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「……結構、良いイベントだったなぁ。思ったよりも楽しかった」
「それはようございました。得られたものも多かったようで何よりです」
「色んな技能がレベルアップしたからね。作業効率もかなりよくなったよ。
それに、他所の街のことや知識も増えた」
何よりも、レベルアップが著しい。基本レベルが6。ステータスに割り振れるポイントは、レベルアップ毎に2しか貰えないけれど、スキルとかも軒並み上昇したのでその影響でステータスが2割近く膨れ上がっている。一週間前とは目を見張るほどの違いだ。
俺ですらこの状況なんだから、2陣、3陣の後発組は、下手したら1陣に追いついているのかもしれない。そう考えると、今回のイベントは成功だったのかも。ただ、先発組の大半は別の街に出られる状況らしいけど、新人さんはまだまだとのこと。もう少し、自分のレベルアップ以外にも力を入れないとダメらしい。でも、イベントが終わってからというもの、続々と巣立って行ってるとか。
勇者の始まりの街として名高いここは、昔から人の入れ替わりが激しく、今みたいに毎連の様に冒険者の顔ぶれが一新されるのもよくあるんだとか。だから、街の人も冒険者に対して一線を画す雰囲気があるみたい。
また少ししたら第4陣が参加する。そうしたらまた、顔ぶれが変わり、変わらない日常が始まるのだ。それが、始まりの街アーク。変わらないこと。それでいて変わっていくこと。それこそがアークの本質である。……いつだったか、トルーク隊長が熱く語っていた。
ちょっとだけ昔を懐かしんだ後、セバンスに任せっきりだったことを聞いてみることにした。
「セバンス。今のこの家って、何人が働いているの?給料の支払いとか大丈夫?ここのところ、全部任せっきりだったでしょ」
「メイドとして仕えている者が40名、執事が5名、庭師や料理人、御者などが38名。それぞれ、見習いを含めております。
護衛や警護が93名、牧場関係が8名となります。なお、販売店につきましては、専属の者がおりません」
「……多くない?」
「全部で184名となりますので、同規模の家よりも多いでしょうな。
護衛やメイドの勤務条件として休暇が多い事、情報漏洩対策として御者などを囲い込んでいることもその一因と言えます」
そう言われれば納得。中世って、休みって何?レベルの勤務体制だもんね。現代日本に近くなれば、その分、人数が必要だよね。業務も人力が基本だし。
つーか、マジでその人数雇えてるの?この家、抵当権設定とかされてない?
急に不安になった俺だけど、セバンスは特に何も気にしていないみたい。
「牧場については、始めたばかりではありますが、人件費を含めた経費を現在賄えております。主な収入は運送業への貸し出しですが、村の畑仕事にも協力していることが収入にはなりませんが支出減には役立っております」
「ん?野菜貰ったりとか?」
「それもありますが、畑の雑草を食すことで牧草の購入などが抑えられています。当家が助力した畑は実りが良いとも評判です」
「あー、家畜のフンが栄養になっているのと、きちんと土起こしできてるからかな?」
「どうやらその様ですね。面積当たりの収穫が増えたことで、祝福の冒険者から得た輪作?とやらが試せると村人の士気も高いようです」
「野菜も種類によっては家畜のフンが肥料にならないって聞いたことがある気がするけど……」
「その辺りは、農家の方々が専門家ですからお任せしておりますが、念のためお話しておきます。牧場につきましては以上でございます。
当家の主要産業である薬の生産ですが、こちらも順調でございます」
「いつから、うちの主要産業になったの?」
「はて?当初からですが?」
たしかに、俺の主要収入源だけど、みんなでやっているとは……いや、やってるな。店舗まで構えて。俺の認識不足か。既存の店とのバッティングとか大丈夫かな?
「旦那様のご活躍で街の薬剤師たちはどこも忙しく、当家のことは諸手を挙げて歓迎していただいております。専門性が高く、利益がある部分を専門家が、薄利多売で需要を満たすのが当家と、棲み分けもできております。
……大きな利益が出ているとまではまいりませんが、不測の事態に備えた上で、使用人への給料を滞りなく支払える状況ではございます。具体的にご説明しましょうか?」
「利益については前にちょっと聞いたから、まだ順調ならいいや。あ、興味がある人が居たら、魔物素材の加工に手を出しても良いよ」
「……それですと、幅が広すぎてお勧めできません。経費ばかりかかるかと」
「もちろん、最初は小さなことからね。
例えば、【鍛冶】なら包丁砥ぎとか、【皮革】なら補修、【裁縫】でほつれなおしみたいなこと。やらなきゃいけないけど、手間がかかることを手間賃にちょっと足した程度で受け入れるんだ」
「して、その心は?」
「こっちは、実績もないのにお金を貰って経験を積める。扱える素材が多くなれば、売れなかったからって無駄になる素材も減るから利益になる。それに、成長していけばすごい素材だって扱えるようになるかもよ?」
「【薬剤】と同じですな。元々業務の余暇を活用して行っておりますし、よろしい事かと。
それに、どれもある程度は家内で行っておりますので、なじみもあるかと」
「それに何より、上手になった人に俺の教師役をしてもらいたいな。俺は素材に関しても、技術に関しても、知らないことが多いから。勉強するにも時間が必要だし」
「……承知しました。では、そのように」