3-6 ト・モ・ダ・チ
「ジンってあのジン?」
手を出して握手しようとした出鼻を、横からの声にくじかれた。
「あんたが言うのは『廃神様』だろ。そりゃ俺じゃねぇ。あっちは無人族でジーン。俺はドワーフのジンだ。俺はそこまで有名じゃねぇよ」
ひげ面(ドワーフのジン)の返答は滑らかで、こりゃ言いなれてるな。
「名前の似た有名人かい?そりゃ災難な」
自己紹介する度にこれじゃ、通常プレイにも支障が出かねないぞ。
「知らないのか?」
「知るわけない。俺はソロだぞ」
ソロって万能な言い訳だよね(笑)。
ジンと声を掛けてきた女性は顔を見合わせた。ちなみに、女性のほうは妖艶な雰囲気で、これは噂の妖人族のサキュッバスかも。
呆れたようにジンが言う。
「少しは情報を調べたほうがいい。この世界じゃ今一番の有名人だぞ。
ほぼ毎日12時間フルに接続しているって噂の戦闘狂だ。プレイヤースキルもケタ違いって噂だ。
ジーンって名前と廃人接続、神の腕前をかけて、廃神様って呼ばれてる攻略組だ。
ちなみに、攻略組唯一のソロメイン」
「でも、最近パーティーを組んだって噂よ。さすがにハイウルフリーダーのソロ撃破はまだ難しいって思ったんじゃないの?
あ、私はサキュッバスのミラ。妖人族でもレアなのよ」
服装はまともだからあれだけど、ゆったりとした服を着たら抗いがたい雰囲気を出しそうなミラ。皮鎧に弓を持っている。これから狩りでもと思ってここまで来たらしい。
筋骨たくましく、大柄で、イメージどおりなのはひげ面だけなドワーフ、ジン。大きな斧もドワーフっぽいか。
この流れだと俺も自己紹介ですかね。
「俺は無人族のギースト。袋が要り用なら言ってくれ」
その言葉にミラとジンが悔しげな表情をする。
「さすがに金がねぇ。それだけの素材もないし」
異口同音に二人が言う。そうか、しかたないな。
「袋は結構余ってるからいつでも言ってくれ。支払は現金よりも素材のほうが嬉しいな」
「……そうか。じゃあ、フレンド登録してくれるか?」
俺の言葉で何かを推測したのか、一瞬探るような眼になったジンだが、すぐに人懐っこい笑顔になった。
「おう」
言いはしないが、そろそろ大袋すら邪魔になるレベルだ。持ってってくれるなら助かる。
「じゃ、私も登録してね」
ちゃっかりとミラが入ってくる。はいはい。邪険にはしませんよ。男ですから。
また戦いへと赴く二人を見送った。
せっかくなのでパーティーで戦ってみるらしい。
図らずとも忠告を受けたので、初心者回復薬と初心者魔力薬、共に(小)は売らない。って、二人ともお金に余裕がなかったんだけどさ。
俺はどうするかな。HPも8割くらいになったけど、またウルフに奇襲されたら勝てる気しないんだけど。
道端で休む俺の横を、何人もが行き過ぎる。パーティーが多いな。
結構多いな。あ、もしかしてダンジョンってこの先か?
まだ日が高いし、行ってみるか。
急ぎ足で進むパーティーに何度も追い越されながら、街道脇で薬草やら石やらを採取しつつ歩く。
時々襲い掛かってくるウサギやコッコに最初は驚いたが、それぞれ2匹も倒すと相手にも慣れてきた。さすがにウルフと比べると楽だな。
この世界では眠らないとレベルが上がらない。睡眠時に、溜まった経験が身体に浸透してレベルが上がるって設定だ。
それでも、戦闘に関する慣れ、つまりは数値にならないプレーヤースキルは体験とともに向上する。それで戦闘が楽に感じるわけだ。
それにしても、この辺りは敵も素材も多いな。
街の近くは獲物の奪い合いに近かったのに、こっちは俺が敵を選べるレベル。数人のプレイヤーは途切れない戦闘を繰り返しているほどだ。
街道を行く人が戦わないからだろうな。人数で向上したリポップが良い仕事をしている。
お陰で、ウサギ肉やコッコ肉3つずつに、レアなウサギの毛皮とコッコの卵も1つずつ手に入れた。
戦闘が途切れたタイミングに休憩のために街道へ戻ると誰も居ない。
逃げだしたウサギを追っかけたけど、誰もいないって変だろ。
あれ?
少し戻ると、どのパーティーもある場所から草原へと走って行く。
あ、そっちにダンジョンがあるのね。目印としては、他よりもちょっと伸びた草かなぁ。
まあいいや。休憩がてら図書館で書き写した簡単な地図にこの位置をメモする。まあ、ダンジョンが制覇されたら目印も無意味になるけど。
全快までまだ時間がかかるので、集まった素材の整理。投石用に集めた大量の石を見ていたら、いくつか名前に?がついていた。石204個:石?8個。そこそこの数がある。
“鑑定” 銅鉱石7、青銅鉱石1
……青銅って合金じゃね?そのまま採掘できるんだっけ?よくわからんけど、ゲームだからで済ませていいのかな。
鉱石って確か鍛冶スキルで10個を1つの塊にできたはず。それを集めて武器や防具を作る訳だ。
つくづく、生産って面倒だよね。
ちなみに、雑草には何も混じっていませんでした。残念。
ま、場所がわかったから良いか。あと8刻くらいしか時間がない。
こっから先は、また次回として、町で荷物整理と図書館に行こう。
んで、夜に再ダイブだ。
今後は他のプレーヤーの出番が……増えるといいなぁ