残惜しそうに帰って行く。ここで俺が戻ってくるのを待つよりも、一度帰って精算した後にもう一度来た方が効率的だからだろう。
さて、俺も帰りますか。
ダッシュでな!
寄り道をしなければ片道1刻弱。増えたダッシュ装備のおかげか、45細刻で到着した。
荷物と余分な装備を置いて、急いで作成にとりかかる。1刻で仕上げられるだけ仕上げて持って行こう。
今回の主目的は、追加効果付き装備。そうなると、値段的に初心者魔力薬が欲しい。
回復力的に余ったMPは雑草を肥料(微)にすることで消費。成功は1回だけだったけど、無駄ではないから嬉しい。
出がけにギルドで魔力草を500枚、薬草を100枚購入。
これだけ購入しても、さっき手に入れたお金の6割ほどでしかない。
さて、そろそろ行こうか。さっきは向こうで時間を使いすぎたから、往復を考えると時間が無い。
あ、魔力草もかなり市場にあふれてるみたいだし、初心者魔力薬のレシピもポム店長に教えれば、作ってくれるかな。そうすりゃ、作る時間が大幅に短縮できるぞ。
ちょっと寄っていこう。
「店長お手すきですか?」
「あら、今回はどんなやっかいごと?」
にこやかな笑顔で厳しい指摘をしてくる。
「あ~忙しいところ申し訳ないんですが、他の店から初心者魔力薬と初心者回復薬の(中)を毎灯500個ずつ集めてもらえませんか?
明灯からの2灯間だけですが」
「祭の間だけね。詳しく聞きたいわね」
そう言って、奥を指し示す。
表方には今日も衛兵さんが手伝いに来てくれているし、ポポロ氏は離れで作業中。店頭にも在庫にも余裕がある。
これならちょっと抜けても大丈夫か。
「今、陽炎迷宮の前に冒険者が集っていまして、そこまでの出張販売をしています。
ここまで戻ってくる時間と作る時間を考えると、こっちで売っているのをまとめて持って行ければ助かるなぁと」
「……ギルドに依頼すれば良いじゃない」
「確実性がないですし、ギルド手数料を考えるともったいないじゃないですか。その分、街の他の店に利益を配分したいんですよ。
新レシピの件で迷惑」
「その分の利益は分配しているわよ。レシピも教えるし。
ギルドができたら構成員に、門外不出でって制限付きだけど」
話の途中で断ち切られた。
でも、この店が忙しかった分、他店には閑古鳥が鳴いていたのは聞いている。俺の無知から迷惑をかけたんだから、少しぐらいはお返しをしたい。
「……ギーストさんの気持ちもわかるわ。
仕方ないわね、今は魔力草も薬草も大量に出回っているから、みんなに声をかけるわ」
最後にはポム店長も折れてくれた。
「余裕があるなら移動販売もありですね。お礼と言ってはなんですが、初心者魔力薬も回復薬と同じように(微)や(大)が作れましたよ」
そう言うとポム店長の表情が笑顔のまま冷たくなった。自然と体が震える。
なんかやっちまったか。
「……レシピをむやみに教えるなって言わなかったかしら?」
「すみませんでしたー」
速攻土下座しました。
「はぁ。いくらなんでも、毎回うやむやにはしませんよ。
今回はきちんと対価を受け取っていただきます。なんでしたら、生産ギルドで私の代わりに役員をしますか?」
なんとか謝り倒して、大量の金貨や生産ギルドにおける薬剤派の代表なんかは勘弁してもらった。
「まあ、今回のレシピは(大)くらいしか需要がないでしょうから……対価は私の持つ技術を教えることにしましょうか。
本当は、もっと成長してからと思っていたんですが」
そう言って“少量生産”と“下級成分抽出”を教えてくれた。
“少量生産”は同時並行して作業することで、1.5倍の時間で3つ作る技。これにはかなり集中力がいる。その結果がMPの消費となるらしい。
“下級成分抽出”は、初心者回復薬と基本は変わらない。たとえば、麻痺草なら、ちぎって水に入れて煮る。この水の量と煮方を工夫することで成分が抽出される。本来なら水の適量にも煮方の工夫にも理解するまでには数ヶ月はかかる。どの指導者もそこまでピンポイントな教え方はしてくれないからだ。
麻痺草などの一部素材は、成分抽出をしないと薬剤とならないらしいので、これは大助かりだ。レシピを見ても『成分抽出する』としか書いてなかったから、錬金でしか生成できなくて困っていたんだ。
「ありがとうございました。
今回のレシピも皆さんで共有してください。いろんな製品を作ることで腕があがるみたいなので」
「わかったわ。
このお祭りが終わって落ち着いたら顔を出しなさい。他のみんなにも会わせたいから」
結局店で1刻使ってしまった。あと3刻しかない。でも、その分の成果は出たと思う。
それにしても、ここでも水の量か。……う~ん、何か忘れてる気が。
「祝福で覚えると工夫をしなくなるって言ってたな」
創意工夫こそが人としての正しい道だと思っているともポム店長は言っていた。
正直、頭の中がごちゃごちゃしていて、今は何も考えたくない。何も考えずに楽しむためにゲームしてるのに。
それよりも、まずは陽炎迷宮まで無心で走ろうか。
何も考えずに走ったのが良かったのか、入り口前の広場まで45細刻を切った。
「おっ、戻ってきたね。丁度いいや」
並んでいる冒険者達に声をかけようとしたところで、横から聞き覚えのある声がした。
振り向くと、
「ブレッド。まだここにいたのか?」
親切なる優男、ブレッド君が登場しました。
「君が戻ってくるって言ってたろ?
