3-5 外見課金ユーザー
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これだけ大勢の方に読んでいただけるのは、心底嬉しいです。
ありがとうございます。
はい。ダメでした。
相変わらずの人出。やけになって片っ端から“鑑定”しました。
なんと、雑草と石ころは一目でわかるようになりました!
……うん。わかってる。何も言わないで。
きちんと武器防具の類いも順次そうなってるから。
ちゃくちゃくと鑑定人への道を進んでいるギーストです。いかがお過ごしですか?
あいたっ!
周りの鑑定ばかりに気を取られていたら、吹っ飛ばされた。
慌てて横に転がって立ち上がる。
あぶねぇ。転がらなければ、追撃で押さえ込まれていた。
跳びかかりを避けられたウルフは、不機嫌にうなりながらこちらをにらみつける。
初戦闘でウルフかよ。
嘆いても仕方ない。こんな事態も想定していた。まずは、戦いの準備だ。
右手に筋力の鉄短剣、左手には石。
鉄短剣を構えたまま、牽制のために石を投げる。
石を想像するだけで、インベントリから左手の中に石が出現する。それを避けながらどんどん投げていく。
自分が体勢を崩したら意味が無いので、使うのは手首のみ。
速度があまり出ないので、時にはばらまき、時には襲いかかってくる鼻先を狙いタイミングを崩す。
息が上がる。
短剣を握る手に余計な力が入り、石も思い通りには飛ばない。大地が柔らかくなった気分で、自分の膝が揺れていることが自覚できる。
初心者向けの敵なのに、余裕をもって避けているのに、迫り来る牙と爪が、身体に傷をつけていく。
20、30と投げても当たるのは1つ2つ。ダメージはわずかでも、自然回復のないウルフに、少しずつ積み重なっていく。
落ち着け。
回復の耳飾りでHPが自然回復する分、俺に有利だ。金にあかせて装備もそろえた。レベルは高くないが、ウルフ1匹に遅れを取るほどじゃない。
避けながらの投石も慣れてきた。
その油断が、掌の中で石を踊らせた。
一瞬の撓みの後、ウルフが襲いかかってきた。
遠くにいたウルフが、だんだんと大きくなっていく。
『ギャン』
跳びかかってきた鼻先に、投げるタイミングがずれた石が運良く当たり、ウルフは空中で体勢を崩す。
サイドステップで避けつつ短剣で切りつける。手応えは浅いが、ウルフは勢いのまま地面を転がる。
いまだ!
『キャウン』
ダメージに身体を揺らしながらもこちらに向き直ったウルフに、投げた銅短剣が刺さる。とって置きの攻撃だ。
チャンス!
鉄短剣を手に跳びかかった俺にウルフがかみつく。
が、一瞬早く短剣が口内から脳を貫いた。
生臭い息と生暖かい血が降りかかる。だんだんとウルフから生命力が抜けていくのが実感できる。
ちくしょう!
なんでこんなにリアルなんだよ。手応えとかダメージはゲーム的なのに、こんなとこだけリアルにするなよ。
つやのない痩せた毛皮には汚れが目立つし、牙や爪の鋭さはちょっと危ない。
うっくぅ。勢いのまま覆いかぶさって死んだウルフをどける。
……なんとか生き残った。
刺さったままの銅短剣と血まみれの鉄短剣を抜き、剥ぎとりナイフをウルフに刺す。
小さな光に包まれてウルフが消える。持ち物にウルフの牙が追加されてる。剥ぎ取りナイフでのボーナスは無しか。
インベントリを活用しての投擲戦闘は消耗も激しいけど、なかなか有効だった。
でも、これだけ苦労してやっとウルフの牙1個か。グリフ達はどんだけ先にいるんだか。
「なんだ勝ったのか」
「いくら良い装備でもあれじゃダメよね。みっともない」
いつのまに集まったのか、見学者から駄目出しが出る。
聞こえてますよー。
言い返さないけどな。だって事実だし。傍から見たら、高い装備で弱いプレーヤーだろうし。
ウルフが飛び出してきた茂みから離れ、安全地帯の街道で半分になったHPの回復を待ちながら鑑定して過ごす。(小)だと回復しすぎか。ここなら敵がでないからゆっくり回復させようか。
獣とはいえ、命を奪った衝撃が抜けず、可能なら今すぐ眠りたいほどだ。……ゲームとはわかっちゃいるけどね。
見渡すとここで休みながら回復しているのはソロばかり。
やっぱソロは効率が悪いのかな?
