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生産だって冒険だよね  作者: ネルシュ
13章素晴らしき世界
230/236

14-16

 イベントに今回、『名無し』のメンバーと参加した訳だが、正直、世話になった恩返しになった気がしていない。持ち込みアイテムの大半が魔力回復薬だったのが、素材とかを持ち込んで生産活動に当てられるのが俺が参加した恩恵だ。が、しかし、彼らの中に生産活動する人間が、ジンの【伐採】とクロの【言語】くらいなので、ほとんど意味がなかった。活動時間のうち、野営準備などに割かれる割合が大幅に減ってはいるが、そもそも戦闘力が高すぎて、せん滅だってお手の物の彼らにとって、時間ってのは余るものだったし。

 キャンプの質が上がったよねぇ~って言って貰ったから、まあ、無意味ではなかったのかなと自分自身を慰めた。いつもよりも獲得ポイントが高いはずだけど、彼らは今回ランキングなんて気にしてないみたいだし。楽しんでもらえたのは嬉しいけれど、自分が思っていたよりも彼らにとってのメリットがなかったのは寂しい限り。



 俺的イベントのハイライトは、夜戦でクロの魔術乱舞と『名無し』メンバーとの訓練だった。……生産?よく考えたら、俺にとってはほぼ日常。研究して新しい物を作るときはともかく、作ったことのある物だったら作り方にあやふやな部分があっても、レシピを確認すれば作り方が載っている。工夫してより良い物を作ろうとは思うけれど、まあ、それも含めていつものことで目新しさはほとんどない。

 比べると、見たことのない魔術をいくつも唱え、時には複数飛ばして近寄らせないクロは、魔術師最強と言われるだけの実力だった。土壁が行く手を遮り、風で威力の増した炎の渦に揺れる影が消えていく。残りには水の矢が降り注ぎ、一切の敵を寄せ付けない。まあ、もし近寄られても、【身体魔術】がその威力を発揮するだけなんだけど。

 豪快に斧を振り回すジンに、素早く矢で敵を射止めるミラ、人間やめてる勢いで動いているからまともに戦闘シーンを見ることができなかったジーン。たぶん、見る人が見れば連携やそれぞれの行動の思惑とか勉強になるんだろうけれど、俺レベルだとわかるのは本人の技量がすごいってことだけ。参考にできるほどには理解できない。だって、ジンはあれだけただ豪快に振り回しているだけに見えるのに、ハエが群がるように襲い掛かってきた魔物の集団を全部奇麗に一撃で両断して、無駄振り無しで一定距離よりも近寄らせないし。ミラは速度重視で乱発しているようにしか見えないのに、一体に一射しかしていないし。そもそもジーンは手元どころかまともに存在を把握しきれないし。

 ……まだ、ゲーム初期じゃないのかなぁ。

 見てて安心できるのはシロなんだけど、彼も彼で規格外だってことが良くわかる。だって、アンデッドが一定距離からこっちに存在してないんだから。いや、森の奥から続々とやってきてるんだよ?それが、こちらによってくるうちに、どんどん消えていくんだ。

 あれだけのせん滅力でなんでこう魔物に夜襲されているかって?初日で全方面大量狩りした後、村作り――すでに広場じゃない――に全員が協力してくれて、翌日も畑作り――というか、開拓――したり、せっかくの機会だからって薬作りや料理、木の加工を楽しんだので、まあ、夜襲があったのだ。もちろん、調整していないから夜の敵数は最大じゃないんだろうけど、そんな違いは俺にはわからん。ただ、多いってのは確かだ。

 それなのにまあ、俺の出番はない。クロ、シロの後衛組が直接戦闘するそぶりもない。何か投げようかと思ったんだけど、寄ってくる敵がどんどん入れ替わるので、目標もなくただ投げているだけだ。ほとんどスキル経験値にはなってないだろうな。

 一番俺に近い、敵との戦闘なんてほぼなく、戦闘技術が他よりも劣りそうな回復役。戦闘の補助になる魔術は、現状だと“ブレス”オンリー。たしか、攻撃力に1バフと、スキルレベルと精神力を足して10で割った数字が足される上に、アンデッド系に対してダメージ2割増しの魔術。剣に炎をまとわせるとかに比べると足される数値は少ないけれど、アンデッド系に対するアドバンテージはすごい魔術だ。でも、本当ならその効果はたかが知れてる。まんべんなくステータスポイントを割り振っている俺だって、今80近い攻撃力がある。それに対し、最も高いスキルは70行かない。特化型でスキルレベルがかなりあったとしても、足して200が良い所だ。つまり、プラスされるのは多く見積もっても20ちょっと、割増しを入れても30弱。それなのに、アンデッドが近寄れずに消滅するほどのダメージを稼いでいる。ただのヒーラーじゃないのだ。

 シロを呆れた表情で見ていたら、こっちを向いて笑った。


「どうしました?」

「いや、すごいなぁと思って。あれ、シロでしょ?」

「はい。あれはミラと私です。逆茂木と呼ぶには小さな杭をたくさん用意しまして、そこに“ブレス”をかけてるんですよ。それ以外にも罠とかたくさんありますよ。彼女だけでは設置が間に合わなかったので、みんなでやりました。数が多いので、思ったよりも効果がありますね。

 もしかしたら、次ログインする時には【罠作成】を覚えているかもしれませんね」

「……戦闘に向いてないと思ったんだけどなぁ」

「戦うのは苦手ですよ。だから、こういった場面でなければ守られる立場ですね。

 あ、そろそろ終わりますね」

「え?まだまだやってくるけど」

「いや、ほら。あちらが終わりますから」


 人間砲台となっていたクロが、両手を下ろして休憩していた。凝ったらしい肩を回しながらこちらへとやってくる。近場が空いているこちらとは違って、残りの三方向は森付近の魔物が消滅し、三人が直接相手取るものだけになっていた。まあ、それでもそこそこ多いんだけど、見る見るうちに減っている。

 こちらに来たクロは、ちょっとだけ不機嫌そうだった。いくつもの呪文を放つ合間に、一息ついてあくびした。


「後は奥のを倒せばお終いである。思ったよりも歯ごたえがなくて不完全燃焼である。

 これなら、さっさと攻略しておいて皆でキャンプしていた方が良かったである」

「このまま各方面制圧しますか?そこまで時間かかりませんし、帰ってきてもそれなりに眠れるでしょうから」

「ふわぁぁわあ……我は寝る……いや、ギーストの護衛をするである。もし皆が行くのであれば好きにするである」

「……そういえば、朝早くからずっと模写を繰り返してましたね。それは疲れて眠くもなりますよ。

 あ、ジーン。このまま攻略してしまいますか?起きてからでも良いと思いますが」

「俺はゴブリン倒してくるぞ。あいつらなら斧振り回してりゃなんとかなる。【夜目】が欲しいからな」

「私も【夜目】の経験値稼ぎに行ってくるわ。斥候能力も鍛えたいし」

「皆さん行くなら、私もアンデッドをせん滅してきましょう。もう少しでレベルアップするのではないかと思っていまして」

「……じゃ、残り」


 ジーンの言葉に三人が頷いて四方に分かれた。まあ、ご苦労さんです。まだ宵の口とは言え、これから各方面をせん滅ですか。俺にゃできんな。と言うことで、ゲーム内とは言え短期間に何度も徹夜するのはきつい。眠らせてもらうよ。おやすみなさい。

 ……と、ここまでがハイライト。

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