……って冗談だよ。丁度迷宮から出てきたところさ。休憩中で見知った顔がいないか見て回ってたんだ」
優男からウィンクとともに待ってたって言われても、鳥肌しか立たないぞ。
嫌がる俺に気付いたブレッドは、肩をすくめながら笑った。
「君もここで野宿かい?
それなら、さっきの場所がまだ空いてるからそうするといい」
「えっ?野宿ってできるの?」
驚いた俺に、ブレッドは逆に驚いていた。
「なんだ、知らなかったのかい?テントも持ってるのに?
こんな安全地帯なら野宿もできるよ。ただ、モンスターに襲われることもあるけど、これだけいればね」
そう言って、周りを見回す。
……そろそろ暗くなるってのに、常時30人以上いるねぇ。
なんと、夜間警備をする予定のパーティーもいて、泊まる予定のみんなが謝礼を出しているらしい。
それなら、俺もここで泊まろうかな。
何も考えずに準備して走ってきたけど、復路の時間を考えると持ってきた材料分をここで作成しきる余裕がない。
竈があった場所までブレッドに連れられて行く途中、広場の外近くを歩いているパーティーにブレッドが声をかけた。
なんと、さっき話していた警備請負のパーティーらしい。
泊まることに決めたからには、彼らにお礼を出すべきだな。
そう思って1万Gを渡す。
驚いていたけど、それで死に戻りしないのであれば、俺には納得がいく額だと説得して受け取ってもらった。
だってさ、手持ちの初心者魔力薬(中)が168個。基準値計算ですら1個100Gなんだから、まっとうな報酬だと思うよ。
時間が惜しいので盛大に感謝してくれる『宵闇の歌』(彼らのパーティー名)と別れる。
竈も俺がさっきテントを立てたスペースも、ブレッドの言うとおりそのまま残っていた。
「格安で薬を売ってくれるプレーヤーは貴重だからね。戻ってくるって言ってたんだから、そのまま残してあるんだよ」
なんと、あれから数刻ではあるものの、この広場も結構変わったらしい。料理を提供するパーティーや簡易露店らしきものがポチポチできたとのこと。
一番多いのは薬売りで、回復系が5割増しの魔力系が倍値とのこと。はい。俺が原因ですね。でも、利用者のことを考えると、これくらいが良いと思うんだよね。売る方も、リスク無しでこの短時間で5~10割の利益になるんだし。
「あんたが薬売りかい?」
テントを立ててるとさっそくお客さんがやってきた。
「ああ、交換かい?」
宣伝もしていないのに来るなんてって驚いた。なんでも、掲示板でそんな奴がいるって広まっているらしい。
次々と来る客と順番に交換。今回は素材だけでなく、金や武器防具など、なんでも交換を受けると言うとさっそく広めてくれるとのこと。
レートはいつも通り。それでも、自作できる俺には大幅な利益になる。
さっそく覚えた“少量生産”も駆使しながら、売っては作り、作っては売りを2刻。自分で10個の初心者魔力薬を消費して作り続けた。
売り上げは、初心者回復薬(中)77、初心者魔力薬(中)408で計168,975G相当。自分でも、冗談にしか思えない。
もちろん、ブレッドも大量に買ってってくれた。
手に入れたのは大量の各種素材と、いくつかの防具にお金。防具は冒険者に不要と思われる物ばかりだけど、俺には嬉しい追加効果もあった。
木工のレザー籠手2や石工のレザーブーツ2、裁縫のハードレザーマント2あたりは、将来的に役立つかもしれない。
珍しいところだと、解除の青銅長剣や回復魔術の鉄斧2があったけど、これは使い道に困るな。完全ランダムの弊害だろうな。
あとは夜目の鉄短剣があったけど、これは予備装備行きかな。
お金も6万G近いし。
これだけの物が簡単に手に入るとは、いやぁ、イベント様様だな。
『アラーム:接続時間設定』
あ、予定していた時間になっちゃった。
さて、ログアウト。
まだまだ冒険者らしい冒険には遠いようです