でも、突然組んでもなぁ。俺は全然経験ないし。
回復の耳飾りのおかげか、思ったよりも早く回復しそうだ。
ソロでちらほらとアークに向かって戻る人がいる。たいして怪我していない人も結構いるな。
「ちっ。もう一杯になっちまった」
その声に顔を巡らせれば、熊もどきがぼやいていた。りっぱなひげ面だな。
熊もどき改めひげ面が、見ていたこちらに気づく。
「おっ。あんたもソロかい?」
「ああ、HPが減ったんで休憩中さ。そっちもかい?」
「俺か?荷物が一杯になったんで帰るところさ」
黙っていると怖いひげ面だけど、くしゃっとした笑顔は人なつっこい。
「強いなぁ」
一人で狩りまくってるのか。
ひげ面が肩をすくめる。
「売りに行くのが手間だけどな。でも、そうしなきゃ生きていけねぇ」
金を稼がにゃ生きていけない。捨てるのはもったいないってことか。
うーん。俺のインベントリには空きがあるなぁ。
「あー、良ければ買い取ろうか?」
「マジか!助かるぜ。
コッコの羽が10、肉が10、ウサギの肉が5、毛皮が2、ウルフの牙が8だな。
あー、200Gで良いぜ」
ちゅうちゅうたこかいな、ちゅうちゅうたこかいな。基準値が166か。
200?ギルド売りの6割じゃん。
「安くない?」
「おいおい。ここからギルドまでの時間を考えれば高いくらいだろ。普通はこっから交渉が始まるんだぜ。
ギルド売りで166なのに200も取るんだぜ」
あーこの人もいい人だな。今のところ、俺は会う人会う人に恵まれている。ま、大半はNPCだけど。
「俺はギルドよりも安く手に入るし、そっちは高く売れる。WinWinじゃないか」
「俺は経験値稼ぎを継続するのに手間賃も取らずでか?
返せるものがありゃまだあれだが、他には何も持っちゃいねぇし。今すぐ狩ってもいいんだが、あんたも荷物いっぱいだろうし」
頭をかきながらひげ面が言う。
「気にするなって。
まだいくらでも持てるけど、そろそろ一度帰ろうと思ってたんだよ。敵の取りあいが面倒で」
「そうか、そう言ってくれると……って、まだ持てるのか!
もしかして、袋持ちかい?」
「ああ、あるぞ。大量に」
「金持ちだなぁ」
なんと、袋は大量買いのときについてくるサービスで、ギルドとかで店売りはしていないらしい。
あれ?雑貨屋になかったっけ?ま、良いか。見間違いかもしれんし。
鑑定すると、基準値は袋20で大袋50か。高くはないな。
「袋いるか?200Gなら8枚で」
「だから安すぎるって。200で3枚なら買うぞ」
台詞を途中で遮られた。頑固だなぁ。
「そうじゃねぇ。相場を大きく崩すなってことだ。最近は流通が増えて落ち着いてきたが、初心者回復薬の効果が大きいヤツなんか、最初は転売がひどかったぜ」
え?何それ。怖い。
「詳しくは知らんが、最初のころは露店で1個500Gじゃきかなかったらしいぞ。そんで店売りが150つうから、買占め騒ぎがおきて逮捕者もでたって噂だ。
あんたも、安すぎる金額で売るのは考えもんだぞ」
……ご丁寧にどうも。
あのときは作るので精いっぱいだったけど、需要についてまったく考えてなかったもんな。
そうか。だから、トルークさんと衛兵隊が入り浸ってたのか。
それにしても困ったぞ。俺はスタンドアローンばかりで、あまりMMOはやってこなかったからな。こういうゲームの常識を知らないんだよな。
でも、調べて回るのもあまり……。月曜にでも須佐見に相談してみるか。
「じゃ、3枚でいいのか?」
「もっとあるのか?……じゃあ、手持ちと、うーん6枚くれるか?」
交渉成立。素材と200Gを受け取って、袋を6枚渡す。
袋を渡すと、ひげ面が満面の笑みを浮かべて、右手を差し出した。
「これで、やっと冒険者らしい冒険ができるようになるぜ。助かった。
俺は、ドワーフ。ドワーフのジンだ」
……熊の獣人じゃないのね。大きなドワーフだこと。
実力に釣り合わない装備は不幸の元です。
プレーはしやすくなりますけど。