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「うーん。どうしようか」
イベントの間に作業小屋に貯まっていた素材の大半を処理した後、見慣れた天井を見上げる。実は、本日の作業により、目標の一つが達成されたのだ。ここ数日の作業もだけど、イベント内での作成が何よりも寄与した。
そう!とうとう初心者回復薬と初心者魔力薬が☆四つになったのだ!
……作りまくったからなぁ。イベント内に持ち込める物には制限があったので、持ち込めた魔力水を使い切れば、残りは“クリエイトウォータ”で出した水くらい。そうなると、必然的に作れるのは初心者系のアイテムとなる。どちらもかなりの数を作ったので正確にはわからないけれど、感覚的に1万くらいだろう。☆三つが千だったから、想像通りだ。
でも、そうなると次の目標がちょっと困る。さすがに、星が五つになるまで同じものを作り続けるのは……別に嫌ではないけれど、今でなくても良いと思う。そうなると、どうしようか。次の目標は。
スキルや技術のレベルアップ?今までもやってきたんだけど、そろそろ、上がり方が鈍くなってきた。数作ることばかり気にして、新しい素材やレシピを手に入れる努力が足りていなかったのだと思う。
先日のイベントの際にクロの模写を手伝い、いくつかのレシピと改良点を手に入れることができた。それらは試してみてかなりの経験値を稼いだんだけど、大量の経験値が手に入るのは最初だけ。二回目以降はかなり下がる。それに、こっちで簡単に手に入れられる素材でもないし。
時間を作ってクロが模写して納品してくれた写本を読んだりもしているけれど、増えたレシピに必要な材料が手に入らないのでお預け状態。【言語】のレベルだけが上がっていく状況だ。今さっき、ついに、ある程度読める写本の残りが片手になった。なってしまった。
まだやることがある。やれることはある。ただ、ちょうど良いタイミングになってしまった。
「……前もこんなことあったなぁ。たしか、セックに行くことにしたんだっけ。
う~ん。行き詰まると逃げ出す質だったのかな、俺は。真面目にコツコツが自分の性格だと思ってたんだけど」
「長旅ですかな?」
「おっと。居たのセバンス?
そう、旅。旅ねぇ。どうしたもんかな」
「ここのところ、旦那様は作業中に上の空になることがありました。すでにご自分の中では決めてらっしゃるのでは?旦那様は祝福の冒険者。このアークに収まりきる程度のお方ではございますまい。
それに、理解もされてますでしょう。今後も成長していくには、新しい刺激が必要だと。ポム殿もポポロ殿も修行の旅を経て大きく成長されたと伺っております」
「……ただ、ここって居心地が良いんだよねぇ。素材だって、自分で用意しなくてもどんどん集まってくるし。必要な物は大体手に入る」
「例え旅立たれたとしても、いつでもお迎えする準備は欠かしませんとも。この屋敷は、旦那様のお屋敷ですから。
もちろん、鉱石や珍しい素材などの収集は続けますから、戻られた際にはその腕を存分にお振るいくださいませ」
セバンスは淡々と言葉をつなげる。まだ雇ってそれほど経っていないのに、なんか昔っからの世話役って感じがする。この家を任せても問題なさそう……ってか、今まで任せっきりでした。はい。
彼が言っていることは、今までと同じ。イベントだけじゃなくて、そもそもダイブアウトしている間も、こっちでは時間が進む。その間は、俺が居なくても通常営業しているわけで。保存性の悪い薬草類は、悪くなる前に生産メイド部隊が使うし、古い武具の類も、邪魔になったら技術向上の手助けにしたり、販売に回したりは当たり前。
彼らは、俺が居なくても生活できるようになっている。そうしたいと思っていたけれど、考えていたよりもかなり早くその状況にできた。
そう考えると、どうしても俺が居なくちゃいけないってことはない。イザって時の予備費は事前に預けてあるし、今も貯めてくれてるみたいだし。つまり、俺は自由にしていいんだ。
「なんだか、状況が、俺に旅に出ろって言ってる気がしてきたよ。はあ」
「……何か、気がかりなことでも?」
「いや、今現在アークでできることはほとんどやったし、このままだと、何となく、惰性で生きるようになる。……うん、それは嫌だな。
じゃあ、どうしようか。そう考えると、ちょっと気が重くなって」
「新しい世界へ踏み出すことは、いくら旦那様が祝福の冒険者であっても、確かに大変な事かと。ですが、旦那様にはやりたいこと、目標などがございましょう」
「……言ったことはなかったと思うけどね。俺は、色んな物が作りたい。見たこともない素材がここにはたくさんあって、思いもよらない使い方や加工方法だってあるだろう。
そして……作りたい物がある。どうしても、一から俺の手で。そのためには、いつかどこかで、前に進まなけりゃいけないこともわかってるんだ」
「ならば、それが旦那様の冒険なのでしょう」
「冒険。冒険かぁ。戦うのは苦手だし、引きこもって物を作っているのが性に合ってるんだけどな」
「冒険者には冒険者の。商人には商人の冒険があると言われます。生産者にも、生産者なりの冒険があるのではないでしょうか。
今までなかった物を作り出すとき、見たことのない素材を使うとき、新しい使い方を試すとき。それはまさしく冒険と言えるのではないでしょうか」
「……うん。そうだね。その通りだ。
他の誰が認めなくても、俺自身が認めてあげなくちゃ。俺は冒険しているって」
「ならば、先に進まれるべきかと思います。私どもは、いつまでも旦那様の凱旋をお待ちしておりますよ。
いつご出立されても問題の無いよう取り計らっておきます」
言うだけ言って、セバンスは去っていった。なんか煮え切らない展開での旅立ちだけど、まあ、旅に出ることが自分の中で腑に落ちた。所謂冒険の旅じゃない。新しい素材に、レシピに出会うために。
俺自身の冒険のために。




